連載
〈 この連載・企画は… 〉
夫は中国・西安生まれ、妻は日本・東京生まれ。
そんなペンギン夫婦が、いま暮すのは沖縄・石垣島。
偶然訪ねた島で出会った人、モノ、風景に育まれふたりはあの「石垣島ラー油」を生み出し、
毎日多くのお客様を満腹&笑顔にする「辺銀食堂」を営んでいる。なぜ?どうやって?
夫婦がたどった石垣島のたくさんの風景とともにお届けする短期集中連載です!
writer
Michiko Watanabe
渡辺紀子(本文)
writer
Airi Pengin
辺銀愛理(キャプション)
photographer
Gyoho Pengin
辺銀暁峰
今回は、誕生ものがたりです。何が誕生するのでしょうか。
石垣島ラー油誕生が2000年春。
紆余曲折あった中、順調に売れ始めた、その年の12月、
辺銀暁峰&愛理夫婦は、かねてよりの念願だった食堂を開きます。
「いつか、お店を開きたいね」
というのは、結婚した頃からの夢でもありました。
料理を作るのが好きな2人にとって、
石垣島は、まさに食材のパラダイスでした。
知れば知るほど、広がっていく食材の世界にすっかり魅せられ、
東京で描いていた夢が一気に開いていきます。
食堂の場所は、石垣島のゆいロード沿いに決めました。
内装工事は、暁峰さんと、辺銀夫婦の友人が
何から何まで、こつこつ手作り。3か月かかりました。
店名は、まんまですが、「辺銀食堂」。この年は、石垣島ラー油と、
いろんな夢が詰まった、この小さな食堂が産声をあげたのです。
メニューの核は、辺銀夫婦お得意の餃子に決めました。
でも、ただの餃子ではありません。
日本中探しても、どこにもない、
島の食材を駆使した、五色の「島餃子」です。
「白」…小麦粉そのもの 具材…豚肉&島ラッキョウなど
「黒」…イカスミ入り 具材…豚肉&イカなど
「緑」…ホウレン草入り 具材…豚肉&ウイキョウなど
「赤」…赤ピーマン入り 具材…豚肉&葉ニンニクなど
「黄」…ウコン 具材…豚肉&レンコンなど
具材は季節によって、アダンの新芽や島ニラが入ったり、
ゴーヤー、ヨモギ、長命草、苦菜やホービーガンジューが入ったり。
彩りもにぎやかな上、元気な島野菜があれこれ入った、
いわば、命薬(ぬちぐすい)餃子。
これを油で焼かずに、ゆでて提供するのですから、
ヘルシーなこと、この上ありません。
それから、ジャージャンすば。
これは元々は、暁峰さんが北京のおばさんに教わった味。
こちらも、無かん水、無添加の
ペンギン食堂オリジナルすばを使い、島の食材をたっぷりと盛り込んで、
島ならではの味わいを生み出しました。
ペンギン夫婦が見た石垣島百景
その7
「普天間三味線店」
「横目三線」
「海のもの山のもの」
「サイレントクラブ」
「手打ちめん処 鍵」
「玉取崎手前ヒージャーポイント」
「玉取崎展望台」
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島餃子にもジャージャンすばにも、石垣島ラー油は最高の友。
ぴたりと寄り添って、おいしさを引き立ててくれます。
たっぷり使って欲しくて、卓上に置いて、
お客様が好きなだけ入れられるようにしました。そうしたら、これが大好評。
辛いだけじゃない、島のパワーと土地の恵みがぎっしり詰まった
滋味深い「石ラー」を、おみやげに欲しいというお客様もあって、
食堂でも売れるようになっていきました。
そんな風にして、食堂が順調に歩み始めた頃、
辺銀夫婦に願ってもない幸せが訪れます。
結婚10年を経て、思いもかけず、子供を授かったのです。
2003年のことでした。
母子ともに健康。それが何よりハッピーだったのですが……。
愛理さんは友達の結婚式のために、ぶーんと飛行機で15分飛んで波照間島へ。
その夜、めでたや、めでたや、と、踊るわ、遊ぶわ、楽しく過ごし、
翌日、また飛行機で石垣島に戻ったのです。
そして、ひーじゃー(ヤギ)が食べたいと言い出した暁峰さんと一緒に、
昼ご飯はついヤギ汁を口にしてしまいます。
沖縄では、ひーじゃーは予定日を過ぎても生まれない人に
食べさせると効果てきめん。でも、その逆に、
妊婦が食べると早産する可能性大と言われているもの。
でも、そんなの平気じゃない、と食べちゃったのでした。
すっかり満腹になった愛理さん、お昼寝をします。
そして目がさめたとき、バンと破水してしまうのです。
きゃあ大変。やっぱりというか……。
それで驚いたのか、それまで一度もなったことがなかったのに、
突然、逆子になってしまい、結局、帝王切開となりました。
明日で8か月という日に生まれた赤ちゃんは、わずか1キロ。
手のひらにのりそうなくらいの小さな小さな赤ちゃんでした。
何度も心臓が止まり、そのたびに看護婦さんが肩をトントンと叩くと、
息を吹き返す。愛理さんの心臓も止まりそうでした。
そうそう、赤ちゃんの名前はタオ。
長男だから、一郎とか太郎とかも考えましたが、
名字が名字だけに、お笑いになりそうだったので、しばし熟慮。
愛理さんの敬愛する加島祥造の著書「タオ―老子」からとりました。
ペンギン夫婦が見た石垣島百景
その8
「糸数商店」
「石垣島ミルククラウン」
「明石売店」
