連載
posted:2013.2.12 from:長野県長野市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:ただ(ゆかい)
はじまりは、2009年。長野市の善光寺門前町に位置する古い建築物のリノベーション。
建築家、編集者、デザイナーの7人でまちづくりを考える、「ボンクラ」という、
ちょっとふしぎな名前の異業種ユニットを訪ねました。
山崎
こんばんは! 夜遅くにお邪魔します。
広瀬
いえいえ、お待ちしておりました。ここに来ていただくのは、ほぼ1年ぶりですね。
山崎
この連載の第1回目で小布施を訪れて、
その翌日に立ち寄らせてもらったんでしたね。
きょうは、じっくりおはなしをうかがいたいと思っています。
「ボンクラ」メンバーの顔ぶれと、この場所の関係をおさらいしてもいいですか?
太田
はい。「ボンクラ」とは、建築家、編集者、デザイナーの7人で
まちづくりを考える異業種ユニットで、
この2階にシェアオフィスという形態で入居しつつ、この古い建物を
「KANEMATSU」として蘇らせ、プロデュースする役割を担っています。
山崎
きょうの顔ぶれを見ても、30代、40代、50代とそろっていて、職種もバラバラ。
まず、みなさんがどのように集まったのか興味がありますね。
たしか、広瀬さんはこちらのお生まれではなかったと……。
とすると、地元のつながりというわけでもなさそうです。
広瀬
はい。生まれは金沢で、就職してから長野です。横浜の大学を卒業して、
金沢に帰る途中に長野で途中下車をしてしまった、と(笑)。
そのころは信越線が通っていましたからね。
いまは両親もこちらに呼んで一緒に暮らしています。
ただ、金沢もたのしいまちですから、ご縁は残していたいと思っていて、
金沢と長野にふたつのふるさとがあるような気持ちでいます。
山崎
ふたつのふるさと。うーん、すてきだなあ。
金沢と長野って、どこか似ているイメージがあるんですが……。
広瀬
長野市は合併がありましたから、いまは両市とも、人口40万人くらい。
だから、まちの規模的なものは似ていますね。
山崎
ともに、むかしから根づいた文化がありますよね。
中山間地域でありながら、大きな都市で、歴史と文化がある。
広瀬
ただ、城下町と門前町という気質的な違いはありますね。
建築物でたとえても、金沢はやはり洗練されて都会的、
長野はあたたかい木や土を使っていてほっこりとしています。
山崎
太田さんはどちらのご出身ですか?
太田
上田市です。もとは美容師見習いだったんですけど、20歳になる直前で
「グラフィックデザイナー」なる職業があることを初めて知りまして。
「Macで絵を描いて儲かるなんて、いいなぁ」と思ったのがきっかけですね。
広瀬さんたちに出会ったのは、勤めていたデザイン事務所を辞めて、
フリーになって2年目ぐらいのときです。
山崎
独立してすぐだと、しごともなくて大変な時期だったんじゃないですか?
広瀬
それがね、ちょうどよかったんですよ。
ぼくたち「ボンクラ」のメンバーは7名なんですが、5人が一級建築士、
1人はエディター、そして、グラフィックデザイナーの太田くんでしょう。
建物を改装していきながら活動していくには、すごくバランスがよかったんです。
山崎
というと……?
広瀬
彼がまだ暇だったから、ずっとブログを書いてくれていたんです。
写真も撮ってくれて、それが人の目をひくすごくいい写真で。
太田
しごとがなかっただけなんですけどね(笑)。
山崎
つまりおふたりは、この蔵をどうにかしよう、ということで出会うんですか?
広瀬
いや、実は、ぼくは一度ここに入るテナントを探してほしいという
宮本さんからの協力を断ってるんですよね。
もとが工場だったので大きな機械が入ったまま放置されていて、
そのままは使えないし、改修するにしろ、ざっと1000万はかかる状態だったので。
まさかじぶんが入居するなんてまったく視野になかったし、
そのときはまだ太田さんに出会ってもいませんでした。
太田
そういうこと、ぼくは全然わからなくて。
建築家がいればなんとかなるんだろうなんて楽観的に考えて、
この物件に惚れこんだ勢いで、勝手にロゴマークとか作り出していたんです。
山崎
めちゃくちゃ対照的だなあ(笑)。
広瀬
ぼくと初めて会ったとき、もう、パンフレットをつくって、持ってきてたもんね。
契約どころか、大家さんと、まだなんのはなしもしてないのに(笑)。
それで、一緒に入居しませんかって誘われて……
すぐに「入る!」って返事をしてました。
山崎
え? 広瀬さんが誘われたほうだったんですか。
うーん、それは意外だったなあ(笑)。
(……to be continued!)
information
KANEMATSU
長野県善光寺門前に位置する建物。倉庫として使われていた3つの蔵を、鉄骨や木造の平屋でつなぎ、現在は、ここをプロデュースするクリエイティブユニット「ボンクラ」のシェアオフィスのほか、カフェ、古本屋、不動産屋などが入居する。
住所:長野県長野市東町207-1
profile
TAKESHI HIROSE
広瀬 毅
1961年石川県金沢市生まれ。横浜国立大学工学部建築学科を卒業。長野で設計事務所に勤務の後1998年に広瀬毅|建築設計室を設立。長野県建築士会まちづくり委員長。2009年に「LLP.ボンクラ」を7人の仲間で立ち上げ、事務所を長野市善光寺門前の工場として使われた古い倉庫「KANEMATSU」に移転。ストックを生かす建築のあり方を模索している。また中山間地のコミュニティのこれからを考えるうちコミュニティ・デザインに出会う。東京芸術学舎の山崎亮氏の講座を受講し、さまざまな地域の人々と交流を深めている。代表作に『霊仙寺の家』(長野県建築文化賞最優秀賞/飯綱町)、『仙仁温泉岩の湯』(須坂市)。リノベーションでは『リプロ表参道』(長野市)、『日和カフェ・まちなみカントリープレスオフィス』(長野市)などがある。
profile
NOBUYUKI OTA
太田伸幸
1981年長野県上田市(旧丸子町)生まれ。美容室、建築関係、デザインプロダクション勤務の後、 2008年マンズデザイン主宰。広告のデザイン・アートディレクションの他、長野市内中学校への 美術授業ボランティア、地元の芸術家とともに地域と関わるアート活動企画・主催。2009年~シェアオフィス「KANEMATSU」協同運営。
profile
KEI MIYAMOTO
宮本 圭
1970年長野県生まれ。工学院大学工学研究科建築学修了後、宮本忠長建築設計事務所勤務を経て、シーンデザイン一級建築士事務所を設立。建築とその周辺にあるものを面白く結びつけていくためのプロジェクトに多数携わる。ツリーハウスプロジェクト、絵馬プロジェクトなど。2009年に有限責任事業組合ボンクラを立ち上げ、善光寺門前にある素敵な古い建物で、建築家・編集者・デザイナーが集まり、単なる建築の再生だけでなく、地域やコミュニティの再生も視野に入れたプロジェクトカネマツを実践中。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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