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連載

〈森びとの会〉
国産の木材を愛する
家づくり集団

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.073

posted:2015.8.21  from:全国  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:高見知香

自然素材住宅のため、思いをひとつに

葉山に建築中の、ある立派な戸建て住宅。国産木材で建てられている。
建築士は地元・鎌倉にアトリエを構える日影良孝さん。
施工会社は東京の〈エコロジーライフ花〉。
使用している木材は宮城の〈くりこま木材〉。
実はこの3者は、〈森びとの会〉を結成しているおなじみの仲間だ。

森びとの会は、現在5社が集まり、
国産材を中心に、自然素材の家づくりを目指す集団。
思いをひとつにする工務店が集まり、1社ではできないことも、協力して行っていく。
日影さんはオブザーバーを務めている。

「ひとつの工務店で得られる知識量は、
たとえ積極的に勉強をしていたとしても限られます。
しかし何社か集まって、講師を呼んでセミナーを催したりすることで、
より情報を得られます。例えば、この木造2階建てを建てるとき。
通常は耐震対策としては合板を使いますが、
“それを使わずに無垢材を利用したいときは、どうすればベストか”。
構造の大家に聞きに行き、大学で実験もしました」と教えてくれたのは、
自身も一級建築士であるエコロジーライフ花の直井徹男さん。

「同じ方向性の考え方を持っている者同士で、宣伝して、信用力を高めていきたい」と、
くりこま木材の大場隆博さんも言う。

通常の合板ではなく、無垢材でも斜めにすることで、耐震性を高められる。

(左から)エコロジーライフ花の直井徹男さん、建築士の日影良孝さん、くりこま木材の大場隆博さん。

自然素材の家を建てることが山の活性化へ

エコロジーライフ花の直井さんは、
自然素材へのこだわりを「起業してからのポリシー」だと語る。
「昔ながらの素材を使うことを心がけていきたいと願って会社を始めたけど、
当初は材料が手に入らないし、職人もおらず、しんどかったですね。
町場の材木屋さんに行っても、商社から買った外材のオンパレード。
自ら山にも行ったけど、まだ閉鎖的な社会で、国産材は出てきませんでした。
そんなとき、大場さんに出会い、オール国産材という夢が叶いました」

10数年前、大場さんに宮城県の栗駒の森を見せてもらったという。
光の射す森もあるが、薄暗い森が多い。下草も映えておらず、細い木ばかり。
森の問題点をまざまざと見せつけられた。
もちろん大場さんの思いは、そんな森を改善していくこと。
いまのままでは、日本にとっても海外にとってもいいことはない。

「外材は、途上国で乱獲されている木材が多い。
つまり私たちはほかの国の森を荒らしているんです。
しかも、国内の森も手入れをしないので、荒らしている。
だから、自分たちの森に手を入れてきれいにすることで、
他人の森を荒らさないようにしたいと思いました」(大場さん)

どちらにとっても、よくない負のスパイラル。
そしてまさに目の前にあるのは、荒れた森。これを放置するわけにはいかない。

「荒らした森の木を、誰かが使わないといけません。
そうしないと、次世代にいい森を残せるわけがない。
なんとか建築材として利用していきたい」(大場さん)

木の香りがすがすがしい建築中の家から。各所のこだわりを説明してくれた。

そうした山側の気持ちをくんだ仕事を、日影さんも心がけている。
日影さんは、山に行って、森を見て、木を見て、丸太を見ないと図面を書けないという。
それはすべてが顔の見える関係ということ。

「大場さんに、建て主と会ってもらうことはとても重要なんです。
木を準備する人も、建て主の顔を思い描いて仕事できる。
これができるのとできないのとでは、大きな違いです」(日影さん)

「誰かわからないのと、あの人だ! って顔が思い浮かぶのとでは、
モチベーションが全然違います。
逆に、建て主もどこの木材を使っているか、理解につながる。
それは知らないうちに宮城の森を守っていることになるんです。
僕たちみたいな小さな工場が各地にたくさんあれば、
森の活性化につながると思います」(大場さん)

通常は隠れてしまう壁の中。構造的な特徴である登り梁は、大きな屋根でひさしを深く出すため。

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なぜ大工が不足するのか

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大工がいない!

