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地方創生を背負って、
霞ヶ関から長門市へ

山口県長門市×星野リゾートで挑む
〈長門湯本温泉〉再生プロジェクト
vol.003

posted:2018.7.24  from:山口県長門市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  老舗ホテルの廃業や公共施設の赤字をかかえ、窮地に追い込まれる
温泉街の事例は全国にあります。山口県長門市では星野リゾートとタッグを組み、
〈長門湯本温泉観光まちづくり計画〉を基にした“新しい方法”で温泉街を再生する事業を進めています。
コロカルではその試みをルポしていきます。

writer profile

Akiko Nokata

のかたあきこ

旅ジャーナリスト、まちづくり人案内人、温泉ソムリエアンバサダー。旅行雑誌の編集記者を経て2002年に独立。全国で素敵に輝く〈まち、ひと、温泉、宿〉を見つけ出し、雑誌などで聞き書き紹介。旅館本の編集長。テレビ東京『ソロモン流』出演後、宿番組レギュラーも。本連載では撮影にも挑戦! 東京在住の博多っ子。
http://nokainu.com

credit

写真:長門市広報、のかたあきこ

誰と組み、どう進めるか……。
まちづくりを左右するチーム編成の行方は?

例年、雨に泣かされる「湯本温泉まつり」だが、2018年4月1日は天気に恵まれた。
子どもみこしが温泉街を練り歩き、桜風吹が音信川(おとずれがわ)に舞う、
そんな美しい風景の1日だった。

子どもみこしを迎える桜の〈きらきら橋〉。

子どもみこしを迎える桜の〈きらきら橋〉。

日が暮れ始めた河原ではバーベキューの準備が行われていた。
送別会だという。
手際よく食材を用意するのは、
長門市役所・成長戦略推進課の中原美可子さん。
同じ課の松岡裕史さんと管田央信(かんだひさのぶ)さんは
プロジェクターを設置している。

温泉街の〈荒川食品〉店主で
湯本まちづくり協議会の会長を務める荒川武美さんや旅館関係者、
プロジェクトメンバーなど20人ほどが、
楽しそうに会話をしながら主役を待っていた。

ほどなく現れたのは、
長門市役所・経済観光部長の木村隼斗(よしと)さんだ。
3年間の勤務を終えて、明日東京へ戻るという。
石段を降りながら、
「仕事でお世話になった方の結婚式に出ていました。
ちゃっかり温泉に入って、着替えてきました」
と照れくさそうにしている。

送別会は足湯がある思い出の河原で行われた。

送別会は足湯がある思い出の河原で行われた。

木村さんは2007年から東京・霞ヶ関の経済産業省で働く官僚だ。
長門市へは2015年4月、国が行う〈地方創生人材支援制度〉でやってきた。
この制度は、第2次安倍改造内閣が2014年9月に設置した
「まち・ひと・しごと創生本部(通称、地方創生本部)」が窓口になっている。

ホームページに、こう説明がある。
「地方創生に積極的に取り組む市町村(原則人口5万人以下)に対し、
意欲と能力のある国家公務員・大学研究者・民間人材を
市町村長の補佐役として派遣しています(原則2年)」

初年度は、中央省庁の官僚らを中心に派遣された。
例えば福井県鯖江市へは財務省から、
群馬県みなかみ町へは大学研究者が、静岡県伊豆市へは内閣府から、
島根県海士(あま)町へは文部科学省から派遣されている。
赴任先はマッチングで決まる。

木村さんは説明する。
「地方創生を語ると長くなりますが、ひとことで言うと、
人口減少へのチャレンジなんです。
人口減少を迎えている市町村に私たちも入り込んで、
その解決法を一緒に悩み、見つけていきましょう、
それが〈地方創生人材支援制度〉の目的だと理解しています」

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31歳、初めての地方勤務

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市役所職員がまず行動、100社ヒアリングへ

辞令交付式。木村さん(左)と大西倉雄・長門市長(右)。

辞令交付式。木村さん(左)と大西倉雄・長門市長(右)。

2015年4月15日、長門市役所では木村さんの辞令交付式が行われた。
報道資料にはこう紹介があった。
「木村氏には、経済観光部理事(ながと成長戦略担当)として、
ながと成長戦略行動計画の事業展開
(直売所整備、ながとブランドの育成・有限責任会社(LLC)による
全国展開など)にあたって、総合調整役を担っていただくとともに、
『長門市版総合戦略』の策定づくりにも
中心的に参画していただくこととしています(一部抜粋)」

大きな期待のなかで迎えられた木村さん。当時31歳。
奥さんと小さな息子さんを連れて、初めての地方勤務だった。長門市はこの時が初訪問。
長門湯本温泉の第一印象は「人通りのない温泉街」だった……。