「スカイアドベンチャーうーまくぅ」
「平久保灯台」
「ヨーガンレール農園」
「吹通川観光」
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タオは、結局、NICU(新生児特定集中治療室)に
2か月半もの間、いることになります。
その間、愛理さんは搾乳をしては、まるで牛乳屋さんのように、
母乳をせっせと病院に運びました。
でも、あまりに小さくて、吸い付くこともできないため、
管で入れなくてはいけないありさま。
愛理さんは、不安で、心配で、2週間ぐらい泣き暮らしました。
小さな体に何本もの管を刺された我が子の姿は、
母としては身をよじるような思いだったのです。
お母さんに唯一許されたのは、お風呂に入れることだけ。
それが辺銀夫婦の支えでした。
そんなタオも、今、9歳。体重は40キロにならんとしています。
そんなちっちゃな赤ちゃんだったとは、誰も想像ができません。
タオが3歳か4歳の頃、タオに記憶を尋ねたことがありました。
そのくらいの年までなら、生まれる前のことまで覚えている、
と言われているからです。
「プールの中にぷかぷか浮いてて、気持ちよかった」
羊水の中のことなんですね。
「もっと、あのプールにいたかった」
生まれる前に神様と、これからどこに行くのかという話をし、
自ら志願して、辺銀夫婦の元に生まれてきた、とも話したそうです。
それから、「保育器の中は暑くて暑くて、我慢できないくらいだった」と。
そういえば、何本も管をつけているにもかかわらず、保育器の壁に
足をピタッとくっつけてたなと、愛理さん、思い出します。
でも、そのたびに看護婦さんがその足を、布団の中に戻していたなぁ。
不思議なお話ですね。神様がとても身近な存在に思えます。
出産騒ぎと、石ラー大ブレイクで、食堂はこのあと、
丸々4年間休んで、ラー油作りに専心することになります。
さて、次回は……。
現在の、そして、これからの辺銀一家のお話をすることにいたしましょう。
ペンギン夫婦が見た石垣島百景
その9
「パーラーパパ屋」
「バンナ公園」+「バンナカフェ ハッシー喰楽舞(くらぶ)」
「もだま工房」
「島藍農園」
「天文台」
「ガーデンパナ」
movie information
ペンギン夫婦の映画
『ペンギン夫婦の作りかた』
流行語にもなった「食べるラー油」の原点「辺銀食堂の石垣島ラー油」。その誕生の背景にあったペンギン夫婦のきずなとふたりを取り巻く人々の優しい気持ちを描く物語。
辺銀暁峰さん・愛理さん夫妻の自伝本『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』を原案に、国際結婚カップルの帰化申請、食べるラー油の誕生エピソードを『八日目の蝉』『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』の小池栄子と台湾の人気俳優ワン・チュアンイーが演じる。
広くて美しい“空”と“海”、石垣島の健康で美味しい“料理”、そして“優しい気持ち”がたっぷり詰まった物語。“笑顔と満腹”が待っています。
DVD&ブルーレイ発売中、DVDレンタル中。
発売元:バップ
Web:公式サイト
book information
ペンギン夫婦の本
『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』
辺銀愛理著 1575円
http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=1900
『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』
辺銀暁峰 辺銀愛理著 1365円
http://magazineworld.jp/books/all/?gosu=2091
映画『ペンギン夫婦の作り方』の原案となった本が『ペンギン夫婦がつくった石垣島ラー油のはなし』。「ラー油は餃子にかけるもの」という日本人の概念を変えたラー油誕生の秘密がわかります。また映画では描かれなかった夫婦の出会い、そして子ペンギン誕生のエピソードなども紹介されて、読めばますます“笑顔と満腹”に。その続編ともいえる本『石垣島ラー油と、おいしいペンギンごはん』はラー油を使ったレシピはもちろん夫婦が石垣島で出会ったヌチグスイ(命の薬)のおいしいレシピを紹介。あなたの食卓が、変わります!
profile
辺銀暁峰&愛理
辺銀暁峰
中国・西安生まれ。映画監督チャン・イーモウのもとでスチールカメラマンを務めた後、日本へ。この連載の写真も担当。
辺銀愛理
東京生まれ。米国育ち。食べ歩きの本を編集していた父の影響で、血統書付きの食いしん坊に育つ。二人は1993年に結婚し、1999年に石垣島へ移住。現在、石垣島ラー油を製造販売し、石垣島で『辺銀食堂』、那覇で『こぺんぎん食堂』を手掛ける。2010年には『ギャラリー&雑貨カフェ 石垣ペンギン』もオープン。この連載のキャプションも担当。
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