連載
posted:2014.4.7 from:千葉県市原市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
writer's profile
Harumi Horikiri
堀切春水
ほりきり・はるみ●福岡県生まれ。北海道大学文学部卒業、早稲田大学大学院文学研究科修士課程美術史学専攻修了。オディロン・ルドンを中心とした近代フランス美術史を専門とする。美術館、画廊などでの修業を経て、「あいちトリエンナーレ2013」ではアシスタント・ディレクターとして編集業務に携わる。同芸術祭にNadegata Instant Partyとして参加していた中崎透との縁で今回のプロジェクトを手伝っている。HOMEROOM副担任のうちのひとり。広報担当。
中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」のメイン会場のひとつ、
旧里見小学校を改装したIAAES(Ichihara Art/Athlete Etc. School)。
ここでアーティスト中崎透さんが、さまざまな講師たちを招き
「NAKAZAKI Tohru HOMEROOM」を開催。
そのようすや芸術祭の風景を、中崎さんと仲間たちが5回にわたりレポートします。
はじめまして。「NAKAZAKI Tohru HOMEROOM」スタッフの堀切です。
NAKAZAKI Tohru HOMEROOMとは、アーティスト中崎透が
千葉県市原市で開催中の中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」の会場のひとつ、
IAAES(Ichihara Art/Athlete Etc. School)/旧里見小学校で繰り広げる
ホームルームです。
中崎透を担任に見立て、廃校となった小学校を舞台に
さまざまな講師を招いて授業を行う、というプロジェクト。
しかも、授業を担当するのは、山城大督、テニスコーツ&YOK.、
下道基行、遠藤知絵×木下真理子、アサノコウタ、環ROY×蓮沼執太×U-zhaan、
藤井光、珍しいキノコ舞踊団、辺口芳典、友枝望、松本美枝子といった
錚々たるアーティストたち!
東京駅から1時間ちょっととはいえ、こんな里山でこんな豪華な授業が行われるなんて。
スタッフでよかった。
そんなHOMEROOMの初回は、3月21、23日に行われた
山城大督ワークショップ「映像芸術実験室~時間を操ろう!~」でした。
山城さんは、美術家、研究者、映像ディレクターとして
マルチに活躍されているアーティスト。
アーティストユニット「Nadegata Instant Party」では中崎とも活動しています。
今回のワークショップは、「スローモーション編」と「クロマキー編」と題して、
スローモーション映像をつくるワークショップと、
合成映像をつくるワークショップを開催しました。
参加者と一緒にネタ出し、撮影、リアルタイム編集、成果発表試写会までを行う、
3時間みっちりのワークショップ。
山城さんは、さすが山口芸術情報センター[YCAM]で
3年間エデュケーターとして勤めていただけあって、レクチャーもわかりやすく、
ネタ出しで困っている人には声をかけて提案したりしながら、
ぐいぐい参加者の心を掴んでいきます。
2日間のワークショップ初日の参加者は、市原在住の5人家族と、
東京からやってきた若いご夫婦+そのお友だちfrom市原。
ふたりひと組に分かれ、それぞれのペアが考えたネタを順次撮影していきます。
ここでいちばんのアイデアマンだったのが、自己紹介で
「僕はアートに興味はないんですが。どっちかっていうと、興味があるのは車とかです」
と発言をしていた5人家族のパパ。
なのに、次々とアイデアを出して実践していくパパ。
しかも娘たちを実験台にどんどん映像を生み出していく。時に自分も実験台に。
しかも面白い。しまいには、三人姉妹をプロデュースしはじめた。
この方は一体何者なのだろうと畏怖の念を抱かずにはいられませんでした。
最後は、いろんなパターンを参加者全員で撮影。
これが、結果としてワークショップを代表するすばらしい映像となったのでした。
2日目の「クロマキー編」は、参加者2名。
東京からきた若いご夫婦でした。
スタッフのほうが人数が多いという通常なら緊張のシチュエーションながら、
笑いの絶えないムードメーカーの奥様と、決めるとこ決める男前な旦那様の名コンビが、
とてつもない名作を生み出すことに。
合成映像を撮るために、人間と背景を別々に撮影します。
人間を撮る際は、グリーンの垂れ幕でグリーンバックをつくります。
本物の教師である旦那様に教師役をお願いし、残りメンバーは学生役に。
