連載
posted:2014.9.23 from:滋賀県長浜市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
全国にチェーン展開しているカレーショップ、ココイチこと「CoCo壱番屋」。
滋賀県のココイチでは、他県とは一風変わったカレーを販売している。
それが鹿肉カレーだ。
滋賀県内12店舗のフランチャイズを担当する株式会社アドバンスは、
地産地消に貢献できそうなオリジナル商品の開発に取り組んでいた。
「まずは滋賀県内で困っていることがないか、調べてみました」
というのは、アドバンスの川森慶子さん。
「たくさんの農家や林業の方が、獣害で困っているという情報を見つけたのです。
なかでも鹿害(ろくがい)に注目しました」
鹿は、植林したひのきなどの苗木や、山から降りてきて農作物も食べる。
春に田植えをしたばかりの苗の穂先も食べる。
一度田んぼに鹿が踏み入ると、そのまま育てたお米は獣くさくなってしまうという。
平成22年当時、滋賀県には3万数千頭のニホンジカが生息していたが、
平成24年時点では47,000〜67,000頭に増えているといわれている。
しかし滋賀県でのニホンジカの適正生息数は約8000頭とされ、
年間16,000頭の捕獲を目指している。被害額は約1億7000万円にものぼる。
捕獲は、地元の猟師たちにお願いすることになる。
今回、鹿猟に同行させてもらった日野猟友会は、
滋賀県蒲生郡にある日野町で猟をしている。
まず鹿の被害にあった農家などは、町に被害状況と場所を報告。
そして町から日野猟友会に駆除の要請がくる。
この日の猟は、山から犬によって平地に追い出された鹿を待ちかまえて撃つという手順。
どこから出てきても対応できるように、けもの道のある場所などから推測しながら、
数名が数百メートルおきに銃を持って待ちかまえる。
途中、無線などで連絡を取り合いながら、鹿を待つ。
遠くで銃声がした。我々が待ちかまえていたところとは別の場所に鹿が出たようだ。
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日野猟友会では、年間400頭ほどの鹿を捕獲している。
かつては捕獲した鹿は焼却されたり、埋められたりと、
産業廃棄物として処理されることもあった。その場合にはもちろんコストがかかる。
しかしせっかくの命を無駄にすることなく活用したいと、
日野猟友会の有志で、捕獲から解体、パック詰めまで行う
獣美恵堂(ジビエどう)を立ち上げた。
そして鹿肉を素早く処理し、食肉として利用するための解体施設を建てようとしていた。
ちょうど同じタイミングでアドバンスは、鹿肉カレーの開発に取り組んでいた。
商品に獣を使うことは、外食チェーンとしては日本初の取り組みであり、
それだけに厳しい基準を自ら設け、
それに見合う専門的かつ高度な施設を必要としていた。
そんなときに聞いた、獣美恵堂の解体施設の話。
試しにアドバンス側が考える条件に沿う施設の建設をお願いしてみた。
これに快く応えてくれた獣美恵堂は、30分以内の素早い処理能力や、
衛生面の徹底など、解体・処置能力が高い施設を建設。
鹿の活用に対して、お互いの思いが結びついたのだ。
実際にこの日の猟では鹿2頭と猪1頭を捕獲。
車で10分程度の解体所に移動し、そのまま一気に解体していく。
全員、手際がいい。猟も解体も、チームワークはバツグンだ。
「ハンターが自身で解体するのは当たり前のこと。商品になることを考えて、
弾が当たる位置も計算して撃っています」と教えてくれたのは
日野猟友会(獣美恵堂)の吉澤郁一会長。
「肉の鮮度を落とさないように、少しでも早く解体するようにしています。
血抜きも完全にして、内蔵も早く出さんとね」
空港で使われるような金属探知器も導入し、銃弾が残っていないか丹念に確認する。
ジビエのためには、より細部にまで注意を払わなくてはならない。
当時は、すべての仕込みをアドバンスの代表である岡島洋介さんと
川森さんのふたりで担当していた。
仕込みの時間は夜中。本社近くの長浜店が閉店後、
翌日のオープン時間までに仕込みを終わらせないといけない。
岡島さんひとりで夜中に仕込み、
朝5時頃にパッキングのために川森さんが出勤するという日々。
4年経った今でも、当初からやり方を変えずに、ひとつずつ箸を使ってパックする。
異物が混入していないか、毛がついていないか、
ひとつずつ肉の状態を最終確認するためだ。
もちろんスタッフに教えてやってもらえばいいのだが、
それで事故が起こってしまったら、会社の存続にも関わるし、
全国の店舗に迷惑がかかってしまう。
「全責任を負って販売するというのは、こういうこと」と川森さんはいう。
こうして鹿肉カレーは、滋賀県のココイチで通年売られる商品となった。
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「私たちも鹿肉カレーを始めるまでは、このような現状を知りませんでした。
せめて、ココイチにカレーを食べに来ていただいたお客さまに、
“獣害って何? 鹿肉って? ハンターって?”と、鹿肉カレーを食べなくてもいいから、
まずは知ってもらうきっかけになればいい。
当社の理念も超えたところで活動していきたいです」
販売を始めてすぐに、日野町の小学校給食に採用されることになった。
年1回、11月にある地産地消の日。その日の給食は鹿肉カレーだ。
「通常、レシピは企業秘密ですけど、給食センターの職員を対象に講習して、
完全にココイチの鹿肉カレーです」
その後、となりの東近江市の小学校でも給食に採用された。
「“いただきます”と手を合わせることの意味を、
子どもたちにあらためて考えてもらいたい」と川森さんは熱心に語る。
また、活動の成果が認められて、北海道、大分、三重、和歌山、長野の
各ココイチでも鹿カレーを扱うようになり、県外からも視察が訪れるようになった。
もちろん要望があれば惜しみなくノウハウを提供している。
獣美恵堂の鹿肉も販路が増えてきた。3年前には、その活動を認められて
農林水産省から“地産地消の優良活動”で表彰された。
猟友会が表彰されるのは全国初だという。着実に鹿害を巡る現状を広められている。
そもそもなぜ鹿は増えてしまったのか。原因はいくつかある。
狼の絶滅やハンターの激減。
そして人間が山の整備をしなくなったことで山が荒れ、里に降りてくるようになった。
しかしそれを獣害というのは人間の一方的な見方かもしれない。
勝手に鹿が棲みにくい環境にしてしまっておいて、
今度は駆除しなければならないという。
もちろんせっかくの命は大切にいただかなければならないが、
この鹿肉カレーの活動を通して、
こうした複雑な現状を一度根本から見つめ直してみたい。
後編:琵琶湖のブラックバスを食する。「滋賀県の獣害利用」後編 はこちら
information
アドバンス
住所:滋賀県長浜市南高田町727
information
獣美恵堂
住所:滋賀県蒲生郡日野町松尾2-47
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