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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ Part1

ローカルアートレポート
vol.010

posted:2012.8.15  from:新潟県十日町市ほか  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

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Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

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撮影:嶋本麻利沙(THYMON)

生まれ変わった、芸術祭の拠点。

3年に1度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012」が
7月29日よりスタートした。
2000年に始まり、今回で5回目を迎えるこの芸術祭は、
現在は各地で行われている地域と人を結ぶ芸術祭の先駆けであり、
この地域では住民のあいだにもすっかり定着してきた。
新潟県の十日町を中心に、川西、松代、松之山、中里、津南と6つのエリアを舞台に、
44の国と地域から約320組のアーティストが参加し、約360点の作品が点在。
そのうち、約180組のアーティストによる作品が今回の新規参加作品というのだから、
そのスケールアップには目を見張るばかり。
数々の注目すべき新規プロジェクトがあるが、目玉のひとつは
「越後妻有里山現代美術館」としてリニューアルした施設「キナーレ」。
温泉を併設するこの施設は、交流館として2003年にオープン。
今回、芸術祭の入口となるような場所として、
常設展示を持つ現代美術館として生まれ変わった。

回廊式の建築の中央吹き抜け部分は企画展のスペースになり、
その初回を飾るのは世界的作家クリスチャン・ボルタンスキー。
建物に足を踏み入れると、目の前の光景に圧倒される。
ボルタンスキーは過去にもこの芸術祭で、使われなくなった小学校を舞台に
『最後の教室』という壮大なインスタレーションを発表しているが
(ジャン・カルマンと共作、恒久展示)、ここでは、2010年にパリで発表し、
ミラノ、ニューヨークと巡回してきた『Personnes(ペルソンヌ)』という作品の
越後妻有バージョン『No Man’s Land』を展示。
タイトルは「誰のものでもない、誰もいない土地」という意味で、
20トンという膨大な量の古着を使った巨大インスタレーションだ。
「不在」「記憶」といったテーマで作品をつくり続けてきた作家の大作は、
多くの人の生と死を思わせる。
また会場には、ボルタンスキーが世界中で採取しアーカイブしている心音が鳴り響く。
心音はひとりひとり異なるものであり、それぞれの生の証。
古着が人の不在を思わせる一方、
心音は、存在が忘れ去られるのに抵抗しているかのようだ。

ボルタンスキーの巨大インスタレーション『No Man’s Land』は会期中しか見られない企画展。

ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー『ゴースト・サテライト』はいろいろなものが浮遊するインスタレーション。

越後妻有の日常の暮らしで使われていたものをつなぎ合わせ、新たな生命を吹き込む。

常設の展示も充実している。
以前、このコーナーでも紹介したスイスのアーティストユニット、
ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーは、
吹き抜けのスペースでインスタレーションを展示。
タイトルの『ゴースト・サテライト』は、管制から解き放たれた人工衛星を意味している。
中央のコントロールの及ばないところで、独自の軌道を描く
ローカルの文化を象徴しているかのよう。
地元の建設業者の廃品、空き家に残されていた生活用品、
織物のまちとして栄えた十日町を象徴する織物の道具など、
ふたりはいつものように、地域にまつわるさまざまな素材を作品へと昇華させた。
いろいろなものが浮遊し、見ていて楽しくなるような作品だ。

山本浩二の『フロギストン』は、越後妻有地域の広葉樹からつくった彫刻を
炭化して並べた作品。彫刻は炭化することで普遍化され、
越後妻有の木々の多様な表情を見ることができる。
また会場にはこの地域で見られる32種の生木があり、
まるで森の中を歩いて作品に出合うような体験ができる。
美術館に生きた植物があるというのもユニークで、
これこそが越後妻有にしかない里山の現代美術館だ。

瓶の中身がきれいなグラデーションになるように並べられているのは、栗田宏一の作品。
これらは全部、新潟の土。新潟県全域で採取した土の数はなんと576。
田んぼや畑、崖などから採取し、乾燥させて余分なものを取り除いただけで、
彩色も何も手を加えていない。ふだん気にも留めない足もとに、
こんなにもきれいでさまざまな色があることに驚かされる。
この多様性こそが、豊かさなのだ。

クワクボリョウタは、インスタレーション『10番目の感傷(点・線・面)』の
越後妻有バージョン『LOST#6』を展示。
まっ暗な展示室の中で、鉄道模型につけられたLEDのライトが、
周りに置かれたさまざまなものの影を映し出しながら情景を浮かび上がらせる作品で、
今回は越後妻有の織物にまつわる道具を使っている。体感してその面白さがわかる作品だ。