おらおらといちゃもんつける不良学生に、正義の教師が立ち向かうというストーリー。
ハサミを先生に向かって投げつけられるのも、飛んできたハサミを寸止めできるのも
合成映像ならでは。
背景に入れる画像は、IAAES(旧里見小学校)。
別撮りして、編集の際に合成します。
そんなこんなで完成した、スローモーション編、
学校編(クロマキー編)の成果はこちら。
スローモーション編は「おしゃれ!」、「アートっぽい!」と評判だったのですが、
クロマキー編はそもそものテーマである合成映像だということに気づかれず……。
ラスト、ハサミがくるくると落ちる様子は、大林宣彦作品を想起させます。
あの名作『HOUSE ハウス』も合成の賜物。
そんなことに気づかされ、深く感動した2日目でした。
山城ワークショップでは、最後に参加者同士が連絡先を交換するなど、
同じ目的を持って集まった者同士が3時間の授業のあとに
さらに別れ難いほどの結束感を抱く、濃密な時間となりました。
続くHOMEROOM vol.2は3月30日のテニスコーツ&YOK.野外ライブ「School PICNIC」。
「プロジェクトFUKUSHIMA!」のアートディレクションでもおなじみの中崎透、
今回もライブ用にお花見をイメージした垂れ幕を作成。
しかし、春の嵐で大雨になり、急遽、学校1階の大ワークショップ教室に会場変更。
客足は少ない。幾ばくかの緊張とともに、ライブが始まった。
YOK.が優しく優しく包み込んだ空間を、テニスコーツが無下に壊す。
会場に並べていた椅子もインスタレーションの一部も、
壁となるものすべてをとっぱらう。
淡々とギターで刻み続ける植野隆司さん、
何者にもとらわれずに自分の空間を再構築していくさやさん。
私たちはやってくれたとばかりに笑いながら見ていたけれど、
実は同時に激しい緊迫感もあり、まさにいまここでしか生まれない空気をつくりだし、
流れを変えたテニスコーツに誰もが心動かされた瞬間でもあったのでした。
何かを壊すためには、前提があることが必然で、
その前提を丁寧に築き上げたYOK.の歌があっての破壊と再構築でした。
最後は、ダニエルも迎えて、テニスコーツとYOK.のセッション。
会場に居合わせた人は皆、満たされて帰っていった。
NAKAZAKI Tohru HOMEROOMでは、ワークショップ、ライブだけでなく、
After Schoolプログラムと題して、レジデンスも実施しています。
会期中、前後期の二期に分け、IAAES2階の展示室で展示を行っています。
前半は友枝望。里見小学校に残された勉強道具を集め、
並べ直して水平に吊り下げています。その数なんとおよそ250点。
レジデンス後期は写真家の松本美枝子。
そして、vol.3、vol.4のHOMEROOMは4月4〜6日の
下道基行ワークショップ「撃つか撃たれるか/Dead or alive」に、
遠藤知絵×木下真理子のトーク「当てはまらないところで、自分らしく生きてみる」。
毎回表情を変えるHOMEROOM。
思いも寄らない化学反応が起きてしまうHOMEROOM。
どうぞ引き続きお見逃しなく。
information
IAAESプログラム
NAKAZAKI Tohru HOMEROOM
会場:IAAES 旧里見小学校(千葉県市原市徳氏541-1)
中房総国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」のメイン会場のひとつ、旧里見小学校を改装したIAAES(Ichihara Art/Athlete Etc. School)では、展覧会やカフェなどさまざまな企画を通して地域に開かれた新しい学校のカタチを目指しています。今回、IAAESではアーティスト中崎透がホームルームを担当。9組の講師陣を招いてのワークショップ、トーク、ライブイベントの開催に加え、「HOMEROOM/ After Schoolプログラム」と題して、2組のアーティストのレジデンスプログラムを実施します。
http://homeroom18.exblog.jp/
https://www.facebook.com/homeroom.nakazaki
information
ICHIHARA ART × MIX
中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス
2014年3月21日(金)~5月11日(日)
メイン会場:千葉県市原市南部地域(小湊鐵道上総牛久駅から養老渓谷駅の間)
連携会場:中房総エリア(茂原市、いすみ市、勝浦市、長柄町、長南町、一宮町、睦沢町、大多喜町、御宿町)
http://ichihara-artmix.jp
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