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フレンチの大御所、田代シェフ。
福島県の食材に、魔法をかける。

TOHOKU2020
vol.022

posted:2014.1.17  from:福島県  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。

editor's profile

三好かやの

みよし・かやの●ライター。宮城県生まれ。食材が産声を上げる最前線で取材すべく、全国を旅するかーちゃんライター。少女時代から無類のホヤ好き。震災から3年、ようやく復活する三陸のホヤを酒の肴に味わうのが、目下一番の楽しみ。創刊87年を数える「農耕と園芸」で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家さんや漁師さんの「今」を、「ゆたんぽだぬきのブログ」で配信中。
http://mkayanooo.cocolog-nifty.com/blog

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加藤純平

東京・渋谷に「ラ・ブランシュ」というフランス料理店がある。
店名は「初心の」とか「真っ白な」という意味で、
1986年2月の開業以来、ずっと多くのファンに愛され続けてきた。
オーナーシェフの田代和久さんは、この道40年以上の大ベテラン。
日本のフランス料理界の大御所で、若手の料理人からの信頼も厚い。

そんな田代シェフは、福島県川俣町田代地区の出身だ。
少年時代は、山でタケノコを掘り、フキの葉っぱで山の清水をすくい、
自宅で飼っていたヤギの乳を飲んだ……
故郷には、そんな思い出がいっぱいある。

しかし、同じ町の山木屋地区は計画的避難地域に指定され、
震災から3年近くが過ぎようとしている今も、
自宅に戻れず避難生活を続けている人たちがいる。
田代シェフは震災直後から、炊き出しやイベントに参加。
料理を通して、積極的に福島県を応援し続けている。

「ふくしま応援シェフ」のひとりとして立ち上がる田代シェフ。

2013年11月25日。
田代シェフは「ふくしま応援シェフ」のひとりとして、
「県産品消費者理解交流会」に協力することに。
「福島の食材で、ラ・ブランシュはどんな料理を繰り出すのだろう?」
会場に集まった参加者の表情は、ちょっと緊張気味。
その期待は、おのずと高まっていた。

最初のひと皿は「柿のマリネと牛肉のソテー」。
赤身が美しい福島牛のソテーの隣に、
オレンジ色の柿の実と皮の、マリネが添えられている。
「これが、会津身不知柿(あいづみしらずがき)です」
客席に柿が丸ごと登場し、参加者の手から手へ渡されていった。
片手では持ちきれず、思わず両手で受け取ってしまうほど。
初めて見る人は、まずその大きさに圧倒される。

「こんなに大きくなったら、木から落ちてしまうじゃないか。
それくらい身の程知らずな柿だから、そう呼ばれるようになったんです」
会場を訪れた「㈲会津食のルネッサンス」の本田勝之助さんが教えてくれた。

「すごくおいしい柿なので、そのまま生でお出ししようと思いました。
でも、まだちょっと硬い。試しに皮だけ食べてみたら、すごく味がある。
もったいないから皮をちょっと炒めて、
果肉は生のまま、塩をちょっとだけ。
それからレモングラスと生姜を加えてマリネにしました」と、田代シェフ。
会場の参加者の表情が、徐々に明るくなっていった。

「福島牛」のこれから。

柿と一緒に添えられたのは、福島牛のもも肉のソテー。

黒毛和種が出荷されるまでには、一般的に900日前後飼養される。
その期間中、福島県で最も長く飼養され、
肉質等級基準をクリアした牛を「福島牛」と呼ぶのだ。

産地では放射性物質の全頭検査が実施されているほか、
3カ月に一度、県の担当者が畜産家へ立入検査を行ない、
水、ワラ等の粗飼料、濃厚飼料、敷料など、飼養状況を確認している。

そんな努力は続けられているのだが、
福島県の肉牛飼育頭数は、震災前の4分の3にまで落ち込んでいる。
高齢な農家が、飼育をやめたためだ。
それでも若手の農家は、希望を捨てず肉質を上げる努力を続けている。
そんな福島の畜産家たちが育てる牛肉は、
ネットの「e牛ショップ(http://shop-jalcf.jp)」で購入できる。
家庭ですき焼きや焼き肉を楽しむ際に、ぜひともご利用いただきたい。

次に登場したのは「赤ワイン味噌ドレッシングと会津の秋野菜」。
透明な皿の上に、南会津町の舘岩地区だけで栽培されている「舘岩カブ」や、
会津坂下町立川地区の「立川ゴボウ」、
そして、会津若松市周辺で栽培されている「茎立ち菜」などが並んでいる。
いずれも会津地方で、大切に受け継がれてきた在来種だ。

シェフ曰く「さっと茹でて、オリーブオイルと塩で味付けしただけ」とのことだが、
口に入れた瞬間、カブはカブ、ゴボウはゴボウの味と香りでいっぱいになる。
「茎立ち菜は、葉よりも茎の方が味が濃くて、存在感が大きいんですね」
そんな声もきこえてきた。
「あまり素材をいじらずに、自然のままの状態をイメージして、
頭の中で野菜たちの故郷を思いながら料理しています」
と田代シェフがそれに応じた。