音信川の足湯に腰掛け「不安になった」と、着任当時を振り返る。
「この静かすぎる温泉街は活気を取り戻せるか。
市が解体した旅館跡地をどうするかが地域の未来を左右するだろう。
自分はどこまで力を尽くせるか」
それが今から3年前。

木村さんは長門市経済観光部理事として、
着任後半年かけて市内100社を目標に企業ヒアリングを実施した。
中小企業の力を知るためだ。食品製造業、建設業、観光業……、
もちろんその中には長門湯本温泉(湯本温泉旅館協同組合)も入っていた。

旅館協同組合青年部の伊藤就一さんと大谷和弘さん。

旅館協同組合青年部の伊藤就一さんと大谷和弘さん。湯本で生まれ育ったこのふたりが、内と外をつなぐ架け橋。

「旅館協同組合の青年部と話をして、
その時はまだ、温泉街活性への思いはあるが、誰かがまとめてくれないか、
という雰囲気でした。
後継者不足などプレイヤーが少ないなかで、
小さな街の30~40代は発言すること自体が、
想像以上のハードルとわかりました。
その上の旅館の親父さんたちも、やってきた思いは強かった。
すごくがんばってきた自負はあるけれど、
それでも新しいお客さんは呼び込めない。
諦めのムードも感じられました」

だから長門湯本のプロジェクトでは、
「やる“べき”より、おもしろそうでワクワクするからやる」
を大事にしようと考えていたという。

100社ヒアリングは市役所の外へ向かっているようで、
実は内へも向かっていた。
「市役所もちゃんと事業者と話をする、
事業者と一緒になって将来の社会をつくっていく
ということを役場内外に見せたかった」という。
ヒアリングに同行した職員から
「市が企業の役に立っているかなんて考えたこともなかったけど、
話を聞かなきゃわからないことがあると思った」
「国から来た木村さんだって
特別なヒアリングをしているわけではない。自分もできると思えた」
「市役所も稼げる仕組みを学ぶ必要があると感じた」
といった意見が出たそうだ。

よりよき方向を目指し、苦楽をともにした。

よりよき方向を目指し、苦楽をともにした。

そういうやりとりを通して、
市役所の若手プロジェクト〈まち・これ長門〉が動きだし、
そこでの長門湯本地区担当として活躍していたのが、
先の松岡さんであり、管田さんであり、中原さんであり、山根章徳さんだった。
〈まち・これ長門〉は地域課題の分析、政策立案・提言を行う集まりだ。
プロジェクト名は、まちづくりのこれからと、まちの魅力を
コレクションしながら考えていこうという思いを込めてみんなで決めたそうだ。

とは言っても、「最初は相当受け身だったと思います」と木村さん。
「みんな本業が別にあり、長門湯本のまちづくりに関しては
プロジェクト単位で合間に関わっていた印象でした。
だからこの4人を専任チームにして、ともに過ごす時間を増やすことで
プロジェクトの可能性と危険性とおもしろみを共有していきました。
一番バッターとして出る杭になってくれたのが松岡さんです」

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プロジェクト推進メンバーを探す

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チームづくりこそ時間をかけるべきだ

その頃、長門市は星野リゾートと事業協定を結び、
「長門湯本温泉観光まちづくり計画」のベースとなる
マスタープランを委託していた。
2016年6月に発表されたその内容には共感したものの、
誰を中心に進めていくかは見えていない現実があった。
「取り回すのが相当難しい案件だと思った。
だから深くコミットして、
チーム編成こそ慎重に進める必要があると考えた」と木村さん。

しかしまわりは急がせる。
「地域からも、早くやってくれという要望が強かった」
いい計画ができると一刻も早く実現してほしい、というのが人の気持ちだという。
またもうひとつには、これまで何度も計画倒れがあったからだ。
今だったら前へ進めそうだから、
行政が動かしてくれるだろうからタイミングをのがしたくない、と。

木村さんは考え、大西市長に申し出た。
「半年、時間をください。
プロジェクトを成功に導く推進チームをつくるためです」と。
市長は、快諾した。

半年の間、木村さんが行ったこと。まずは官民の振り分け。
そのためにFS(フィジビリティスタディ)調査を依頼した。
行った理由は、「マスタープランを動かし、持続させるには
民間事業者の力を最大限引き出すことが不可欠だから」
依頼先は株式会社YMFG ZONEプラニング(通称、YM-ZOP/ワイエムゾップ)という、
山口銀行が地方創生を専門に手がけるためにつくったコンサルティング会社だ。

