連載
posted:2014.8.26 from:ネパール / カトマンズ genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
前編:オーガニックスキンケアブランドLalitpurの原点、Coffret Project。「Lalitpur」前編 はこちら
オーガニックスキンケアブランドのLalitpur(ラリトプール)は、代表の向田麻衣さんが
Coffret Project(コフレ・プロジェクト)での経験(前編参照)などから、
ネパールの女性の雇用促進をひとつの目的として立ち上げたブランドである。
まずは「ネパールで立ち上げるにしてもどんなものがいいのだろうか?」
というところからスタートした。
そこでたどり着いたのが、
ネパールが世界に誇るヒマラヤ山脈に、豊富に生えている高山植物。
「標高が高いため、日光をたくさん浴び、
農薬が一度も使われたことのないきれいな土で育った植物は、
その他の地域で育った植物よりも効能が高いことも科学的に証明されているんです。
これは宝だと思いました」
こうして、高山植物を利用したオーガニックスキンケアブランド、
Lalitpurの立ち上げへと歩き出した。
どんな植物があるか。そこからどんな成分が採れるのか。
実際に商品に配合したらどうか。安定供給できるか。繰り返し、研究開発した。
そのなかでいくつかの原料を採用する。
たとえば現在Lalitpurのバームに入っているシーバックソーンという植物の実は、
オメガ7という抗酸化作用のある成分が含まれている。
欧米ではアンチエイジングを目的にサプリメントとして取り入れる人も多い。
そのほかにも肌細胞の再生・修復を助けてくれるジャタマンシー、
ネパールの国花であり
筋肉や関節の炎症を和らげてくれるアンソポーゴンといった植物。
さらには標高3000m以上のヒマラヤ山地に棲息するヤクという動物から絞り、
豊富なビタミンや8種類の必須アミノ酸が含まれ、
高い保湿効果のあるヤクミルクなどが使われている。
そして中心となる石けんづくりだ。
石けんのつくり方はいろいろな方法があるが、
向田さんが選んだのはコールドプロセス製法。
ケン化(石けんづくりで欠かせない過程)で自然に起こる熱以外は、
一切、火を加えない。この方法だと有効天然成分が残りやすいのだ。
次はネパールで石けんをつくるノウハウを持っている工房を探した。
彼らの技術と、日本側の技術を融合させて
オリジナルの商品を生み出さなくてはならない。
品質が良いことはもちろん、
「Lalitpurが伝えたいストーリーにふさわしいものをつくろう」と、
繰り返し試作を重ねていった。
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パッケージデザインをお願いしたのは、以前にもこの連載に登場してもらった
ジュエリーブランドSIRI SIRIのデザイナーである岡本菜穂さん。
岡本さんは、まず現地で手に入るもの、できることをリサーチ。
そこからデザインを起こしていった。
石けんが現在のかたちやサイズになったのも、
実際に現地の工房で使用している石けんづくりの箱から、
もっとも効率的に取れるからだ。
「理想のデザインを押し付けず、
現地でできることからスタートしてくれる岡本さんの発想の柔軟さには、
本当に助けられました」と向田さんは言う。
また、岡本さんはパッケージに付ける飾りひもを提案してくれた。
「ひもを八の字に編んでいく八字(やつじ)結び。
日本の伝統的な技法で、かつてはお守りなどにも使われていました。
1本のひもでも、結び目をつけることで美しく飾ることができます。
この作業であれば
シェルターに暮らす10歳に満たないような若い女の子たちにもお願いできる。
すばらしいアイデアだと思いました」
現在、シェルターで暮らす人身売買の被害にあった女性たちに、
この八字結びを編んでもらっている。
「これだけで食べていけるほどの収入にはなりませんが、
シェルターにいるあいだに、少しでも蓄えをつくってもらいたい。
将来的には、彼女たちも工房で雇用していきたいです」と、
雇用へ向けての道筋も考えている。
パッケージの紙は日本で印刷している。
薄くて透け感のある紙に、細い文字を印刷することがネパールでは難しかった。
「100%すべてネパールでつくることも考えました。
しかし大事なところはネパール生産でありながらも、
日本のものづくりの良い部分も取り込むことで、
デザインへの妥協は少なくなりますし、またネパールへも刺激になると思います。
実際にネパールのパートナーは、日本の印刷技術の高さに驚いていました。
どこまで融合させていけるかというのも、腕の見せ所だと思います」
こうしてLalitpurは、約2年の構想の後、2013年5月に販売を始めた。
日本では、同じ商品ならばまったく同じ品質に保つことが常識的に語られるが、
そもそも原料は自然由来なので、まったく均一ということはあり得ない。
「自然からのいただきものであることを日々感じています。
たとえば蜜蝋。蜜は、採ってきた花によって香りや味が異なります。
これはアカシヤから採ってきているなとか、これは松だなとか。
同じ植物でも、どの山の、どのエリアから採ってきたのかによっても異なる。
生産者の話を聞いていると、それぞれにストーリーがあっておもしろいです」
昨年までは、まずは素材や商品の良さなど、
プロダクト自体の魅力を第一にアピールしてきた。
ものの魅力が伝わらなくては本末転倒だ。その上で今年からは
「現地からの発信や裏側のストーリーなども、積極的に伝えていきたい」と語る。
「現在、日本で販売されるプロダクトの多くは、
すべて同じかたち、同じ香りにするために、語られてこなかったこともあったと思います。
商品は大量につくられ、捨てられ、化学物質を使うことで安定させてきました。
しかし、わたしたちは
日々変化する大地の恵みをストーリーとともにお届けすることで、
その変化すら楽しめるようにできたらいいなと思います。
たとえばワインはその年によって味も香りも変化し、
その変化を“楽しみ”として受け入れるような文化がすでにありますよね。
そのような“変化を楽しむ”という新しい価値観を
Lalitpurはスキンケアプロダクトとして育んでいきたいです。
そして、どんな場所でできているか、つくっている女性がどんな暮らしをしているか。
その女性たちの生活がどのように変化しているのか。
そうしたネパールの空気も感じてもらいたい」
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向田さんはLalitpurのビジネスを
「途上国のプロダクトとデザインを結びつけて、
その価値を高めて販売すること」と語る。
「価格や商品自体の品質という基準はもちろんだが、
つくっているひとたちも幸せになるような商品を買いたい」というように、
物質的な豊かさのみが本当の豊かさではないことは、
経済的に成熟した日本人は気づき始めているだろう。
「いまそのようなプロダクトが世の中に少なくても、
これからは、そういうものしか売れなくなる時代がくると感じています」
Lalitpurというブランドをひとつ始めてみたこと。
それが向田さんの進むべき道を照らし出した。
「人々にどう受け入れられるか、
現場にどのくらいのインパクトが生まれるかはやったからこそわかること。
いまは化粧品に取り組んでいますが、近い将来、他のプロダクトだったり、
ネパール以外の国でもやっていきたい。
“コネクトする”ことで価値が生まれることをどんどんやっていきたいです」
実際にかたちにしたひとが言うのだから説得力がある。
「言うのは簡単。でもやるのは……おもしろい!」という明るい笑顔で、
Lalitpurのあらたな販売拠点、ニューヨークへと旅立っていった。
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