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オープンデータ×電脳めがね。
“日本のシリコンバレー”の挑戦。
「めがねのまち鯖江」前編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.023

posted:2014.10.7  from:福井県鯖江市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tetra Tanizaki

谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

めがねのまち鯖江がつくるウェアラブルデバイス。

鯖江市は国産めがねの96%を生産しているというめがねのまち。
めがね枠製造歴は100年を超え、日本のめがねづくりの歴史と言える。
人口6万人程の市で、就業人口の6人に1人はめがね産業に関わる。

そこにいま新しい動きがある。
オープンデータ化を鯖江市が進めているのだ。
「めがね+IT=ウェアラブルデバイス」を打ち出して、
ハイテックで新たなビジネスモデルやまちづくりが進んでいる。

地域のコミュニティがアントレプレナーシップを育んできた。
伝統的なものづくりのまちから電脳データシティへ。
いま鯖江は、「日本のシリコンバレー」と言われはじめている。

めがねのまち鯖江は電脳めがねのまちに生まれ変わりつつある。VRヘッドセットOculus Rift(オキュラスリフト)。視野角が110度とひろく首の動きをモーションセンサーが拾いクイックに反応する。鯖江には電脳めがねを利用したソフトやアプリの開発者が集まり、新たな産業が生まれつつある。

ウェアラブルデバイスとは、腕や頭部など、
身体に装着して利用することが想定された端末(デバイス)。
この秋、Appleの腕時計型ウェアラブルデバイス「Apple Watch」が発表されたが、
ほかにも数多くのメーカーによって、リストバンド型、指輪、めがね、衣服など、
さまざまなアイテムが登場してきた。
そのなかでもグーグルやエプソンなどが開発を進める
めがね型のウェアラブルデバイスは、一般の注目度も高い。

めがねにセンサーやカメラなど、コンピュータの一部が組み込まれ、
GPSの位置情報や行政が提供するオープンデータにアクセスすることで
さまざまなサービスが受けられる。
ウェブ検索をはじめ、内蔵されたカメラを使い写真や動画を撮影したり、
天気や時間、乗換案内などの情報収集などができ、
ライフスタイルを大きく変える可能性もでてきた。

iPhoneやAndroidスマートフォンを利用して設定などが行える。
2016年までには60億ドルのマーケットに成長すると見られており、
テクノロジー系の企業はこぞって新しいデバイスの開発を進めている。
その台風の目になっているのが「鯖江」なのだ。

株式会社jig.jpの代表取締役社長の福野泰介(ふくのたいすけ)さん。グーグルグラスを愛用している。jig.jpでは自治体向けの「オープンデータプラットフォーム」サービスを提供開始している。

鯖江のITのキーパーソンのひとり、
株式会社jig.jpの福野泰介さんにウェアラブルデバイスを取り巻く状況をお聞きした。

「はっきりしたことは言えないんですが、
グーグルグラスは『Made in Japan』という記事を見たことがあります。
国内めがねの95パーセントは鯖江産なので、
そう考えるとおそらく鯖江のどこかでつくられているという予測が立ちます。
守秘義務があるので、どこのメーカーがつくったというのは明らかにされていませんが」

スマートフォンなどと違って、めがね型デバイスは身体へフィットする装着感などが重要。
色、形、デザイン性などファッションの要素も大きい。
ひとつのめがねができ上がるまでに250もの工程がある。
その工程のひとつひとつに熟練した技と最先端の技術が注がれている。

ほかのデバイスと違って、エンジニアとめがねデザイナー、
めがね職人が連携して制作する必要がある。

「鯖江はめがねの技術なら他の地域に追随を許さないんですね。
仕事も早い。アイデアの相談があってから短時間でプロダクトに落とすことができる」

100年の歴史と技術を持つ伝統的なめがね産業と、最先端のITが結びつき、
世界のウェアラブルデバイスに鯖江の技術が果たしている役割は大きいようだ。

100年前のめがねを最新のグーグルグラスで見ている。グーグルグラスはめがね型の拡張現実コンピュータ。Googleウェブ検索をはじめ、内蔵されたカメラを使い写真や動画を撮影したり、天気や時間、乗換案内などの情報収集などができる。GPSも内蔵されている。iPhoneやAndroidスマートフォンを利用して設定などが行える。

オープンデータ×電脳めがね

実際にグーグルグラスで見えている世界はどんな世界なのだろうか。

「普段はスリープにしていてめがねとして使っているんですが、
首を上にあげると起動します。
起動するとまずは時刻が出てきます。
小さなスマートフォンと考えてもらえれば良いと思います。
スケジュールが同期したり、メールが確認できたり、
音声認識でアプリを立ちあげたり、
ウインクすることで写真や動画を撮ることもできます」

