連載
posted:2014.10.14 from:福井県鯖江市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tetra Tanizaki
谷崎テトラ
たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。http://www.kanatamusic.com/tetra/
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:オープンデータ×電脳めがね。“日本のシリコンバレー”の挑戦。「めがねのまち鯖江」前編 はこちら
鯖江のめがねは明治38年(1905年)に増永五左衛門が農閑期の副業として始めた。
少ない初期投資で現金収入が得られるめがね枠づくりに着目したという。
全国から職人が集まり、若者が腕を磨くことで分業独立が進んだ。
戦後の高度経済成長の中ではめがねの需要も急増し、産地として大きく成長した。
来年で鯖江めがね110周年。
国産のめがねフレームのシェアは96%。
鯖江でめがねにかかわるひとは5308人。
事業所数は531件。
実に働いているひとの6人に1人がめがね産業にかかわる。
(*平成20年工業統計調査より)
しかしここ数年、めがねのまち鯖江は大きな危機にみまわれてきた。
めがねフレームの輸出と輸入は2000年頃に逆転。輸出量は右肩さがり。
いまめがねは9割が中国製になっている。
「拡大志向と価格の競争では未来はない。結局は中国に持っていかれる。
鯖江めがねのブランド化が必要なのです」
そのためには“めがねのまち、鯖江の未来像を描くヴィジョン”が必要だ。
めがね産業の若手経営者が立ち上がった。
SBW(サバエ・ブランド・ワーキンググループ)の代表、小松原一身さんにお話を伺った。
SBWは次世代を担う若手経営者が集まって「鯖江めがね」を、
鯖江の確固としたブランドにしていこうと立ち上がった。
「ブランディングは一度きり。やるなら失敗はできない。
鯖江をめがね産地としてブランド化するために、
どのようなPRやマーケティングが必要かを学びあっています。
イッセイミヤケに在籍した滝沢直己さんや、ナガオカケンメイさん、
佐藤卓さん、grafの服部滋樹さんなど、外部の力も借りながら、
コンセプトをつくり、それをもとに2020年までのアクションプランを進めています」
めがねのまち鯖江の伝統を次の100年にむけて継承し、進化させ、
産地の持つネットワークパワーで、世界に誇るジャパンブランドになる。
そして、ひとも企業も、ともに成長しつづける「SABAE」を実現する。
それがSBWの描くヴィジョンだ。
小松原さんは語る。
「ひとつは鯖江を“地域”としてブランド化していくということ。
たとえば“今治タオル”はタグをつけると2倍の値で売れるという。
“鯖江”を“今治”のようにブランド化をしていきたい。
まず産地である鯖江のひとにコンセプトを理解してもらおうと思っています」
そのためのアクションプランとして、
ブランド認証の基準づくりも考えているという。
「SABAE MEGANE JAPANの認証制度と基準づくりをしていきます。
時計で言うとジュネーヴシールのようなものかもしれません」
ジュネーヴシールとはスイス政府及びジュネーヴ州によって
規定された基準に基づいた品質規定における最高級スイス時計の証。
産地が認定する技術とクオリティでブランドの求心力を高めるのだという。
「そして来年はめがね生誕110周年。鯖江市政60周年。
なんらかのかたちで“めがね博”をやりたいと考えています」
国内での認知とブランド化が現在進行形。
今後はグローバル発信し、世界での認知を高めたいという小松原さん。
鯖江の若手経営者たちは動き始めた。
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鯖江では100年前「世界の近代化が進むとめがねは必需品になる」
と見越してめがねづくりが始まった。
これから新たな市場として有望視されるのが、ウェアラブル端末機器分野。
特に主流となるであろう、めがね型の「スマートグラス」に注目が集まる。
100年前に大阪や東京からめがね職人が集まってきたように、
鯖江には、国内外からIT関係者が集結しつつある。
グーグルグラスやエプソンモベリオなどの汎用型に加え、
工場や医療現場などでの使用に特化した業務用の製品開発が世界規模で進められている。
「2016年には世界で1000万台になるとも言われています」と小松原さん。
世界の大手企業が一日も早い製品化の開発にしのぎを削る。
めがねフレームづくりから生まれた「鯖江が誇るチタン加工技術」と
「それを応用した異業種との連携」が世界をリードすると小松原さんは考える。
2015年にはボストンクラブとして装着型デバイスの技術展
「ウェアラブルエキスポ」への出展も決めた。
ウェアラブルデバイスの世界でも鯖江ブランドを印象づけるねらいだ。
ウェアラブル市場は、2018年に現在の6.5倍にあたる
1兆2,000億円市場に急拡大するといわれる。
「世界中からウェアラブル技術・関係者が集まり、
鯖江はウェアラブル技術開発の世界の中心的な場」になると考えています」と小松原さん。
福井県は2018年の国体を「ウェアラブル国体」にというプログラムを発表。
ウェアラブル特区の申請や、ウェアラブル企業の誘致に加え、
ウェアラブル実証実験に対する支援を行う。
鯖江では協業を模索する動きや
大手企業等と連携した「鯖江発スマートグラス」の開発を目指す動きもあり、期待感は大きい。
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そんなウェアラブルな鯖江ブランドを支えるのが、前編でも登場した福野泰介さんだ。
鯖江めがねのシンボルともいえる「めがね会館」のビルにある
福野さんのオフィスを訪ねた。
ネットカフェのような雰囲気のオフィスに
