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土祭だより Vol.1

ローカルアートレポート
vol.015

posted:2012.9.18   from:栃木県芳賀郡益子町  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Rumiko Suzuki

鈴木るみこ

すずき・るみこ●静岡県出身。出版社勤務を経て渡仏後、フリーランスに。女性誌や生活関連書籍の編集&執筆に携わり、2002年には初代編集長と2人で『クウネル』を立ちあげる。10年間編集に携わったあと、つぎにやるべき楽しいことを模索中。編著に『スマイルフード』『パリのすみっこ』等。

credit

撮影(メイン画像):矢野津々美

栃木県益子町。古くから窯業と農業を営んできたこのまちで、
9月の新月から月が満ちるまで、15日をかけて開催される土祭/ヒジサイ。
この土と月の祭りで何が行われるのか。
ひとりの編集者が滞在し、日々の様子を書きおこしていきます。

9月15日 土祭前日

数えてみたら、益子を訪れるのはこれで五回めだった。
もっと来ているような気がするのは、そのつどそのつどの時間の深度のせいだろう。
来るたびわたしは、ああ、日本も昔はこのように美しかったのだ、
という感慨でいっぱいになる。
山から森、森から川、川から田んぼ、そして人の暮らす里山が、みなつらなってある。
つらなって美しいという感覚は、イギリスの田舎が
なぜこんなに美しいのかと考えていたときに気づいたことで、
そこには人の征服欲による自然の分断が見えないからであった。
ちいさく、もろい、わが国であるから、コンクリートによる支配は
ある意味しかたがないとしても、必然はとっくに超えて過剰というのが現実だろう。
どこもかしこも固めつくされ、つまりは土が覆われ視界から消され、
その感触や匂いが希薄になるにつれて、日本人の心は変わっていった。
かくじつに鈍麻していった。これは単なる個人的見解だが、人の心の襞は、
その身体がどれだけ多くの手触りを知っているかに比例して育つように思う。
たくさんの本を読んだ人より、たくさんのものを触っている人のほうが人間として強い。
とくに土から離されると、よるべなくなるのが人であるはずなのに、
つるりとした人工的な世界に慣らされ、
そんな根源的な感覚すら麻痺してしまっている人のなんと多いことかとも思う。

益子の昔の暮らしぶりを写しだしたモノクロームの写真が、町の各所に特大パネルにして飾られている。これは大正13年前後、新年の益子焼初出荷のようす。

土を耕し、土を捏ね、土に触れながら生きてきた益子の人々の心には、
自然がおのずからある景色を美しいと感じ、積極的に放置するというまっとうさが、
いまもふつうに息づいてある気がする。
そして、ただあるものを守るだけでなく、卑屈に心を閉じず、
外からやってくる人や新しい文化を受け入れる柔らかな土壌もここにはあった。
しかし、それは何でもかんでもというわけでなく、
自分たちの生活をより豊かにするものを主体的に嗅ぎわけての受容だったのではないか。
濱田庄司の民芸運動しかり。いまでいえば「スターネット」しかり。
2009年に第一回めがおこなわれた土祭(ひじさい)は、ちいさなまちのお祭りとしては、
かなり特殊なものだったと思うが、それもこの地だから実現しえたことだろう。
「ひじ」とは、古代における土や泥の呼びかたなのだそうだ。

 益子の風土、
先日の知恵に感謝し、
この町で暮らす幸せと
意味をわかちあい、
未来につなぐ。

これが土祭のめざすところである。
あした、月が闇に消える新月の日。第二回めの土祭が幕を開ける。

厳しい残暑のなか、もうコスモスが揺れていた。

そば畑だろうか。白い花が一面に。

益子に到着したのは、山に夕日がしずむ直前。

information

map

EARTH ART FESTA
土祭 2012

2012年9月16日(日)〜9月30日(日)
栃木県益子町内各所
http://hijisai.jp

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