連載
posted:2013.2.15 from:長野県長野市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:ただ(ゆかい)
はじまりは、2009年。長野市の善光寺門前町に位置する古い建築物のリノベーション。
建築家、編集者、デザイナーの7人でまちづくりを考える、「ボンクラ」という、
ちょっとふしぎな名前の異業種ユニットを訪ねました。
山崎
ここは善光寺のほんとすぐそばですが、
このエリアってもともとどういう場所なんですか。
広瀬
この辺は、いわば問屋街ですね。
ただ、昭和40年代に郊外に問屋団地をつくって
一斉にそっちへ移転してしまったそうです。
残念ながら、ほとんどは駐車場になっていて、当時の面影はないですが。
山崎
でも、ここは残っていたわけですね。
広瀬
そうですね。その後も工場として細々と稼働していらしたんですが、
結局それも撤退せざるを得なくなって。
じぶんたちは出て行ってしまうけれど、それでもなにかのカタチで
まちに貢献できないかという大家さんの想いを受けて、
「KANEMATSU」という会社の名前を残しました。
山崎
2009年当初、メンバーが最初にイメージしたのはもうこのカタチだったんですか。
宮本
550平米もあるから、正直、広瀬さんと一緒で、
はじめはじぶんひとりではできないと思ってましたね。
山崎
そりゃあそうだ(笑)。
太田
でも結局、ぼくと宮本さんが惚れた勢いで暴走気味に
東京のシェアオフィスだとか横浜のBankART1929(*1)だとかに行って、
気になるひとに会って、めちゃくちゃ勉強して、
大家さんに会って口説いて……(笑)。
宮本
大家さんは、じぶんたちがシャッターを下ろしたまま、
まちに対してしっかり貢献できなかった、というのを悔やんでらしたんです。
そんな想いをうかがって、じゃあ、
「金松/KANEMATSU」という屋号を残しながら、
ここを拠点とするぼくらがお祭りに参加する、
地域の掃除に参加するということを約束します! ということを
契約に盛り込んだんです。
だから代わりに、5年間だけ家賃を安くしてもらえませんか、と。
山崎
なるほど。
広瀬
ぼくらのようなあたらしい人間が突然まちに入ってくるだけでも、
まちのひとたちにはいろいろな感情があるわけですから、
よそ者としてそれなりに謙虚でいなければ、と最初からはなし合ってきました。
ひっこしのときはしっかりご近所にあいさつまわりもしましたし。
宮本
いまでも毎年お正月には、全員でキモノを着て、善光寺に初詣したあと、
ごあいさつまわりに行くのが恒例です。
*1 BankART1929:横浜市が推進する歴史的建造物を活用した文化芸術創造の実験プログラム。BankART(バンカート)は元銀行であったふたつの建物を芸術文化に利用するという意味を込めた造語。http://www.bankart1929.com/
広瀬
これだけ大きなハコですから、7人が事務所として借りるだけではなく、
まちに賑わいをつくるイベント的なことができればということも
当初から考えていました。
それで、まずは近所の神社のお祭の日に合わせてイベントをやろう、と。
山崎
それに間に合わせなくちゃいけないわけですね?
太田
9月に契約して、お祭が11月。もう、片づけるのが精一杯でしたね(笑)。
広瀬
片づけている最中から、信濃新聞の記者さんが追いかけてくれていて、
そんな効果もあり、約400人の方々に来ていただきました。
山崎
それが、2009年のことですね。
広瀬
片づけただけのがらんどうでもできることってなんだろう、というところから、
はじめの1年は隔月ペースでフリーマーケットをやったりしていました。
山崎
「ボンクラ」のスタートメンバー以外、つまり、このカフェみたいに
テナントで入っているひとたちはどういうふうに集まってきたんですか?
宮本
クチコミやひととの出会いのなかで、
「やりたい」というひとがあらわれてきた、という感じです。
たとえば、この「壁一面の本棚」はぼくがつくりたくてつくったんですけれど、
「こんな店をやりたいなあ」という本屋さんがあらわれて。
「やっぱ、事務所にはカフェが欲しいよねー」って、キッチンをつくったら、
ここでカフェをやりたいというひとがあらわれて(笑)。
山崎
あはは、相変わらず先走るんだなあ(笑)。
広瀬
というようないきさつで、ちょっと変わった不動産屋さん、
壁一面が書棚に囲まれた古本屋さん、それにこのカフェなど、
いまはぼくたち5社を含め、12社14名でこの「KANEMATSU」を共有しています。
(……to be continued!)
information
KANEMATSU
長野県善光寺門前に位置する建物。倉庫として使われていた3つの蔵を、鉄骨や木造の平屋でつなぎ、現在は、ここをプロデュースするクリエイティブユニット「ボンクラ」のシェアオフィスのほか、カフェ、古本屋、不動産屋などが入居する。
住所:長野県長野市東町207-1
profile
TAKESHI HIROSE
広瀬 毅
1961年石川県金沢市生まれ。横浜国立大学工学部建築学科を卒業。長野で設計事務所に勤務の後1998年に広瀬毅|建築設計室を設立。長野県建築士会まちづくり委員長。2009年に「LLP.ボンクラ」を7人の仲間で立ち上げ、事務所を長野市善光寺門前の工場として使われた古い倉庫「KANEMATSU」に移転。ストックを生かす建築のあり方を模索している。また中山間地のコミュニティのこれからを考えるうちコミュニティ・デザインに出会う。東京芸術学舎の山崎亮氏の講座を受講し、さまざまな地域の人々と交流を深めている。代表作に『霊仙寺の家』(長野県建築文化賞最優秀賞/飯綱町)、『仙仁温泉岩の湯』(須坂市)。リノベーションでは『リプロ表参道』(長野市)、『日和カフェ・まちなみカントリープレスオフィス』(長野市)などがある。
profile
NOBUYUKI OTA
太田伸幸
1981年長野県上田市(旧丸子町)生まれ。美容室、建築関係、デザインプロダクション勤務の後、 2008年マンズデザイン主宰。広告のデザイン・アートディレクションの他、長野市内中学校への 美術授業ボランティア、地元の芸術家とともに地域と関わるアート活動企画・主催。2009年~シェアオフィス「KANEMATSU」協同運営。
profile
KEI MIYAMOTO
宮本 圭
1970年長野県生まれ。工学院大学工学研究科建築学修了後、宮本忠長建築設計事務所勤務を経て、シーンデザイン一級建築士事務所を設立。建築とその周辺にあるものを面白く結びつけていくためのプロジェクトに多数携わる。ツリーハウスプロジェクト、絵馬プロジェクトなど。2009年に有限責任事業組合ボンクラを立ち上げ、善光寺門前にある素敵な古い建物で、建築家・編集者・デザイナーが集まり、単なる建築の再生だけでなく、地域やコミュニティの再生も視野に入れたプロジェクトカネマツを実践中。
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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