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金沢21世紀美術館「島袋道浩:能登」

ローカルアートレポート
vol.048

posted:2013.11.15  from:石川県金沢市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。

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撮影:島袋道浩(メイン画像)
写真提供:金沢21世紀美術館

能登で出会った人、見つけたもの。

金沢21世紀美術館で開催中の「島袋道浩:能登」。
若者たちがアーティストとの共同制作を通じ、
社会参加や文化活動をしていくことを目的に同美術館が行っている
「金沢若者夢チャレンジ・アートプログラム」の第7弾で、
今年4月27日から来年3月2日までの約1年間の長期プログラム。
18歳から39歳までの男女を募集し、今回は25名がメンバーとして参加。
島袋(しまぶく)道浩さんとメンバーたちのこれまでの活動を集約した後期展示が、
9月28日から行われている。

島袋さんは、世界中を旅しながら、そこで出会った人やものをきっかけにして
作品を制作してきたアーティスト。
その島袋さんが今回のプログラムを主導するにあたり選んだテーマは「能登」。
以前から能登に関心があったという島袋さんの興味の入り口は「くちこ」だったという。
くちことはなまこの卵巣を干した珍味で、能登の特産品。
「こんな変わったものをつくる人がいる能登という場所は、きっと面白いだろうと思った」
という島袋さんの予想は、まさに的中したということが、展示から伝わってくる。

くちこは滑りやすく、翌日、全部下に落ちてしまっていることもあるそう。くちこ職人の森川仁久郎さんいわく「くちこづくりは地球との戦いだ」(撮影:島袋道浩)

島袋さんは昨年11月から何度か能登をリサーチで訪れ、
4月からはメンバーも一緒に能登でさまざまなことを見聞きし、体験してきた。
そのひとつが「間垣(まがき)」の制作。
間垣とは、日本海から吹きつける強風と塩害から家を守るため、
竹をびっしりと並べた垣根。
能登の冬の風物詩で、間垣が家の壁に沿って長く続いている光景は壮観。
実際には寒くなる11月頃からつくられるそうだが、
メンバーたちは4月に輪島市の大沢と上大沢に間垣を見学に行き、
毎年間垣をつくっている「田中屋旅館」の方の協力を得て、
この間垣を美術館の中に再現。
金沢市内で竹を採取するところから始まり、
つくり方を教わりながら実寸の間垣を展示室に制作した。

現在では、間垣をつくっている家はそう多くはない。
というのも、高齢化して人手が足りず、つくるのが困難になっているのだ。
今回のことがきっかけで、つくり方を覚えたメンバーたちが、
実際の間垣づくりを手伝いに行くことができるかもしれない。
そうすれば能登の人たちも大助かりだろう。

展示室には立派な間垣が。《能登、大沢の田中さんと作った間垣》(撮影:斎城卓)

展示室には、島袋さんが能登に興味を持つきっかけとなったくちこも展示されている。
これをつくったのは、くちこ職人の森川仁久郎さん。
薄い三角形のくちこ1枚をつくるのに、なまこが100匹も必要になることもあるという。
非常に手間と時間がかかるくちこづくりについて、
美術館に森川さんを招いてのトークも行われた。
くちこづくりは決まって2月と3月に行われ、メンバーたちは来年、
森川さんのところでくちこづくりに挑戦する予定だ。

くちこづくりが限られた時期にしかできないのなら、
森川さんはそれ以外はどうしているのだろう。
そんな島袋さんの問いに対する森川さんの答えは「鉄をつくる」。
くちこをつくる人がなぜ鉄をつくるのか、
そもそも鉄という素材そのものをつくるとはどういうことだろう? 
島袋さんは好奇心を抑えられず、森川さんに鉄づくりも教えてもらうことに。

メンバーとともに4回ほど森川さんの作業場を訪れ、鉄づくりに挑戦。
鉄分の含まれた土を集めて蒸し焼きにし、
森川さんいわく「鉄を絞る」という工程を経て鉄をつくっていく。
手間と時間のわりに、できるのはほんのわずかだったり、
失敗してできないこともある。
そもそも、このやり方が正統なのかどうかわからないが、
そんなことは構わないと島袋さんは思っている。
「本に載っていないことを、こういう人に口とからだで教えてもらうことが面白い。
森川さんみたいな人に出会うことが作品みたいなことかなと思っています」

森川さんの自宅作業場を訪れた《鉄をつくる》制作風景。

展示室には実際に森川さんとの鉄づくりに使った道具が並べられ、その工程が紹介されている。《鉄をつくる》(撮影:島袋道浩)

そのほかメンバーは、能登の奇祭を撮り続けている写真家、
渋谷利雄さんに話を聞き「あばれ祭り」などの祭りを見学したり、
豊作を祈る「ゾンベラ祭り」に使われる、稲を模した松の葉の束を制作するなど、
ワークショップやツアーを通して、能登に触れていった。

展示ではこのほかにも、かねてから島袋さんと交流のある
音楽家の小杉武久さんが、能登で身近な道具を使って
音を奏でる様子をとらえた映像も展示されている。
「小杉さんを能登に連れて行きたかった。まだ出会えていないものを出会わせて、
そこでどういう化学反応が起きるのか興味がありました」
という島袋さんによる、絶妙なキュレーションだ。

2月に行われる「ゾンベラ祭り」の様子。田植えを模して豊作を祈願する。(撮影:島袋道浩)

