連載
posted:2016.5.13 from:栃木県 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
地域ごとにさまざまな郷土料理がありますが、なかなか食べないし、伝えられていない。
コロカルはそれをちょっと心配してました。そんなときに郷土料理を後世に伝える全集が編集部で話題になり。
これを教科書に、いろんな人ともつながって、郷土料理を身近にする連載をしよう!ということに。
料理人・後藤しおりさんがアレンジした、家庭でおいしくカンタンに作れる郷土料理を、都道府県別に紹介していきます!
profile
Shiori Goto
後藤しおり
ごとう・しおり●実家は寿司屋を営む。ブータン料理店、野菜料理店などを経て、2012年7月に独立。世田谷を拠点にケータリング、ロケ弁、出張料理人として活動。不定期でアトリエでイベントなども行う。
http://gotoshiori.com/
photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。コロカルで『美味しいアルバム』も連載中。
writer profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター。生まれも育ちも埼玉県。好きな郷土料理は「群馬のおきりこみ」。麺好き、自炊派。
郷土食を日本の隅々から掘り起こし、記録した名著
『日本の食生活全集』全50巻(農文協)から
料理人・後藤しおりさんが現代の家庭でもおいしく
カンタンにつくれるよう再現したレシピをお届けしている本連載。
ぜひ一緒につくってみましょう!
『聞き書 栃木の食卓』の表紙にも採用されている夕顔の収穫風景。
これこそ、今回の郷土食のメイン食材〈かんぴょう〉です。
「かんぴょうは主役になるんです!」
と料理人・後藤しおりさんの宣言で始まった今回の郷土食アレンジ。
しおりさんの実家はお寿司屋さん。お寿司に欠かせないかんぴょうは、
お父様が毎回大きい鍋でたっぷり炊いているのだそう。
「醤油と砂糖の濃いめの味つけがなつかしい」と笑います。
いまでも実家に帰ると、まずかんぴょうをつまみ食い。
「なにはともあれ、このかんぴょうを食べないと始まらない(笑)。
トマトと卵を炒めてかんぴょうを合わせた“まかない飯”なんて、最高でした」
トマトの赤と卵の黄色が食欲をそそり、お肉がなくてもボリューム満点。
これは真似したいですね!
今回は、そのしおりさん思い出のまかない飯を彷彿とさせる、
〈かんぴょうの卵とじ丼〉をご紹介します。
全国生産量の98%以上を占める、栃木の代表的な特産物かんぴょう。
夕顔を薄く削って干してできますが、
ほとんど生のかんぴょうを見かけることはないでしょう。
夕顔は、同じくウリ科のひょうたんが分化したものだと言われており、
生食するとゴーヤ以上に苦みが出るものも多いのだとか。
しかし、薄く削って干すことで、苦みが減り、かさが減り、旨みが増すのです。
カルシウム、カリウム、リン、鉄分、食物繊維の豊富さにも注目したいところです。
夕顔の収穫は7〜8月にかけて行われ、
実を紐状に剥き、真夏の太陽熱にて2日間にわたって干し上げます。
かんぴょうをはじめとする乾物がしおりさんは大好きで、
しおりさんの料理には頻繁に登場します。
「乾物は凝縮された味がするから好きなんです」
乾物それぞれの特徴に合わせて、じっくり時間をかけて戻します。
たとえば、干ししいたけは水に漬けて1日かけて戻すのだとか。
なので、今回のポイントも、かんぴょうをしっかりと下ごしらえすること。
かんぴょうを戻す作業も立派な調理工程なのです。
材料が少なく、とてもシンプルな料理なので、
このかんぴょうの下ごしらえをきちんとやると、
かんぴょう独特の臭みが落ちて、だしをたっぷりと吸い込んでくれます。
「冷凍保存もできるので、下ごしらえを一気にやってしまってもいいですよ」
こうしてしっかり下ごしらえされた、煮かんぴょうは、
ふっくらふくれて、ひと口噛むと、だしがじわーっと広がります。
平べったいかんぴょうの、どこにこれほどのだしが含まれていたのか!
さらに、かんぴょうは“無漂白”のものを選ぶのもしおりさんのこだわり。
スーパーでかんぴょうを選ぶ際には、パッケージの表示にも注目してみてください。
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★栃木 かんぴょうの卵とじ(2人前)
材料
かんぴょう … 1袋(干した状態で30g。戻したあとは220g程度になります)
卵 … 4個
だし(鰹と昆布) … 160cc
薄口醤油 … 大さじ1
本みりん … 大さじ1
砂糖 … 小さじ2分の1
塩 … 少々
1. 水でかんぴょうをさっと洗い、塩ひとつまみ入れて揉む。塩の効果で独特な臭みが表面に出る。
2. 鍋にたっぷり水を張り、かんぴょうを水から茹でる。沸騰してから8分間。かんぴょうを泳がせるように茹でるのが臭みを取るポイント。指でつまんでふわっとしていたらしっかり戻った証拠。引き上げて冷ます。
3. 水洗いをしてしっかり揉み洗いし、折り曲げてしっかり絞る。
4. 広げて並べてひとくち大に切り、さらに水気を絞る。ここまでがかんぴょうの下ごしらえ。冷凍保存も可能なので一度にたくさん戻してもOK。
5. 卵4個は割ってカラザを取り、菜箸で8の字を書くように軽く溶きほぐしてスタンバイ。鍋にかんぴょう、だし160ccと薄口醤油大さじ1、本みりん大さじ1、砂糖小さじ1/2、塩をひとつまみ入れ、中火にかける。沸騰したら火を弱火にし、7〜10分ほど煮る。
6. 中火に戻し、卵を入れる。木じゃくで大きくゆっくりかき混ぜ、火を止めて蒸らす。「木じゃくでかき混ぜる回数は3回まで!」(しおりさん)
7. ご飯に卵とじを乗せて、上から木の芽をたっぷりあしらって完成。
「卵の黄色がおめでたい感じがするので、お正月やおもてなしにもいいですね」
としおりさん。とろふわ卵の黄色と、
たっぷり乗せた木の芽の緑の組み合わせは食欲をそそります。
「今回『聞き書 栃木の食卓』を読んで、かんぴょう料理を選んだのは、
栃木=かんぴょうというイメージがあったからにほかならないのですが、
古くから生産され、食べられてきたということで、
本に掲載されているかんぴょう料理のレパートリーの多さには驚きました。
かんぴょうは、下ごしらえさえ覚えてしまえば、
サラダ、和え物、炒め物、煮物、揚げ物と気軽に使える食材なので、
日常に取り入れてほしいですね」としおりさん。
みなさんもぜひ“かんぴょう料理”をお試しください。
書籍情報
『日本の食生活全集9 聞き書 栃木の食事』
著者:「日本の食生活全集 栃木」編集委員会
出版:農山漁村文化協会(農文協)
日本の食生活全集とは:おばあさんからの聞き書きで、各県の風土と暮らしから生まれた食生活の英知、消え去ろうとする日本の食の源を記録し、各地域の固有の食文化を集大成する書籍。四季の食事に加えて、救荒食、病人食、妊婦食、通過儀礼の食、冠婚葬祭の食事等を記録している。
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