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土祭だより Vol.2

ローカルアートレポート
vol.016

posted:2012.9.19   from:栃木県芳賀郡益子町  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Rumiko Suzuki

鈴木るみこ

すずき・るみこ●静岡県出身。出版社勤務を経て渡仏後、フリーランスに。女性誌や生活関連書籍の編集&執筆に携わり、2002年には初代編集長と2人で『クウネル』を立ちあげる。10年間編集に携わったあと、つぎにやるべき楽しいことを模索中。編著に『スマイルフード』『パリのすみっこ』等。

credit

撮影(メイン画像):矢野津々美

栃木県益子町。古くから窯業と農業を営んできたこのまちで、
9月の新月から月が満ちるまで、15日をかけて開催される土祭/ヒジサイ。
この土と月の祭りで何が行われるのか。
ひとりの編集者が滞在し、日々の様子を書きおこしていきます。

9月16日 新月 土祭開幕・午前の部

朝9時。益子町の東のはずれ。大羽の里。

ボランティアによる手作りの登り旗が会場をさししめす。準備期間を含め、のべ600人のボランティアの働きが祭りを支えている。

第二回土祭の開幕の儀は、かつてこの地を治めた宇都宮氏が築いた菩提寺、
地蔵院に隣りあう綱神社の境内でとりおこなわれた。

建立1194年の木造本殿は茅葺き屋根に寸尺の板間のささやかさだが、
背負うように森に取り囲まれて、空気がひたすら澄んでいる。

綱神社に奉納品が並ぶ。(撮影:矢野津々美)

まちはずれの雑木山中にひっそり佇み、地元でも知らない人が多いという
この神社を開幕の儀の会場に選んだのは、
おそらくは前回にひきつづいて土祭の総合プロデューサーをつとめる
馬場浩史さん(「スターネット」主宰)に違いない。
「いいでしょ、この場所」
馬場さんと話すと、わたしはいつも一瞬にして遠いところに連れていかれる
(いわば下界から天上足下と縦横無尽に)思いがするのだが、
この朝もそうだった。

ほんの数分の間に話は神社の森の奥につらなる山々のいにしえの歴史となり、
その山の歴史が益子の里の文化に
どう影響を及ぼしてきたかをいっきに明快に語ると、
綱神社があるこの一帯を、馬場さんは
「この地のもっとも古い“極”」と表現した。

「極」とは、そこから先はない最果てであると同時に、
中心、という意味ももつ言葉である。
約千年の昔に、この地を守るため、そして子孫を守るために
先人が築いた祈りの場所。
しかし時の流れのなかで忘れられつつある聖地にあらためて人が集い、
厳かなる儀式をおこなうことで、
「極」としての力をふたたび蘇らせたい。
馬場さんには、そんな気持ちがあったのかもしれない。

境内で隣りあう摂社大倉神社。綱神社同様に茅葺きが美しい。

土祭において、アートはとても重要なファクターである。
今回も40人近いアーティストが参加して、
町内各所の会場で新しい表現を見せてくれることになる。

じつはわたしは、ここ数年のブームともいえる地方のまちおこし的芸術祭に対しては、
ひややかな思いを抱いている人間であった。
なぜ畑の真ん中に人がつくった訳のわからない異物(もちろん佳作もあるが)を
運びこまねばならないのか。
それこそ、あるがままのつらなりが台無しになるだけじゃないか。
朽ちるものは、そのまま朽ちさせてやってくれという、
諦観というか、なげやりな一面が自分のなかにはあった。

無知からくるそんな思い込みを軽くとっぱらったのも馬場さんの言葉で、
半年前にやはり益子を訪れ、土祭の話題になったとき、
たしかこう仰ったのだった。
「アートはお灸のようなもの」と。
いや、もしかしたらハリだったかもしれない。
とにかく、益子という場所のツボと思われる場所
——歴史のある建物や人知れずひっそりある聖地——を新しい表現の舞台にすることで、
停滞していた場の血のめぐりをよくして、ふたたび生き生きとさせたいのだと。

この例え話は非常によくわかった。
目の曇りがきれいに洗われたようであった。

もともと芸能というものは人と神さまの仲立ちする行為で、
場所を言祝ぐ力があるとされていた。
それに等しい人を超えた力が、いまはアートに期待されているのだ。

この綱神社から隣接する鶴亀の池一帯も、
日本のフィールドレコーディングの草分け的存在である
川崎義博さんによるサウンドインスタレーションの舞台となる。

開幕式の際も「楽を奏す」という次第で束の間だがその音が流されたが、
気配が泡立つというか、森が、さらにひろがったようであった。
これはぜひ、人のいない時間にもう一度訪れてみたい。

宮司の祝詞を頭を垂れて聞く町の人々。

活力に溢れた大塚朋之町長は47歳。(撮影:矢野津々美)

開幕の儀は、土祭実行委員長でもある大塚朋之町長の挨拶につづき、
町の有志が竹林から切り出して手作りしたという
青竹の杯による乾杯で幕を閉じた。

関係者にボランティアに氏子代表、古老に親子づれに
一見して移住者とわかる都会的な人々。
この多様な集まりを見ただけでも、ここがほかとはどこか違う
チャーミングなまちであることが伝わってくる。

若き町長さんの挨拶がまた洒落ていた。
「見たことのない顔が見え、聞いたことのない音楽を聞かされて、
神さまもきっと驚かれていることでしょう。
しかし、この状況をきっと喜んでくれていると私は思います。
過去をていねいにていねいに見つめていくことで、
益子の未来が自然に見え、開かれてくる。
土祭が、そんな二週間になることを願っています」

儀式終了後、人気のなくなった境内で黙々と片づけをする氏子たち。

information

map

EARTH ART FESTA
土祭2012

2012年9月16日(日)~9月30日(日)
栃木県益子町内各所
http://hijisai.jp

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