連載
posted:2016.11.8 from:愛知県名古屋市ほか genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
writer profile
Daisuke Yamashiro
山城大督
やましろ・だいすけ●1983年大阪生まれ。美術家。映像ディレクター。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ展開し、その場でしか体験できない「時間」を作品として展開。2007年よりアーティスト・コレクティブ「Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)」を結成し、他者を介入させ出来事そのものを作品とするプロジェクトを各地で展開。
3年に1度開催され、先日閉幕した国際芸術祭〈あいちトリエンナーレ2016〉。
3度目となる今回は、名古屋市、岡崎市、豊橋市で開催されました。
参加アーティストや広報チームが、その作品や地域の魅力を紹介していくリレー連載です。
コロカル読者の皆様〜、はじめまして!
やっと連載リレーのバトンが、ぼくに回ってきました。
光栄です! うれしいです!(無駄にハイテンション)
映像メディアを使った美術作品制作、文化芸術関連における映像制作を
稼業として活動しています、アーティストの山城大督です。
アーティスト・コレクティブ〈Nadegata Instant Party〉
(中崎透+山城大督+野田智子、以下NIP)のメンバーでもあります。
大阪生まれの33歳。これまでに住んだことのある土地は
大阪、岐阜、山口、東京。滞在制作での短期滞在(1か月〜3か月)だと、
広島、青森、水戸、袋井、六甲、新潟、小倉、札幌、三宅島、大分、豊島など!
いまは愛知県名古屋市に妻(野田智子、NIPメンバー)と息子(3歳)と
3人で愉快に住んでいます(今月には第二子の娘も誕生予定〜)。
名古屋在住歴は3年。そう、僕たち家族はNIPが作家として参加した
〈あいちトリエンナーレ 2013〉をキッカケに名古屋に引っ越してきました。
息子が生まれるタイミングと、震災後のテンションが相まって、
「ま、東京じゃなくてよくね?」と、
妻の実家の岐阜にも近い名古屋を選んでみたのでした。
友人である美術家の下道基行くんや、青田真也くん、
アートコーディネーターの吉田有里ちゃんが、名古屋にいたことも後押しになりました。
息子が生まれ、あいちトリエンナーレ 2013が閉幕し、
必死のパッチで邁進してると気がつけば3年が経っていました(笑)。
なんとなく自由で、外の空気をトロッと受け入れてくれる
居心地のいい名古屋の雰囲気が気に入り、いまとなっては
「味噌煮込みうどん」にも慣れました。むしろ! 好きです。
定期的に食べないとダメな感じにさえなりました(八丁味噌は中毒性がある)。
前置きが長くなりましたが、そんなぼくの視点で、第3回目を迎え、
10月23日に閉幕した国際芸術祭〈あいちトリエンナーレ 2016〉を
レポートしたいと思います。それでは、どうぞ、よろしくお願いします〜!
あいちトリエンナーレ 2016、ぼくは少し特殊なかたちで関わってきました。
前回のトリエンナーレでは出品作家として「通常」の参加をしましたが、
今回はいくつかの「特殊」な立場として参加しました。
具体的に申しますと、まずは映像ディレクターとして
『あいちトリエンナーレ 2016 コンセプト・ムービー』の制作に関わりました。
これは、港千尋さん(あいちトリエンナーレ 2016芸術監督)と
永原康史さん(あいちトリエンナーレ 2016公式デザイナー)、
拝戸雅彦さん(あいちトリエンナーレ 2016チーフ・キューレーター)からの発案で、
芸術祭のテーマとして掲げられた「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」を
映像化できないかという相談でした。
開幕する2年前(2014年11月)で、まだ参加作家も
キュレーターも決まっていない超初期段階でした。
港さんによる「これからつくりあげる芸術祭」への
イメージ&コンセプトテキストが提示されていたタイミングで、
まだ具体的には存在しない「イメージ」を「映像」に変換して伝えるという要望は、
ぼくにとっても困難なリクエストでした。
実は、「キャラヴァンサライ」という言葉も
意味も知らないような状態からのスタートだったこともあり、
港さん、永原さん、拝戸さんとの度重なる対話からスタートしました。
そのなかで現れてきたキーワード、「人間」「創造」「旅」「家」「群衆」「個」
「集合」「視点」「土地」「伝統」「自然」「産業」「テクノロジー」をもとに、
愛知県の隅々、はたまた、トルコ・イスタンブールへとカメラとともに旅し、
リサーチし、映像を撮影し、構成することになったのでした。
このプロセスのなかで、「虹のキャラヴァンサライ」のイメージは
強く体に染み込んでいったように思います。
いま思うとイメージを「映像化」する行為から入っていったことは、
港さんらしい選択だったんだなと感じています。
「虹」のように、誰もが見えるんだけど手にとって掴むことはできない。
人々の営みのなかで生まれ積み重ねた「創造」をめぐる旅。
その途中に立ち寄る、祭でもあり仮設の家でもある「キャラヴァンサライ」。
手前味噌なんだけど、これをうまく「映像化」することに成功しました。
ぜひ、見てください。VTRスタート!
