連載
posted:2013.11.1 from:山口県山口市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
profile
Miyuki Tanaka
田中みゆき
山口情報芸術センター[YCAM]広報・渉外担当。デザインをバックグラウンドとし、YCAM10周年記念祭では『LIFE by MEDIA』を企画。
credit
Photo: Shinichi Ito(メイン画像)
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
山口情報芸術センター、通称「YCAM(ワイカム)」の
10周年記念祭の第二期が、11月1日より開催。
YCAMスタッフの田中みゆきさんによる現場レポートをお届けします。
坂本龍一さんをアーティスティックディレクターに迎え、
<アート><環境><ライフ>をキーワードに展開してきた10周年記念祭。
館内だけでなくまちなかにも展開し、ツアーパフォーマンスや爆音上映会など
イベントも盛りだくさんだった賑やかな夏の第一期から、
第二期は坂本龍一さんの作品を中心に厳かなムードで開催される。
坂本さんは2年前の冬から定期的に山口を訪れ、10周年のプレイベントとして
地元の小学生とのワークショップやライブイベントなどを行いながら、
作品制作のためのリサーチやディスカッションを重ねてきた。
第二期では、坂本さんがもともと持っていた自然観と
メディアテクノロジーに対する感性に裏打ちされた作品群が、
今回のYCAMとのコラボレーションの集大成として披露される。
坂本さんが第二期で発表する作品は計3点で、ズバリ10周年記念祭のテーマである
<アート><環境><ライフ>の名を冠する大規模な展覧会として構成される。
第一期で既に公開されていた『Forest Symphony』は、
木の生態電位を音楽に変換するプロジェクト。
国内外の木に取り付けられたセンサーから送られたデータが
YCAMのホワイエで一堂に会し、シンフォニーを奏でるという作品だ。
それに加え、2007年にYCAMの滞在制作を経て発表された
『LIFE-fluid, invisible, inaudible…』(以下『LIFE-fii』)を
大幅にアップデートした『LIFE-fii Ver.2』、
そして『LIFE-fii.』を共同制作したパートナーである高谷史郎さんとともに、
水を使った新たな表現に挑む『water state 1』が同時に公開される。
3作品に通底するのは、坂本さんの水への深い関心だ。
『Forest Symphony』をつくるきっかけも、水とは無縁ではない。
坂本さんが40年近く前に読んだ本に、こんなことが書かれていたそうだ。
昔、樹に嘘発見器を取り付けて樹がどういう反応をするか調べた人がいた。
すると、樹のそばでほかの生物が死ぬと樹が反応したり、
ある種、樹にも感情があるかのような反応が見られたという。
その描写が強く印象に残っていた坂本さんは、
その後more treesの活動を通して森や樹についてより深く学ぶようになり、
「樹は直立している水の柱である」という竹村真一さんの言葉で、
それまでの樹の見方が変わった。
そのことが『Forest Symphony』をつくる大きなきっかけになったと語る。
ただ、坂本さんはそのように以前から水に興味を持っていたが、
水そのものを具体的な作品としてどう扱っていいかは考えあぐねていたという。
しかし今回新作を制作するにあたり、高谷さんとの話し合いの中で、
水のさまざまな異なる様態を扱う、シリーズ化したインスタレーションを
つくりたいと思うようになった。
その始まりとなる『water state 1』の制作にあたり
インスピレーションを受けたのは「自然への窓」であり、
日本人の自然観をとても良く表している表現形式でもある「庭」。
さまざまな音や光の変化が詰まった、庭を見て楽しむような
空間をつくりたいという思いから制作を進めてきた。
6年前にYCAMで制作された作品『LIFE-fii』も、
霧をスクリーンに見立てて映像を鑑賞するという
水の要素が含まれた作品形態をとっていた。
20世紀そのものをオペラの台本に見立て構成し制作された舞台公演『LIFE』。
それをインスタレーションとして構築し直し、YCAMでの滞在制作を経て
2007年に公開されたのが『LIFE-fii』だった。
その下でいつかピナ・バウシュに踊ってもらいたいという夢を描いていた坂本さん。
その夢は残念ながら叶わなかったが、今回は野村萬斎さんという、
現代において能・狂言をアートと結びつけ表現するのに最高のパートナーを中心に、
能楽コラボレーション『LIFE-WELL』(WELLは井戸やわき水といった意味)
