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ヤマヤ

ものづくりの現場
vol.020

posted:2014.1.8   from:奈良県広陵町  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。

editor's profile

Kanako Tsukahara

塚原加奈子

つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。

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撮影:嶋本麻利沙(THYMON)

廃業寸前から、再スタートしたくつ下づくり。

奈良県の北西部にある、北葛城郡広陵町。
ここは、くつ下の生産量が全国一として知られるまちだ。
歴史をひも解けば、さかのぼること江戸時代。広陵町を含む大和地方では、
木綿がつくられ、綿繰りや木綿織りがさかんに行われた。
明治に入り、中国、インドから綿花が大量に輸入されると国内の綿作は一気に衰退。
大和地方も例外ではなかった。そこで、目をつけたのが「くつ下」づくり。
綿の織り機に代わり、手回しのくつ下の編み機を導入し、
くつ下の産地として発展していった。

加工する前の綿。この綿のなかに種がはいっているため、「綿繰り機」で、種をとり、糸をつむぎ、織り機で木綿となる生地を織る。そんな分業制が広陵町一帯に土壌としてあった。

ヤマヤには、くつ下の歴史を綴る書籍が多数。くつ下編み機が導入される以前の江戸時代は、手編み。ちなみに、当時編み物は武士の内職だったのだそう。

「雨があまり降らず、川の水量も少ない
この辺りは稲作だけでは食べていかれない地域だったんですね。
米をつくりながら綿もつくる家々は多かったそうです。そして、明治の末に
くつ下製造に代わり、広陵町周辺に広まっていったようです」

そう広陵町の歴史を話してくれたのは野村佳照さん。
彼が社長を務める「ヤマヤ」も大正10年創業の歴史あるくつ下製造の会社だ。
現在は「ORGANIC GARDEN」に立ち上げから携わるなど、
オーガニックコットンのくつ下製造に力を入れている。
また、自社ブランド「Hoffmann(ホフマン)」のほか、
国内ブランドのくつ下製造も精力的に手がけている。

奥のふたつは、ORGANIC GARDENの「ガラボウソックス」。太くふぞろいの糸から編まれた独特の風合いが人気。ガラ紡績機という日本独自の紡績機で作られる糸を使っているのが商品名由来。ガラ紡績機は明治に発明されたもので、いまでは、ほんの数台しか稼働していない。

実はヤマヤは、過去に、休業においこまれたことがあった。
野村さんが大学を卒業した昭和50年代初頭、輸入のくつ下が増え始め、
最盛期、奈良県内に900社以上もあったという工場や会社は減少傾向へ。
「ピークを過ぎたくつ下の製造は“やめたほうがいい”と随分反対されました。
でも僕が幼い頃、遊び場は工場。職人さんにもたくさん遊んでもらいました。
やっぱりそういう経験があったしね、立て直したかったですね」

そして、休業から3年後。他業種での仕事経験を経て、
野村さんは先代である父と共に再スタートさせた。
スタッフは、先代と野村さんの他に2名。
まずは、埃をかぶってしまっていた編み機を1台ずつ分解掃除し、調整しながら組み立てた。
やっとの思いで商品を仕上げるも、再スタート早々に不渡りにあってしまう。
「初めて売上げた代金の手形が不渡りになり、商売の厳しさを味わいました」

ヤマヤの展示室には、古い時代のくつ下編み機の復元機が。手で回して、シリンダーが回転。160本の針が上下に動いて、筒状に編まれていく。

バブル経済の崩壊が始まってから、くつ下産業の衰退は加速。
それでも、野村さんは諦めなかった。
当時ではめずらしいオーガニックコットンのくつ下をつくり始めたのだ。
まだまだ、オーガニックコットンの流通自体が不安定。
実際編み機にかけてみてもすぐに切れてしまうことも多かった。
野村さんは、スタッフとともに技術や経験値を生かして、かたちにしていった。
再スタートしたときには5台だった編み機も、現在は60台に増えたという。

「再スタートしたときに機械を分解した経験はかなり勉強になりましたね。
編み機の原理がわかったことが、後々役に立っています。
くつ下は毎日はくもの。国内の消費量は大きくは変わらない。
問題は、どこで生産されるかということ。
国産のくつ下を広げるためには自立した企業にならなければ」
そう考えた野村さんは自社ブランドHoffmannを立ち上げ、販路を開拓。
同じ時期に異業種グループ、協同組合エヌエスを設立し、
ORGANIC GARDENを展開。現在は、東京の恵比寿に営業オフィスを持ち、
奈良市の奈良町に直営店糸季を構えている。

