連載
posted:2019.4.1 from:熊本県熊本市 genre:旅行 / 食・グルメ
sponsored by 宝酒造
〈 この連載・企画は… 〉
「和酒を楽しもうプロジェクト」もいよいよ6年目へ。
舞台をイエノミからソトノミに移し、“酒場推薦人”の方々が、日本各地の魅力的な「ローカル酒場」をご紹介します。
writer profile
Daiji Iwase
岩瀬大二
いわせ・だいじ●国内外1,000人以上のインタビューを通して行きついたのは、「すべての人生がロードムーヴィーでロックアルバム」。現在、「お酒の向こう側の物語」「酒のある場での心地よいドラマ作り」「世の中をプロレス視点でおもしろくすること」にさらに深く傾倒中。シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエ。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本ワイン専門WEBマガジン『vinetree MAGAZINE』企画・執筆
credit
撮影:千葉諭
酒場にお酒を飲みにいくことは、ストレス解消? 憂さ晴らし?
いやいや、美酒を楽しみ、美味を堪能し、豊かな時間を過ごすことです。
でも、それだけじゃない。いや、それと同じくらい大切なことがある。
それは、美酒や美味を通して、人と出会い、自分の世界が広がること。
だから、世代が違っても一緒に酒場に行ける。
熊本の郷土料理居酒屋で、地元のみなさんに教えてもらったのは、
熊本のクリエイター流の酒と出会いの楽しさでした。
熊本市内中心部の繁華街といえば、下通り(しもとおり)と上通り(かみとおり)。
中でも下通りから新市街にかけては、飲食店の激戦区。
大衆居酒屋、バーやスナックはもちろん、
地元の名士、出張族にも愛され続けている
本格的な郷土料理や老舗も多いエリアです。
今回のローカル酒場は、気軽ながらもしっかり郷土料理を味わえる店。
そんな〈こもれび家〉をご案内しましょう。
さて、熊本の郷土料理といえば、馬刺し、辛子蓮根などが浮かびますが
実際に地元の酒場好きにはどのような存在なのでしょう?
そのあたりの事情も合わせて、熊本の酒場の楽しみ方を教えてくれるのは
当地でデザインプロダクション〈ネストグラフィックス〉を運営し、
自らも最前線で腕を振るう河北信彦さんと酒場仲間の女性3人。
酒場仲間の女性というから誰かと思えば若い社員さんとバイトスタッフさん。
年齢は親子ほども違う4人。しかも職場のメンバー。
最近ではなかなかなさそうな組み合わせですが普段から仲良く酒場へ。
「なぜか趣味が合うんですよ」と笑う河北さん。
社員の上妻(こうづま)莉子さんとは映画、
バイトの前田優佳さんとは『シン・ゴジラ』で盛り上がり、
村上亜由美さんは現役の熊本大生でデザインの世界に興味津々。
職場の愚痴をこぼすような酒ではなく、楽しい会話の場だから集まれる。
「落ち込んだ時ではなく、楽しいときに飲む。反省はなし(笑)」(河北さん)。
では、女性も多いので甘く爽やかな香りの焼酎で乾杯といきましょう。
今日は熊本の郷土料理を味わっていただくのですから、やはり焼酎。
と思ったところ河北さんから意外なひと言が。
「実は普段飲みでは、あまり郷土料理の店には行かないですねえ」
上妻さんも「そうですね、なにか普通のものばかりあるところ」
前田さんも「家で食べようと思っても馬刺しって安くないですから
あまり外でも食べに行こうとしないですね」
「でも」と河北さんはメニューをめくりながら、
「なんだかんだいって、熊本の人間は地元のものが好きなんだな」
その理由は? と聞けば、
「阿蘇とか有明とか天草とか地元の地名がついてるとおいしそう(笑)」
こもれび家は、地鶏の天草大王や有明あさりをはじめ、
地元食材を使った料理のバリエーションが豊富。
「こうなると郷土料理を食べたくなってくる。この焼酎とも合いそうだし」
という河北さんに、3人は「ラッキー」という笑顔。
「地元で愛される車エビも!」(上妻さん)
「久々に馬も。ヒモ(アバラ肉)の溶岩焼き」(前田さん)
「それなら僕の好きな天草大王もだな」(河北さん)
なんだ、やっぱり好きなんじゃないか、というところで村上さんがひと言。
「辛子蓮根と一文字のぐるぐるも……!」
すばらしいチームワークで注文が決まります。
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まず登場したのは、辛子蓮根、一文字ぐるぐる、馬刺し三種に山うに豆腐、
熊本の定番6種類が盛られた〈郷土六花〉。
このひと皿で郷土料理が網羅されつつ、お酒もすすみます。
「この中で県外の方に知られていないのは、一文字のぐるぐるかな?」と村上さん。
前田さんも「山うに豆腐もそうかも」
山うに豆腐は平たく言えば豆腐の味噌漬けのことですが、
熊本の山間の保存食として800年以上も続くもの。
「お酒のつまみとしてもとてもいい。クリームチーズに似ているんです」(前田さん)。
そして一文字ぐるぐる。一文字はひともじと読みます。
一文字はわけぎの別名で、1780年代、財政難に陥った熊本藩が出した、
倹約令によって生まれた料理とされています。
山うに豆腐同様、生活の知恵が、今は良い酒のつまみに。
続いては全国でもおなじみの辛子蓮根ですが、ひと口食べて「ん!?」と皆さん。
