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「テマヒマ展〈東北の食と住〉」
山中有さんインタビュー

ローカルアートレポート
vol.011

posted:2012.8.17   from:東京都港区赤坂  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

credit

撮影:ただ(ゆかい)
西部裕介(会津木綿のみ)

テマヒマかけたものづくりを、映像で表現する。

「テマヒマ展〈東北の食と住〉」では、メインの展示室の手前にもうひとつ展示室があり、
展示された食べ物や工芸品がつくられる現場をとらえた映像が流されている。
奥会津のマタタビ細工、庄内地方の笹巻、青森のりんご箱、秋田のきりたんぽ、
会津木綿、宮城県の油麩、弘前のりんご剪定鋏。
7本の映像は、東北の人々の黙々と作業する姿やあたたかい笑顔に、
ときおり美しい自然が挿入され、静かに心を打つすばらしい映像に仕上げられた。
トム・ヴィンセントさんプロデュースのもと制作を担当したのが、
映像作家の山中有さん。
何を撮影するかは事前に企画チームと相談し、実際の撮影から編集までを手がけた。

「真冬に撮影に入ったのですが、例年にも増して豪雪だったので大変でした」
ひとつのテーマを撮影するのにかかるのは、3日から5日間。
初日は撮影はしない。挨拶に始まり、企画を説明して作業を見せてもらいながら、
どう撮るかを考える。2日目からようやく撮影が始まる。
「一緒にお茶を飲んだり、ごはんを食べたりもしました。
秋田県鹿角のきりたんぽ製造の若旦那は、僕と同じくらいの歳の方だったんですが、
せっかく来たんだから鹿角のことを好きになってもらいたいと、
地元のおいしいもつ焼き屋や居酒屋など、3軒くらいはしごして連れて行ってくれました。
うち解けてからでないと、撮られるほうは構えてしまいますからね。
できるだけ自然な表情を撮りたいと思いました」
映像には、ものをつくるようすだけでなく、風景が印象的に映し出され、
そこに流れる時間や空気が伝わってくる。
「展覧会ディレクターの佐藤卓さんや深澤直人さんとも事前に相談したのですが、
実景は必ず入れることにしました。
やはり東北の文化は、気候や地形など風土によるところが大きいですから。
ふつうは人を撮影する合間に風景を撮るのでしょうけど、
今回は、人を撮影するのと同じくらい風景も撮っています。
どこでも1日か2日はひたすら風景を撮っていました」
撮影には、フルHD動画撮影機能搭載のデジタル一眼レフカメラを使った。
テレビカメラのような大型なものではなく、通常のサイズのカメラだったことも、
相手を緊張させず、自然に撮影するのに功を奏した。

撮影時間は、ひとつのテーマにつき、最長で8~9時間くらい。
それを5分ほどの映像に編集するのもかなり大変だったはずだ。
「見るだけで1日かかりました。実際の編集作業はその次の日から。
ドキュメンタリーとしてはもっと長いほうがいいかもしれませんが、
今回は展示ということを考えて」
映像は淡々と作業を映し出し、そこに出てくる人たちは、ほぼ何も語らない。
実はインタビューもしたそうだが、ほとんど使わなかったそうだ。
「東北の人々や職人さんって、謙虚な方が多かったり、
もともと話すのがあまり得意じゃない。
いろいろな思いや苦労があるけれど、それを言葉で表現するのは難しいですよね。
だったら手や仕草で語ってもらったほうが印象が強くなるし、
しゃべらないほうが、いろいろなことがわかると思いました」

7本の映像のうち、工程がいちばん長いのがりんご剪定鋏。鋼を熱して叩く、の繰り返し。2日間くらいかかる工程を、コンパクトな映像にまとめるのも至難の業。

食品は真空パックにして展示。きりたんぽはつぶしたご飯を杉の木串に巻いて炭火で焼く。右は塩3、麹5、餅米8の割合でつくる漬け物「三五八」。

会津は東北では貴重な綿の産地。藍染めは仕込みだけで約1か月。染めから織りまで、長い時間と手間がかけられている。(Photo: Yusuke Nishibe)

東北人の気質に触れて。

7本の映像のうち、ひとつだけほかとちょっとトーンが違うのがりんご箱。
ブルージーな音楽が流れ、リズミカルにトントンと金槌を叩いて
箱をつくっていくようすが、スピーディに描かれる。
「あれは最後に編集したのですが、ちょっと悩みました。
ほかの6本を仕上げたところで、変化がほしいなと思ったのです。
ずっと淡々としていると、眠くなってしまう(笑)。
りんご箱は工程もとても短くて、あっという間に1箱できちゃうんです。
弘前周辺ではりんご箱の早打ち大会みたいなものもあるらしくて、
1箱をどれだけ早くつくるかがちょっとした勝負。
そんな競い合いや意地の張り合いみたいなところを見せたくて。
ほかと表現するものが違うので、編集の仕方も少し変えてみました」

東北という土地柄からくる人間性にも興味を惹かれた。
たとえば、青森では「情張り(じょっぱり)」という言葉をよく耳にしたそう。
「“強情っ張り”と似たような言葉だと思うんですけど、青森の人たちは
その言葉が好きみたいで、まち中に“居酒屋 情張り”とか“情張りラーメン”とかあるんです。
自分たちの気質なんでしょうね。いい意味で頑固者。
それが、雪国だと気持ちがいい響きに聞こえました。
職人さんはどこでもそうかもしれませんが、東北の人たちには
独特の頑固さがあると思いましたし、そこからくる強さを感じました。
それと、コミュニティがしっかりしていて絆が固いと感じました。
それは、お互い力を合わせないと、厳しい気候を乗り切れないという
背景があるからだと思います。インタビューをしても、
“それではみんなが困る”というように、“みんな”という言葉をよく聞きました。
自分より家族や親戚、まちや村のために、という気持ちが強い気がします」

東北で出合った風景で印象的だったのは、
笹巻の映像に出てくる山形県遊佐町の十六羅漢岩だという。
日本海の荒波で命を失った漁師たちの供養のために、
吹浦海禅寺の和尚が1864年に発願し、地元の石工たちにつくらせたもの。
十六羅漢と、釈迦牟尼、文殊菩薩、普賢菩薩、観音、舎利仏、目蓮の6体、
合わせて22体が岩に彫られている。
「現地を案内してくれた方に、あそこが撮りたいと言ったら、
ちょっと不思議な顔をされてしまいました。
もっと違う観光スポットを紹介したかったようなのですが、
ああいう海の岩で彫ったものって、ほかにあまりないと思います。
僕らが面白いなと思っても、生まれたときからあると、
地元の人はなかなか意識できないんでしょうね」
外からの視線だから、気づくこともある。
笹巻の映像の最初のカットには、こういうものも大切にしてほしいという思いをこめた。ぜひ多くの人に見てもらいたい映像だ。

Information


map

テマヒマ展〈東北の食と住〉

住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内

TEL:03-3475-2121

2012年4月27日(金)~ 8月26日(日) 21_21 DESIGN SIGHT

11:00 ~ 20:00(入場は19:30まで、火曜休館)

http://www.2121designsight.jp/

Profile

YU YAMANAKA
山中 有

1976年山梨県生まれ。映画やドラマ、CF、ミュージックビデオなど幅広く映像の仕事に携わり、2010年「ブルードキュメンタリー」を設立。ドキュメンタリー映像のディレクターとして活躍中。

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