野菜に添えられた濃紫色のソースは、味噌に赤ワインとビネガーを加えたもの。
福島市で70年以上の歴史を誇る味噌メーカー、フクイチの「福蔵」が使われている。
福島県産大豆(タチナガハ)とお米(コシヒカリ)が原材料。
昔から福島の人たちの食卓で親しまれてきた味噌が、
シェフの手により、ドラマチックなドレッシングに変身した。

次に現われたのは、フランスのカフェの定番「クロックマダム」。
パンにハムとチーズをサンドしてベシャメルソースを乗せたのが「クロックムッシュ」。
その上に目玉焼きを乗せたのが「クロックマダム」といわれているが、卵が見当たらない。
そこで、カットしてみると…

オレンジ色の濃厚な黄身がトロリと流れ出した。
これはまぎれもなく「マダム」。
しかも使われているのは「会津地鶏」の卵だ。
そのまた下にあるのは、フランスパンかと思いきや……中央に穴が空いている。

土台となるパンの代わりに使われていたのは、西会津町特産の「車麩」。
小麦粉のグルテンを練った生地を棒に巻き付けて焼き上げるので、
車輪のような形をしている。

会津地方では、煮物などに使われることが多いが、
「車麩の煮物は、僕らは好きだけど、子どもはあまり食べないよね。
だから年齢を問わず、美味しく食べられるおやつに。
まん中に穴が開いているから、卵を落とすのにちょうどいい(笑)」
そんな田代シェフの説明に、
「これならうちでも作れそう」。そんな声が飛び交っていた。
家庭で手軽にできる子どものおやつ。しかも家族と一緒に福島を応援できる。
シェフの愛情がめいっぱい詰まったひと皿だった。

実はこの料理、田代シェフが「新会津伝統美食」として、メニュー提案したもの。
地元のレストランや飲食店でも採用されていて、
伝統食である車麩の新しい魅力が、広まろうとしている。
(※『車麩のクロックマダム』のレシピを末尾に掲載しました)

そして最後を飾るひと皿はリゾット。
「ふだんは作らないのですが、あえて作ってみました」
たしかにリゾットは、フランスではなくイタリア料理の定番。
福島米の魅力を舌で味わってもらうために、
田代シェフがジャンルを超えて生み出した料理だ。

山形県との県境に近い、喜多方市の熱塩加納(あつしおかのう)地区で、
小林芳正さんが栽培したコシヒカリを使用している。
「昭和40年代から有機質肥料で栽培を始めた、米作りの名人です」
と、教えてくれたのは「会津産直会」代表の新国(にっくに)裕二さん。

長年お米の流通と販売に関わってきた、専門家。
緻密なデータに基づいて、農家の栽培指導も行なっている。
「会津は、肥沃な大地と、山々から流れる豊富な天然水。
そして穂が出て登熟(コメがデンプンやタンパク質を蓄積すること)する時期には、
平均気温が23〜26℃になります。
新潟県の魚沼地方と同じ、おいしい米づくりに必要な条件がすべて揃っているのです」

江戸時代、天保と天明の大飢饉に見舞われた東北地方では多くの餓死者が出たのは有名な話。
しかし、会津地方では、1人も死者を出さなかったという。
それは、気象条件に恵まれているから。そして、
「農民自ら、栽培について学んでいたからです」と新国さん。

会津には江戸時代中期に佐瀬与次右衛門による「会津農書」という独自の農業書があり、
農閑期には文字の読めない農民も、口伝で栽培技術を学んでいたという。
「当時の日本で、独自の農書を持っていたのは、
会津と長岡だけ。それに基づいて1反あたり7俵を収穫していたと記録されています」

7俵=420㎏。機械化と育種が進んだ現代でも、
条件や技術が伴わず、これに及ばない田んぼが全国各地に無数とある。
地形、土壌、気候に恵まれ、昔から勤勉な農家が多い。
そんな土地柄が、食味の高い会津米を生み出している。

会津には、お米を栽培しながら見事な野菜や果物を作る生産者がたくさんいる。
震災の影響で、その技を受け継ぐ人がいなくなってしまうことが、一番気がかりという。
「農産物を育てながら、人も育てなければ。
実習農場を作って若者たちを育て、優秀なプロの農家に送り込もう。
今、そんなプロジェクトも始動しています」

検査を重ねて、安全性を確保。

福島県 県産品振興戦略課の担当者から説明があった。
「福島県では、昨年から最も摂取量の多い、お米の全量全袋検査を行なっています。
昨年は37万t、1100万袋を超えるお米を検査して、
安全性を確認したものだけをお出ししています。
今年も検査は始まっていて、
その結果は『ふくしまの恵み安全対策協議会』のHPでご覧いただけます。
今年は原発から30km圏内などの避難指示区域での試験栽培も始まっていて、
少ないですが基準を超えたものもありましたが、
それでも基準値を超えたコメが、市場に出回ることは決してありません。
その点を、ご了承いただきたいと思います」