ヤマヤの社屋内には、数種類の編み機が並んでいる。

くつ下が編まれているところ。ひとつひとつ筒状に編まれ、巻き取り装置の中に編みさがってゆく。

はき心地の決め手は、糸と編み機のマッチング

くつ下は、素材や色など試作して仕様が決まると、
デザインによって機械を選定し、針の動きを調整して編んでいく。
筒状に編まれると、つま先部分を、専用のミシンで縫い閉じる。
その後、ひとつひとつ編まれたものにキズがないか確認。
そして、かたちを整えるために、型板にはめ圧力蒸気をかける。
最後に検品、パッケージ加工を経てようやく完成する。
広陵町のくつ下は、いくつもの人の手を経て、つくられていくのだ。
だからこそ、丈夫で良質なくつ下ができあがる。

編み機は数種類あり、デザインによって調整していく。
例えば、ドレスソックスのようにキメ細かく編まれるハイゲージタイプは
針が200本以上に対し、ローゲージであれば、針の太さは100本以下。
また、「Xマシーン」と呼ばれる機械では、本格的なアーガイルを編んだり、
立体的な模様をつくりながら編み立てていく。
工場内におかれている機械や糸の種類を眺めると、その奥深さに驚く。

左がXマシーンで編んだアーガイルのくつ下。右は、アーガイル模様のくつ下で、後者は模様をつくるために柄糸をサーキュラーカッターで切るのに対し、前者は柄のつなぎ目を重ね合わせるように編み込んでいく。

「デザインや素材ごとに、針を調整します。
よりよい履き心地をつくり出すために、良質な素材であることは当然ですが、
それを最大限に生かす編み機の選定、編み地の調整が重要。
熟練の職人がいないとできないものも、多くありますよ。
特に凹凸感の出るダブルシリンダーのくつ下編み機は調整が難しいですね」
と野村さん。微妙な糸と編み機の適正をいかに見極められるかなのだという。

今はほとんど見ることができなくなった戦後広く普及していた靴下編み機。「この古い機械でしか作れないものがあるのです」と野村さん。

そんなオーガニックコットンのくつ下のパイオニアとも言える野村さんに、
一緒にものづくりをしたいと声をかけた集団があった。
関西の企業と新しいものづくりを提案する、
made in west」というプロジェクトを展開するオプスデザインだ。
made in west は、関西の企業が培ってきたものづくりの技術を生かし、
新しいデザインを提案していこうというもの。担当の神崎恵美子さんは、
ビビッドなカラー展開のオーガニックコットンのくつ下を提案。
「本来、オーガニックコットンは化学染料で染めたとしても、
履き心地や性能はあまり変わらないんです」(野村さん)
ビビッドなカラー展開を含め、これまでに3シリーズを商品化。
なかでも冬に人気なのが、「ヤク」という、
アジアの高山部で生息する、牛の毛を使ったものだそう。
綿に20%ヤクを混ぜると、薄くて温かいくつ下ができあがる。
「履き心地も気持ちよくて、あったかいから、私も愛用しています」
と、神崎さんも太鼓判の商品。

「made in westは、職人を主役にしてくれる。その姿勢にとても共感しました。
現在、国内のくつ下の生産量はピーク時の4分の1に、
広陵町でも、50社ほどになってしまいましたが、
分業でつくられるくつ下の技術は、この地域に支えられて育ってきました。
ものづくりは一度途絶えてしまうと、再生するまでとても大変なんですよ」
と、自身がゼロからスタートしたからこそ、
野村さんは、技術を伝えることの重要さを知っている。
「だから、広陵町の産業としてのくつ下をなんとか伝え、
残していきたいと思っています。ものづくりは面白いんですよね」

中央が野村さん。両脇にいるおふたりが、ヤマヤの再スタートを支えてくれた立役者。技術者として機械さばきの鋭さは右に出る者はいないと野村さんが褒める駒井秀臣さん(左)と、みなをまとめる製造部長の小林成光さん(右)。

information

ヤマヤ株式会社

住所 奈良県北葛城郡広陵町疋相97-1
電話 0745-55-1326
http://www.yamaya-e.com/
※直営ショップ・糸季
住所 奈良県奈良市高御門町18
電話 0742-77-0722
営業時間 10:00〜18:00(冬期は10:00〜17:30)
https://siki-naramachi.com/

東京オフィス


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住所 東京都渋谷区恵比寿南2-8-5岩崎ビル202
電話 03-3713-3705
http://www.hoffmann-ism.com/

別冊コロカルでは、「made in west」のアンテナショップとしても機能する大阪のショップ「prideli graphic lab.」を訪ねました。made in westが手がけている関西のプロダクトも紹介しています。⇒こちらからどうぞ。

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