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食べる、歩く、読む、聴く。
神戸の日常を綴るエッセイ
『神戸、書いてどうなるのか』

特集・CLASS KOBE × コロカルニュース

posted:2016.3.27   from:兵庫県神戸市  genre:暮らしと移住 / 旅行

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writer profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。

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Supported by 神戸市

神戸在住のロック漫筆家によるエッセイ

『神戸、書いてどうなるのか』は、神戸出身、在住の
“ロック漫筆家”安田謙一さんが神戸をテーマに書き下ろした一冊。
安田さんは音楽などポップカルチャーを中心に執筆活動をするほか、
ラジオ番組のディスクジョッキーとしても知られるが、
神戸について書いても、その軽妙な語り口は絶品なのであった。

帯には「ガイドブックには載らない神戸案内」とあるが、
かといってディープな神戸ガイド、というわけでもない。
もちろんその側面もあるが、神戸で生まれ育ち、1980年代は京都で過ごすものの、
また神戸に戻って現在も暮らす安田さんが、日常的な神戸を綴ったエッセイだ。
収められているのは、見開きで1本、全部で108本の文章、というのも
煩悩のようでキリがいい。

第1章「食べたり呑んだり、神戸」と第2章「ぶらぶら歩く、神戸」は、
現在も訪れることのできる飲食店やスポットについて触れる。
路地の奥にありそうな味わい深い店の数々は、
それこそガイドブックに載らないような店。だが、どれもうまそうだ。
ネーミングがおもしろい店もよく登場する。
著者が神戸の喫茶店の名前ベストスリーのひとつとして挙げる
〈思いつき〉というのもすごいが、洋食屋の〈赤ちゃん〉というのもいい。
しかも神戸には〈赤ちゃん〉という名前の洋食店が数軒あるというのだからすごい。
4日連続で〈赤ちゃん〉に通った、というエピソードもほほえましい。

それと印象的なのは、温泉がよく登場すること。
神戸というと有馬温泉が有名だが、ここに登場するのは、
灘温泉や湊山温泉、六甲おとめ塚温泉など、
散歩がてらにひとっ風呂浴びるといった、銭湯に近いイメージの温泉。
ぶらぶら歩いて食べて呑んで、浸かる。最高だ。
また、クレイジーケンバンドの小野瀬雅生さんや遠藤賢司さんなど、
著者となじみのミュージシャンがちょこちょこ顔を出すのも楽しい。

videotapemusicによる『神戸、書いてどうなるのか』の予告編動画も。

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いまは失われた神戸の風景も

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第3章の「神戸を読む、観る、聴く、買う」は、安田さんの本領発揮ともいえる章。
古本屋やレコード屋、神戸にまつわる本や映画について書かれた文章が続く。
陳舜臣がその著書『神戸というまち』で、神戸の人間は
「おもろい、おもろくない」という実感を判断基準にすると書いていることや、
神戸に住む筒井康隆にまつわるエピソードもおもしろい。
また著者は映画にも造詣が深いが、なぜかたびたび登場する石井輝男の映画や、
全編神戸ロケで撮影されたという長門裕之と南田洋子主演の
『麻薬3号』(1958年)も見たくなる。

第4章『神戸の記憶』は、いまはもう失われてしまった場所について書かれている。
このあたりから、より著者の「個人的神戸」になってくるのだが、
本全体の割合としてはわずかなものの、第5章の「神戸育ちのてぃーんずぶるーす」は
私小説的な色合いが濃く、思わず引き込まれる。
著者の少年時代から青年時代、そして阪神・淡路大震災。
ウェットになることもなく淡々と書くが、これだけ神戸を愛する人が
めちゃくちゃになったまちを目の当たりにしたときのことを思うと、胸がつまる。

最後に、タイトルについて。
この本のタイトルはもちろん、内山田洋とクールファイブのヒット曲
『そして、神戸』の冒頭の歌詞を文字ったものだが、この曲について

神戸を舞台とした、いわゆるご当地ソングだが、
何度聴いても神戸の“画”を思い浮かべることはない。
(中略)にも関わらず『そして、神戸』が大好きだ。
この曲の神戸という町への思い入れの薄さが、
薄情を通り越して非情な世界を成立させている。

というのには笑った。

各文章のタイトルも気が利いていて、絶妙だ。
そのなかでも筆者の独断でベストスリーを選ばせてもらうなら、
灘温泉水道筋店について書かれた「掛け流されて」、
神戸の方言について触れた「中村とう&よう」、
俳人の西東三鬼が神戸について書いた小説
『神戸』『続神戸』を紹介する「内心、サンキ」。

著者はまさに「書いてどうなるのか」という心境で書き始めたと明かすが、
筆者は読んで、行きたくなった。

各章のあいだには、神戸在住の写真家、永田収さんの写真が掲載されている。右の写真を見て思わず「ゆでめん」が頭に浮かんだが、著者も本文中で「『きしめん』としか書かれていない看板を、『ゆでめん』と変換して、いつもニヤニヤしてしまう」と記していた。

information

神戸、書いてどうなるのか

著者:安田謙一

出版社::ぴあ

価格::1500円(税抜)

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