この地域によく見られるかまぼこ型倉庫とトンネルを組み合わせたユニークな作品はレアンドロ・エルリッヒによるもの。ほかにエルムグリーン&ドラッグセット、カールステン・ニコライなどの作家の作品が展示されている。

山本浩二の展示スペースには、縄文時代の火焔型土器のレプリカも展示されている。これも土器の破片。現代の表現と4500年前の表現が同居するのも、里山現代美術館の特徴。

栗田宏一は新潟の全市町村で採取した土を展示。新潟県だけでこれほど色の幅がある。

市町村、集落の名がひとつひとつ記されている。「みんな同じように見えても少しずつ違うのは、人と同じ」と栗田さん。

美術の持つ力を信じて。

「これまで開催してきた4回分の蓄積として
里山現代美術館という拠点、芸術祭のゲートができたと思います」
と話すのは、大地の芸術祭総合ディレクターを務める北川フラムさん。
第1回の開催前、1996年から越後妻有に入り、芸術祭のために尽力してきた。
最初は現代美術に抵抗があったり、外から入ってきた人間が本気で地域のために
取り組むわけがないと考えていた地域の人たちも、少しずつ変わってきたという。
いまでは、みんなが芸術祭をお祭りのように楽しんでいる雰囲気が感じられる。
それも、北川さんが実際に現地に何度も足を運び、人に会って話すということを
繰り返しながら、ていねいにこの芸術祭をつくりあげてきたからだろう。
「作品だけできた、というのでは何の意味もない。
はじめから思ったとおりにはいかないですが、
土地の持っている力をいかしたらどういうことがありえるかという
展望を持ちながらやってきて、少しずつできてきたところです」

昨年は、豪雪、震災、そして水害がこの地域を襲った。
それでも、翌年に開催を控えた芸術祭に向けて動き出さなければという意識が、
地域にはあったという。
「人が前向きで元気なんですよ。芸術祭があるのとないとでは、大きな差がある。
ひとつの希望になっていたと思います」
芸術祭が人々の希望になりうる。それはすごいことだ。
日本の限界集落で、希望を持てない人たちは現実に多くいる。
それでいいわけがない。北川さんはまた、現代のグローバリズムに異議を唱える。
「世界中どんな場所でも、そこに人が生活するというのは大変な意味と価値があります。
それが均質化していってどこも同じなんてことはありえない。
それは地球上に生きているということを無視した話で、そうはいかないぞと思っています。
自然というのはあらゆるものを超えて決定的。私たちは自然と折り合って生きていて、
でも自然はそれを超える不可避な運命を与えてくる。そのなかでどうやって生きていくか。
そういうときに、美術というのはそれなりのはたらきを持てるはずだと思っています」

芸術祭の作品の多くは“鑑賞”というより“体感”する作品。
越後妻有の地で、その環境も含めて作品を体感してほしい。
北川さんは、現代美術が難しいとか、よくわからないものと思われるのが悔しいという。
「美術というのは“こんなのでいいの?”と思われることが重要だと思っています。
今回もものすごい作品の点数があって過剰だと言われますが、なぜそうするかというと、
美術の根源は、みんな違うということにあるから。美術ってほかの学科と違って
正解も平均値もないし、唯一ほめられる可能性があるでしょう(笑)。
みんなひとりひとり違うバックボーンを持っているから多様なものがあっていいんです。
特に子どもたちや若い人には、ぜひ大地の芸術祭に行ってほしい。
面白い体験になると思いますよ」
来年は、北川さんがディレクターを務める「瀬戸内国際芸術祭」もある。
大地の芸術祭も、もう次の開催に目を向けている。
「作品がなくても、自分の集落にお客さんが来て、
“こんにちは”と挨拶するだけでも、集落の人は全然気分が違うと思う。
そういうことがいいなと思うんです。着地点はまだまだ先。
これからも少しずつ面白くなっていくといいと思います」

田んぼの美しい風景が広がる越後妻有。「できるだけゆっくり見て回ってほしい」と北川さん。

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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012

2012年7月29日(土)~9月17日(月・祝)
越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)で開催
作品鑑賞パスポート 一般 3500円 高・専・大学生 3000円
http://www.echigo-tsumari.jp

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