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多鹿治夫鋏製作所

ものづくりの現場
vol.018

posted:2013.10.3   from:兵庫県小野市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。

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撮影:嶋本麻利沙(THYMON)

四代にわたり続く丁寧な鋏づくり。

兵庫県小野市。神戸から車で約1時間ほどのところにある
住宅街の一角に「多鹿治夫鋏製作所」はある。
昭和13年から続くこの鋏製作所では、
現在は三代目の多鹿竹夫さんと四代目の大輔さんが、
手づくりで一丁一丁、丁寧に鋏づくりをしている。
もともと問屋だった竹夫さんの祖父にあたる初代が製造もするようになり、
竹夫さんの父の二代目が職人として働いていた。
竹夫さんが三代目を継ぎ、大輔さんも働くようになって2年半ほどで、
二代目は亡くなってしまった。
現在は、国内だけでなく、海外からの注文もふたりでこなしている。

とにかく、鋏づくりは工程が複雑で手数が多い。
昔は分業制だったそうだが、現在では外に出せる業者も少ないので、
もととなる材料を仕入れる以外は、ひと通りの作業をすべて多鹿さんの工場で行っている。
そのため工場には大きな機械やいくつもの道具が所狭しと並び、
さまざまな種類の鋏の型が置いてある。

鋏の鋼は、炭素量が多いほど焼き入れをしたときに硬度が高くなる。
よくコンビニやスーパーでも売っている、プラスティックの柄がついているような
安価な鋏は、刃がステンレス材のローカーボンだが、
多鹿治夫鋏製作所では、ハイカーボンの良質な素材を使う。
刃物材と柄の部分を溶接したあと、
炉の火で刃物の部分を熱くし成型する「鍛造」と呼ばれる作業を経て、
さらに鋼を強くする焼き入れ、焼き戻しと続く。
ここまでが材料となる部分をつくる工程で、
これらが終わった「中間在庫」が大量に保管されており、
そのあと磨きや研ぎなどの作業が続いていく。
後半の、主に仕上げにあたる部分は、父の竹夫さんが担当している。

刃物材をよく見ると、鋼と地金に分かれている。3分の1ほどの黒い部分が刃になる鋼の部分。

刃物材と柄の鋳物の部分を溶接する。

轟々と火が燃えさかる炉。約900度の温度で鉄を熱する。

まだ熱い鉄を成形。一発勝負の緊張が張りつめる作業。

鍛造は主に大輔さんの仕事。かなり熟練してきた。

多鹿治夫鋏製作所では、一般的に売っている鋏ではなく、
専門職に就く人が使う裁ち鋏をつくっている。
それらは少しずつ形が異なるため、得意先の数だけたくさんの型がある。
裁ち鋏のほかにも、各地からさまざまな用途の鋏の注文がくる。
たとえば、肉まんや饅頭などをふかす際に底に敷いたり、おにぎりを包むときに使う、
紙のように薄い木材、経木(きょうぎ)を切るための鋏をつくってほしい、という注文。
幅のある経木を何回かで切るのではなく、一度に切れるように
できるだけ長い鋏にしてほしいという依頼で、
日頃つくっていない長さにもかかわらず、挑戦したそうだ。
焼き入れで失敗することもあるそうだが
「難しい注文がくると、やってやろう、という気になります。
なんでも懲りずにチャレンジしますよ」と竹夫さん。

四代にわたり鋏をつくってきたが、ただ漠然と現在に至ったわけではない。
当然のことながら、そこにはものづくりの世界で残っていくための努力がある。
分業にしてほかの業者に頼っていては、いつ続けられなくなるかわからない。
そのため工程に必要な大型の機械を工場に入れた。
磨きに必要な機械は、新潟の洋食器製造に使う機械を改良したものもある。
どの機械が欠けても鋏づくりはできないが、
竹夫さんは大輔さんの代も続けていけるよう環境を整えた。
それは、同業者が減っていくなか、「継いでほしい」とは言葉に出さないものの、
父から息子への決意表明のようなものだった。

