連載
posted:2013.12.11 from:福島県 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。
editor's profile
Kayano Miyoshi
三好かやの
みよし・かやの●ライター。宮城県生まれ。食材が産声を上げる最前線で取材すべく、全国を旅するかーちゃんライター。少女時代から無類のホヤ好き。震災から3年、ようやく復活する三陸のホヤを酒の肴に味わうのが、目下一番の楽しみ。創刊87年を数える「農耕と園芸」で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家さんや漁師さんの「今」を、「ゆたんぽだぬきのブログ」で配信中。
http://mkayanooo.cocolog-nifty.com/blog
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加藤純平
福島県には、ルーツも味わいも異なるふたつの銘柄鶏がいる。
ひとつは「川俣シャモ」。
福島市の東に位置する川俣町で育つ鶏で、
現在町内の16軒の農家が飼育している。
養蚕の町として栄えた川俣町で、
絹織物を扱う旦那衆が、趣味で飼っていた軍鶏がルーツ。
闘うことを宿命づけられた鶏なので、
運動がさかんなボクサータイプ。
その肉は筋肉質で、発売当初は「肉が硬い」との声が多かった。
そこで原種に肉用のレッドコーニッシュとロードアイランドレッドという、
異なる品種の鶏を交配して改良を加え、肉量をアップ。
それが現在の「川俣シャモ」。
弾力のある食感と、ジューシーな味わいが特徴で、
フレンチやイタリア料理のシェフの評価も高い。
もともと運動量の多い鶏なので、天気のよい日は外へ出て、
草や虫を食べながら、育っていた。
震災以降は、原発事故の影響を考慮して、屋外での飼育を断念。
現在は、屋根のある広い鶏舎で、年間約5万羽が育てられている。
もうひとつは「会津地鶏」。
そのルーツは古く、450〜500年前には、
会津地方に存在していたと伝えられる。
雄鶏の黒い尾羽が特徴で、主に観賞用の鶏として飼育された。
会津地方に春を告げる「会津彼岸獅子」の獅子頭にも使用されている。
本来は観賞用の鶏で、性質はおだやか。
美しいモデルタイプといえるだろう。
1987年、会津地鶏は純系の固有種であることが判明。
しかし身体が小さいため、飼育する人もなく絶滅寸前の状態だった。
そこで、肉用のホワイトプリマスロック、
さらにロードアイランドレッドを交配。
こうして1992年に新しい「会津地鶏」が世に出た。
会津地鶏は、卵肉兼用種でもある。
採卵用の鶏は、肉用の鶏とは飼料も育て方も異なるが、
「卵も肉も」食味のよいのが自慢だ。
現在は、ヒナの育成を行なう㈱会津地鶏ネットを中心に、
7軒の農家が年間約10万羽を飼育している。
10月14日、東京・大崎のベトナム料理店「コム・フォー」で、
第2回県産品消費者理解促進交流会のイベントが開催された。
この日のテーマはズバリ「ふくしまの地鶏とシャモ」。
両者を一度に味わえるチャンスは、福島県民でもめったにない。
今回は、福島を代表する2つの銘柄鶏がベトナム料理で競演。
どんなシェフの、どんな料理が登場するのだろう?
「私自身、実際に福島へ行くまでは、不安でした」
そう話すのは、「コム・フォー」の小林武一郎シェフだ。
震災以来ずっと「不安」を抱えていた。
「福島の食材は、本当に大丈夫なの?
