連載
〈 この連載・企画は… 〉
夫は中国・西安生まれ、妻は日本・東京生まれ。
そんなペンギン夫婦が、いま暮すのは沖縄・石垣島。
偶然訪ねた島で出会った人、モノ、風景に育まれふたりはあの「石垣島ラー油」を生み出し、
毎日多くのお客様を満腹&笑顔にする「辺銀食堂」を営んでいる。なぜ?どうやって?
夫婦がたどった石垣島のたくさんの風景とともにお届けする短期集中連載です!
writer
Michiko Watanabe
渡辺紀子(本文)
writer
Airi Pengin
辺銀愛理(キャプション)
photographer
Gyoho Pengin
辺銀暁峰
辺銀暁峰&愛理夫妻をモデルにした、心がホンワカあたたまる映画
「ペンギン夫婦の作りかた」、みなさま、ご覧になりましたか。
大好評のうちに首都圏での上映はひとくぎり。全国各地を回り始めました。
2013年3月には、DVD&ブルーレイディスクが発売になるだけでなく、
新石垣空港の開港を記念して、台湾での上映も決定しました。
「ペンギン夫婦の作りかた」は、これから世界制覇しちゃうかもしれません。
映画は島でも上映されました。島に唯一あった映画館「シネマ万世館」、
閉館になっていたこの映画館が、この映画のために期間限定でリ・オープン。
島の人々が大勢見に来てくれました。
中には、映画と現実を混同して、「あんたたちをいじめた人は、どこの人ね?
私が一言言ってあげるから」と言ってくれるおばあや、
「あのエロおじいは、どこに住んでるのか」と聞くおじいが現れたりしたそうです。
* * *
さて、この映画の始まりは、1本の電話からでした。
『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』(マガジンハウス刊)を
読んだ関係者から、「映画にしたい」という話があったのです。
愛理さんは、「えっ、これは何かのドッキリ?」
いや、もしかしたら「オレオレ詐欺的なもの?」と思ったとか。
そのくらい驚いたと言います。
見てくれる人、いるのかしら? そんな心配もありました。
何より、自分たちがモデルになるなんて照れくさい、恥ずかしい、面映ゆい。
でも、愛理さんのお父さんは編集者、お母さんは映画学校の講師というお生まれ。
それだけでなく、ご主人の暁峰さんのご両親も演劇関係者。
さらに、暁峰さん自身もチャン・イーモウ監督のスチールカメラマンだった。
映画とは浅からぬ縁のあるお2人。日本映画を応援したいという気持ちもありました。
もちろん、石垣島のためになることだから、という強い想いもあってのこと。
ところが、さあ、映画を撮るぞって時に東日本大震災にみまわれます。
もちろん、製作は頓挫。今年の初めに、やっと再開が決まったのでした。
ペンギン夫婦が見た石垣島百景
その13
美崎町「スナックマンタ」
「ティラアース」
「中村ざっか」
「フィル」
「仲宗根豆腐」
「とけい台食堂」
「花谷農園」
Page 2
撮影期間は2週間ほど。とても短かったそうです。
映画を撮る際、平林克理監督からお願いごとがいくつかありました。
その一つが「ペンギンという名を使いたい」というもの。
実在している名字であるゆえ、回避したかったペンギン夫婦ではありましたが、
結局、下の名前だけは変えようということに。
暁峰さんの役名はギョウコウ、愛理さんは歩美という名となりました。
愛理さんがそうアイディアを出したのです。
ギョウコウ。これは、実は暁峰さんの弟さんの名。
歩美は、石垣島で2人が住み始めた時の隣の家の女の子の名。
6人兄弟で、上5人はみんな男。やっと生まれた末っ子の女の子だったそう。
当時、3歳ぐらいで、よく遊びに来ていたので、娘のようにかわいがっていた子です。
石垣島の思い出のひとコマからとったのですが、
ギョウコウ、歩美という命名のタネあかしは、撮影が終わるまで明かされませんでした。
* * *
ギョウコウ役の台湾俳優、ワン・チュアンイーさんは素敵な人でした。
台湾から石垣空港に着くやいなや、
石垣島の空や海を見る間もなく、そのまま空港での撮影が開始!
