連載
posted:2013.12.4 from:北海道旭川市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。
editor's profile
Kanako Tsukahara
塚原加奈子
つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。
credit
撮影:渡邉有紀
木の家具の産地として名高い北海道旭川市。
北海道のほぼ中央に位置する旭川には、
広大な北海道の豊富な木材を扱う事業所も多く集まっていた。
と、同時に高い技術を持った職人が多く輩出してきた。
そのなかのひとつ、「木工芸 笹原」を訪ねた。
先代が1970年に創業し、この地に40年以上工房を構えている。
北海道産の木材がほとんどで、手づくりにこだわる工房だ。
最初は家具の下請けとして、持ち手やつまみなどさまざまなものを製作。
そのうち、先代の高い技術は、木の壷やコブ工芸のものを得意とした。
「こぶ」とは、木の根元がふくれてこぶのように突起している木材をさす。
岩肌など厳しい気候条件にさらされながら、数十年あるいは数百年以上かけてできる部分だ。
板に製材すると、変わった杢目模様があらわれるのが特徴。
自然が生み出した杢目により、美しい工芸品が生まれる。
しかし、このコブ材はとても硬く、刃物が折れてしまうほどだという。
加工するには高い技術を必要とする。
「先代はコブ材の加工技術がかなり得意だったんですよ」
と教えてくれたのは、現社長の志賀 潔さん。
「俺は、その技術を見て覚えるのみだよ。
先代のおやじは一切教えないひと。それが勉強なんだよね。
最初に、刃物の持ち方だけは教えてもらって。あとは見て覚える。
だからこの作業場は、ふたり並ぶつくりになっているでしょ。
隣で作業するおやじの技術を見ながらつくっていました」
さらに旭川では、家具工房で修業したあとは独立する人も多く、
先代も佐藤工芸という家具工房から独り立ちしたひとり。
近くには兄弟弟子たちもたくさん工房を構えていた。
「仕事で新しい注文が入ったりすると、聞きにいったりね。
みんな教えてくれたよ。俺やおやじが教えられることは教えたし、
そんな風にして、みんなで上達していったんじゃないかな。
でもね、絶対みんな同じものはつくらない。
似たようなものにはなるけどね(笑)。ひと工夫するんです」
そうやって、旭川の家具は発展していったのかもしれない。
せっかく仕入れた国産の木材。
どうしても出てしまう端材を利用できないかと生まれたのが、木の独楽。
得意としていたコブ工芸の材料が減少し始めたときだった。
すると、想像以上のお客さんの好反応。注文も年々増えていったという。
特に志賀さんは、細かい加工技術を得意としていたので、
独楽づくりに磨きをかけていった。
独楽とひとえに言っても、日本だけでも「江戸独楽」「京ごま」など、
地域によってさまざまなかたちがある。
さらに、イタリアやヨーロッパでもつくられているというから、
技術さえあれば、コマのデザインは無限大に広がる。
デザインだけなら、100種類以上つくったことがあるという志賀さん。
ほとんどは、お客さんからの要望をかたちにしていった結果、
自然に増えていったという。
今はできるだけ、5種類に絞って製作しているそう。
「昔は、1日最大で60個くらいつくれたこともあったけど、
今は1日20個が限界かなぁ(苦笑)」
近年は海外でも販売されているほど人気の志賀さんの木の独楽。
おもむろに乾燥させていたカバの角材を取り出し、
志賀さんは、実際につくるところをみせてくれた。
角材がはまるよう、先代がオリジナルでつくったというろくろ。
まずは、角材をはめ、ろくろをまわし、別名バイトとも呼ばれる、
平のみや丸バイトをあてながら、コマのかたちに削っていく。
かたちができてきたと思ったら、細かい切り込みを入れていく志賀さん。
「ちょっと、失敗かもな」とつぶやきながらも、
独楽はみるみるうちにできあがっていく。
すると、独楽の軸に「輪っか」ができ上がっていた!
なんて細やかな技術だろう。少しでも力を入れ間違えたら、
削り落としてしまいそうなくらいコマは小さい。
ひとつのコマを削るのは、ものの5分くらいだ。
軸が中心にこないと独楽は回らない。
この小さなサイズのなかで、中心をぶらさずに削っていく。
さらに、北海道ならではの立地を生かし、
志賀さんがつくる独楽はカバ、ナラ、イチイ、エンジュ、埋れ木など、
種類も豊富。木の種類によっても、硬さは異なってくる。
ひとつのデザインだけなら「やる気があれば、すぐにつくれるようになりますよ」
と志賀さんは軽く話すが
「木の種類や特性をつかむまでは、何年もかかりますね」とも話す。
長い時間をかけて木と向き合ってきたからこそなせる技なのだ。
もちろん機械でつくれば効率よくたくさんの量をつくれるが、
それは、先代も志賀さんもそれは選んでこなかった。
「それだと、ノコ跡がついたり、持ったときの感触もちがう。
だから、俺は鉋で削って、ペーパーで磨く。
お客さんはうちのそういったものづくりを求めてるのかなって思う。
それに、おやじから教えてもらったこの技術。
わたしが生きている間だけでもそれを守りたいって思うんです」
と話す志賀さん。旭川で育まれた知恵と技術が
この小さな独楽に込められていることを教えてもらった。
information
木工芸 笹原
住所 北海道旭川市永山10条4-3-2
電話 0166-48-4770
information
別冊コロカルでは、「木工芸 笹原」の独楽を扱っている旭川と東川にあるショップ「Less」を取材しています!→こちらからどうぞ。
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