そうお客様に聞かれた時、自信を持って答えられない。
だけど何かしなければ…そんな葛藤がありました」
そんな時、友人で福島県出身の菱沼欣也シェフ(COCONOMA Season Dining)に誘われて、
福島県主催の「ふくしま応援シェフ」の産地見聞会に参加。
この時初めて福島県を訪れ、生産者現場をめぐった。
驚いたのは郡山市の農業総合センターで見た検査の様子だった。
「ここまで厳しくやっているとは、知りませんでした」
さらに、現地の人たちの栽培に取り組む前向きな姿勢に驚いた。
「あんなに大変なことがあったのに、
福島の方々は、みんな自信と誇りをもって栽培している。
生産者も料理人も食の“プロ”を自負する人は、
自分が食べたくないものを、人に提供できないはず。
これなら間違いない。
そのとき僕の認識も大きく変わりました」
そして、自ら「ふくしま応援シェフ」として、名乗りを上げた。
そんな小林シェフは、地鶏とシャモを「手羽先のスパイシー香味揚げ」として提供。
2種の手羽を、日本酒、ナンプラー、ベトナムのカレー粉、
ニンニク、ショウガ、一味唐辛子を混ぜ合わせた調味液に1日漬け込んで、
味を沁み込ませた後、油でカラリと揚げたもの。
ナンプラーに香辛料が溶け込んで、南国風の香りがする。
「どっちが地鶏かな? こっちがシャモかな?」
「シャモは思っていたより、ずっとやわらかいんだ」
「会津地鶏も、とってもジューシー」
「表面の皮の脂の匂いが、ちょっと違う気がする」
会場では、さまざまな声が飛び交っていた。
けれど味や食感に関する感想は、人それぞれ。
甲乙はいずれも付けがたく、
結局「どっちもおいしい」という結論に達する人がほとんどだった。
地鶏と呼ぶための条件が「日本農林規格」で定められている。
「在来純系種、または在来種を素びなの生産に両親か片親に使ったもの。
飼育期間が80日以上、28日令以降は平飼いで、
1㎡あたり10羽以下で飼育しなければならない」
というのがそれだ。
ブロイラーの鶏の飼育日数は50日前後。
これに対し、川俣シャモは110〜114日、
会津地鶏は雄が110日、雌が130日と倍以上の飼育期間を要する。
さらに1羽あたりの鶏舎の面積も広いので、運動量も多いのだ。
会場には、会津地鶏を生産する㈱会津地鶏ネットの関澤好春さんの姿も。
震災からこれまでの歩みを振り返っていただいた。
「会津地方は、地震の被害は少なかったのですが、
震災直後、会津のホテルや旅館は避難所になり、
一般客がまったく来ない状態に。
地元からの注文はゼロになってしまいました」
それでも東京の居酒屋チェーンが80店舗で会津地鶏を導入。
看板メニューとして販売し続けたことで、生産を継続できた。
現在はNHKの大河ドラマ「八重の桜」のブームもあり、観光客も徐々に増加。
地元のホテル、旅館の注文も少しずつ回復してきている。
しかし、新規の顧客がなかなか増えず、全体の出荷量は伸び悩んでいるともいう。
「商談会や物産展の会場で、
あからさまではないけれど『避けられている』と感じることはあります。
汚染水の問題も含めて、原発の問題が収まらない限り、それは消えない。
2年や3年で回復できるものではない。まだ時間がかかると感じています」
伸び悩む原因のひとつがその価格。
地鶏は生育期間が長い分、生産コストもかかる。
「世の中全体が不景気で、居酒屋さんは安い食材に変更せざるを得ない。
それもまた顧客が増えない一因です」
その一方で、「鶏ガラがほしい」と、
わざわざ会津の鶏舎を訪ねるラーメン店の店主もいるという。
じっくり時間をかけて育つ会津地鶏の骨から、濃厚なスープが取れるからだ。
「肉も骨も使える鶏です。違いのわかるプロの方に使っていただきたい」
肉の美味さもさることながら、実は出汁も美味い。
そんな特徴が如実に現われているのが「会津地鶏のフォー」だ。
「今回はあっさりしたフォーなので、肉からスープを取りました。
地鶏からは、かなりコクのあるスープが取れますね。
これが骨付きの丸鶏だったら、もっと濃い出汁が取れると思いますよ」
というのは、調理を担当した「コム・フォー」の山本晋司さん。
会津地鶏は、ベトナム料理でもその本領を如何なく発揮。
時間をかけてじっくり育て上げた地鶏の味わいは、ここにも活きているのだ。
この日、もう一品、登場したのが、
「スモークメイプルサーモンの生春巻き」
