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「テマヒマ展〈東北の食と住〉」
奥村文絵さんインタビュー

ローカルアートレポート
vol.012

posted:2012.8.22  from:東京都港区赤坂  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

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撮影:ただ(ゆかい)

東北の人たちが受け継いできたものを伝えるために。

「テマヒマ展〈東北の食と住〉」には
東北の「食」と「住」がさまざまなかたちで展示されている。
それは単に名産を紹介するのではなく、東北に受け継がれてきた文化の展示。
この展示の立役者となったのが、企画に携わった
フードディレクターの奥村文絵さんだ。
奥村さんは、何度も東北に足を運んで「食」に関する取材とリサーチを行い、
東京で展覧会ディレクターの佐藤卓さんや深澤直人さん、
「住」のリサーチを担当した川上典李子さんらとミーティングを重ねた。
「東北の震災以降、どんなかたちで貢献できるだろうかと考えていたので、
この企画に参加できて、うれしくてたまりませんでした。
フードディレクターという仕事は、食べものを専門とするアートディレクターですが、
ディレクターとは基本的に人と人とのあいだに立つ仕事。
どんなふうに食を表現するか、どんなものを展示しようかとアイデアを出し合ったり、
こんな食文化が残っていますよと紹介したり。
取材に行くと、卓上に手づくりのお漬け物やお茶が次々と出てくるんですね。
人のやさしさや、人とつながることのうれしさをたっぷり感じることができました。
東北の方たちの“伝えてね”という思いを託されたような気がして、
どんなふうに見せたらみなさんの思いを伝えられるかと、何度も考えました」
個人的な印象からではなく、あくまでも客観的な視線で展覧会をつくることを心がけた。
ノスタルジックになったり、いまの私たちはこうすべきだ、というような
恣意的な表現をするのではなく、見た人に何かを感じて持ち帰ってもらえるような
展示にしたかったという。

実際には展示物の2倍以上の取材をしており、紹介できなかったものもあれば、
取材自体できなかったところもある。
そのひとつが、稲庭うどんの製法を確立した稲庭吉左衛門氏。
寛文5年の創業から現在の16代目に至るまで、
約350年間、一子相伝で古来の製法を守っている。
会場には秋田県湯沢市の稲庭うどんが展示されているが、
稲庭氏のつくるうどんは取材させてもらえなかったそうだ。
「稲庭うどんの歴史をたどると、秋田県南部、雄勝郡稲庭村の稲庭吉左衛門さんが
佐竹藩の御用うどん製造元、つまり宗家なのです。
最終的にお宅で少しだけお話を聞くことができたのですが、
製造については非公開ということで、一切取材させていただけませんでした。
ただ印象的だったのが、製法はすべて口伝だということ。つまり、書かない。
書いてあるとそれをなぞってしまうけれど、
書かれていないことは、自分で研究するでしょう。
それが伝えるということなんだと稲庭さんはきっぱりとおっしゃった。
当代ができなければ次の代、次の代ができなければ、また次の代に託していく。
あらためて歴史の深さを思い知らされました」

一方で、広く知ってもらいたい、アピールしたいという生産者もいる。
たとえば、山形県の庄内地方に伝わる伝統食の笹巻き。
「笹巻きの生産者さんのことは以前から知っていました。
彼女たちは毎年『笹巻きサミット』を開催して、地元に郷土の味を伝えていく
という活動をしているんですが、県外の人たちにどうやって伝えればいいのか、
長いあいだ模索していました。それで今回の企画にぴったりだと思ったのです。
映像作家の山中有さん、トム・ヴィンセントさんが制作してくださった
ショートフィルムを見て、涙が出そうになりました。
こうやって、ひとつ伝えられる手段ができてよかったと思います」

酢の物などに使われる干し菊は、青森の定番食材。92℃の釜で45秒蒸し、60℃で10時間乾燥させ、鮮やかな黄色に。温度調節が決め手となる。

小さくて売り物にならない馬鈴薯を加工して保存食にした「凍みイモ」。凍っては溶け、を約2か月半も繰り返す。岩手県九戸郡野田村でたったひとりでつくっているおばあさんに会えたが、もうほとんどつくっている人はいない。