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また、もうひとつの関わり方として、芸術祭開幕前から開催中にかけて、
「プロモーション・ビデオ」の映像ディレクターとして参加しました。
これは、あいちトリエンナーレ実行委員会事務局広報の方との
二人三脚のプロジェクトで、芸術祭におけるSNS時代の映像広報の役割を
実践した感じです。ぼくたちがやったことは、主には以下です。
1.開催までの作家のリサーチや制作、キュレーターのプロセスの様子を
インタビューを交えて映像レポートする。
2.開幕中のPRとして積極的に企画者の声を伝え、現場の雰囲気を映像で伝える。
最終的には、合計20本の映像が公開され、Facebook、Twitter、YouTubeでの
広報用映像コンテンツの活用として機能しました。
一番の再生回数を記録した映像は芸術祭開幕のタイミングに公開した
「制作プロセス・タイムラプス映像」(Facebookで251件のシェア、2.7万回の再生)。
これには、やはり作品制作の裏側やプロセスへの関心の高さを感じることができました。
こちらも、どうぞ!
また、すべての現場に、ぼくがいることは困難だと考え、
広報担当者にも映像での記録を行ってもらい、
SNSへのアップロードをお願いしました。
実は、今回の「プロモーション・ビデオ」プロジェクトで、
ぼくにとっても一番の発見であったのは、このプロセスでした。
担当者が撮影する映像は、まさに「現場で起こってる鮮度の高い」映像だったのです。
つまり、僕たち映像専門家には追いつけないような、
常に現場の前線にいる人だからこそ捉えることのできる「まなざし」が
共有されていくことの重要性を知る一例になりました。
まさに、芸術祭における映像の役割を感じた瞬間でした。
ちなみに、編集作業を通さずに「カメラ内編集」ができるように、
担当者には以下のアプリを使ってもらいました。
全国の動画コンテンツ発信をご検討中の広報担当者の皆さま! ぜひご利用ください!
