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連載

ペンギン夫婦
石垣島の命の薬を、
ラー油ボトルに
ギュッと詰め込む。

ペンギン夫婦と歩く
「石垣島百景」
vol.002

posted:2012.10.1   from:沖縄県石垣市  genre:暮らしと移住 / 旅行

〈 この連載・企画は… 〉  夫は中国・西安生まれ、妻は日本・東京生まれ。
そんなペンギン夫婦が、いま暮すのは沖縄・石垣島。
偶然訪ねた島で出会った人、モノ、風景に育まれふたりはあの「石垣島ラー油」を生み出し、
毎日多くのお客様を満腹&笑顔にする「辺銀食堂」を営んでいる。なぜ?どうやって? 
夫婦がたどった石垣島のたくさんの風景とともにお届けする短期集中連載です!

writer

Michiko Watanabe

渡辺紀子(本文)

writer

Airi Pengin

辺銀愛理(キャプション)

photographer

Gyoho Pengin

辺銀暁峰

島の食にも強く心をひかれ。

さぁ、いよいよ、今回は、あの石垣島ラー油のお話です。
「あの」という言葉には、いろんな意味が含まれます。
「あの」と言われるようになるまで、
辺銀暁峰、愛理夫妻には、いくつもの物語がありました。

ラー油つくりが、ふたりの趣味だったことはお話しましたよね。
ペンギンに生まれ変わってからも、それは変わりませんでした。
いや、ますます磨きがかかっていました。

石垣島で暮らすようになったふたりにとって、
見るもの、聞くもの、すべてが新鮮で、驚くことばかり。
とくに、島独特の野菜や香辛料には、強く心をひかれました。

お日さまの力と、土の栄養をたっぷりと吸い込み、
海からの風をはらんで、ともかく元気がいい。だから、体が喜ぶ。うれしくなる。
島唐辛子やウコンを入れたら、島ならではの、ご当地ラー油ができるんじゃないの。
そう思ったら、もうすでにつくり始めていました。

今でこそ、ラー油といっても、
いろんなバラエティがあるんだなと、わかりますが、
当時は、小さな瓶に入った、赤い辛い油しかありません。
でも、その頃からふたりは、ご当地ラー油と称して、
ワサビを入れた伊豆ラー油、ピーナツを入れた千葉ラー油、
なんてつくって遊んでいました。

いろんなものを入れて、いくらでも楽しめる。それが、彼ら独自のラー油でした。
ここでつくるなら、当然、「石垣島ラー油」でしょう。
もうすでに、ネーミングはできていたってわけです。

「ペンギン食堂」

1999年に新栄町の自宅で作った「石垣島ラー油」が少しずつ売れ始め、二足のわらじを約1年続けた後、2000年12月に「ペンギン食堂」をオープン。なんと、3か月もトンカン、トンカンDIY三昧。カウンターとイスは西やんこと西田勝紀さんの道具をお借り&習いながら、なんとかつくりました。たったひとつのテーブルとイスは今は移住された「木と鉄」の須田さんの作品。ペンギン旦那ちゃんが生まれて初めてつくったカウンター用のハイチェアーは、バランスが悪く、何人かイスから転げ落ちたっけ! けが人をだしたらデージ、と結局、須田さんにカウンター用のイスも頼みました(笑)。

「石垣島ラー油工房」

第一工房は新栄町の元自宅、第二工房はペンギン食堂のテーブル席、第三工房は現ひびの針灸整骨院、第四工房はペン食の2階。だから、今のビルは第五工房になるさね。その第一から手伝ってくれてるのが工房長のまち子ネーネーと副工房長の立美ネーネー。感謝してもしきれません。

ギャラリー&雑貨カフェ「石垣ペンギン」

ペンギン食堂の2階の工房でラー油を販売していた時、お客様が大川交番まで並ばれることがあり、完全予約制を導入。そこで石ラー販売所として「石ペン」をオープン。観光客の方には沖縄アート雑貨を、島の方にはセレクトした生活雑貨をお届けしたい、と奮闘中。

「南風(パイカジ)」

尊敬してる長浜京子ネーネーのお店。自分で器も焼いてしまう京子ネーネーがつくる「揚げ島豆腐」、「ヒラヤーチー」、「島ラッキョウの味噌炒め」は涙がでるほど美味しい。いつも混んでいるので予約をしたほうがマル。

「南嶋民芸」

移住した当時から大好きなお店。崎原毅さんの凧の話、民具の話はかなり面白い。ソテツの葉で作る虫かごのつくり方を習ったのもここ。豊永盛人の琉球はりこ作品も多い。

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最初の頃は、売れたのはたったの…

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最初はたったの2本だった!?

