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釧路の名店〈豊文堂書店〉
古書も地産地消?!
まちの歴史と文化を束ねる本屋

おでかけコロカル|北海道・道東編

posted:2016.11.12   from:北海道釧路市  genre:旅行

〈 おでかけコロカルとは… 〉  一人旅や家族旅行のプラン立てに。ローカルネタ満載の観光ガイドブックとして。
エリアごとに、おすすめのおでかけ情報をまとめました。ぜひ、あれこれお役立てください。

photographer profile

Yayoi Arimoto

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。

writer profile

Chie Takekawa

竹川智恵

ライター。北海道釧路市生まれ、知床斜里町在住。世界遺産の自然や野生動物だけではない、知床斜里の文化や歴史、人々の営みを伝えるリトルマガジン『シリエトクノート』編集部の一員。おいしい!きれい!おもしろい!など、シンプルな感動が執筆の原動力。
シリエトクノート
http://siretoknote.main.jp

港町・釧路には、まちの文化の薫りを色濃く醸す古書店があります。
釧路駅の駅裏と呼ばれる地区で30年以上営業している〈豊文堂書店本店〉と、
喫茶店を併設する支店の〈豊文堂書店北大通店〉。
一歩店内に足を踏み入れると、まるで本の海に飛び込んだような、
本好きにはたまらない空間が広がっています。
常連客や旅人を魅了するふたつの古書店で、
本のこと、お店のこと、地域と文化の話をお聞きしました。

まず向かったのは駅裏の本店。
小さな店構えですが、特に北海道に関する書籍が多数そろっています。
うず高く積まれた本の中を進むと、
奥のカウンターから社長の豊川俊英さんが顔を出してくれました。
「図書館分類は無視して、独自の並べ方をしているの。そのほうがおもしろいでしょ」

釧路の基幹産業である漁業や石炭業に関する本、北方領土や樺太に関する文献、
多彩な文庫本、レコードなど、
棚を細かくみていくと、不思議なくらい次から次へと気になる本が出てきます。

気さくな雰囲気の豊川さん。探している本の名前を告げると、「ああ、あれね」とすぐに棚から出してきてくれました。

カウンター横の棚には、
昭和30年代のベストセラー、釧路を舞台にした小説『挽歌』が有名な原田康子さんや、
釧路出身の直木賞作家、桜木紫乃さんの著作がずらり。
ふたりを育てた釧路の同人誌『北海文学』のバックナンバーも揃っています。

少しどんよりした霧の日が多い釧路の夏。
「やっぱり、この気候が文学を育てるんだろうねえ」と、豊川さんはしみじみ語ります。

豊川さんは釧路出身。大学時代を東京で過ごし、その後、
かつて釧路にあった百貨店〈丸三鶴屋〉で婦人服のバイヤーなどを務めました。
東京転勤となったのち、東京の古書店を巡っているうちに
「自由でいいなあ」と思い立ち、1982年、故郷に戻って豊文堂を開業。
30年以上、この地で古書店の灯をともし続けています。

地域の歴史を残すこと、受け継ぐこと

豊文堂書店の本の仕入れは、ほとんどが釧路やその周辺。
以前は東京や札幌で行われる古書組合の競りにも参加していましたが、
今は店の品揃えや経費を考え、地元で仕入れるのが理にかなっているそう。
豊川さんは「買い入れは個人のほうが多いかな。
地元の歴史や産業の本は地元で仕入れるのが一番だし、地産地消だね」と話します。

そんな豊川さんが今、力を入れているのは釧路を中心とする道東の『学校史』です。
少子化や過疎化でどんどん地域の学校が閉校してしまう時代。
学校史は地域の歴史そのものであり、
懐かしんで記念誌を手に取るお客さんも多いと言います。
「なくなっていくから、貴重になるんだよね」
地域の歴史を残すこと、それを受け継ぐこと、
大切な役割の一端を担っているという自負が見えました。

豊文堂書店北大通店の店先。夜は北大通のオレンジ色の街灯に照らされています。

「あっちはあっちでおもしろいよ」という豊川さんに別れを告げて向かったのが、
釧路駅から幣舞橋までの目抜き通りに面した〈豊文堂書店北大通店〉です。

ここは1階が古書店で、2階が喫茶店。オフィス街でありながらビジネスホテルも多く、
観光客やビジネス客などさまざまな人が訪れやすい場所です。
「観光に来たみなさん、荷物になるのもいとわずにけっこう買っていってくれますね」

