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ビッキの大作が鑑賞できる
〈洞爺湖芸術館〉
元村役場の建物を改修

おでかけコロカル|北海道・道央編

posted:2016.9.6   from:北海道虻田郡洞爺湖町  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

洞爺湖の北東の岸辺、〈ラムヤート〉〈toita〉が並ぶ商店街から
まっすぐ湖畔へとすすむと、湖に向かって建つ〈洞爺湖芸術館〉が見えてきます。

1952年築のレトロな雰囲気をもつ建物はもと村役場。
洞爺村と呼ばれたこの地域は2006年、
隣の虻田町と合併し、洞爺湖町となります。
村役場としての役目を終えた建物は洞爺湖芸術館として
2008年にリニューアルオープン。
旧洞爺村がそれまでに買取や寄贈によって収集していた美術コレクションを、
地域の方々に公開展示・発信する場として、新たなスタートを切りました。

もとの姿を生かしたレトロなつくりの建物そのものもじっくり鑑賞したい部分。階段上の窓は、館内に唯一残る村役場時代からの手のべガラス。

旧洞爺村とアートのつながりは、1988年に始まった洞爺湖を囲む
当時3町村による〈洞爺湖ぐるっと彫刻公園〉プロジェクト事業に遡ります。
この事業は、1977年の有珠山噴火の後、1984年と1988年に
復興へのモニュメントとして、
美唄市出身の世界的な彫刻家・安田侃さんの作品が
湖畔に設置されたことをきっかけにスタートしたもので、
計58 基の彫刻作品が、洞爺湖畔の風景となって佇んでいます。

洞爺湖全景を映し出す窓からのすばらしい眺め。2階のビエンナーレ展示室は役場の元議会場。村に大きな建物がなかった時代は結婚式場としても使われたそう。現在は企画展やコンサートイベントも行われています。

ここに、参加した彫刻家と当時の洞爺村の村長が企画した
〈洞爺村国際彫刻ビエンナーレ〉が1993 年にスタート。
2007年まで洞爺村で開催された(最後の回は洞爺湖町)小さな村のビエンナーレに、
世界93カ国から多くの応募作品が寄せられました。
このうち87作品が洞爺湖芸術館に収蔵され、
2階の展示室でゆっくりと鑑賞することができます。

昭和46年刊、230冊限定の川端康成『雪国』豪華本。大卒の初任給が5万円という時代に、2万7千円という値段がつけられたそう。美しい装丁に引き込まれます。

このビエンナーレの図録づくりに関わったのが、
洞爺湖芸術館に多くの希少本を寄贈した横浜在住の印刷会社社長、
石島成美さん。芸術文化の振興をすすめる村長の地域づくりに共感し、
「都会に集まりがちな本物の芸術を、大自然にかこまれた洞爺村の未来のために」と、
40年かけて蒐集したうちの400冊を寄贈。
元村長室だった空間に、なかなか目にする機会のない、
そうそうたる作家たちが手がけた近代・現代日本文学作品の
初版本・限定本がずらりと並んでいます。

棟方志功や谷崎潤一郎の初版限定本のほか、三島由紀夫直筆サイン入り本も。

2階には、ビエンナーレから派生した「洞爺湖イメージアッププロジェクト事業」が実り、
ユネスコ世界遺産主席写真家をつとめた並河萬里さんが
この地に住みながら3年間かけて撮影した、美しい洞爺の風景写真が飾られた1室も。

この作品のなかには、“三樹園”という古風な旅館の写真があります。

「これはかつて芸術館となりにあった旅館で、
三樹園という名前は、芸術館の窓から見える小公園の“三樹”にちなんだものです。“三樹”は桑と桜とセンの木がひとつの株から出ているように生えたている大樹で、
桑は樹齢1300 年、桜は600年(残念ながら現在の桜は2代目)、
センは200年を超える古木です。香川をはじめ四国から来た開拓者たちが、
困難にくじけそうになったときにこの樹を見て、
このように寄り添ってみんなで頑張ってゆこうと誓い合って、
“三樹”の名がつけられたそうです」
(※樹齢は1933年に林学博士本田静六氏が鑑定)

芸術館の館長、三島邦代さんはそんなエピソードを教えてくれました。

彫刻作品左から、カナダで制作された『Images of British Columbia』(1983年)、『隔生A.C』(1988年)、『TOH』(1980年)、樹齢500年の大木でつくられた『風』(1988年)。壁面を飾るビッキの絵画作品はご遺族から寄贈されたもの。

1階には、北海道を代表する彫刻家、
砂澤ビッキ(1932〜1989)の大作が荘厳な空気を放っています。
ビッキの大きな彫刻作品をまとめて観ることができるのは、現在、洞爺湖芸術館だけだそう。

ビッキのアトリエ風景。すべてビッキが使用していた本物の道具が、配置もそのままに再現されています。壁の黒板にあるデザイン図も本人が描いたもの。

ビッキが音威子府(おといねっぷ)で制作し遺した、
大きな作品の収蔵場所を探していたご遺族が、当時の札幌芸術の森美術館の館長に相談し、
ここ芸術館を選ばれたことが、この常設展示につながりました。
強靭さと繊細さをあわせもつビッキの作品と、
それらがつくられた制作場所とを、あわせて体感することができます。

年に一度〈砂澤ビッキ週間〉を設け、特別展示が行われています。2016年はご遺族のご協力のもと、音威子府の〈アトリエ3モア〉にあったビッキの書斎を細部に至るまで再現。あちこちにビッキならではの遊び心が見つかります。(〜2016年10月2日まで会期延長)

ビッキが敬愛していたヘンリー・ムーアのポスターの上にある作品は『樹面』(1975年)。

こちらは唯一触ったり腰かけたりできるビッキの作品。一部の椅子は裏返すと、椅子の足は取り外し式で好きな穴に入れられるという仕組み。座り心地は……ぜひ体感してみて。

館内をゆっくりまわったあとは、1階の奥にある物販コーナーに立ち寄って
スタッフ手づくりの地元産ハーブティーを片手にひと休みを。

アートで村の振興と発信に力を注いできた洞爺村の歴史を
静かに伝える洞爺湖芸術館。洞爺湖の新たな魅力が、ここにあります。

information

map

洞爺湖芸術館

住所:虻田郡洞爺湖町洞爺町96

TEL:0142-87-2525

営業時間:【4月〜5月】10:00〜17:00、【6月〜9月】10:00〜18:00、【10月〜11月】10:00〜16:00 ( 受付は閉館30分前まで)

休館日:月曜(祝日の場合は翌日)、12月1日〜3月31日

観覧料 一般300円、高校生200円、中学生100円※団体などその他割引あり

※エレベータ・多目的化粧室・車いす・駐車場完備

http://www.geijutukan.net

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