島に移住した翌年、2000年春のこと。
公設市場の中で開かれるお祭りに、なぜか参加することになり、
ラー油を出品することにしたのです。
夜なべ仕事で、ジャムの瓶にラー油を詰め、意気揚々と売りに行きました。1瓶500円。
初代・石垣島ラー油、デビューの時です。ところが、50本つくったにもかかわらず、
売れたのはたったの2本。ちょっと、途方にくれました。

せっかくつくったのだからと、
売れ残ったラー油を友人知人に送ることに。
そのうちの1本が、「わしたショップ」本店店長の目に止まります。
そして、「島の食材から生まれたラー油なんて、素晴らしい。
とってもおいしいし、お店に置きたいから、もっとつくってください」
という、願ってもない言葉をもらったのです。

勇気凛々。これ、つまり、商品を発注されたってことですよね。
ただし、このままだと重い、壊れる。
で、プラスチックボトルに変えることになりました。
いろいろ比べて決めたのが、今のかたちです。

ボトルが決まったら、次はラベル。
人何万倍も紙を愛する愛理さんのこと、当然ながら、こだわってます。
ネパールの山中でつくられる、ロクタ紙に決め、
ボトルにフィットする風合いと色を選びました。

また、愛理さんは、プロも舌を巻く絵心の持ち主。
ロゴをデザインし、消しゴムを彫ってゴム印をつくったのも彼女です。
ロクタ紙にロゴ印を押して、ちぎって貼る。
蓋にも紙をかぶせ、芭蕉の繊維からつくられた芭蕉糸で結ぶ。
この、海のものとも山のものともつかない時から、
もうすでに今のボトルと同じかたちだったのです。

2000年夏になると、「わしたショップ」那覇本店に、納め始めます。
何しろ、店長の肝入りです。少しずつ少しずつですが、売れるようになっていきました。
ほどなく、銀座店にも置かれるようになると、片手間でつくることができなくなって、
暁峰さんは、ラー油づくりに専心することになります。
冬になって、雑誌に取り上げられると、
連鎖反応のように、次々マスメディアの取材が増え、
瞬く間に、電話が鳴り止まない日々になっていきました。

「パポイヤ」

生まれて初めて石垣牛を食べたのはここ。ご主人の小澤康栄さんが選び、熟成させた肉はまちがいない。お誕生日やお祝いごとにはかかせない貴重な老舗。きっとここでプロポーズした島人カップルも多いはずねー。

「おでんモリ」

ペンギン食堂の斜め前、創業47年の島の飲んべえオジチャンやオジーに愛されてる店。足テビチ入りの美味しいおでんが通年楽しめる。店主の森盛三オジーは石ラーシスターズのアイドル。ラー油工房にもよく遊びに来てくれたねー。

「森の賢者」

舟蔵の里で働いていた時、大将が「アイリは美味しいもの好きだから行ってごらん!」と紹介してくれた。鈴木淳さんと奈緒美さんの店。島の食材を生かした創作料理と日本酒が充実してるのでペンギン旦那ちゃんもニコニコ。いつもいっぱいだから予約してから行ってくださいね。

「あこうの木」

石垣島に移住して何が驚いたって、毎年旧暦9月13日に大きな木の下で行われる「なかどぅ道ぬとぅばらーま大会」。車がバンバン通る道の脇に舞台が設置され、約20人のウタシャーが歌い上げる八重山の叙情歌は、方言の意味がわからなくても心にずんずん響きます。