インターンの若者たちが集う。
アプリの開発アイデアをわいわいと話しあいながら進めていた。
福野さんに鯖江の未来像についてお聞きした。
「めがねに特化しためがねのまち、めがねの聖地が鯖江なんですが、
ここ数年、めがねとITの融合がいよいよ来たわけです。
僕がむかし観ていたSFアニメ『攻殻機動隊』や『電脳コイル』などで出ていた
『電脳メガネ』が実製品としてでてきたのが面白いですね」
福野さんは鯖江がウェアラブルをリードしていることには理由があるという。
「一番大事なのは、どう身体にフィットさせるかというかけ心地、
そしてかけたときどうかっこ良く見えるかというデザインが大切。
この2点は他のスマートフォンやPCとは違うわけです。
鯖江にはたくさんの職人がいて、高度に分業が進んで、それぞれのスペシャリストがいる。
そういう部分を一番もっているのが鯖江なんです」
2012年夏、鯖江で、IT推進フォーラム「電脳メガネサミット」(鯖江市主催)が開催された。
AR(仮想現実)を世に広めたアニメーション『電脳コイル』では、
近未来の子どもたちが「電脳メガネ」を情報端末として使いこなしている。
鯖江はその舞台となった都市に酷似しているともいわれる。
「2012年にいよいよめがねとITの融合が来るなというタイミングで、
鯖江市のIT推進フォーラムで”電脳メガネサミット”を開催しましょうと提言したんです」
サミットには、全国から300人のひとが集まり、
その年が「電脳メガネ元年」となった。
オリンパスやエプソンなど「電脳メガネ」に関係する企業が参加。
「そこで鯖江市長が鯖江では『電脳コイル』のような
電脳都市をつくっていきます、という宣言をしたんです」
都市とテクノロジーとめがねの融合する
世界にむけての鯖江市の情報都市宣言と言える。
「めがね型のコンピュータは、
スマホ以上に日常にさりげなく入ってくるITなんです。
まちを歩いていてこんなお店がお勧めだよとか、
観光情報のオープンデータを提供してくれる」
ハード、ソフト、データ、そして、
利用者がすべて揃う小さなまちだからこそできること。
そうして電脳都市を支える行政データのオープンデータ化、
オープンガバメントが加速していったと福野さんは語る。
そしてそれは「めがねのまちをバージョンアップさせること」なのだと。
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今回の取材で印象的だったのは若い世代が
鯖江のベンチャーに関わっているということだ。
福野さん自身も21才のときに起業。
jigブラウザという携帯用のブラウザをつくってヒットさせている。
若い世代のアイデアと地域に培われた技術が融合してイノベーションが生まれる。
取材時もJig.jpのオフィスには高専の学生たちがインターンでやってきていて、
さまざまなアプリ開発を行っていた。
鯖江市では今年「電脳メガネのARアプリコンテスト」を開催。
電脳メガネを想定したARアプリケーションで
市民生活の向上につながるアプリや企画を募集した。
福野さんも若者たちとアイデアソンを開催。
たとえばこんなアイデアが出たそうだ。
電脳メガネのアイデアソンで出てきた12の電脳メガネアイデア。
- ARで見える巨人をヒッチハイクで追いかけるゲーム(道路交通オープンデータ)
- 見ながらわかるAED・人工呼吸ARガイド(AED設置場所オープンデータ)
- 仕事の達成度に応じてご褒美画像AR(若狭路ご膳オープンデータ、鯖江観光オープンデータ)
- まちをきれいにすればするほどきれいになるAR美女/イケメン(ゴミ処分量オープンデータ)
- 人口・交通の増減傾向から未来が見えるメガネ(2時点地域別オープンデータ)
- リアル一日市長、牧野市長のリアルな1日を体験できる(市長オープンデータ?)
- 恐竜化石が発掘される感動の瞬間をシェア(福井県恐竜博物館コラボ)
- 昆虫になろう(絶滅危惧種オープンデータ)
- 実現したら絶対嫌! 相手の感情が見えるメガネ
- うようよいるAR恐竜が道路の危険箇所を教える(交通事故履歴オープンデータ)
- パーソナライズされた恐竜の足あとが教えるセレンディピティ観光アプリ
- 痩せたい人も太りたい人も、食べ物の見え方をコントロールするダイエットメガネ
こういったアイデアが新しいめがねの使い方や、
鯖江から発信する近未来のライフスタイルのヒントとなり、
新しいビジネスが生まれるのかもしれない。
福野さんは鯖江を「新しい世界のモデルとなる場所」であるという。
ITのまちであり、市民主役のまちである鯖江市は、オープンガバメントを先駆けている。
テクノロジーによって情報のレイヤーのなかを自在に歩き、共有する世界。
社会が大きく変化するためのフェーズとして「具体的なメリットが実感できること」が大切。
「鯖江はそのフェーズに入った」と福野さんはいう。
2020年の鯖江ブランドにむけて、SBWの小松原さんは
「めがねのまち鯖江」の伝統を「次の100年にむけて、継承し、進化させる」と語る。
鯖江はめがね産業の技術の集積地でもあると同時に、
繊維産業、漆器産業など伝統的なライフスタイル産業との接点も多い。
鯖江のものづくり力と業界を超えた連携の強さ。さらなるイノベーションの鍵がある。
都市とテクノロジーとめがねの融合。伝統や技術に支えられた進化。
そこに新しい世界のモデルがある。
information
株式会社jig.jp
Web:https://jig.jp/
株式会社ボストンクラブ
Web:http://www.bostonclub.co.jp/
めがねミュージアム
Web:https://www.megane.gr.jp/museum/
ウェアラブルエキスポ
会期: 2015年1月14日(水)~16日(金)
会場:東京ビッグサイト 主催:リード エグジビション ジャパン株式会社
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