疑問の理由は「あったかい」。そして「おいしい!」
確かに辛子蓮根といえばつくり置きを切って出すのが普通。
その声を聞いて女将の古木ひとみさんもにっこり。でも少ししみじみ。
「実はいろいろあって……こうなったんです」
江戸前の寿司屋が卵焼きを築地の専門店から仕入れるように、
熊本の料理店でも辛子蓮根は専門の店から買う。
それはある種、職人同士のリスペクト。
こもれび家さんも長く信頼関係のあった専門店から仕入れ、
これが常連客や出張客の間でも人気を得ていました。
しかし、九州新幹線の開業による土地整備をきっかけに専門店が廃業。
いつも楽しみにしていただいている方、
出張でわざわざリピートしてくださる方のことを考えると
看板のひとつでもあるこの辛子蓮根を別の店に切り替えるのは難しい。
悩んでいたところ、そのお店からうれしい提案が。
「レシピをいただけるというんです。
うちの辛子蓮根をここまでちゃんと扱ってくれているんだから
好きに使っていいですよ、と。うれしかったですね。
まだちゃんと再現できているかはわかりませんが」と女将さんは言います。
でも、お店でつくるので、注文があってから揚げられるという、
そのひと手間がお客さんからは大好評。
「出張のお客様には少しでも楽しんでいただけるように」
という女将さんの思いも伝わりますが、
地元の河北さんたちにとっても地元ならではの驚きがありました。
お酒のセレクトも同様。女将さんのこだわりは、
「せっかくここに来てくださるんですから、ここでしか味わえないものを」
熊本の地酒、焼酎、そしていろいろな料理に合う九州限定の焼酎。
「カウンターのひとり飲みでも、ゆっくりと味わっていただけましたら」
河北さんは女将さんの思いを感じながら、今度は馬しゃぶを注文。
新鮮で、生でも食べられる馬がある熊本だからこその料理。
「こういう話をみんなで聞けて、あらためて郷土料理の良さを感じられる。
普段、あまり食べないなんて言ってますが、県外の方が来れば
やっぱりこういうところにご案内したいですよ」
いい郷土料理と、いい酒があって、くつろげる雰囲気があって。
ここで上妻さんがおもしろい熊本酒場論を。
「実は熊本の人間って地元の仲間同士で酒場に行くと、人目を気にするところがあるんです」
河北さんもうなずきます。
「一般的には酒を外で飲む文化が成熟していないように感じますね。
洋服もちゃんとしているものを売っているところは多いんだけど
じゃあ、それをどこに着ていこうか、というと特にはない」
「そういえば父を見ていると、いいお酒は買って家で飲んでますね」と前田さん。
家だとリラックスして辛子蓮根や一文字ぐるぐる。
でも外だとちょっと人目を気にして何だか当たり前のもの。
ちょっと意外な熊本のイメージです。そのうえ、河北さんは
「今でこそこうやっていろいろないい店に行っていますが、
20代、30代のころはほとんど酒場なんかには行かなかった。
それがガラッと変わったのは、酒場でのおもしろい出会いがあってから」と言います。
その出会いは、ある酒場のカウンター。
そこで離れた場所で飲んでいた人が自分の趣味の話にいきなりのってきたこと。
県外の方で、しかも聞けばその世界では著名な方で、そこから意気投合。
「酒場というのは、体験の場で、世界が開ける場所なんだ、そう思いました」
だから、世代の違うスタッフのみなさんも、酒場は趣味の話を楽しみ、
何か別の世界と出会う場所だと考えています。
「よその会社の飲み会にのっかることもありますよ(笑)」(河北さん)
接待飲みや痛飲じゃない。だから料理も酒も旨い。
「今日みんなであらためて、この店のおいしさ、もてなしが
どうやって生まれているのかを知りました。
県外のクリエイターさんや、そうでない方とでも
うまい郷土料理と酒を酌み交わしながら
ここで、なにかいい刺激や発見をし合えそうですね」(河北さん)
郷土の味を愛し、おもてなしを加えて県外の人も楽しませる。
そんな酒場だからこそ、知らない文化をもった同士が近づける。
普段、人目を気にするという熊本の人も
楽しく盃を重ねられる酒場がありました。
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本格焼酎の本場、南九州・宮崎の黒壁蔵で生まれた〈紅彩〉は、
ほくほくとして甘みの強いさつま芋である紅さつまを50%以上使用し、
昔ながらの黒麹で仕込んだ焼酎。
華やかで甘みのある香りと飲み口を楽しみつつキレと飲みごたえのある余韻も堪能できます。
「普段からリキュールなど甘みのあるお酒が好きなのでこれは私好みです」と上妻さん。
「強めのお酒は日本酒をなめる程度」という前田さん、村上さんも
料理と合わせて楽しく飲んでいました。
女将さんからは「熊本は米焼酎のイメージですが実は芋も人気。
九州限定ということで郷土料理とあわせてどうぞ」
馬刺しや天草大王のように甘みの余韻がある肉料理との相性は抜群。
ロックはもちろん、少しソーダを加えると
自然な甘さが加わり、味わいの彩りが豊かになります。
information
こもれび家
住所:熊本県熊本市中央区下通1丁目9−4
TEL: 096-355-0430
営業時間:月~日、祝日、祝前日: 17:00~翌2:00(料理L.O. 翌1:00 ドリンクL.O. 翌1:00)
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