真鶴の豊かな海を発信する
〈ディスカバーブルー〉と
〈真鶴町立遠藤貝類博物館〉

磯の下に広がる世界

「海で遊ぶ」というと、どんなものを思い浮かべるだろうか? 
海水浴やサーフィン、スキューバダイビングなど、
海の中に入って楽しむものを想像する人が多いかもしれない。
しかし、神奈川県南西部にある真鶴町では、海に入らなくても遊ぶことができる。
「磯遊び」だ。

真鶴半島の先端、崖の上から急な階段を降りると、180度海が見渡せる磯にたどり着く。
右を見れば伊豆半島。左を見れば三浦半島や、遠くに房総半島も見える。
この場所、実は潮が引くと、正面にある「三ツ石」と呼ばれる
3つの大きな岩までの道が現れる。そうなったときが磯遊びのチャンスだ。

正面に見えるのが三ツ石。引き潮のときだけ陸続きに歩くことができる。

「磯の観察をするときは、引き潮になるときを狙います。
風向きによって波が立っている場所が変わるので、
なるべく穏やかなところのほうがいいですね」

楽しそうにそう語るのはNPO法人〈ディスカバーブルー〉の寺西聡子さん。
真鶴に事務所を構えるディスカバーブルーは、海の魅力や生き物を知ってもらうために、
町内外に向けてワークショップや研修を行う団体だ。
取材中も寺西さんは、滑りやすい海藻のつく岩の上を慣れた足で飛び越え、
どんどん先に行ってしまった。

ディスカバーブルーの寺西聡子さん。2012年から活動に参画したという。

寺西さんが磯に入って数分。あっという間にナマコを見つける。

「これは脱皮直後のヒライソガニです。触ってみるとわかりますが、脱皮したてだとまだ甲羅がやわらかいんです」

遠くで見ればただの岩場でも、石を持ち上げるだけで違う世界が広がる。
たった数分でそのことを実感できてしまった。

大地と人が守った生態系

寺西さんによると、真鶴の海にこれだけの生き物が集まるのは偶然ではないという。
それは真鶴半島の成り立ちにまで遡る。
真鶴の土地はもともと、火山の噴火によって流れ出た溶岩でできている。
砂が堆積した土地と違い、真鶴のように溶岩でできた土地の場合は、
固定されているので海藻が育ちやすい。海藻が育つと、それを食べる生き物が増える。
さらにその生き物を目当てに魚が集まる……というように生き物が増えていくのだ。

もちろん、神奈川県内だけでも三浦や葉山など、砂浜でなく磯の海岸はある。
しかし、その中でも真鶴は圧倒的に生き物の数が多いという。

「真鶴は磯の手前に道路を挟んでいないんです。山から海まで一直線につながっている。
これはすごく生き物にとっていいことなんです」

神奈川県の海岸線沿いの多くには、大きな道路が走る。
しかし道路があると、車の騒音やライトなど、
生き物にとっての海の環境が悪くなってくるのだという。
しかも、土地がコンクリートで埋め立てられていると、
雨が降ったときに本来土を通り抜けて流れるはずの雨水が直接海に流れ込む。
そうすると海水の塩分が急激に下がり、海の生き物が生きづらくなってしまうのだ。

真鶴は半島が突き出ているため道路が海岸線沿いを走らない。
代わりにあるのが「お林」と呼ばれる豊かな森だ。
かつて皇室が所有していたこの森は開発から免れ、
いまでも県立自然公園として保護されている。

「土地と歴史。あとは海流や海の深さ。いろんな条件が重なって、
真鶴は海の生き物にとってすごく生きやすい環境になっているんです。
私もすべての海に行ったわけではないですが、石をひっくり返すだけで、
あんなに簡単にナマコを見つけられるところはなかなかありません」

writer profile

川口瞬 Shun Kawaguchi
かわぐち・しゅん●1987年山口県生まれ。大学卒業後、IT企業に勤めながらインディペンデントマガジン『WYP』を発行。2015年より真鶴町に移住、「泊まれる出版社」〈真鶴出版〉を立ち上げ出版を担当。地域の情報を発信する発行物を手がけたり、お試し暮らしができる〈くらしかる真鶴〉の運営にも携わる。

photographer profile

川瀬一絵 Kazue Kawase
かわせ・かずえ●島根県出雲市生まれ。2007年より池田晶紀が主宰する写真事務所〈ゆかい〉に所属。作品制作を軸に、書籍、雑誌、Webなど各種メディアで撮影を行っている。
http://yukaistudio.com/

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