稲庭うどんは、江戸時代半ばまで佐竹藩のみに納められ、庶民は口にすることができなかった。右は岩手県南部の郷土食で、そば粉をこねてつくる「かっけ」。

時間をかけて、ローカルと向き合っていく。

奥村さんは日頃からフードディレクターとして、企業のブランディングのほか、
地域の特産物の商品化や、地域ブランドの企画など、
地域の食と関わりの深い仕事を手がけている。
仕事をしていて感じるのは、食の価値は地域によって多様性を持っているということ。
「東京ではほぼすべての食べものをお金で買うので、
食の価値が貨幣価値と直接つながっています。
でも産地に行けば、それとは違う多様な食の価値に出合います。
たとえば、私が以前関わったプロジェクトで、
お餅のパッケージをつくったことがありました。
美しい紙で、洗練されたデザインのパッケージでしたが、
産地では安くておいしい食べものがたくさんありますから、
包装にかかる手間を生産者に理解してもらうのに苦労しました。
すてきなパッケージに入った高い商品が必ずしも価値ある商品にはならない、
地域にあった食の価値があるということを、その仕事を通じて実感しました。
ですから、ものをつくるだけではなくて、売る人がどういう環境でどう売れば
ハッピーなのかということまで、私たちが一歩足を踏み入れて考えていかないといけない。
私はそこに時間をかけたいと思う。まさにテマヒマです(笑)」

たとえば、奥村さんが手がける「800 for eats」というプロジェクトは、
地域の特産物を生産者とともに商品化して、東京から世界に発信してきた。
「大量生産できず小ロットだけれど、たくさんの方々に知ってほしい
ストーリーがある食べものだけを選んで紹介しています。
東京の自給率は1%で、99%はほかの地域か海外から入ってきています。
情報発信基地でもあり巨大なマーケットである東京で何が選ばれるかは、
生産者にとっても重要な意味を持っています。だからこそ、東京を拠点にする側が、
誠実なものづくりに懸ける生産者を紹介していくことに意味があると思っています」

奥村さんは、自分と同じような仕事をする人が、
地域にもっと出てきてほしいと思っている。
「デザインに携わるいろいろな機能が地域にあるべき。
すべてが都市に偏重して新しい商品がつくられるのではなく、
グローバルな手法とローカルな手法を対話させながら
ものがつくれるようになるといいと思います。
地域行政や民間企業に、同じ考えを持った仲間が増えることを期待していますし、
私たちデザインする側も一度のインパクトで何かを変えようとするのではなくて、
継続して向き合っていくことが大事。
デザインというのは色やかたちを決めることだけではなくて、
人と人とのつながりや場の持ち方も含め、プロセスをどうつくりあげていくか。
それがデザインの仕事なんだと思います」

大豆や青大豆をつぶして乾燥させた「打ち豆」は東北全域でつくられる。保存食として冬のタンパク源になるが、ひとつひとつつぶすのは、まさに手間と時間がかかる。

氷点下の気温と寒風を利用して東北で広くつくられる「凍み餅」も、凍みと溶けを繰り返してつくる保存食。戦後は、砂糖味や、ごま、大豆、小豆入りなどバリエーションが増えた。

山形県東根市六田地区に伝わる「車麩」は、木の棒に生地を巻き上げ、焼いてつくる。そのかたちはまるでフランスパンのよう。

Information


map

テマヒマ展〈東北の食と住〉

住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内

TEL:03-3475-2121

2012年4月27日(金)~ 8月26日(日) 21_21 DESIGN SIGHT

11:00 ~ 20:00(入場は19:30まで、火曜休館)

http://www.2121designsight.jp/

Profile

FUMIE OKUMURA
奥村文絵

東京都生まれ。フードディレクター。2008年にフーデリコを設立し、ブランドコンセプトの開発や商品開発、パッケージ、空間デザインなど、さまざまな食にまつわるブランディングを手がける。http://www.foodelco.com/

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