デバイスが完成していてもそれを活用するためのアプリが必要だ。
鯖江では県や市役所が公開している
オープンデータ(消火栓、AED、トイレ、避難所)をAR表示して、
かわいいワンコがナビをしてくれるシンプルで便利なアプリがある。

「不思議の国のアリスに出てくるウサギのように、
ワンコについて行くと目的地に連れて行ってくれるんです。
ターゲットが、右にあるのか、左にあるのか、
ワンコが画面内で動いてナビゲーションをしてくれる。
将来はめがね越しに見えている世界に、
さまざまな情報がさりげなく追加されていく世界になっていきます。
アニメ『電脳コイル』の世界ですね」

雪の多い福井では冬場、消火栓の位置を確認するのが大変で問題となっていた。
消火栓やAEDなどの場所をワンコがナビしてくれるのだ。
緯度経度などの場所情報など公開されているものならナビできる拡張性がある。

ナビワンコ。グーグルグラスではこんなふうに見えている。

オープンデータで地方から国を変える。

ウェアラブルデバイスなどに提供するオープンデータ。
その分野でも鯖江は日本のトップランナーだ。
鯖江市はホームページで公開する情報を
多方面で利用できるように積極的に公開する、データシティ鯖江をすすめている。
鯖江市役所に牧野百男市長を訪ねた。

鯖江市の牧野百男市長。日本でも先進的な市民自治と、オープンデータの取り組みをおこなっているキーパーソン。

ポスト地場産業は「IT」。

牧野市長が就任した平成16年は、地場産業のめがねも漆器も景気が悪かった。
鯖江市はポスト地場産業としてITを位置づけた。
めがねのまちをIT化する。
そのためにほかの地域にさきがけてオープンデータを積極的にすすめた。

「オープンデータは、地方から国を変える第一歩なんやね。
地方から国を変えていかんと、この国はダメになるのは間違いない。
若い子が首都圏へと出て行って、結婚もしなくなり、人口はどんどん減っていく」

「地方にいかに若者を残すか、ということを考えた。
東京がやらないこと、やれないことを地方でやっていく。
東京がやってない、新しいことを地方でやれば、確実に注目される。
それがオープンデータだった」

国にさきがけて、地方がやる。それが「データシティ鯖江」だ。
オープンデータのプラットフォームとして、行政機関が保有するデータを公開し、
誰もが自由に利用、再利用、再配布可能なかたちで提供する。
「IT」企業を誘致し、さまざまなアプリをつくってもらえる環境を整える。
先の「ナビワンコ」もそのひとつだ。

ほかにもGPS搭載の市営バス、
つつじバスのリアルタイムデータを使ったアプリ「バスモニター」や、
女子高生たち(鯖江市役所JK課)のアイデアをもとに
図書館空席リアルタイムオープンデータを使った「sabota」など
現在、80アプリが公開されている。

データシティ鯖江のポータルページ。2014年10月現在、80アプリが公開されている。リアルタイムデータを気軽に扱えることになった現代だからこそできるアプリが次々と生まれている。

オープンデータ、5つ星の取り組み。

2014年6月に、政府は成長戦略の具体的施策をまとめた
「日本再興戦略(改訂版)」を公開した。
この中で、IT分野の戦略のひとつとして挙げられているのが、
「公共データの民間開放(オープンデータ)」。
鯖江はこれにさきがけ公共データを公開。その利用を促すための政策を進めている。

オープンデータはそのオープンの度合いによって5つの☆で表される。

☆ PDF

☆☆ Excel

☆☆☆ XML

☆☆☆☆ RDF

☆☆☆☆☆  Linked-RDF

PDFで公開されたデータは改変できないが、Excelだと改変可能で自由度があがる。
さらにXML(Extensible Markup Language /
文書やデータの意味や構造を記述するためのマークアップ言語)、
RDF(Resource Description Framework / 資源としてのデータを表現する考え方)
と自由度はあがり、
最高ランクの「五つ星」では世界中の共有資源としてのデータをとらえる。
これは、世界共通データ活用基盤を目指す
「セマンティックウェブ」と言われる考え方に基づいている。
鯖江では最高ランクの「五つ星」のオープンデータを目指している。
現在オープンデータ都市は48都市、直近で兵庫県が加わり25県。
鯖江は先進地として、オープンデータ活用のノウハウやビジネスモデルを提供している。

Webの発明者、ティム・バーナーズ・リー氏が提唱するオープンデータの5段階「5★Open Data」。最も高いランクの5つ星は、世界中とつながり、セマンティックWebを構成するRDF(Resource Description Framework / 資源としてのデータを表現する考え方)、Linked-RDF。このデータへのWeb標準のアクセス手段として用意されているのがSPARQL。SPARQLを使うだけで、従来のCSVやXMLなどを使ったデータアクセスや、個別のWebAPIでできることがほぼ実現できる。図版提供:jig.jp

