連載
posted:2014.8.19 from:ネパール / カトマンズ genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
ネパールでつくられる
オーガニックスキンケアプロダクトを展開するLalitpur(ラリトプール)。
その代表の向田麻衣さんの活動の原点は、
2009年にスタートしたCoffret Project(コフレ・プロジェクト)にさかのぼる。
15歳のときに、ネパールでNGO活動をしていた高津亮平さんの講演会で
話を聞いてネパールに興味をもった向田さん。
17歳になり、アルバイトをして貯めたお金で1か月間ネパールに滞在した。
そこで出会った多くのひとや文化は向田さんの心を惹きつけたが、
当時の「ネパールの支援をしたい」という思いを遂げることは簡単ではなかった。
その後、大学に進学し、就職活動の時期になって将来をじっくり考えたとき、
やはり高校生のときに興味を持ったネパールを思い出し、何か関わりたいと思った。
就職活動を無事終えた向田さんは、残された半年間の学生生活で、
大学の奨学金を得て、フィールドワークに出かける。まずはトルコだった。
さっそく現地の女性にニーズ調査を開始。
最初は、雇用を生むことや、大きな支援になりそうなものを探っていた。
そのなかで“どんな仕事をしたいの?”と聞いたところ、
“いろいろやりたいことはあるけど、アナタのそのポーチの中味が気になる”
という返答があった。
化粧に興味がある女性が、思ったよりも多いことに気がついた。
そこで一度、簡単なワークショップを開催してみた。
女性たちにメイクをしてみると、表情がどんどん変わってくる。
そんな反応を見ていると、化粧が精神的なケアに繋がるのではないか、
という思いが自然と頭に浮かんできた。
こうしてCoffret Projectは、精神的なトラウマを抱えた女性たち、
たとえば刑務所に服役していたひとや
人身売買の被害にあったひとなどを中心に広げていった。
トルコに始まって、フィリピン、インドネシア、ネパールと開催していく。
現在拠点とするネパールでは、
十代の少女を中心に人身売買が横行している国でもある。
売られた少女たちは国境を越えインドの買春宿に連れて行かれ、
強制労働をさせられる。宿にいる間は、
「ここを出たらあなたたちは生きていけない、価値のない人間だ」と
言い聞かされているために、自信や尊厳が奪われた精神状態にあることが多い。
「はじめは無表情だった女の子たちも、化粧が終わったときに鏡をみると、
少しだけ微笑んだり、変化が生まれます。そういうことを積み重ねていくことで、
凍りついた心が溶けてゆくように感じます」と向田さんは語る。
みんなが化粧をした自分を「かわいい! きれい!」とほめてくれる。
どんどん自信も増してくる。
「それまで一度も声を聞いたことがなかった女の子が
最後に英語で“Thank you”と言ってくれたり」と、
うれしい反応が次々と返ってくるようになった。
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化粧と聞いて、男性の多くは色を肌に塗ることをイメージする人もいるだろう。
しかし「実際は化粧のなかでも一番大切といっていいことのひとつは
スキンケア=肌を清潔で健康な状態に導くことだ」と向田さんは言う。
その方法も文化や慣習、生活スタイルによって独特のものがある。
「ネパールのネイルサロンでは、軽石のようなもので手のひらをこすります。
私たちがやってもらうと結構痛いんですけど、
ネパールの女性は農業従事者が多く、
しかもみんな素手で作業しているので、手の皮が厚い働き者の手なんです。
だから定期的に手の表面の感覚を取り戻すために
皮を削り取ることが必要なんですね。
日本からみるとありえない! と思うようなことでも、
そこには理由があるんです」
石鹸を使った顔の洗い方も、「丁寧に泡立て、
その濃厚な泡でこすらずに優しく洗う」などと教えていく。
「私が後ろに立って簡単なフェイシャルマッサージをやると、
だんだん頭を後ろに倒してきて寄りかかってきます。
リラックスしてくれていることがわかります。
ふれることで生まれる癒しもあるんだなと実感しました」
その後、シェルターを出て自立したいと願う女性たちが
なかなか職が見つけられない現状をどうにかしたいという思いから、
「会社を立ち上げて、直接的に雇用しよう」と、起業を決意する。
それがオーガニックスキンケアブランド、Lalitpurへとつながっていく。
そのストーリーは後編で紹介します。
後編:つくり手も使い手も幸せになれるプロダクトを目指す。「Lalitpur」後編 はこちら
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