1階の店長・川島直樹さんが、入り口そばのカウンターで迎えてくれました。

カウンター前に並ぶ古書。寺山修司や須賀敦子、小檜山博、そしてトイレに関する本。幅広いです。

北大通店の選書や運営を任されている川島さん曰く、品揃えは「本店より一般的」。
釧路の郷土史はもちろん、文学や自然、食、SF、アート、サブカルチャーなど、
幅広いジャンルで、専門性が高いもの、視点が鋭いタイトルが並んでいるのに驚きます。

川島さんの得意分野、映画に関する本やパンフレットも豊富で、
カウンターの後ろには過去の映画のチラシなどがびっしり貼られています。
「余白恐怖症で、すき間があると貼ってしまいます」と笑う川島さん。
ビジネス書と自己啓発本以外は、ほぼ網羅しているそうです。

無数のパンフレットやフライヤーに囲まれる川島さん。豊文堂書店のウェブサイト右下のほうで「本日の在庫お問い合わせ」という、クスッと笑える備忘録を更新しています。

川島さんも釧路出身。中学生の頃から本店の常連客として文庫本を読みあさり、
市外に進学・就職しても、帰省のたびに店を訪れていたとのこと。
転機は2003年。本店の豊川さんから
「北大通店を始めるから、店長をやらないか」
とスカウトされて、そのまま店長に。驚くような成り行きですが、
「本が好きだったのでありがたかったです」と話します。

閉店した隣の画廊から譲り受けたマッチラベル。

古い電話や掛け時計、アサヒビールの看板など、
本に混じってディスプレイされている品々は、不思議と店の雰囲気とマッチしています。
隣の画廊が閉店するときに譲り受けた古いマッチラベルのコレクションは、
歴史を感じるレトロなデザイン。

「お客さんからの買い入れ次第で棚がどんどん変わっていく。
いつもおもしろい本が入ってきますよ」
川島さんの言葉から、本とお店への愛がにじみ出ていました。

階段横の棚にある食に関する本。女性に人気のコーナーです。

食の本棚を眺めながら階段を登れば、2階には〈喫茶ラルゴ〉があります。
ブラウンのフローリング、オレンジ色の照明、大きな窓から見える北大通の風景など、
老若男女の誰もがくつろげるであろう、落ち着いた雰囲気です。

ラルゴのマスターは、はにかんだ笑顔が素敵な豊川大輔さん。
社長の豊川俊英さんの息子さんです。釧路で生まれ育ち、
神奈川県の機械工場などで働いたあと、北大通店の2階が空いていたことから、
2006年に念願の喫茶店をオープンしました。

スパゲティやハンバーグなど洋食メニューにドリンクが付く
日替ランチ(880円)が人気ですが、ブレンドコーヒー(430円)、
クレームブリュレ(300円)など手づくりスイーツも充実しています。
季節限定のカボチャプリン(400円)は、やさしい甘さが口の中に広がりました。

カボチャプリンとブレンドコーヒー。

年10回ほど開催している音楽ライブもラルゴの特徴。
音楽好きな大輔さんがセレクトするさまざまなジャンルのアーティストが、
アットホームなライブを繰り広げます。大輔さんは
「もともと音楽ができるお店を開きたかった。これはずっと続けていきたいですね」
と思い入れを語ります。

ラルゴの豊川大輔さん。1階の川島さんとはまるで兄弟のようです。

三者三様で、居心地のよい雰囲気をつくり出す豊文堂の3人。
チェーン店では決して出せない各店の個性はゆるく、熱く、心地よく感じられます。
ぜひふたつの古書店をはしごし、ラルゴでひと休みし、
情緒あふれる釧路のまちと文化に触れてみてください。

information

map

豊文堂書店本店

住所:釧路市白金町1−16

TEL:0154−22−4465

営業時間:10:30〜18:00

定休日:月曜日

※駐車場あり

http://houbundou.com/

information

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豊文堂書店北大通店

住所:釧路市北大通8−1

TEL:0154−31−4880

営業時間:10:00〜19:00

定休日:不定休

※駐車場あり

information

喫茶ラルゴ(豊文堂書店北大通店2階)

TEL:0154−64−6028

営業時間:11:00〜20:00

定休日:日曜祝日・第3土曜日

http://houbundou.com/largo.html

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