連載
posted:2014.12.23 from:東京都神保町 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:本の使い方、出版から提案する新しいライフスタイルビジネス。「コンテンツワークス」前編 はこちら
オンデマンド出版の黎明期から業界を牽引してきたコンテンツワークス。
紙は「想いをより伝えるメディア」と考え、
オンデマンド出版を通じて、変化するひととひとの関係性に着目してきた。
「わざわざ紙にしなくても出版できる時代に、
わざわざ紙にするというのは“想い”があるんです」
と語るコンテンツワークス社長の荻野明彦さん。
だからこそメディアの使い方から、コミュニケーションの方法を
提案したいと考えるのだという。
誰もが出版できる時代。「何」を伝えたいと考えるニーズがあるか。
そこにマスメディアと違ったメディアの意味がみえてくる。
「たとえば地域おこしやまちづくり、家族や介護の分野でも変化が起きる」
と考える荻野さん。
コンテンツワークスの考える「想いをより伝える」を取材した。
今年、絵はがきアプリ「moca」をリリースした。
コンテンツワークスが提案する「想いを伝えるメディア」のアプリ化だ。
スマートフォンで撮った写真をそのままハガキにして相手に送ることができる。
「写真を送るのっていま大変じゃないですか。プリントして封筒につめて。
だからスマホでいい写真がとれたら、そのままハガキで送れないかなと思って」
と荻野さん。
そのアイデアはこんなことから生まれた。
「もともとは“親孝行”から始まったんです。
スマホで自分の子どものかわいい写真が撮れたとき、
それを自分と妻の両親にそれぞれ送ったら喜んでもらえるのではないかと」
日々成長する「孫」の姿を絵はがきで両親に送る。
これはご両親にとっては嬉しいはがきだ。
スマホで撮って、mocaのアプリを立ち上げると
登録してある住所にそのまま送れる。
2枚で500円。夫婦がそれぞれの親に送るイメージなのだそうだ。
切手代も含まれている。
親孝行以外にもいろんなコミュニケーションの場面で使える。
「たとえばいま僕はこうしてインタビューを受けていますが、
いまこの場で写真を撮って“今日はありがとうございました”と
お礼状にして送ることができる。営業にも使えると思うんですよ」
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出版が出版業界のものだった時代からパーソナルなものに変わり、
メディアの意味も変わってきている。
「あるお客様が自分のお父さんの想いやお母さんの想いを
インタビューしてご両親のために本をつくったんです。
フォトバックを使って8ページほどの簡素なものなんですが、
ご両親にプレゼントした。
そのあとお父さんが病気をされて、病院で寝たきりになってしまった。
病室の枕元にその本を置いておいたら、
看護師さんたちがその本を見てくれたんです」
すると看護師さんたちの態度が変わったという。
「まず、たくさん話しかけてくれるようになった。
それはそのひとがそれまでどういう人生を歩んできたかとか、
どういう想いがあったのかというのがわかると、ひととしての気持ちが生まれる。
その患者さんへの対応が全然違っていったんです。
それを先生が見ていて患者さんと看護師のコミュニケーションのために
とてもいいじゃないかということになった」
荻野さんはパーソナルな領域での出版が
家族のコミュニケーションや
介護の現場を変えていく可能性があると考えるようになった。
そしてひとりひとりの人生に
スポットライトをあてる仕組みができないかと考えた。
「いま“自分史”をつくって、
子どもが親にプレゼントすることができないかと考えています。
カメラマンとインタビュアーが出かけて行って8ページ程度の冊子にするんです」
「じつは今年の夏に親父が亡くなったんです。
意外と親父の話って知らないことに気づいて。
死んでからおふくろの口から出てくる話があったり。
恥ずかしいんだけど、親父とかおふくろのこと知っておきたいよね。
だからお金を払ってインタビュアーを派遣するのはどうだろうって考えたんです」
家族が相手だとなかなか話しづらいことも、インタビュアーだと話しやすい。
いまサービスの準備段階として友人たちの協力でサンプルを作成しているという。
フォトバックのサービスは地域活性やまちづくりにも活用可能だ。
国土交通省によると2050年には人口減少で日本の国土の約6割が
無人地帯になるという。
荻野さんは地域の魅力をまとめた地域ジャーナルで地域再生を考えている。
「このままでは町や村の多くは消えてしまう。
だからこそいま地元のひとしか知らないエピソードを
冊子にしてそれを残していきたい。
いま日本には1741の市町村があるんですが、
それぞれの“地域ジャーナル”をつくることを提案したいんです」
それぞれの地域のひとが写真やエピソードで語る地域の魅力。
「それが新たな日本の発見につながり、活性化につながれば」
と荻野さんは考えている。
ジャーナルはフォトバックのテンプレートから作成する。
さらにそれを各国の言葉で翻訳すれば、海外向けの観光ガイドとして使える。
「いまフィリピンの会社と提携を進めているんですが、
データを2〜3日後には英語や中国語に翻訳してくれるんです。
できればオリンピックまでに1741の市町村、
すべてのジャーナルができるといいですね。その仕組みを考えています」
「いま日本が殺伐としている。昔の日本はもっと温かかった。
それを忘れてはいけない。
優しさとか、感謝の気持ちとかを、次の世代に伝えていきたい。
人に対して優しく温かい社会。
こういったサービスがそのきっかけになればいいと思っています」
それを写真集の出版を通じて伝えていきたいと言う。
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コンテンツワークスのメインサービスであるフォトバックからは、
ユーザーのさまざまなライフスタイルが見えてくる。
今回、取材のなかでユニークに感じたもののひとつにペットの写真集がある。
たとえば「ねこフォト」というジャンルがある。
最近はペットのフォトバック写真集をつくることが増えてきたという。
そこでユーザー向けにワークショップなども開催している。
「初心者でもかわいい猫の写真が撮れるワークショップなども開催しています。
猫の写真集を出したプロの写真家さんを招いて、
「ねこフォト」を撮るコツを教えてもらいます」
ほかにも子どもの写真のワークショップなど、
ユーザーの要望にあわせたワークショップも開催している。
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取材の最後に荻野さんにコンテンツワークスの理念について聞いてみた。
「僕らがやっているようなサービスっていっぱいあると思う。
だからそれをどういう想いでやっているかということが
大切になってくると思うんです。
もともとバリバリのビジネスマンでした。
企業のなかで売り上げ中心でやってきた。
退職金を全部投入して、2007年のMBOで会社の社長になった。
ところが途中で、自分がやっていても楽しくない。
社員もつまらなそうにしていることに気づいたんです。
そんなあるとき『ありがとう』であふれる会社にしたい、と思ったんです。
感謝されるって嬉しいじゃないですか。
『ありがとう』が生まれる仕事をつくりたい。
それに気がついたとき、腹落ちして、『ありがとう』であふれる会社を理念にした。
『ありがとう』は言われたほうも言ったほうもハッピーになれる魔法の言葉なんです。
ビジネスを通じてそれを実現していきたい」
「想いを伝えること」の意味、それは「感謝」や「愛」だと言う荻野さん。
「人と社会を元気にすること」を会社のミッションに、
ひととひとの気持ちを伝えることが、これからの社会に必要とされているという。
「紙」という媒体にこだわり、その可能性を追求していきたいと語っていた。
information
コンテンツワークス株式会社
住所:東京都千代田区神田神保町2-4
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