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元商店街を活気ある通りへ
洞爺湖畔の地産地消の石窯パン屋
〈ラムヤート〉

おでかけコロカル|北海道・道央編

posted:2016.9.4   from:北海道虻田郡洞爺湖町  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

洞爺湖北側の岸辺。地域の特産品を取り扱う
道の駅がわりの〈とうや水の駅〉の向かいに
どこか愛嬌のある古民家を見つけたら、
それが洞爺のランドマーク、石窯焼きのパン屋さん〈ラムヤート〉です。

映画『しあわせのパン』の舞台にもなり、
オープンから2017年で10年を迎えるラムヤートは、パン屋を生業に、
元商店街だった店前の通りを
ふたたび活気あるまちにしていこうとスタートしたお店。

「僕らがパン屋を開店したとき、近所の方から、
当時店がひとつもなかったこの通りに約20年ぶりの店ができたと言われました」

洞爺湖の南にあるまち伊達に生まれ、札幌からこの地へ移住した
店主の今野満寿喜(ますき)さんは笑ってそう語ります。

2代目パン職人、ゴンちゃんこと友田直之さんは全くの素人からパンづくりの道へ。「先代の祐介さんに教わり、函館の有名パン屋店主さんに何度もアドバイスをもらい、付近のお店やお客さんに味や仕上がりを見てもらったり。多くの人に支えられて焼いています」

パン棚に並ぶ〈無花果とカシューナッツのパン〉(ハーフ690円)や
〈向日葵の種のパン〉(620円)など、手をかけてつくられるハード系パンや
食パンはどれもどっしりとして素朴な美人さん。
中身がぎゅっと詰まっていて、噛めば噛むほど深い味わいが広がります。

ラムヤートのパンは店の軒先に自然に実る葡萄から起こした自家製天然酵母を使い、
手ごねのあと常温で3〜4時間じっくりと自然発酵させてから、
手づくりの石窯で焼き上げています。

奥行き180センチもある立派な石窯は満寿喜さん設計。レンガは新しいものに加え、地元で登り窯を持つ陶芸家さんの使用済みレンガを再利用。窯の中で焼き上がりを待つのは〈向日葵の種のパン〉。

パンづくりに使われるのは、ドライフルーツやナッツ以外、
全て洞爺湖近辺、または北海道内の生産者さんの安心・安全な素材。
〈田舎パン〉(ハーフ670円)に使われる全粒粉や〈玄米粉の食パン〉(680円)の玄米粉は、
洞爺湖町の阿部自然農園から仕入れています。砂糖、卵、バター、添加物は不使用。
営業日の土・日・祝日の開店10時に合わせて、10種類ほどのパンが並びます。
ときにはサンドイッチの販売もあり。売り切れることも多いので、
早めの時間帯に訪れるのがおすすめです。

入口左側にパンの棚。店内には洞爺湖畔でつくられている木彫作品や、料理家・たかはしよしこさんのエジプト塩なども置かれています。お客さんやご近所さんが入れかわり立ちかわり訪れる、まちの商店の風景。

「パンづくりで大切にしているのは、まず廃棄しないこと。
たくさんつくって経済を回すのでなく、
生きるのに使うお金をなるべく小さくしていきたいんです。
そして、自分が暮らす地点から近いところでつくられた、
いい素材を選ぶことを大事にしています」

そんな風に考える満寿喜さんが洞爺に移住したきっかけは、
「ここで暮らしていきたい」というシンプルな思いでした。

今や〈toita〉さんをはじめ近隣の店舗づくりも手がける今野満寿喜さん。大工仕事は独学で、洞爺に住んでから必要に迫られて始めたそう。

「湖があり、静かで、大きすぎず小さすぎない。
当時はまだ村だったこのまちが、すごくいいなと思ったんです」
札幌に住んでいた頃、10年先の人生を考え、
仕事よりも先にその下にある土地を大事にしようと決意。
安住の地を探して北海道をまわり、ここ洞爺にたどり着きます。

地道な空き家探しの末、現在の店舗兼住まいの古民家に出合います。
「お金がなかったので、洞爺の廃材や什器だけで店づくりをしてきました。
なるべくすべてを地産地消でやってみようと思って」

おりしも、埼玉のパンメーカーに勤務していた弟の祐介さんが、
パンの大量生産・大量廃棄に悩み、自分で店を始めようとしたタイミング。
満寿喜さんは「それなら洞爺でパン屋をやらないか」と祐介さんを誘います。

初代パン職人をつとめた弟の祐介さんは4年で独立するという約束を果たし、
現在は隣町の喜茂別で〈ソーケシュ製パン+トモエコーヒー〉を営んでいます。

元スタッフが京都の〈ガケ書房〉で出会った風博士さん、風さんからつながった森 ゆにさん、そのふたりおすすめのWATER WATER CAMEL が2014年にラムヤートでライブをした記念の絵が。この絵と今のお店のロゴは、そのときともに訪れたイワサトミキさん作。

ラムヤートの存在と洞爺湖の土地の魅力が多くの人を惹きつけ、
今、湖畔には新しいお店が続々とオープンしています。
お店の裏手には、焼き菓子店〈しまりすや〉と、
アンティークの布を扱う〈nii〉が小さなお店をかまえ、
ラムヤートお隣には暮らしにまつわる商店〈toita〉が。
いずれのお店も、満寿喜さんが声をかけた道内外の友人が営んでいます。
このほかにも、静かで穏やかな時間の流れる湖畔では、
あちこちに点在するお店巡りを楽しむことができます。

10年前、ラムヤート1軒があるだけだった通りは、
今や小さなお店が立ち並び、子どもたちが駆け回る、
生き生きとした商店街へと様変わりしました。

店名のラムヤートは、逆さにすると“トーヤムラ”。
「僕らが来た頃は、まだここは洞爺村でした。合併で洞爺湖町になった今も、
近所のおじいちゃんおばあちゃんはここを村と呼ぶんです。
村がここに存在していたことを、少しでも残せたらと思って」

まちの歴史に寄り添いながら、新しい風を吹き込んでゆくラムヤート。
暮らしの足もとを見つめ直すきっかけに出会える、
思いのこもったパンを味わいにぜひ訪れてみて。

満寿喜さんのセンスがあふれる空間には、息子さんをはじめ、近所の子どもたちの作品も。奥はギャラリースペース。

information

map

ラムヤート

住所:虻田郡洞爺湖町洞爺町128−10

TEL:0142−87−2250

営業時間:土・日曜・祝日10:00〜16:00(売り切れ次第終了)

定休日:月〜金曜

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