これまでのオープンデータ、地域ごとにアプリが必要。

5つ星オープンデータ。全域で共通のアプリが使える。

まちづくりは情報の共有が原点。

鯖江市は平成の大合併のときに、法定合併協議会ができたのにもかかわらず、
住民投票で合併推進派の前職の市長がリコール。
その後の市長選挙で牧野氏が七割の得票率を得て市長になった。

県庁職員の経験から、情報が共有されていることが一番大事と考えた。
市長になってすぐにブログを始めた。
双方向で市民と対話ができることがわかった。
さらにTwitter、FacebookとSNSを活用することにした。
市長のところに自然と情報が集まっていく。

市役所のなかでも「市長が一番アンテナが高い」と言われた。
トップがオープンになることで、職員の意識も変った。

「まちづくりは情報の共有が原点。
合併を拒否するかたちで鯖江市が存続したことでわかるように、住民の故郷への思いは強い。
しかし合併をめぐって、住民のこころが分裂してしまった。
それをひとつにするために情報の共有、
そして市民参加と恊働でまちづくりを積極的にしている」

平成22年に鯖江は「市民主役条例」を公布。
市の事業の企画運営を市民主体で行う「提案型市民主役事業化制度」の実施など、
市民主役のまちづくりを始めた。
オープンデータを活用し、民間活力でイノベーションが進む社会のかたちを
具体的に実現する施策だ。

米技術系出版社オライリー・メディアの創業者、ティム・オライリー氏は、
情報の共有による新しい社会の姿を「ガバメント2.0(Gov 2.0)」と呼んだ。
「政府は情報だけを提供し、 民間がサービスを提案する」という未来の社会モデルだ。
平成26年度の鯖江市が「市民主役条例」によって委託した事業は36の事業におよぶ。
鯖江で起きている社会の変化は
日本における「ガバメント2.0(Gov 2.0)」の先進例といえるだろう。

行政はプラットフォームになり、市民が主役になる。
オープンデータによりイノベーションが加速する。
地域へ人材と投資が集まる。

禅ハッカソンin鯖江。開催での開発イベント。

鯖江市内の禅寺「萬慶寺(ばんけいじ)」。「禅ハッカソンin鯖江」が行われた。

禅寺でソーシャルアプリの開発イベント。

次々と新しい人材が集まり、アイデアが生まれていく現場を目撃した。
鯖江市内の禅寺でソーシャルアプリの開発イベントが行われるという。

「禅ハッカソンin鯖江」

オープンデータとウェアラブルデバイスを使って、
ソーシャルなアプリをつくるというハッカソン。
ハッカソンとはソフトウェア開発分野のプログラマやグラフィックデザイナー、
ユーザインタフェース設計者、プロジェクトマネージャらが
集中的に共同作業をするソフトウェア関連プロジェクトのイベントである。
参加者は全国の高専の学生など約20人。
アンドロイドアプリの開発スキルを持つ若者たち。
約3時間の開発タイムで各チーム、アイデアをかたちあるものと、
3枚以内の発表資料でアウトプットをつくり、
3分の持ち時間で発表する。

データシティ鯖江が提供するオープンデータ一覧が提供され、
そのデータを活用できるものをウェアラブルデバイスに落とし込む。
テーブル毎に「生活」「観光」「防災」「スポーツ」「教育」のテーマを割り振り、
公開されているオープンデータや各企業から提供される技術、素材を利用し、
最終的にはそれを具体的なアイデアにまとめ、
基本的なアプリを制作するところまで行う。

会場にはグーグルグラスやモベリオといった電脳めがね、
SONYが開発した時計型の「スマートウオッチ」
「スマートバンド」などのウェアラブルデバイス、VRヘッドセットのオキュラス、
すべてのスマホに使えるという、オンライン・トゥ・オフラインの切り札「iBeacon」
世界最少コンピュータ「Ichigo Jam」、「NFCタグ」などが持ち込まれ、
一日かけて実動するところまで持っていく。
まさに日本のシリコンバレーといわれるゆえんだろう。

最優秀賞は「iBeaconを使って災害時に近くにいる人に自分の居場所を知らせるもの」。
情報を登録するシステムと、検出するアプリを開発し、
子どもの居場所を、携帯電話会社の電波を使わずスマホで探すことができる。

次回は2020年にむけての「鯖江めがねのブランド戦略」などについてレポートします。

後編:【2020年にむけてのブランド戦略 世界に誇るヴィジョンとは? 「めがねのまち鯖江」後編】はこちら

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