「本原せんべい」

島のお菓子は数あれど、白砂糖が苦手な私はこの本原朗さんの「塩せんべい」が大好き。微妙に塩辛くない塩加減が絶妙。次の塩粒を求めてもう1枚、もう1枚と後をひきます。工場をたずねたら、割れせんべいが買えるかも? 私はこの割れせん狙い常習犯(笑)。今も一枚、一枚、手で焼いてますよー。

「一休」

9年前の5月。妊婦ペンギンは波照間島で友人の結婚式があって飛行機で往復し、その翌日ここのヤギ汁を食べて息子を出産した思い出の店。店主の小禄直人さんのお母さんが切り盛りしてるときから大ファン。いつも「チーイリチャー定食」と「ヤギ汁定食」を頼んで分けっこして食べました。

「長一楼」

元・日航八重山で料理長をしていた新城長一さんが2010年に始めたお店。元フルーツハウス。ランチは刻んだピパーチの新芽を入れたコージューシーと八重山そばセットや島魚フライ定食、夜は自家製スーチキ、お造り、天ぷら、を広いお庭を眺めながらゆっくり味わいたい。

「なつや」

バリバリのスチールカメラマンだった遠藤政文さんの釣り魚料理と焼き鳥の店。なんと、遠藤さんは漁協にお魚を納める海人でもあるのだ。美味しい魚を自分で釣って、最高の状態で味あわせてくれる。同性が惚れちゃうほどカッコイイ遠藤さん(既婚・子持ち)に会いに行こう!

「暖香(だんこう)」

本島生まれの大将の東風平薫さんが奥様の昌美さんと切り盛りする大好きな店。テビチが苦手だった人がこの店の「揚げテビチ」で大ファンに変身する。「アーサー天ぷら」「さきいか天ぷら」「マース煮」書ききれない(笑)。まずは行って味わうべし。

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ラー油にギュッと詰まっているものは…

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このラー油の中身はというと。

さて、ここまで、中身のことを全然お話してませんでしたね。
石垣島ラー油は、島唐辛子、春ウコン、秋ウコン、
ピパーチ(島コショウ)、ニンニク、白ごま、黒豆、
山椒、石垣の塩、黒糖、植物油でできています。
今も、材料は、お祭りに出した時とまったく同じ。
ラー油の下のほうにたまっている「具」の部分、
あそこに、これだけのものがギュッと詰まっているんです。

まろやかな辛みと、スキッと爽やかな香り島唐辛子も、
とびきり香りがいいピパーチも、肝臓にいいとされるウコンも、
島の元気なおじーやおばーが、このラー油のために
まるで、我が子のように愛おしんでつくってくれているもの。
この人たちの協力なしには、石垣島ラー油は成立しないんです。

ニンニクは基本島内産、黒糖はもちろん島のサトウキビ製。
黒豆は味噌にして加えています。
山椒は、暁峰さんの故郷・中国西安と山西省との境にある
韓城産を送ってもらう極上品。体にいいもの満載です。
おじーやおばーの愛情と、ペンギン夫妻のあったかーい気持ちが
たっぷり入った、まさに「ぬちぐすい」(命の薬)。
細胞の隅々にまで行き渡る、幸せの味です。

そうそう、大事なことを言い忘れていました。
このラー油、あまり、というか、ほとんど辛くありません。
遠くで辛みがキラリと光る。そんな味わいです。
辛みよりも、深くやさしく、静か〜に、体の中にしみ渡ります。
おっ何だ、これは、と、体が大喜びする味なんです。
舌はもちろん、体の細胞全員が反応するから、
ついまた、欲しくなるんですね。

2000年春、お祭をきっかけに始まった
「ラー油を売ること」が、その冬には、自分たちもとまどうほどに大進展。
ついには、本職になってしまうなんて……。
人生、何があるかわかりません。

次回は、辺銀食堂と子ぺんぎんについて、お話しますね。

「やまもと」

石垣牛の焼き肉店と言ったら山本豊さんの「やまもと」と言われて早17年。石垣島で予約が取れない店No.1。計画性ゼロなペンギン夫婦はなかなか行くことができなかった憧れの店でもある。現在は美崎町から浜崎町に移転され、店も大きくなったのに、まだ予約が取れない(笑)。「焼きしゃぶ」と「大将にお任せ美味しいところ」は悶絶です。

