マンゴーではじめる奈良の地方創生。地元の仲間8人で育てた〈大和の果織〉
楽しみながら、まちを盛り上げるインパクトのある特産物をつくりたい
奈良盆地の中央に位置する奈良県磯城郡(しきぐん)田原本町(たわらもとちょう)は、弥生時代を代表する巨大環濠集落〈唐古・鍵遺跡(からこ・かぎいせき)〉で有名な地域。人口は3万人以上で、大阪へのアクセスも良いベッドタウンとして移住者も年々増加している。町域の40%以上が農地であることから、もともと農業が盛んだが、全国的な知名度を持つ特産品が少ないことが課題であった。
「『なんで奈良でマンゴー?』ってよく言われます。謎ですよね(笑)。でもインパクトがあるでしょう。シンプルに面白いなと思って挑戦してみることにしたんです」と話すのは、「田原本みらい計画株式会社」の取締役、若林宏文(わかばやしひろふみ)さん。

きっかけは、田原本町が抱えていた、耕作放棄地対策と、若者を呼び込みたいという課題だった。自治体の課題解決や事業推進を支援する「特命町長室」のプロジェクトを進めていた「株式会社Dooox」に、田原本町の町長から相談が寄せられ、そこで出たアイデアが、地元で観光果樹園をつくること。Doooxの呼びかけに、地元の事業者たちが応じた。
「実際に北海道や和歌山でもマンゴーづくりが成功している事例があったので、奈良でもできると思っていました」
そう話すのは、社長の岡田義則(おかだよしのり)さん。

地元企業5社が出資し、2022年4月に「田原本みらい計画株式会社」を設立。その後、もう1社が加わり、プロジェクトが本格的に始まった。栽培用のビニールハウスには、地元農家が使っていなかったものを1棟、無償で借りられることに。こうして、すぐにマンゴーづくりに取り組む環境が整った。
「現在のメンバーは8名。みんな田原本町が地元で、彼(若林さん)は中学校の後輩です。地域創生が大きなゴールではありますが、僕らとしては“大人の遊び場”みたいな場所でもあります。農業は定年になってもできますし、ゆくゆくは夏場にマンゴーを販売しながら、バーベキューイベントなどできたら、楽しくて人も注目してくれるんちゃうかなと思っています」
農業未経験からの挑戦。初めてづくしのマンゴーづくり
「田原本みらい計画株式会社」のメンバーは、スタート当初は全員が農業未経験だった。南国で育つイメージがあるマンゴーを奈良で栽培するのはハードルが高そうに感じるが、実際はどうだったのか、若林さんに話を聞いた。
「Doooxさんが、鉢植えでマンゴーを育てるノウハウを持った静岡県の業者さんを紹介してくれました。苗木や農業用資材の手配から育て方まで、すべて指導していただいて。病気が出たときや、わからないことがあるたびに助けていただき、初年度から比較的順調に栽培を続けてこられたと思います」

苗木が大きくなるにつれ、収量も上がってきた。取材に訪れたのは5度目の収穫まであと2週間というタイミングで、全部で32本ある苗木にはふっくらとしたマンゴーがいくつも実っていた。
「今年は250個くらい収穫できるんちゃうかなと思っています。去年は100個もいかへんかったんですよ。病気が出たり、真冬に強風が吹いてビニールハウスが飛ばされてしまって、冷気で木が何本かやられてしまったんですよ」
畑仕事はメンバー8名の持ち回りでやっているが、細かい管理は若林さんが中心に行っている。人手が必要な作業の時は、各々の家族や友達が総出で手伝ってくれる。

「1月くらいから花が咲き始めるので、2月下旬〜3月にかけて受粉させます。受粉はハウスに虫を放つのですが、それだけでは足りないので人の手でもやります。綿棒や耳かきの綿の部分を使って一つずつ。その後、温度調整や摘果をしながら実を育て、7月になったら収穫です」

栽培している品種は2種類。ブランド名は奈良の旧国名である〈大和〉 と、マンゴーが持つ豊かな香りを掛け合わせて〈大和の果織(やまとのかおり)〉と名付けた。
通称・アップルマンゴーと言われる「アーウィン」は、しっかりとした甘味が特徴。果実が熟していくと果皮の色が鮮やかな紫色になり、完熟すると落下してしまうため一つひとつ袋をかける作業が必要だ。もう一つの「キーツ」は果実が大きく、熟しても果皮が緑色なのが特徴。味わいはねっとりと濃厚。完熟しても落下することはなく、軸の部分がしっかりと濃いオレンジ色に変わったら収穫のサインだ。

「日に日に大きくなるマンゴーはかわいいですよ。毎朝見にきます」と、笑顔で話す若林さんの言葉に頷きながら、岡田さんもこう続ける。
「生き物を育てているので、大変なことやしんどいことも正直多いです。でも世話すればするだけ応えてくれるので、それも農業の面白いところやなと思ってます」
地元から広がりをみせる、田原本町産のマンゴー〈大和の果織〉
「とれたてのフレッシュなマンゴーが一番おいしい」と若林さん。まだまだ収量が少ないため大々的に出荷することは難しいが、SNSでの発信を通じて、少しずつ存在が知られるようになってきた。現在は新しくビニールハウスを建設中。よりマンゴーが育ちやすい環境を整えて、まずは収量アップを目指している。

「昨年は知り合いに販売したのと、地元のパティスリーでタルトを作ってもらいました。いつも味わっているマンゴーが、パティシエの手が加わることでどんなものになるかと思っていたら、想像していた更に上を行く極上のものを作っていただきました。実に素晴らしかったです。来年の実がどうなるかはまだわかりませんが、4年かけて徐々にちゃんとしたものが作れる自信が付いてきました。来年あたりからは、全国的に発売もできるようにしたいですね」
“奈良でマンゴーをつくる”というフレーズのインパクトは強く、栽培に興味を持った地元の人々が畑を訪ねてきてくれることも増えた。
「空いているビニールハウスがあるからと助けてくれる方もいるし、農業と関係のない方が遊びに来てくれることもあります。僕たちの取り組みを見て『奈良でもマンゴーができるのか』ってことを知ってもらえたらうれしいし、これから生産者仲間が増えて、いろいろ情報交換できるようになったらすごくうれしいです」

1000年以上の歴史を持つ奈良で、マンゴーづくりの歴史はまだまだはじまったばかり。「大和の果織」が大仏のように多くの人に親しまれ、全国区のブランドになる日を楽しみにしていたい。
Information
奈良県磯城郡田原本町で2022年に創業。町の活性化推進活動の一環として「大和の果織」ブランドのマンゴー栽培事業に挑戦している。
Instagram:@mango.0008