金沢と能登をつなぐ。

今回の展示は料理のようだ、と島袋さん。
「能登の素材を使ってフルコースをつくるような感じ。
目で食べる、お寿司の盛り合わせをつくったと思っています」
その言葉どおり、島袋さんは能登にあるものにほとんど手を加えず、
素材そのものをいかした展示になっている。
ただその料理は、アーティストの視点が隠し味となっている。

「アーティストってツーリストガイドみたいなところがあると思っています。
面白いものやきれいな場所を知っていて、
それが人に見えるように角度を変えてあげたり、
そこに人が行けるように橋を架けてあげる。そういう仕事かなと思うんです」

能登半島を横断するのには1時間もかからないが、
内海と外海では表情が違うのだそう。風景が違うと文化も違う。
能登の豊かな自然と、そこに生きる人たちの暮らしを肌身で感じた。
能登では自分でものをつくるということが根底にある、と島袋さんは話す。
「都会に暮らしていると、なんでも買うことが基本。
それもひとつのライフスタイルだと思うけれど、能登の人たちは、
ないものは自分たちでつくるということが基本にある。それが面白い」

いろいろな出会いから作品が生まれていくという島袋さんのスタイルは、
それが「楽しいから」そうなったという。
「自分がすでにできることをより研ぎすまして見せるというよりは、
自分が行きたいところに行って、新しいことを習ったり、
知らないものを見たい。そしてそれを人と共有したいんです」

金沢と能登ではもともと藩が違うので、同じ石川県でも地域性が異なる。
金沢の人もあまり能登に行かないが、能登の人も金沢にはあまり来ないようだ。
だが今回の後期展示のオープニングには、能登からたくさんの人が駆けつけた。
展示に協力してくれた人、島袋さんが能登で出会って仲良くなった人。
そんな人たちが集まるということが、この展覧会の本質を物語っているようだ。

海の中にプールがつくってあるのを発見。海のプールとはユニーク。(撮影:島袋道浩)

プロジェクトメンバーの高出真妃さんは、
過去にも2度「金沢若者夢チャレンジ・アートプログラム」に参加し、
楽しみながら自分が成長できたと感じて今回もメンバーに。
金沢市在住だが、父親の実家が能登で、
親近感はあるものの、よく知らない土地だったという。
「いままではお盆の時期に行く程度でしたが、
能登でもいろいろなところがあるんだと知って面白いです。
あばれ祭りもまた行ってみたいと思いました」と話す。

夫婦で参加している勝島隆史さん、則子さんは富山市在住。
もともと能登に興味があり、ときどき訪れていた。
島袋さんの作品にも関心があったので、このプログラムを知ったときには
「これは参加するしかない」と思ったそうだ。
「奥能登には人があまりいなくて、けばけばしい商業施設とか嫌なものがないんです。
何もないから、すごくいい風景があったりする」と則子さん。
則子さんは新潟県出身だが、結婚し富山で暮らすようになってからは、
毎年夫婦で能登に泳ぎに行ったりしていたそう。

また会場で展示されている、いまでは珍しい一升瓶の蛸壺は、
勝島さん夫妻がもらってきたもの。
能登には規模の小さいところも含めると漁港が100か所くらいあるが、
ほぼ全部をまわって、いろいろな蛸壺を発見。
その素材はプラスチックや長靴、瓦など、地域というより、
つくる人によってさまざまだという。
そんな蛸壺探索は、プログラムとは別の「自主活動」。
行く先々で面白い人に出会ったり、変なものを見つけたりするのが
楽しくなってしまったそうだ。
「能登では暮らしの根本的な考え方が違うような気がします。
都市生活をしていると、自分で工夫して何かをつくりだすということが
あまりないけれど、能登ではいろいろなものを工夫してつくったりしている。
そういうところにも魅力があるのかなと思います」と隆史さん。

能登は七輪の一大産地。島袋さんとメンバーたちは、
能登を訪れるたび、能登の七輪で能登の魚介を焼き、浜辺などで食べた。
メンバーにとって忘れ難いそんな体験こそが、重要なのだと思えてくる。

今回のプログラムを担当する学芸員の鷲田めるろさんは、
最初は金沢で活動しようと考えていたが、島袋さんからの提案があり、
金沢から少し離れた能登を舞台にするのも面白いと思ったと話す。
「大阪から参加している人もいますが、メンバーはほぼ金沢と富山の人。
能登は行こうと思えばすぐ行ける距離なので、このプロジェクトが終わっても、
これがきっかけとなって、お世話になった人を訪ねたり、
メンバーが継続的に能登と関わりを持つようなことが生まれていくといいなと思います」

今後もプログラムは3月まで続いていく。
終了まで、美術館の内外でいろいろなことが起こりそうだ。

島袋さんとメンバー、見附島にて。

profile

MICHIHIRO SHIMABUKU
島袋道浩

1969年兵庫県神戸市生まれ。ベルリン在住。1990年代より世界中を旅しながら、そこに生きる人々やコミュニケーションに関するパフォーマンス、インスタレーション作品などを制作。国内外で多くのグループ展や国際展に参加している。金沢21世紀美術館では2009年、開館5周年記念展「愛についての100の物語」に出品。

information


map

SHIMABUKU:NOTO
島袋道浩:能登

2013年4月27日~2014年3月2日
会場 金沢21世紀美術館
撮影:島袋道浩
http://www.kanazawa21.jp/

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