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器、木舟、衣服など生活道具を展示
アイヌ文化を継承し未来へつなぐ
〈二風谷アイヌ文化博物館〉

おでかけコロカル|北海道・道央編

posted:2016.9.2   from:北海道平取町  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

YAYOI ARIMOTO

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp

writer's profile

Akiko Yamamoto

山本曜子

ライター、北海道小樽生まれ、札幌在住。北海道発、日々を旅するように楽しむことをテーマにした小冊子『旅粒』発行人のひとり。旅先で見かける、その土地の何気ない暮らしの風景が好き。
旅粒
http://www.tabitsubu.com/

credit

取材協力:北海道観光振興機構

一歩足を踏み入れると、あらわれるのは壮大なスケールの展示空間。
〈平取町立二風谷アイヌ文化博物館〉では、
国会議員もつとめたアイヌ文化研究者・アイヌ民族の故 萱野茂さんが
収集した重要有形民俗文化財
「北海道二風谷及び周辺地域のアイヌ生活用具コレクション」1121点のうち、
919点を所蔵・展示しています。国文化財に指定されたこのコレクションから
平取地域のアイヌの人々の歴史と文化に、深く触れることができる場です。

展示室は〈アイヌ〉人々の暮らし、〈カムイ〉神々への信仰、
〈モシリ〉大地の恵み、〈モレウ〉造形の伝承と4つに分かれ、
伝統的な生活道具を中心に、アイヌの暮らしぶりを紹介しています。

紺色の木綿地は沙流(さる)川流域の「切伏刺しゅうした着物」によく用いられる色合い。こちらは普段着ではなく晴れ着にあたる衣服。

木綿の生産がなかったアイヌ民族にとって、
こうした生地は主に和人との交流のなかで得たもの。
平取地域ではオヒョウなどの木の樹皮を使った〈アットゥ〉と呼ばれる織物が、
途絶えることなく受け継がれてきました。

二風谷でつくられるこのアットゥと、
彫刻の施された平たい木製のお盆〈イタ〉が
2013年、北海道で初めて伝統的工芸品として指定。
展示では、使い込まれた美しいアットゥやイタを見ることができます。

鹿の毛皮でつくられた〈ユ〉は冬の暮らしに欠かせない防寒着。

狩猟・採集を主な生業にしていたアイヌの人々が、
森で仕掛けていたワナを実際に試せるコーナーも。アイヌの人々の暮らしの道具には、
実用的ながらも美しいデザインを数多く見ることができます。

酒の入った杯に先をつけ、神に人の願いを届ける祈りの道具〈イクパスイ〉。多彩なデザインが施される彫刻作品で、なかでも杯に乗せられた作品は塗りと彫りの技術の最高峰を極めた上に、金箔が貼られた一級の芸術品。

「興味深いのは、漆や金箔を使う技術のなかったアイヌ民族の生活道具に、
これらがしばしば使われていること。当時アイヌの人と和人の交流のなかで、
本州で塗られた可能性が考えられます」

展示品について丁寧に教えてくれた学芸員の長田佳宏さんは、そう語ります。
このほかに装飾に使われたガラス玉、鉄や刀なども、
本州圏や北方圏との交易などで得ていたもの。
外の世界とつながりながら生活を送っていた姿が浮かび上がります。

昭和40年代につくられた手彫りの舟。この大きな舟はカツラの木でつくられたもの。先端には神の〈イナウ〉(御幣のようなもの)が飾りつけられています。

二風谷地域を流れる沙流(さる)川では今も〈チサンケ〉と呼ばれる、
舟おろしの儀式が行われています。
これは古代から伝わる技法でつくられた舟に魂をいれる進水の儀式。
毎年8月中旬頃に一般公開され、
参加者は約1キロの川下りを体験することもできます。古代舞踊の演舞のほか、
前日には〈ウトヌカ〉(アイヌ式の結婚式)や前夜祭なども行われているので、
あわせて訪れてみたいイベントです。

〈ポタタクサ〉はヨモギのこと。清め草といわれ、家の中の囲炉裏で燃やすと虫除けになり、茎の部分を矢柄にしたりと重宝していました。右奥は魔除けとして、また強心剤などの薬として使われた〈イケマ〉。

