連載
posted:2015.8.27 from:神奈川県横浜市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:斉藤有美
創業して45年、横浜市にある〈小林住宅工業〉。
かつては新建材などを使った家づくりを行っていたこともあったが、
15年ほど前から、自然素材のみを使う家づくりにシフトした。
そのスタイルを「自然流(じねんりゅう)」と名づけ、
以来、木にあふれるライフスタイルの一端を担ってきた。
「社長は10代半ばで大工になり、30代でこの会社を立ち上げて以来、
とても勉強熱心です。自然素材のみでやり始めた頃は、変わり者扱いされたようです。
いまもって、反骨精神は強いですが」と笑うのは、
小林康雄社長の代わりに答えてくれた営業部の綱崎丈太郎さん。
小林住宅工業の基本建材は、構造材は和歌山の紀州材、
床は栃木の八溝杉、天井は秋田杉を使用している。
特に構造材を購入している〈山長商店〉とは、
小林住宅工業が自然素材を使い始めた当初からつき合いがある。
「山長商店は、林業からプレカットまで一貫して行っている珍しい会社です。
だからコストも抑えられるし、品質が高い木材を出してくれます。
木材は乾燥がとても重要で、強度にも関係してくるのですが、
適正な乾燥具合になるように1本1本、水分を測っているんです。
“自然素材ならなんでもいい”ではなく、
強度にも気を使っていかなくてはなりません」(綱崎さん)
「産地によって、木のつくり方は違いますが、いい年輪にするのは簡単ではありません。
年輪が詰まっているということは、目が詰まっているということで、強度があります。
栄養を与えるとどんどん生長しますが、
大きいけれど目が詰まっていない弱い木が育ってしまいます。
だから、絶対的な期間が必要なのです」と言うのは、工務課の佐藤周平さん。
木は建材として使えるまで育つのに、何十年もかかる。
それをむりやり生長させようとすると、無理が生じる。
しかも、自分たちがすぐに育てて使えるわけではない。
「うちでは構造材はおもに50〜60年の木を使用していますが、
それは上の世代が植えたものです。
そしていま植林している木も、使うのは僕たちではなく次世代。
そういったことも考えて植林から一貫している山長商店さんは、
信用できるんです」(佐藤さん)
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山を学ぶことも、家づくりのひとつの要素と言ってもいい。
小林住宅工業のセミナーに山長商店を招いたり、
社員が泊まりがけで山を見学しに訪れるなどの交流も行われている。
「お客様が山を訪れることもよくあります。
自分が建てる家の構造材がどんな山や森で育てられているか。
木1本を育て、木材にすることがどれだけ大変で、
どんな人がどんな思いで関わっているのか。
それらを知ってもらういい機会にもなります。
以前、娘さんが3人いる施主さんがいて、それぞれ1本ずつ
化粧柱用の木材を選ばせていた方もいらっしゃいました」(佐藤さん)
山で自分が選んだ木が、完成した家の柱になっている。
とても感慨深いものになりそうだ。
これらの大切に育てられた良質の木材を扱うのは、自社大工だ。
いまは家づくりも効率化・簡略化されてきて、いわゆる大工を必要としない場合が多い。
そんななかで、小林住宅工業は大工、しかも自社大工にこだわっている。
「やはり自社の大工だとお客様の思いが直接伝わりやすいと思います。
建てている最中にお客様に会うことも多いので、つくりやすいし、気持ちも入ります」
と言うのは棟梁の湯井勝政さん。
建築士は小林住宅工業の仕事のみを請け負っている、〈槐建築設計〉という
設計事務所が担当している。高根沢明宏さんが答えてくれた。
「見ばえがかっこいい家をつくることも当然心がけていますが、
それ以上に住み心地を大切にしています。
住み心地はすべてが数値には表れるものではありません。
ですが、小林住宅工業の住宅は、使う素材への安心感など、
自信を持って“住み心地がいい!”とすすめられます」
大工も自社内、そして設計事務所も専属。
設計と大工が近く、スモールパッケージであることが、
相談しやすく風通りのいい環境を生み出している。
素材や工法などへの理解がより深まるものだろう。
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自然素材にこだわるのは、安心して健康に過ごしてもらいたいから。
とくに多湿な日本において、湿度調整機能というのは重要だ。
「湿度は30%以下だとウイルスが発生しやすいし、
80%を超えるとカビが発生しやすいといわれています。
断熱材にはセルローズファイバーを使用しています。
新聞紙からリサイクルされた自然素材ですが、断熱性能はもちろん、
湿度調整機能もとても優秀です。
しかもこれ自体をつくるときのエネルギーも断熱材のなかで一番小さく、
ゴミになったとしても再生可能です。
もちろん木自体にも、放湿・吸湿機能が備わっています。
家全体で湿度調整してくれるんです」(綱崎さん)
今回訪れたのは、小林住宅工業の社員でもある佐藤さんのお宅。
たしかに足を踏み入れてみると、真夏であったが、
暑くはあっても湿気は少ないように感じた。もちろんすべてが国産材。
「ストレスを感じないし、子どもがよく寝ます」と、
安心した暮らしを体感しているようだ。
佐藤さんはもちろんすべてを把握して家を建てたわけだが、
お客さんのなかには、小林住宅工業を訪れて勉強し、
「これなら安心」と納得して購入する人も多いという。
床材はスギを使っている。しかも通常は厚さが12ミリ程度のところ、
小林住宅工業では30ミリを標準使用だという。スギはやわらかく、温度も高い。
床暖房ナシでも結構あたたかい。
なるべく家自体の力で、温度や湿度にも対応していきたい。
それが健康住宅。
自然素材にこだわった住宅で気持ちよく過ごすことが、健康につながるのだ。
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小林住宅工業
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