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長野 Part3
ツリーハウスが教えてくれたこと。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.054

posted:2013.2.22   from:長野県長野市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:ただ(ゆかい)

はじまりは、2009年。長野市の善光寺門前町に位置する古い建築物のリノベーション。
建築家、編集者、デザイナーの7人でまちづくりを考える、「ボンクラ」という、
ちょっとふしぎな名前の異業種ユニットを訪ねました。

シャッターを開けるひとたち。

山崎

テナントの仲間に、不動産屋さんも入ってるんですね。

宮本

そうなんです。これが、ずいぶんニッチな不動産屋さん(*1)で。
普通は貸したいひとがいてしごとが発生しそうなものですが、彼の場合は、
まずはまちを自転車でまわって、空き物件をじぶんで見つけてくるんですよ。
そのあとしっかり調べて所有者を見つけたら、まずはお手紙を出し、
東京だとか横浜だとかにいる大家さんのところに出向いて
「貸していただけませんか」と言いに行くんですよね。
もちろん、いちどだけでなく、なんども。

太田

ぼくらも一時期、R不動産のまねごとというか、
ボンクラ不動産みたいなことをやろうとしたことがあるんですけど、
本職の片手間ではとうてい無理だな、と。

宮本

彼が現れてくれたことで、このまちの動き方やスピードが
まるで変わったな、と感じています。

広瀬

ふつうの不動産屋さんが絶対仲介したがらない物件ですからね。
家賃3万ぐらいの賃貸ですからね、
仲介したって、利ざやなんて出ないのに、ですよ。

宮本

それでも、今後こういうことが必要になってくると
彼は確信をもってやっているので、
ぼくらもどうしたらサポートができるかなって考えているところです。

広瀬

そう考えると、改装費ではなく、むしろ不動産屋さんに
行政の補助金なんかが出るといいのに、と思いますよね。

山崎

そうですね。不動産ではありませんが、たとえば林業組合では、
長い年月を経て曖昧になったり分散したりしている山の所有者に
コツコツとハガキを出し、訪ねてはなしをし、
ある程度一括して組合が管理ができるようにという手続きを
公共の資金で行っている地域があります。
いまのはなしも、理論としてはこれと同じ。
閉じてしまったまちのシャッターを、開けさせるための
基礎合意を得ていくという手続きですものね。

*1 株式会社MYROOM:「KANEMATSU」に入居する不動産屋(代表・倉石智典)。門前町のリノベーション物件賃貸仲介を得意とする。http://myroom.naganoblog.jp/

「Book&Cafe ひふみよ」

北国街道から一筋入った静かな住宅街にある、元酒屋をリノベーションした「Book&Cafe ひふみよ」。2階は和室にこたつというほっこりカフェ。開店までの道のりが、お店のブログにていねいに書かれています。おでかけコロカル・長野編『眺めの良い2階での読書がおすすめ!「Book&Cafe ひふみよ 」』

出版社「まちなみカントリープレス」本社

こちらは、信州のタウン情報誌「KURA」で知られる出版社「まちなみカントリープレス」本社。元は倉庫だった廃屋を広瀬さんがリノベーション。「ここを手がけたことも、ボンクラを始めたきっかけのひとつです」(広瀬さん)。

フリーペーパー「日和」と連動した「hiyori CAFE」

「まちなみカントリープレス」の1階は、フリーペーパー「日和」と連動した「hiyori CAFE」。

女性のためのシェアハウス「アン・ハウス」のリーフレット

MYROOMが物件を探し、広瀬さんがリノベートを手がけた最新の物件は、女性のためのシェアハウス「アン・ハウス」。

自由で、みんなが素人になれるツリーハウス。

宮本

わかりやすい歴史価値のある建物の保存だけでなく、なんでもないこの場所に
お金やひとや価値が集まる仕組みをつくりたいなって思うんです。

山崎

そこに、デザインが必要なんです。
行政だって、すぐれた事例には助成金を出したいはずなんですから。

宮本

そういえば、ぼくがデザインのチカラを思い知ったのは、
太田さんと初めて出会ってたずさわったツリーハウスづくりでしたね。

山崎

太田さんがツリーハウスの……デザインを?