祭祀に使われた草木や生活に密着した食生活についても、
実物が展示されているのが特徴。なかにはイナキビ、アワのように、
現在も沙流川地域で栽培されているものもありますが、確保しにくい素材も多いそう。

平取地域では、アイヌの伝統的生活空間づくりのための
自然素材を育成する〈イオル再生事業〉として、
生活用具をつくるのに必要な樹木や野草を育てる森づくりや
チセの制作に使われるヨシの栽培など、まちぐるみで伝統再生への取り組みを進めています。

首長や祭事をつかさどる人がかぶる冠。本来のアイヌのクマの木彫りはこんな素朴な顔立ち。一般にお土産物で知られる鮭を加えたクマの木彫りは、後年スイスから入ってきたモチーフと言われています。

博物館からすぐの距離には、地域の発掘調査成果や出土品が展示される〈沙流川歴史館〉や、
博物館の母体になったコレクションの一部や
世界各地の先住民族の工芸品が見られる〈萱野茂 二風谷アイヌ資料館〉があり、
気軽に立ち寄ることができます。

平取地域はアイヌ文化を受け継ぎ未来へとつなぐ、道内で最も大きな拠点です。
この3つの施設をつなぐ〈匠の道〉沿いにある、
工芸家たちがそれぞれ営む民芸品店でのお土産探しもお楽しみのひとつ。

博物館そばの2棟のチセでは、工芸家が木彫または布製品をつくる様子を見ることができます。沙流川地域の〈チセ〉はヨシでつくられ、チセづくりの技を絶やさぬよう定期的にチセの維持管理を行なっているそう。

匠の道沿いにはアイヌ民族の住居〈チセ〉が建てられ、
かつての〈コタン〉(集落)の姿を見られるほか、
春から秋にかけてチセの内部で地元の古老による「ユカと語りべ」が開かれ、
訪れる人にアイヌ語でのお話や神謡を聞かせてくれます。

地元の工芸家が毎日交代しながら運営するチセには囲炉裏がおかれ、かつての暮らしの雰囲気も味わえます。彫られているのはイタ。文様のひとつひとつに制作者の想いがあります。

博物館のとなり、イオル再生事業の中心となる
〈平取町アイヌ文化情報センター〉では、
イタとアットゥをはじめ、まちに住む工芸家たちが制作した
アイヌ伝統工芸品を展示販売するほか、ムックリや刺しゅうコースター、
木彫コースターの体験学習を行うことができます(予約は二風谷アイヌ文化博物館まで)。

平取地域イオル再生事業では伝承を受け継ぐ次世代の担い手を育てるため、地域の若者を雇用して技術を教えています。若者たちが手がけた酒杯は地域の祭事で使われているそう。

「アイヌ文化の継承に力を注いでいる地域なので、
博物館も地域と歩調を合わせてさまざまな活動を行っています。
北海道とその周辺地域で育まれ、継承されてきたアイヌ文化を
より多くの人に体験していただきたいですね」

のどかな山あいにある平取町二風谷地域は、
アイヌの人々が受け継ぐ暮らしを守り、今へと伝えています。
ゆっくり流れる時間を感じながら、
自然に寄り添って生きるアイヌ文化を探訪してみませんか。

博物館の裏には、二風谷ダムとにぶたに湖が広がります。敷地にはアイヌの人々がものづくりに使う木が植えられた樹木園も。駐車場を緑地に変え、集いと憩いの場を整備していく計画が進行中。

information

map

平取町立二風谷アイヌ文化博物館

住所:沙流郡平取町二風谷55

TEL:01457-2-2892

開館時間:9:00〜16:30

休館日:4月16日〜11月15日定休なし、11月16日〜4月15日月曜、※ただし12月16日〜1月15日 館内整備のため休館

※チセでの〈ユカと語り部〉は5月〜9月下旬の毎週土曜日15:30〜16:30(無料・予約不要)毎年変更になるので、要確認。   

入館料 大人400円・小中学生150円(団体割引・共通券あり)

http://www.town.biratori.hokkaido.jp/biratori/nibutani/

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