日本語はまったくできず、セリフ覚えも大変だったにもかかわらず、
まわりの人たちに向ける温かい思いやりに、辺銀夫婦は感心しきりだったそうです。
「ともかく、気遣いが素晴らしい人でした。
ふとした表情が弟にとても似ていて、
やさしい、ジェントルなところも似ているんです」と2人は話します。
「自然に相手のことをキャッチできる人。touchableな人でした」と愛理さん。
撮影しながらも、台本の書き直しは続いたのですが、
チュアンイーさんにとっては、それは大変な作業。
やっと覚えた日本語のセリフを、また一から覚え直さなくてはならない。
撮影が深夜に及ぶことも多い。そんな時でも、笑顔を絶やすことがなかったそうです。
夫婦役は難しいと聞いているけれど、初日でも、
自然に歩美役の小池栄子さんを気遣うことができる、温かい人だったそうです。
そして撮影は、彼が次の仕事でシンガポールに飛ばなくてはならなかったのですが、
その飛行機に乗る直前まで続いたのでした。
片や、歩美を演じた小池栄子さんも素敵な人でした。
一見、男っぽくドライに見えるけれど、実は、非常に繊細で華奢な内面を持つ
歩美という役を見事に演じきってくれました。
でき上がった映画を2人は、冷静に見られなかったと言います。
「私の記憶の中のスクリーンと、目の前にあるスクリーンの映像を
同時に観ている感じがして、不思議な感覚でした」と、愛理さん。
ペンギン夫婦が見た石垣島百景
その14
「公益社団法人石垣市シルバー人材センター」ニーニーズ&ネーネーズ
平良浩市
河上美奈子
嘉数博仁
垣淵澄雄/ホタル&星座先生
Page 3
映画の中にたびたび登場する、2人で料理を作るシーンや食事のシーン。
これには、辺銀夫婦が全面協力をしています。
「ほんとうにおいしそうに見える映画にしたい」。
これが2人の願いだったからです。
たとえば、餃子を盛り込む時に、大きな皿にちんまり盛るのではなく、
中国の家庭でよく見るような、小さな皿に山盛りにして出したい。
皿から落ちそうなくらいにして欲しい。コロコロと落ちても撮り直ししないで、
その落ちたのはパクッと食べるくらいがいいんじゃないか。
もちろん、器もごくごく普通のものを使って欲しい。
そんな風に監督にお願いしたのでした。
テーブルに並ぶ、おいしそうな料理をぱくつく2人。
「カット」の声がかかった後も、ギョウコウと歩美は
出された料理を食べ続けていたといいます。
2人とも、気持ちよく食べてくれたんだそうです。
結果、ほんとうに「おなかがすく映画」が完成したのです。
撮影中、「辺銀食堂」では差し入れ部隊が結成され、
毎日欠かさず、差し入れをしていました。
どうしてもロケ中は弁当が多くなることもあり、
冷たいものばかりになってしまうので、それを気遣い、
お夜食には、野菜中心で温かいもの、とくに熱々のスープを
毎日欠かさず、届けたそうです。
* * *
この映画には、島の人たちも協力を惜しまず、
家族のように一緒に過ごしてくれました。
映画を通し、島の人たちとの和も広がっていったようです。
新空港開設とともに、来春でクローズする石垣島空港の姿も
この映画で見納めとなります。
それから、大切なこと。
この映画のために、石垣島出身のシンガーソングライター、
宮良牧子さんが書き上げたテーマソング「ぬちぐすい」が、ほんとうにいい歌なんです。
心にしみわたるような美しく澄んだ歌声は、聞く者すべてをひきつけて離しません。
「長く愛される曲になると思いますよ」と、愛理さん。
聞いているだけで、心が清まっていくような歌声です。泣けてきます。
* * *
辺銀夫婦のまわりには、この映画のおかげで、
ちょっとした異変が起こっていました。映画を見て、結婚したカップルが5組。
さらに、ちょっと冷えかかっていたけど、温かいものが通い始めた夫婦、数知れず。
というのはオーバーですが、ご夫婦で見てくだった方に多かったそうです。
とにもかくにも、辺銀夫婦の物語が、
日本中の人々に、ハッピー・オーラをふりまいたことに間違いはありません。
見逃した方、どうぞ、DVDでご覧くださいませ。
さて、5回続けてきました、このコーナーも今回でハッピーエンドとなります。