FS調査は事業化可能性調査とも呼ばれる。
中小機構、中小企業支援などの際に行われ、
企業(経営者)が投資を行って長期的に収益をあげられるか。
その経営判断ができる客観的な材料を取りまとめて総合的に評価する。

温泉街を見守る住吉神社参道のお地蔵様。

温泉街を見守る住吉神社参道のお地蔵様。

「どこが民間でできて、どこはできないのか、事業性を見てもらいました。
さすがに階段は公共。公衆浴場は民設・民営でも運営可能。
そういう風に、マスタープランの“こういう施設があったらいい”という絵を、
民間でどこまでできるか、誰だったらできるかを、色塗りしていきました」
と木村さんは説明する。

まちづくりこそ、地方銀行と一心同体となり進めることが必要だ。
「地域の発展と自組織の利益が一致するのは地方銀行。
そう言えば僕は経済産業省の採用面接を受けた際、
地方銀行の可能性について話していました。
YM-ZOPには期待しているし、個々の担当者には嫌がられるだろうとは自覚しつつ、
何度も協力を仰ぎました」

FS調査と同時進行で、プロジェクトの推進メンバーを探した。
まずは司令塔となる人物。
とにかく会って話を聞くこと、資料を読みあさること、考え抜くこと。
ひとつずつ今できる最善を地道に繰り返した。
自分ひとりでは限界がある時はチームで手分けして行った。

そのうえで推進メンバーを選ぶ公募型プロポーザルを実施した。
経済観光部理事から経済観光部長となった2017年4月のことだ。
「競争の土俵をつくって、いろんな人に手をあげて競ってもらう。
誰と組むかを見極める判断を、まちを代表する立場で
行政側が持つために必要なことだと考えた」と木村さん。

そうして司令塔をはじめ、各ジャンルの専門家が決まり、
長門市内外のメンバーで構成される推進チームができあがった。
その顔ぶれは次回以降で紹介していく。

はじまりの悔しさを忘れないでおく

松岡さん編集の映像メッセージで3年間を振り返った。

松岡さん編集の映像メッセージで3年間を振り返った。

チームができあがった2017年度、ものすごいスピードでプロジェクトは進んでいった。
毎月のデザイン会議、住民説明会、推進会議……、
そして2018年4月1日。木村さんの送別会では、
地域や世代を超えてさまざまなメッセージが贈られた。
川岸の壁に、それが映し出された。

「木村さんのおかげで湯本がよくなっていく気がしています」と、老人会のみなさんはエールを贈った。

「木村さんのおかげで湯本がよくなっていく気がしています」と、老人会のみなさんはエールを贈った。

なかでも湯本の老人会の言葉にはみなが感動しているようだった。
このメッセージが贈られる木村さんは見事だが、
こんな気持ちを伝える老人会もすてき! どんな方たちなのだろう。
そしてふるさとが変わりゆく様を、日々どんな思いで見ているのだろうか。

「この3年を振り返り、ひとつひとつ真摯に向きあうこと。
やり続け、積み重ねることは大事だと身を持って学びました。
部下へのメッセージ? 心配? そうですね。
もともとの危機感、出発点を、
廃業旅館を税金で解体までしないといけないことに陥った温泉街、
ということはどこかで覚えておく必要があると感じています。
スタートがそうだったとわかっていると、日々がんばれると思いますので」
木村さんはゆっくりと言葉を選びながらそう語った。

そして、
「あと、僕は結構、悲観的なので(笑)、あえて言い残しておくと、
まだ何もできていないじゃないですか、実は。
なのに、うまくいっている感じがですぎている気がして怖い。
でも温泉街の若手をはじめ、関わるみんながすごく日々ワクワクしているし、
だから期待しています!」

日本海を一望する長門市日置(へき)町の千畳敷。

日本海を一望する長門市日置(へき)町の千畳敷。

後日、東京で木村さんと再会した。
長門の海と温泉が恋しいと言わせんばかりの無機質な高層ビルで。
「僕は仕事上、ひとつのところにいても2年3年です。
日々状況が変わるなかで日々判断をしていかなければいけないから、
昔はこうだったとか、こうあるべきだとか、口を挟みたくはない。
長門は、がんばっている人をたくさん知っているまちとして、
応援や関わりはできることなら持っていたいです。
少なくとも家族で遊びには行きたいですね。
密な時間を過ごさせてもらいました」と、木村さんは話を締めくくった。

こうして、人との出会いと別れがチームを強くさせると感じた。
意志のある人の活発な往来が、まちを魅力的にしていく。
新しい人を迎えては見送ることを続けるのは、
それはそれで体力がいることと思うけど。
次回もお楽しみに。

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