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posted:2022.6.9 from:神奈川県横浜市 genre:アート・デザイン・建築
PR JICA横浜
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writer profile
Yuri Shirasaka
白坂由里
しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。映画館でのバイト経験などから、アート作品体験後の観客の変化に関心がある。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。
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撮影:ただ(ゆかい)
150年以上前の横浜港。
最初の行き先はハワイ、それから北米、そしてブラジルなど中南米へ。
新天地を求めて、ここから大きな移民船が旅立っていった時代がありました。
その横浜港を望む「みなとみらい」地区に
〈JICA横浜(独立行政法人国際協力機構 横浜センター)〉があります。
館内にある〈海外移住資料館〉では、ハワイを含む北米と、
戦後、JICAの前身組織のひとつである海外移住事業団が移住事業を担った
中南米の国々を主な対象として、日本人の海外移住の歴史を紹介しています。
このJICA横浜 海外移住資料館が、設立20周年を記念して2022年4月末にリニューアル。
昨年には、国際協力をテーマとしたアートワークが常設され、
子どもから大人まで楽しみながら歴史に触れられるスポットとなっています。
それではアートワークから紹介していきましょう。
まず、ふたつのエントランスと館内の柱に、
3つの作品からなる『トラベリング・アラウンド・ザ・ワールド』を展開しているのは、
1965年サンパウロ生まれ、日系ブラジル二世のアーティスト、大岩オスカールさんです。
大岩さんはブラジルで建築を学んだのち、
1991年に東京に移住して現代美術の制作活動を地道に始め、
2002年からニューヨークを拠点に国際的に活躍しています。
自身の生い立ちから日本人移民の歴史にはなじみがあり、
新たにリサーチしたことも交えて描いたといいます。
1階エントランスのガラス扉に描かれた作品
『トラベリング・アラウンド・ザ・ワールド(ニューカントリー)』は、
20世紀初頭の横浜大さん橋から出航する移民船、
中南米へ向かう大海の様子が描かれています。
今回はコロナ禍での制作となり、2階の作品はデジタルドローイングを描いて
シートに印刷する形式に初挑戦していますが、
この1階の作品は、来日して直接マーカーペンで描いたもの。
うねる波にも圧倒されます。
2階エントランスの作品
『トラベリング・アラウンド・ザ・ワールド(大さん橋)』には、
実在した移民船〈天洋丸〉が描かれています。
着物にシルクハットなど、20世紀初頭の人々の描写も楽しめます。
そしてもうひとつ、2階の吹き抜けに面する5つの柱を取り巻く作品にも注目。
ブラジル移民船の第1号である〈笠戸丸〉をはじめ、
日本から中南米、ハワイ、アメリカなどへ渡った7隻の移民船が描かれています。
ちなみに6月18日は「海外移住の日」。
1908年に笠戸丸がブラジルに入港したことにちなんで制定されました。
さて、2階エントランスを入ってすぐのインスタレーションは、
アーティスト藤浩志さんの作品『メッセンジャー』です。
1986年、青年海外協力隊員として
パプアニューギニア国立芸術学校で活動していたことがある藤さん。
このときの経験がのちの制作にも影響を与えています。
今回は、中南米地域の日系人や日系社会ボランティアの人々から集めた
開拓時の苦労話や、日本人が移住地で遭遇した動植物についてのエピソードを展示。
「原生林を開墾中、一番恐ろしかった動物」として語られるオオアリクイ、
「庭に現れる」カピバラなどを「メッセンジャー」と見立てる参加型作品です。
ぜひメッセージを書き残してみてください。
その奥の壁には、横浜在住のイラストレーター、
イクタケマコトさんが描いた大型のドローイングボード『日系移民の歩み』があります。
アメリカや中南米などの日系人が生活するまちの風景、
暮らしの様子、現地の文化などが画面いっぱいに描かれ、
好きなところを自由に塗れるぬり絵になっています。
海外移住資料館の展示とリンクしている絵も多いので説明図も要チェック!