「おときち」

河村安徳さんが4年前にオープンした「おときち」は、ポーションが小さいので、たったひとりでもいろんな部位を楽しめる焼肉屋さん。「特選ハラミ」「塩テール」「サンドミノ」などなど。〆の冷やしうどんもお忘れなく。

「バー・ノブ」

東京の目黒川の近くにあるバーの名店で11年間も勤めてた岡本信之さんは北海道倶知安の出身。ノブさんが作るフレッシュフルーツを使ったカクテルは石垣島をバハマに変えてしまうくらいのパワーがある。「島ミントのモヒート」「シークアーサーのカイピリーニャ」など、1度とろけてみてほしい。

「ル・キュイップ」

えっ? ここはどこ? 東京? 大阪? パリ? と食通をうならせる上間雄二さんのパン&ケーキの店。昼前に田舎風パテや生ハムとブリーのサンドイッチがならび、「シュークリーム」と「ババ」はパリより美味しい。涙もん。

「迷亭」

この頃はまってる居酒屋さん。腕も良いが人柄も最高の小暮夏雄さんと智子さんの店。禁煙じゃない店はなかなか行かないペンギンがついつい行ってしまう禁断の果実のようなメニュー。息子ペンギンは「浜崎牛のカルボナーラ風」や「手羽先揚げ」、ワタスは魚料理と豚料理と野菜料理って…(笑)全部好き!

「島野菜カフェ・リハロウビーチ」

海の目の前。風が気持ちよい別荘風2階建ての一軒家カフェ(店主:海老沼純一さんと陽子さん)。ランチはいつも混んでるから電話で確認してから行く。お気に入りは「島野菜プレート」。涼しくなったらベランダの席もいいね。

movie information

ペンギン夫婦の映画
『ペンギン夫婦の作りかた』

流行語にもなった「食べるラー油」の原点「辺銀食堂の石垣島ラー油」。その誕生の背景にあったペンギン夫婦のきずなとふたりを取り巻く人々の優しい気持ちを描く物語。

辺銀暁峰さん・愛理さん夫妻の自伝本『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』を原案に、国際結婚カップルの帰化申請、食べるラー油の誕生エピソードを『八日目の蝉』『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の小池栄子と台湾の人気俳優ワン・チュアンイーが演じる。

広くて美しい“空”と“海”、石垣島の健康で美味しい“料理”、そして“優しい気持ち”がたっぷり詰まった物語。“笑顔と満腹”が待っています。

DVD&ブルーレイ発売中、DVDレンタル中。

発売元:バップ

Web:公式サイト

book information

ペンギン夫婦の本

『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』

辺銀愛理著 1575円

http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=1900

『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』

辺銀暁峰 辺銀愛理著 1365円

http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=2091

映画『ペンギン夫婦の作り方』の原案となった本が『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』。「ラー油は餃子にかけるもの」という日本人の概念を変えたラー油誕生の秘密がわかります。また映画では描かれなかった夫婦の出会い、そして子ペンギン誕生のエピソードなども紹介されて、読めばますます“笑顔と満腹”に。その続編ともいえる本『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』はラー油を使ったレシピはもちろん夫婦が石垣島で出会ったヌチグスイ(命の薬)のおいしいレシピを紹介。あなたの食卓が、変わります!

profile

辺銀暁峰&愛理

辺銀暁峰

中国・西安生まれ。映画監督チャン・イーモウのもとでスチールカメラマンを務めた後、日本へ。この連載の写真も担当。

辺銀愛理

東京生まれ。米国育ち。食べ歩きの本を編集していた父の影響で、血統書付きの食いしん坊に育つ。二人は1993年に結婚し、1999年に石垣島へ移住。現在、石垣島ラー油を製造販売し、石垣島で『辺銀食堂』、那覇で『こぺんぎん食堂』を手掛ける。2010年には『ギャラリー&雑貨カフェ 石垣ペンギン』もオープン。この連載のキャプションも担当。

http://penshoku.com/

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