連載
posted:2017.12.21 from:岩手県西和賀町 genre:食・グルメ / 買い物・お取り寄せ
sponsored by 西和賀町
〈 この連載・企画は… 〉
岩手県の山間部にある西和賀町。
積雪量は県内一、人口約6,000 人の小さなまちです。
住民にとって厄介者である「雪」をブランドに掲げ、
まちをあげて動き出したプロジェクトのいまをご紹介します。
writer profile
Hiroko Mizuno
水野ひろ子
フリーライター。岩手県滝沢市在住。おもに地元・岩手の食や暮らし、人にまつわる取材や原稿執筆を行っている。また、「まちの編集室」メンバーとして、「てくり」および別冊の編集発行などに携わる。
credit
撮影:奥山淳志
岩手県の山間部にある西和賀町。
積雪量は県内一、人口約6,000人の小さなまちです。
雪がもたらす西和賀町の魅力あるコンテンツを、
全国へ発信していくためのブランドコンセプト〈ユキノチカラ〉。
西和賀の風景をつくりだし、土地の個性をかたちづくってきた雪を、
しっかりタカラモノとしてアピールしていくプロジェクトです。
今回は、西和賀のローカルフード「納豆汁」を紹介。
また、「発酵」をテーマにしたツアーの案内もありますので、
雪国の暮らしに興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
12月も半ばを過ぎると、西和賀町一帯はすっかり雪に覆い尽くされる。
長く厳しい冬を健康に過ごすための料理として、
この地域で昔から食べられてきたのが「納豆汁」だ。
納豆独特のねばりが味噌に溶けこんで、とろっとして冷めにくく
寒さで冷えた体を芯から温めてくれる。
納豆汁そのものは、西和賀町だけでなく秋田県や山形県など、
北国の冬料理としてなじみ深いのだが、
西和賀流の納豆汁は、納豆をすり鉢でしっかりすり潰してから入れるのが特徴。
果たして、どんな風につくるのか? まちの料理名人、山本郁子さんの家を訪ねた。
出迎えてくれた山本さんが、さっそく納豆汁づくりに取り掛かる。
「昔から大きな鍋でたっぷりつくって、家族みんなで2〜3日かけて食べたりしたものです」
そう話しながら、手は休むことなく具材の下ごしらえを進めていく。
主役となる納豆は、すり鉢を使って丁寧につぶすのがポイントだ。
混ぜている間に、納豆の糸がきめ細かく泡立ってくるのだが、
よく混ぜることで納豆菌はより活性化し、
血液がサラサラになることで知られる「ナットウキナーゼ」が豊富になるという。
まちの自慢のワラビやキノコなどの具を、たっぷり入れた納豆汁は食べごたえも十分。
昔は、自家製の豆腐や納豆、味噌などを使うことも多く、
保存食を上手に生かした雪国料理のひとつとして、各家々に伝わってきたそうだ。
お隣の横手から嫁いできた山本さんがつくる納豆汁は、秋田県横手流。
定番料理だが、少しずつつくり方が違っているのも家庭料理らしい。
■材料(約10人分)
納豆…2パック(1パック約100グラム)
煮干し…5〜6個
芋の子…大7〜8個
油揚げ…5枚
ワラビ水煮…1袋
豆腐…1丁
味噌…適量
サワモダシ、ナメコ…適量
ネギ…適量
1. 鍋に煮干しと人数分の水を入れ、適当な大きさに切った芋の子とともに火にかけて沸かす。
2. その間に、納豆をすり鉢で泡立つくらいにすり潰す。
少量のお湯を加えるとすり潰しやすくなる。
3. 油揚げを細切りにし、1のだし汁に加えて弱火で煮る。
4. 芋の子が煮えてきたら、1~2センチ程度に切った
ワラビ、サワモダシ(ナラタケ、ボリとも呼ばれる)やナメコを入れる。
5. ひと煮立ちしたら味噌を溶き入れ、サイコロ状に切った豆腐を入れる。
6. すりつぶした納豆をゆっくり回し入れ、沸騰する前に火を止めてできあがり。
7. お好みで刻んだネギなどを乗せていただく。