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いよいよ海外移住資料館へ。
ここでは、北中南米への日本人移住の歴史と日系人の暮らしを紹介。
2002年に開館し、延べ60万人以上の人々が訪れています。
展示背景のモノクロ写真がAI技術によってカラーになるなど、
リニューアルによってより幅広い層に伝わりやすくなっています。
まず現れたのは、すべて野菜や果物でできた大きな山車。
1920年、アメリカ・オレゴン州のポートランドの祭りに、
日本人農家が育てた野菜や果物で山車をつくって参加し、
一等賞を受賞した「野菜山車」のレプリカです。
また、ブラジル・アリアンサ移住地の開拓風景を、
トリックアートを用いて再現したコーナーでは、
斧を持って大木を切り倒す瞬間が撮影できます。
床のマークで木の太さなどもわかり、背景の深い森と合わせて、
いかに重労働だったかを察することができます。
移住者たちが何を持っていったのかがわかる、
柳行李(やなぎごうり)やトランクの展示も。
なかにはパスポートや辞書、衣類や化粧品、薬、カメラやラジオ。
アルミの飯ごうや空手着なども見えます。
こうした楽しめる展示の合間に、知っているようで知らない
重要な歴史もしっかり紹介されています。
例えば、独身の男性移住者のもとにお見合い写真や文通のみで嫁いだ「写真花嫁」、
戦後、日本に進駐していたアメリカ軍兵士などと結婚し
海外へ渡った「戦争花嫁」の展示。
第二次世界大戦中の日系人に対する、居住地からの強制退去と収容政策をめぐり、
戦後日系人の名誉回復のためにアメリカ政府に謝罪と補償を求めた「リドレス運動」。
大戦直後のブラジルで、日本の敗戦を信じる、信じないで
日系社会が分断した「勝ち負け抗争」。
戦後、海外から日本に送られた食料品や医薬品などの救援物資「ララ物資」。
日系人の団体も参加しており、祖国への思いが想像されます。
印象的だったのは移住者のたくましさです。
コーヒー・綿花・リンゴ栽培、サケ漁のほか、
クリーニング店、巡回シネマ屋といったさまざまな生業(なりわい)。
日系社会のコミュニティで教育や文化活動に力を入れていたこともわかります。
映画化もされた、カナダの日系二世を中心に結成された野球チーム
「バンクーバー朝日」(1914~1941年に活動)の展示品もありました。
最後に、日系人・日系社会の変遷と現在の姿も紹介されています。
ハワイの日系六世までが一枚に収められたファミリー写真には驚きました。
現在、子孫までを含む海外で暮らす日系人の数は約360万人といわれていますが、
その歴史を知る機会がなかなかないことに気づかされます。
資料館の展示では、点字ブロックや触察案内図、触れる展示の設置、
音声ガイドも導入され、随所でインタビュー映像が流れるなど、
さまざまな層に伝えようとする工夫が感じられます。
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さらに現在のJICA横浜の動向を知ることもできます。
1・2階ギャラリーにはブルーの椅子が並び、
その向こうにJICA横浜が取り組む国際協力や地域連携事業、
SDGs、日本人移住者・日系人支援事業を紹介する常設展示があります。
空間は、建築家ユニット〈dot architects(ドット・アーキテクツ)〉が
世界の海と大陸や島をイメージしてデザイン。
グラフィックデザインは〈UMA/design farm〉が手がけました。
さらに深く知りたい人には、海外移住資料館閲覧室やライブラリーがおすすめです。
そして少し疲れたら、世界各国の味が楽しめるレストラン
〈ポートテラスカフェ〉でひと休み。
ここにもアートワークがあり、日系ブラジル三世として
ブラジルで生まれ育ったアーティスト、ジェームズ・クドウの描いた作品が
3つの柱を包んでいます。
中南米地域の自然から着想を得た鳥や植物などをモチーフとし、
横浜港の海や空とも響き合うカラフルな作品『テリトリアル・ディスプレイスメント』。
屋外テラス席もあり、赤レンガ倉庫や大さん橋などを眺めながら、
先人が旅立った横浜の海に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
海外移住資料館の村上啓子さんは、
「移住先の人々との相互理解や協力しての地域づくりなど、
多文化共生に向けたヒントにもしてほしい」と語ります。
世界に開かれた玄関口である横浜のまちで、
ぜひ海外移住の歴史に触れてみてください。
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