メイプルサーモンは、西白河郡西郷村の㈱林養魚場が生まれ故郷。
山あいの養魚場で育つ、完全養殖のニジマスだ。
清涼な阿武隈川源流の水で育てられるため、
寄生虫などの心配はなく、生でも安心して食べられる。
それが、生春巻きの具材となって登場した。
「ベトナムにサーモンはいませんが、
今回はあえてスモークサーモンを選びました。
クセがなく使いやすい食材ですし、
今回は魚卵も一緒に添えました。
一緒に巻いたスプラウトもすばらしい!」
と小林シェフ。
スプラウトは郡山市の「降谷農園」のものを使用。
この農園は、東北でいち早くスプラウトの栽培に着手。
カイワレ、ブロッコリー、マスタード、豆苗など、その種類も豊富だ。
「すごく新鮮で、味わいも濃厚。
ベトナム料理は野菜をふんだんに使います。
サラダなどに、盛り込んでいきたいですね」
会津地鶏、川俣シャモ、メイプルサーモン、そして降谷農園のスプラウト。
「コム・フォー」のベトナム料理を通して、
福島の食材を堪能した参加者の中には、
3歳の男の子を連れたお母さんの姿もあった。
福島県の「県産品振興戦略課」の担当者から、
福島県では、農産物の収穫前と収穫後にモニタリング検査が行なわれていることや、
米については全量全袋検査が行なわれており、
「安心して召し上がっていただける」ことなどが、説明されていた。
参加者のひとりは、
「福島の人たちは、こんなにがんばっているのに、
なかなか風評が収まらない。残念なことです。
ぜひこういう機会が増えて、
福島の食材が広く世に広まっていけばいいなあと思います」(30代男性)
「同じお金を払うなら、わざわざ福島県産のものを買わなくていい。
そんな声も聞かれます。
だけど我々は、福島で生きていかねばなりません。
たとえ時間がかかっても、がんばっていきたい。
今、福島からダメなものは出ていません。
安心して食べていただけます。
こんな状況を打開するのは、みなさんの口コミだと期待しています。
我々は、真面目に、一生懸命ホンモノを作っていきます。
これからも応援していただければありがたいです」
会津地鶏の生産者、関澤さんは、挨拶でそんな風に訴えかけた。
コム・フォーの小林シェフは、
「実際に現地を訪れて、食材を見たり、味わったりすると、
福島の捉え方が変わります。 一般の方が現地に行って確かめるのは難しい。
我々食のプロが、それを伝えていきたいと思います」 と挨拶した。
今、福島県に78人、東京に51人、
その他の地域に13人の「ふくしま応援シェフ」がいる。
そんな料理人と食材たちを仲立ちに、
福島を思い、考え、伝える——そこで生まれる対話のひとつひとつが、
大切な一歩になる。そんなことを実感させられる交流会だった。
1月21日(火)15:00~17:00
四川豆花飯荘(遠藤 浄シェフ)
東京都千代田区丸の内1-5-1
新丸の内ビルディング 6F
03-3211-4000
1月22日(水)15:00~17:00
ソーゼージスタイル流行hayari(村上武士シェフ)
東京都渋谷区恵比寿3-48-5
グランデ恵比寿 2F
03-5422-8467
◎参加費
1500円(1名)
※お帰りの際に、参加者全員にBears Bear fukushimaふくしまを抱くクマ「しまくま」をプレゼント
◎申し込み方法
「ふくしま応援シェフ」のホームページで申込書をダウンロード、必要事項を記入のうえ、FAX またはメールにて申し込み
http://fukushima-ouen-chef.jp/
お問い合わせ
事務局 会津食のルネッサンス
福島県会津若松市中島町2-52
TEL 0120-91-0617 (10:00~18:00 ※土日祝日休)
FAX 0242-93-9368
E-MAIL order@a-foods.jp
http://www.a-foods.jp/
ふくしま応援シェフのレストラン
Com Pho 大崎シンクパーク店
住所 東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark 1F
TEL 03-3779-0564
営業時間 11:00~23:00
年中無休
http://www.compho.jp
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