そうそう、こんな広がりもあります。
3回目の開催となるあいちトリエンナーレでは、2010年の開催から、
これまでたくさんのコミュニティが誕生していて、その活動が継続されています。
これは都市型の芸術祭ならではの現象ではないかと、
ぼくは考えています(居住地域が近く、移動手段も便利だから集まりやすい)。
「アート」での出会いをひとつのきっかけとして、コミュニティが生まれ、
名古屋人ならではの「一度仲良くなればつながり続けるトロッとした縁」が続き、
この流れは、あいちトリエンナーレ 2016のバックアップ機能にもなっていきました。
その一例を挙げると、2010年に制作したアーティスト
〈KOSUGE 1-16〉の「長者町山車プロジェクト」は、
いまも毎年開催される「長者町ゑびす祭り」にてバージョンアップがされ続け、
今年も作家を交えて、まちの若手が曳き手となり、山車の練り歩き活動が行われました。
NIPの作品『STUDIO TUBE』でのボランティアスタッフを中心としたコミュニティ
〈ムービーの輪〉は、年に数度のイベントを企画するなど、活発に活動が続いています。
そのほか、〈Arts Audience Tables ロプロプ〉〈名古屋スリバチ学会〉など、
多くのグループが誕生しました(2016でも誕生の予感!)。
これらは、あくまで事務局管理のもとで継続されているのではなく、
ボランティアメンバーによる自主的な活動として続いていることも特徴と言えます。
また、今後も大きく名古屋のアートシーンを盛り上げていく団体として
〈Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]〉が挙げられます。
名古屋市の港区のエリアを中心に、〈港まちづくり協議会〉をベースに
実施されているアートプログラムで、あいちトリエンナーレ 2016期間中に
開催されていた企画展『アッセンブリッジ・ナゴヤ』
(アート部門ディレクター:服部浩之、プログラムディレクター:吉田有里、
青田真也、野田智子)は県内外の来場者からも評価が高く、
その活動はあいちトリエンナーレから拡張する輪のひとつと言えます。
あいちトリエンナーレという芸術祭におけるコミュニティについては、
吉田隆之著『トリエンナーレはなにをめざすのか 都市型芸術祭の意義と展望』
に詳しいので、こちらもお手にとってはいかがでしょう。
そして、3回目の開催を終えたこれからの動向に、ぜひご注目ください!
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今回のトリエンナーレ。ぼくのまわりで何度も話題になったのは、
港千尋芸術監督が、さまざまな企画に足を運んでいることでした(笑)。
そう、港さんは、本当に現場が好きな人だったのです。
「え〜! 芸術監督! この企画にまで、顔出す!の?」と言いたくなるくらい、
とにかく至る場所に港さんが出現しました。
もしかしたら、あいちトリエンナーレ 2016を一番堪能したのは、
港さんかもしれません(いや、マジで)。
この監督のバイタリティーには、誰もが驚いたと思います。
せっかくなので、ぼくが撮りためた「港千尋アルバム」をお楽しみください。
港さんは軽やかだ。「うん!うん!そうそう!」とよく相槌を打つ。
というか、話を聞くのがうま過ぎます。
時には少年のように無邪気なこともあれば、
10代の女子なのか? と思うくらいチャーミングな場面もある。
かと思えば、父のような寛容さを見せることも。
港流の芸術監督という仕事を簡潔に紹介するとすれば、
大きな意味で「光を射し示す」役割なのだと、
プロセスを体験するなかで、ぼくは感じた。
新しい地平を歩こうとする「キャラヴァン」がどこの方向に進めばいいのかを、
独特の軽やかさで「Direction(=光を射し向かうべき方向を示す)」する、
「前衛のキャラヴァン」。それが港芸術監督だった。
港さん、いっそもう、名古屋に住んでください!(笑)
(実際、港さんは芸術祭会期中、長者町にアパートを借りて住んでいた)
味噌煮込みうどんつくりますよ!
さて、今日は10月30日。あいちトリエンナーレ 2016が閉幕して1週間が経った。
なんとなく寂しい気持ちもあるけども、なぜだか爽快な気持ち。
ひとつの旅を終え、新しい旅へと出かける準備の時間という感じ。
2013年から関わり始めたあいちト リエンナーレは
さまざまな物語を内包して2016年まで進んできた。
関わった人それぞれのドラマがあり、そういう積み重ねが
ひとつの土地の中に起こっていることを実感したあいちトリエンナーレ 2016でした。
つらつらと書き記してきましたが、山城大督が見た
あいちトリエンナーレ 2016レポートはこの辺で。
みなさま〜、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、また。3年後の2019年に、あいちで会いましょう! ではでは〜!
information
あいちトリエンナーレ2016
会期:2016年8月11日(木・祝)~10月23日(日)
主な会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(長者町会場、栄会場、名古屋駅会場)
豊橋市内のまちなか(PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場)
岡崎市内のまちなか(東岡崎駅会場、康生会場、六供会場)
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