国産の無垢材を使わなくなった弊害として、大工の不足が挙げられる。
木造住宅自体の減少、そしてプレカットの増加などによって、
大工が育つ環境が失われてきた。
エコロジーライフ花には、大工が9名いるが、
60代が3人で、その下はいきなり30代だ。
脂の乗ってくる40〜50代の担い手が少ない。いまがんばらないとつながらない。

「工務店は職人がいないと成り立ちません。
営業能力だけではなく、国産無垢材に手をかけていける職人。
彼らを育て、技術を伝えていくには、
仕事を生み出していかないとなりません」(直井さん)

「設計事務所の役割として、デザインや間取りを考えるだけではなく、
仕事を生み出すことも大切だと思います。
職人にとっては、国産材に墨付けして(加工の方法を木材に墨で線を引くこと)、
刻んだ(加工すること)ほうが腕が伸びます。
いい木に刃物を入れるときはドキドキして丁寧に臨むので、
必然的に職人技術を向上させるのです」(日影さん)

実は、森びとの会に入りたいという声はほかにもあるが、
合板不使用の壁が超えられないらしい。
無垢材を扱える大工がいないから、合板を使わなければならないという理由だ。
技術を持った大工がいないから、国産無垢材を扱えない。
だから大工が育たないという悪循環。

「お客さまも、日影さんや直井さんのところにきて、
このような現状を知っていくのです。
だからこちら側がちゃんと伝えていく義務があります。
特に、木の家に住みたいという希望を持っている人たちには、
本物を提示したいです」(大場さん)

「若い世代に伝えていくには、設計力やデザイン力も大事です。
伝統的な木組みを使っても、民芸的な重たいイメージにする必要はありません。
プレーンでやさしいものをつくれる設計力。軽やかに見せるデザイン力。
それには、木を見る力と選ぶ力が必要なんです」(日影さん)

仕事をつくることで、大工を育てていく。大工へ最大限のリスペクト。

「僕は鉛筆で図面を描くだけですが、大工は手で木を持ちます。
絶対的に私とは違います。木を持ち、木を選び、墨付けして、刻む。
最高の技術とセンスです。神は細部に宿ります。
最終的につくるのは大工ですから」(日影さん)

森びとの会が望む木造住宅には、大工が絶対に必要となる。
森の危機は、こんなところにも波及しているのだ。

エコロジーライフ花の若き棟梁、坂田玲史さん、34歳。「大工の伝統的な作業が大好きです」

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家が調和すべき3つの環境

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国産材をふんだんに使った家

そんな3者で協力して、現在、葉山に建てられている住宅。
構造材や造作材のほとんどは、栗駒のスギを使用。1階の床はクリ、2階はスギだ。
クリは、ナラやサクラなどとともに、堅木と呼ばれる広葉樹。
強度を保ちながら、軽く、空気を含んでいるのであたたかみがある。
「スギとも相性がいい」と日影さん。

離れには、茶室のような小部屋を予定。
この部屋には、かつてこの地に建っていたほかの建物の天井板を再利用している。
味が出て、いい感じの飴色になっていた。
エイジングされたものを愛でる、木ならではの利用法だ。

古材を使って、建築中から味のある天井。

スギの木目が美しい天井。

2階の天井には何かの筋のようなものが残っていた。
「くんえん(燻煙)乾燥した跡が少し残っています。
だけど1、2年で紫外線を吸収して消えますよ」(大場さん)
くりこま木材により手間のかけられたくんえん乾燥の証拠だ。

建て主の要望もあって、壁は土壁。蓄熱や調湿効果に期待している。
もちろん木にも高い調湿効果が備わっている。
4寸角(12センチ角)のスギの柱1本で、ビール瓶2本分の吸放湿能力があるという。

日影さんは、住宅における木の使い方について、ある哲学を持つ。
「家は環境に調和しないといけないと常々思っています。
それは3つあります。ひとつ目は自然環境。ふたつ目は周辺環境。
もっとも大切な3つ目は家族の環境です。
家族のたたずまいに応じて、木を使い分けなくてはなりません。
静かな夫婦、ヤンチャな家族……。だから実際に会ってから、図面を引きます。
今回は重厚なイメージで、通常12センチの構造材を、15センチにしました。
柱が15センチだと、梁も15センチです。節アリの木材もあえて使っています」

継ぎ手で長くしたり、美しい伝統技法は、大工の腕の見せどころ。

木の生長を見届けることはできない、ゆえに子どもたちのため

東日本大震災が起きたあと、すぐに3者は協力して
〈手のひらに太陽の家プロジェクト〉が始まった。
震災で被災した子どもたちの支援と、被災地活性化のために建設された復興支援施設。
地元木材と自然エネルギーを活用した自然共生型施設だ。

これまでのような関係性があったからこそ、すぐに動き出せた。
子どもたちはとても喜んでくれた。木をめぐる文化は、息の長い話。
これからを担う子どもたちのためにも、
「小学校や幼稚園なども国産無垢材でつくりたい」という。
木の素晴らしさを体感した彼らが大人になって、国産無垢材で家を建てる。
知らないうちに山づくりに参加しているのが理想。
結局、山に帰っていく。だから森びとの会。

くりこま木材の大場隆博さんが取り組んでいる箸の試作。

information

森びとの会

http://moribitonokai.net/

エコロジーライフ花
http://www.ecohana.com/

くりこま木材
https://www.facebook.com/kurimoku

日影良孝建築アトリエ
http://hikage-atelier.com/

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