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西和賀町内では〈レストハウスゆのさわ〉や〈湯夢プラザ〉、
〈道の駅 錦秋湖〉でも、気軽に納豆汁を味わうことができる。
また、温泉街の中には宿泊客向けに納豆汁を提供する宿もあるそうだ。
そんな、西和賀町のスタンダードな納豆汁を、自宅で誰でも
再現できるように生まれたのが、なんと〈納豆汁の素〉である。
西和賀町・左草畑作生産組合のお母さんたちがつくる、まちの人気商品だ。
毎年10月から3月にかけて、お母さんたちが週1回ほど集まり、
工程のほとんどを手作業で行っている。
7~8年前、左草地区出身だった役場職員の働きかけによって、
地元の食材を生かした商品をつくろう! と開発されたのだとか。
皆、昔は畑で採れた大豆で納豆をつくり、それを生かして
納豆汁をつくったそうだが、商品にするとなれば話は別だ。
「機械はどうするのか、包装はどうするのかってね。
秋田の製造会社に見学に行って勉強もしたのよ」と、お母さんたちは振り返る。
11月上旬、〈納豆汁の素〉づくりのためお母さんたちが集まっていた。
年間約8000パックを売り上げるそうで、この日は250個をつくる予定だ。
寒さが増すにつれ販売数も増えていくため、11~12月は働き時。
〈納豆汁の素〉とは、あらかじめ味噌と混ぜ合わせた納豆を
機械で細かくつぶし、2食分ずつラッピングしたもの。
具材を入れただし汁に、必要な分量の納豆を溶かすだけなので
すり潰す手間がないことが手軽さのポイントだ。
味のきめ手となる味噌も、左草畑作生産組合が30年以上前からつくってきた、
〈ゆきっこ味噌〉を使用。
西和賀産大豆をじっくり3年熟成させた麹味噌で、
そのまま味噌汁にしても深いうまみがある。
納豆5キロに対して、味噌はたっぷり3.5キロを混ぜ合わせるが
ずっしり重い味噌と粘りが強い納豆を合わせる作業は、なかなかの重労働。
下からグッと引き上げて、まんべんなく味噌をからめていく。
ミキシング担当のお母さんは、「腰にくるわ」と言いながらも
元気に作業をこなしていた。
機械で細かく刻んだ納豆は、1パック分ずつ計量し、木型に詰めて形を整える。
平たく伸ばして成形することで、だし汁に溶けやすくなり、
余計な加熱も必要ないため、ナットウキナーゼも成分を失わないというわけだ。
皆、普段から納豆汁はよく食べるそうで、
なかには、自宅で収穫した大豆で納豆をつくるという方も!
味噌と納豆の発酵食品パワーのおかげか、ひと仕事終えたお母さんたちの笑顔はつややか。
ひとつひとつ丁寧につくり上げた〈納豆汁の素〉は、
西和賀町内の〈湯夢プラザ〉〈道の駅 錦秋湖〉にて販売している。
北国の知恵が生み出した、西和賀町の納豆汁。
どんな寒さのなかでもこの一杯があれば大丈夫、
そんな安心感と懐かしさがある、優しい味わいだ。
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納豆汁をはじめ、雪国ならではの食文化に恵まれた西和賀。
新鮮な食材が手に入りにくい冬、
「発酵」は長期保存を可能にし、食材の栄養価を高める優れた方法なのだ。
さて、2018年2月に行う第2回ユキノチカラツアーでは
その「発酵」をテーマに、雪国の暮らしと美しい自然をめぐる2日間を予定。
なんと、全国各地で発酵醸造の講師を務める、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんも同行!
幻の「雪納豆」づくりのワークショップや郷土料理づくり、砂ゆっこ(温泉)など
西和賀の食文化と豊かな自然を体感できる旅は、
きっと、参加者の心と体を元気にしてくれる。
ツアー募集の詳細は、後日発表されます。ご期待ください。
information
ユキノチカラツアー 「2018雪国の発酵をめぐる旅」
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