映画をご覧になって、石垣島に行きたくなった方、
ぜひ、「辺銀食堂」を訪ねてみてください。
美しい島の風景、心和む人々、豊かな島の暮らし……に触れてみてください。
もちろん、「辺銀食堂」の美味しい料理も待ってますよ。
みなさま、ご愛読ありがとうございました。
ペンギン夫婦が見た石垣島百景
その15
新崎昌治
平田 睦
仲本セツ
「ペンギン家の庭&畑」
「石垣空港」
「石垣島の海『タオの海』」
さいごに。
石垣島さん。私たちを住まわしてくれてありがとう。
子供が巣立つその時まで、もうしばらくお世話になりますね。
子供が巣立った時。飛べないペンギンは飛行機や船を使って渡りの旅に出ます。
「せっかく地球に生まれたからよー、四大陸全部に住んでみたいばーよ!」(笑)
次なる目的地はパタゴニアか南アフリカ。地球のどこかでお会いしましょう!
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
辺銀暁峰&愛理拝
movie information
ペンギン夫婦の映画
『ペンギン夫婦の作りかた』
流行語にもなった「食べるラー油」の原点「辺銀食堂の石垣島ラー油」。その誕生の背景にあったペンギン夫婦のきずなとふたりを取り巻く人々の優しい気持ちを描く物語。
辺銀暁峰さん・愛理さん夫妻の自伝本『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』を原案に、国際結婚カップルの帰化申請、食べるラー油の誕生エピソードを『八日目の蝉』『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の小池栄子と台湾の人気俳優ワン・チュアンイーが演じる。
広くて美しい“空”と“海”、石垣島の健康で美味しい“料理”、そして“優しい気持ち”がたっぷり詰まった物語。“笑顔と満腹”が待っています。
DVD&ブルーレイ発売中、DVDレンタル中。
発売元:バップ
Web:公式サイト
book information
ペンギン夫婦の本
『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』
辺銀愛理著 1575円
http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=1900
『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』
辺銀暁峰 辺銀愛理著 1365円
http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=2091
映画『ペンギン夫婦の作り方』の原案となった本が『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』。「ラー油は餃子にかけるもの」という日本人の概念を変えたラー油誕生の秘密がわかります。また映画では描かれなかった夫婦の出会い、そして子ペンギン誕生のエピソードなども紹介されて、読めばますます“笑顔と満腹”に。その続編ともいえる本『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』はラー油を使ったレシピはもちろん夫婦が石垣島で出会ったヌチグスイ(命の薬)のおいしいレシピを紹介。あなたの食卓が、変わります!
profile
辺銀暁峰&愛理
辺銀暁峰
中国・西安生まれ。映画監督チャン・イーモウのもとでスチールカメラマンを務めた後、日本へ。この連載の写真も担当。
辺銀愛理
東京生まれ。米国育ち。食べ歩きの本を編集していた父の影響で、血統書付きの食いしん坊に育つ。二人は1993年に結婚し、1999年に石垣島へ移住。現在、石垣島ラー油を製造販売し、石垣島で『辺銀食堂』、那覇で『こぺんぎん食堂』を手掛ける。2010年には『ギャラリー&雑貨カフェ 石垣ペンギン』もオープン。この連載のキャプションも担当。
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