竹夫さんは大輔さんが大学に進学するときに、
家業も「選択肢のひとつに入れてほしい」とだけ告げたが、
大輔さんの気持ちは決まっていたようだ。
「代々やってきたことを継がない人もいると思いますが、
こういう環境にいられるのも、誰もが選べるわけじゃないですし。
自分のやり方で、できることはあるんじゃないかと思っていました」と大輔さん。

中間在庫と呼ばれる、仕上げ前のものが大量に保管されている。

さまざまな注文に対応してきた。その数だけ型がある。

研ぎにも熟練の技がいる。「ひずみ」と呼ばれるひねりが入っていることにより、よく切れ長く使える鋏になる。

刃と刃がどのようにすれ合って、切れていくかを説明する竹夫さん。

幅広く、より多くの人に使ってもらうために。

裁ち鋏を中心に製造してきたが、不況で縫製工場が海外に移転してしまったり、
これまでの得意先や注文だけでは、先細りしてしまう。
もっと広く一般の人にも使ってもらえるように、と
立ち上げたオリジナルブランドが「TAjiKA」だ。
あるとき大輔さんが、見た目はいいが切れにくい鋏を見つけて、
見た目もよく切れ味もいい鋏をつくれないかと思い立った。

ヨーロッパのアンティークの鋏を連想させる優美なデザインの「iron」は、
味を出すために金槌や古い型を使って仕上げていく。
銅メッキを施して味わい深い雰囲気を出した「copper」は、
竹夫さんがふとしたことから考えついた。
どちらも、ものすごく切れるようには見えないが、実際に切ってみると、
突っかかることなくスッとよく切れて、その切れ味に驚く。
美しいデザインの裏に、長年培ってきた
裁ち鋏の細やかな技術がとり入れられているのだ。
また、東京を中心にガーデニング活動をしている
「VALLICANS」とのコラボレーションから生まれた「garden cripper」は、
バリカンにも似た、ちょっと変わった剪定鋏。
機能性だけでなく、遊び心があって楽しい鋏だ。
どれも、これまで使っていた型を利用しながら、
ひと工夫、ふた工夫加えてつくっている。

TAjiKAの鋏をつくるのは通常の裁ち鋏より手間がかかる。「iron」シリーズの持ち手は古い型を使って鍛造するので、できあがりはひとつひとつ違う。右は「garden cripper」。

「TAjiKAは新しいことがやりたくてやっている、という感じではないです。これからも鋏をつくり続けていくために、いまは必要なこと」と大輔さん。

TAjiKAの鋏をつくり始めてから、使い手との距離が近くなった、と竹夫さん。
「それまでは誰が使っているかわからなかったけど、
いまは使う側の気持ちになって製品づくりをしたいと思うようになりました。
使い手に親切な鋏をつくらなければと」

大輔さんには、鋏づくりとは別の苦労もあった。
竹夫さんは鋏づくりのプロではあっても、ブランドづくりとなると話は別。
最初はなかなか理解が得られない部分もあり、父子でケンカになることも。
大輔さんは結果を出すことで認めてもらうしかないと思い、
さまざまなことに取り組むなかで、少しずつセレクトショップで扱ってもらえたり、
海外でも売れるように。そうした活動を見て、竹夫さんも少しずつ認めているようだ。
「いまでもよくケンカしますけど(笑)、でもまたすぐに話すようになります。
見せ方の部分では、僕がやりたいようにやらせてもらっています。
親子でないとできないですね」と大輔さんは笑う。
いいバランスで仕事が成り立っているようだ。

鍛造の作業をしているときに、竹夫さんが話してくれた。
「鉄は熱いうちに打て、という言葉があるでしょう。
あれは人間のことを言ってるんでしょうね。
人間冷めてしまったらあかんで、というような意味だと思う。
冷めたらかたちにならんですよ」
これからも、熱い親子の挑戦は続いていく。

information


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多鹿治夫鋏製作所

住所 兵庫県小野市上本町131-1
http://www.takeji-hasami.com
http://www.tajikahasami.com

>>多鹿大輔さんとも親交があり、TAjiKAの鋏を取り扱う丹波篠山のショップ「プラグ」を訪ねました。「別冊コロカル」でご覧ください。

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