宮本

いや、勝手にキャラクターをつくったり、ちらしをつくったり、です(笑)。

広瀬

ボンクラのときと一緒だよね(笑)。

宮本

でも、そのことでみんなのモチベーションがみるみるあがるんです。
実際に向かうべきイメージがはっきり共有できて、
関わるひとたちがどんどん増えていくというか。
デザインのチカラってそうだったんだ! って。

太田

ぼくは写真が好きでイラストレーターがちょっと使えるから、
じぶんができることをやっただけなんですけどね。

宮本

正直言うと、はじめに「ツリーハウス」をつくろうとしたとき、
建築家なのにつくり方がまったくイメージできないじぶんに愕然としたんですよ。
鬼太郎やハックルベリーさえつくれるのに!(笑)

太田

その後、ツリーハウスプロジェクトを名乗って、
ただつくりたくて、たのしみたくて、これまでに4棟つくりました。
ぼくらにとってツリーハウスは、ひととの関わりのためのツールという感覚ですね。

宮本

おもしろいのは、「ツリーハウス」と言ったとたんに、
建築関係者だけでなく、アーティストやデザイナーや、
いままで一緒になにかをやったことがなかったひとたちが集まってくるということ。
なにより、「建築ってそういうもんだ」という思いこみから完全に自由になれるし。
これまで味わったことのない感覚でしたね。
そんなときに出会ったのが、この古い物件。
だから、この広い建物群を異業種多人数でシェアするという考えが
自然に生まれたんです。

(……to be continued!)

飯綱のキャンプ場のなかに宮本さんたちがはじめてつくったツリーハウス

善光寺界隈から車で30分ほどにある、飯綱のキャンプ場のなかに宮本さんたちがはじめてつくったツリーハウス。「つくってるあいだにも、木が成長しますからね。こんなにおもしろいことはない」(宮本さん)。(写真提供:太田伸幸)

ツリーハウスプロジェクトのリーフレット

ボンクラのはじまりに、ツリーハウスプロジェクトあり。「しかも廃材を利用してつくってるんですね!」と山崎さんも興味津々。

information

map

KANEMATSU

長野県善光寺門前に位置する建物。倉庫として使われていた3つの蔵を、鉄骨や木造の平屋でつなぎ、現在は、ここをプロデュースするクリエイティブユニット「ボンクラ」のシェアオフィスのほか、カフェ、古本屋、不動産屋などが入居する。

住所:長野県長野市東町207-1

Web:http://bonnecura.naganoblog.jp/

profile

TAKESHI HIROSE 
広瀬 毅

1961年石川県金沢市生まれ。横浜国立大学工学部建築学科を卒業。長野で設計事務所に勤務の後1998年に広瀬毅|建築設計室を設立。長野県建築士会まちづくり委員長。2009年に「LLP.ボンクラ」を7人の仲間で立ち上げ、事務所を長野市善光寺門前の工場として使われた古い倉庫「KANEMATSU」に移転。ストックを生かす建築のあり方を模索している。また中山間地のコミュニティのこれからを考えるうちコミュニティ・デザインに出会う。東京芸術学舎の山崎亮氏の講座を受講し、さまざまな地域の人々と交流を深めている。代表作に『霊仙寺の家』(長野県建築文化賞最優秀賞/飯綱町)、『仙仁温泉岩の湯』(須坂市)。リノベーションでは『リプロ表参道』(長野市)、『日和カフェ・まちなみカントリープレスオフィス』(長野市)などがある。

Web:http://hirose-aa.com/

profile

NOBUYUKI OTA 
太田伸幸

1981年長野県上田市(旧丸子町)生まれ。美容室、建築関係、デザインプロダクション勤務の後、 2008年マンズデザイン主宰。広告のデザイン・アートディレクションの他、長野市内中学校への 美術授業ボランティア、地元の芸術家とともに地域と関わるアート活動企画・主催。2009年~シェアオフィス「KANEMATSU」協同運営。

Web:http://www.manz.jp/

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KEI MIYAMOTO 
宮本 圭

1970年長野県生まれ。工学院大学工学研究科建築学修了後、宮本忠長建築設計事務所勤務を経て、シーンデザイン一級建築士事務所を設立。建築とその周辺にあるものを面白く結びつけていくためのプロジェクトに多数携わる。ツリーハウスプロジェクト、絵馬プロジェクトなど。2009年に有限責任事業組合ボンクラを立ち上げ、善光寺門前にある素敵な古い建物で、建築家・編集者・デザイナーが集まり、単なる建築の再生だけでなく、地域やコミュニティの再生も視野に入れたプロジェクトカネマツを実践中。

Web:http://scenedesign.jp/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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