
アレキナイ川ではほとんど流れを感じることなく、とても美しい水鏡が見られました。
音もなくスーッとカヌーが川に滑り出すと、
目の前には水面からもくもく立ち上る不思議な霧=けあらしが広がります。
けあらしとは、水温より気温が低い場合、
水面から蒸発した水蒸気が大気中で急激に冷やされて起こるもの。
周囲の木々には白く輝く霧氷、川べりの氷の上にはフロストフラワー(霜の花)も現れ、
一気に別世界に飛び込んだようです。
これらも空気中の水蒸気が樹木や氷の表面にくっつき、
凍りついたもの。気温が氷点下になる冬の朝だけの光景です。

薄く張った氷の上に咲くフロストフラワー。
「今日は今シーズン一番の景色かもしれませんね」。
ガイドを務めてくれた松澤秀太さんも太鼓判を押します。
「雪と違って、霧氷の結晶は四角形が多いんですよ。
だから雪の上に落ちても目立ってキラキラするんです」
気さくな雰囲気で松澤さんが、いろいろな解説をしてくれます。
カヌーが倒木の近くを通ると、枝まで手を伸ばして霧氷を触ることも。
ふわっと空中を舞い、太陽の光に照らされ、
ハラハラと川に落ちる霧氷の姿はとても幻想的でした。

冬のカヌー体験を始めた理由
釧路マーシュ&リバーが冬のカヌーツアーを始めたのは10年ほど前から。
ドライスーツを着てオホーツク海の流氷の上を歩く
アクティビティ「流氷ウォーク」の存在を知った斉藤さんが
「安全確保さえすれば、カヌーだって冬もできる」と思い立ちスタートしました。
しかしドライスーツを揃えたものの、冬にカヌーのイメージはないためか、
最初のシーズンの参加者はほんの数組。
それでも斉藤さんは「冬だけの非日常の景色を見てほしい!」と
夏のお客さんに冬の良さを伝えてリピーターを増やし、5年ほど前から定着してきました。

川のそばの木々に佇むオジロワシ。(photo:釧路マーシュ&リバー)

釧路湿原には特別天然記念物タンチョウもやってきます。翼を広げて飛ぶ姿はとても優雅です。(photo:釧路マーシュ&リバー)
「キュッ、キュッ」。静寂の自然の中、不思議な鳴き声が聞こえます。
「あの木の上のオジロワシが鳴いていますね」と、すかさず松澤さんが教えてくれて、
立派な風格のオジロワシが発する甲高い鳴き声に驚きます。
ほかにも水鳥のマガモやヤマセミが目の前を飛んだり、
「コンコン、コンコン」とアカゲラが木をつつく音が聞こえたり、
多くの野鳥が暮らす自然の豊かさを肌で感じました。

折り返し地点を過ぎ、塘路湖カヌーポートに戻る途中、
「ガサ、ガサッ」と草の音がしたと思ったら、
エゾシカが川岸からこちらをじーっと見つめていました。
釧路湿原で越冬するエゾシカにとって冬はエサが少ない厳しい季節。
樹皮も食べてしまうため、黄色い木肌がむき出しになった樹木が多く見られました。

鉄橋や道路の橋げたの下をくぐり、最後は釧路湿原最大の湖・塘路湖の入り口へ。
アイヌ語の「トー(湖)・オロ(の所)」が語源の塘路湖。
縄文時代から人々が暮らし、アイヌ民族のコタン(村)もあった場所です。
諸説ありますが、アレキナイ川の語源もアイヌ語で「アルキ(来る)・ナイ(川)」。
アイヌの人たちも丸木舟を使い、川や湖の移動や漁をしていたそうで、
こんな景色を見ていたのだろうかと思いを巡らせます。

約2キロ、1時間30分ほどのカヌーツアーの締めは、
温かいコーヒーサービスです。カヌーから降りてほっとひと息、冷えた体が温まります。
はっとするような景色や野生動物との出合いがあり、
カヌー上ではすっかり寒さを忘れていたことにびっくりしました。