というかたちで上演することとなった。
公演は二部構成で、第一部は水に関係する3つの演目が上演された。
狂言の「田植」、舞囃子「賀茂」という古典に始まり
坂本さんの即興演奏と囃子方たちのコラボレーションによる素囃子「猩々乱」。
そして第二部には能に影響を受けたアイルランドの詩人・劇作家の
W・B・イェイツによる戯曲「鷹の井戸」と、
それが能に翻訳された「鷹姫」を融合させた、まったく新しい演目を披露した。
『LIFE-fii』の9つの水槽の下で、能の装束をまとった
シテ方の梅若紀彰さんと、洋装の野村萬斎さんが相見えるという、
時空や表現形式を超えた非常に刺激的な試みとなった。
『LIFE-WELL』の世界観はインスタレーションとしても展開され、
市内の野田神社の境内の、坂本さんが惚れ込んだ古池の中で、
霧を発生させる装置と霧の量に反応して音が変わるサウンドシステムが
幻想的な空間を生み出している。
宮司さんが「初詣以来」と喜ぶほどの人出で、地元の市民たちが多く詰めかけている。
<アート><環境><ライフ>について、坂本さんは以下のように語る。
「メディアアートというものがコンピュータや
プロジェクターを使った先進的なものだけでなく、
自然災害やそれに大きな影響を受ける私たちの生活そのものと
どう関係をとり結んで表現をしていけるかというのは、
メディアアートという新しいアートの形式にとって大きなチャレンジでもあり、
大きなステップともなるだろうと感じています」
第一期で市民や来場者を巻き込んでまちを賑わせた
まちなかでのプロジェクトも、引き続き展開している。
メディアを生活の中で捉え直す作品を公募した『LIFE by MEDIA』は
その中心となるプロジェクトだ。
「服の図書館」を運営した西尾美也さんの『PUBROBE』は、
装いを新たに「服の家」を公開制作する。
市民から集めた服飾品を解体し、かつて展示会場に存在した家を
市民と共に再建することで、まちの記憶に新たな装いを与える試みとなる。
また、お金ではなく利用者が得意とすることを取り扱う、
深澤孝史さんの『とくいの銀行 山口』は、
第一期の間に約700個もの“とくい”を集めた。
7つの管轄に分かれた商店街を「ななつぼし商店街」と呼び、
小学生を中心とした「ちびっこ銀行員」やボランティアスタッフが
各店舗を回りながらとくいをコツコツ集め、「ななつぼし商店街MAP」を完成させた。
『とくいの銀行』は第一期が終わってから
第二期が始まるまでの休止期間もボランティアスタッフで運営され、
ちびっこ銀行員の間では「頭取(深澤さん)がいない間、
どうやって銀行を守っていくか」という話し合いまで行われたようだ。
最後に、これまで走った人や動物、自分の過去のデータとかけっこで対戦できる、
犬飼博士さんと安藤僚子さんの『スポーツタイムマシン』。
第一期で7888回体験され、第二期に向けて、コミュニティの中で
データを残していく方法についてみんなで継続的に話し合うイベントを準備中。
会期中に歩けるようになった子どもを連れて親子が走りに来たり、
作品をきっかけに子どもの人見知りが直ったと感謝されたり、
こちらも子どもたちに愛される作品となった。
第二期の準備中にそわそわと中の様子を覗く子どもの姿も見られた。
子どもたちがつくるメディア公園『コロガルパビリオン』も
2回の「こどもあそびばミーティング(子どもたちが集まって
公園の機能について話し合うワークショップ)」を経て、
公園の遊び方にさまざまな広がりを見せている。
先日、横浜黄金町でも再演された、
街を漂うように映画を体験する『5windows 山口特別編』や
『架空の映画音楽の為の映像コンペティション』受賞作品上映も引き続き開催中。
日々、世界の脈打つ生の空気を配信する
宇川直宏さんによるライブストリーミングチャンネルDOMMUNEの
期間限定アーカイブシアター&スタジオ『YCAMDOMMUNE』も、
会期中3回のスタジオ配信を予定している。
<アート><環境><ライフ>のテーマに迫り、
アーティスティックディレクターの坂本さんの思想を色濃く反映した第二期。
会期は27日間だが、坂本さんの3作品は来年3月2日(日)まで公開される予定だ。
メディアテクノロジーを軸に展開してきたYCAMの
次なる10年に向けた新しいアートのかたちを感じに来てほしい。
information
アートと環境の未来・山口
YCAM10周年記念祭
2013年11月1日〜12月1日
会場 山口情報芸術センター[YCAM]、山口市中心商店街ほか
*一部の展示は2014年3月2日まで展示
http://10th.ycam.jp/
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