交流会の終了間際、参加者から田代シェフへの質問が相次いだ。

参加者:「柿のマリネに添えられた、紫キャベツのマリネの作り方を教えてください」

田代シェフ:「フライパンでオリーブオイルを熱して、
そこへ生のキャベツを葉っぱのまま20秒ぐらい押し付けます。
焼くのではなく、火が入るか入らないかぐらい。水分を抜く感じですね。
それを刻んでオリーブオイルと塩とビネガー。
そしてエシャロットのみじん切りを混ぜる。
ご家庭ではタマネギでもいいと思います。
豚肉や鶏肉の付け合わせに。
そこにジャガイモを添えれば、もうほっぺたが落ちますよ」

参加者:「リゾットと一緒に食べた、クルミ味噌の作り方を教えてください」

田代シェフ:「クルミを5分ぐらいオーブンで焼いて、
味噌に赤ワイン(水でも可)と、栃のハチミツを入れて混ぜる。
それをベーキングシートに乗せてオーブンで7分ぐらい焼きます。
トースターでもできると思います。
作り置きできるので、食べたい時に塗る。
僕にとって、子どもの頃の懐かしい味です」

その他、こんな質問も。

「会津身不知柿や、今日のお野菜は、どこで買えますか?」

「車麩のような、福島県産品が買えるショップは?」

県の担当者がタジタジになるほど、積極的な意見が飛び出す場面も見られた。

中央が佐藤陽子さん。

参加者のひとり、佐藤陽子さん(30代)は福島県出身。
フードコーディネーターの資格を一週間前に取得したばかりという。
資格の取得に向け、共に学んだ仲間を誘い、7人で交流会に参加した。
「みんな料理や食べ物が好きな人たちなので、
この機会に、福島の食材を知ってほしいと思い一緒に参加しました。
田代シェフのお料理は、目からウロコのものばかり。
クロックマダム、ぜひとも参考にさせていただきます」
この日の料理は、参加者の手で東京でも広まっていきそうだ。

交流会の最後に、改めて田代シェフにお話を伺った。

「福島の食材は、間違いなく美味しい。
そして、検査もされているので、安心して召し上がっていただきたい。
噛みしめて、味わって、福島に思いを馳せていただく。
それがひとつの起爆剤になると思います。
料理を通して、福島に思いを馳せてもらえれば、
ひとつの思いがふたつ、ふたつの思いが3つ……
そうやって広がっていくことが、やっぱり大切だと思いますよ」

故郷の置かれた厳しさを、日々感じながら、厨房に立つ田代シェフ。
しかし、その料理を味わい、福島に思いを馳せた人たちはみな、
まるで魔法にかかったように、いつの間にか笑顔になっていた。

福島を味わい、そして思う。
その大切さと、可能性を、誰もが実感したひとときだった。

★『車麩のクロックマダム』のレシピ

【材料(4人前)】

車麩:4枚 牛乳:300cc 卵:4個 塩・胡椒・砂糖:少々 

スライスハム:4枚 

スライスチーズ(パルメザンチーズでも可):4枚

※ベシャメルソース

小麦粉:20g バター:20g 牛乳:250cc 

粉チーズ:スプーン1杯 塩・胡椒:少々

●つくりかた

車麩4枚を牛乳に1〜2時間ひたしてもどす。

ベシャメルソースを作る。鍋でバターを溶かし、
小麦粉を入れ、4〜5分なめらかになるまで弱火で火を通す(※注)。
少しずつ牛乳を加えて、とろみがついたら粉チーズを入れ、
塩、胡椒で味を調える。(塩気が強くならないように注意する)。

※注:このタイミングでルーを冷凍保存しておくと便利。
牛乳を加える前のルーをバットなどに入れて冷凍しておき、
使うタイミングでそれをキューブ状にカットして(1人前10g程度)、
沸かした牛乳に冷凍したままのルーを入れると作業がスムーズです。

に、塩・胡椒・砂糖をかけ、プライパンで両面に軽く焼き色がつく程度に焼く。

車麩が焼けたらオーブントレーに移し、車麩の中に卵1個割り入れる。

の上に、ハム1枚・チーズ1枚をのせ、
ベシャメルソースを表面を覆う程度にかけ、粉チーズを軽くふる。

を180度のオーブンで10分間焼き、最後に上火で焼き色をつける。

ふくしま県産品応援サイト

http://www.fukushima-kensanpin-ouen.jp

福島県農産物モニタリング情報「ふくしま新発売。」

http://www.new-fukushima.jp

「県産品消費者理解促進交流会」
◎第4回「1月〜正月食べ過ぎ解消 ふくしまの冬野菜と麺とパン」

1月20日(月)15:00~17:00

播磨坂 もりずみ(森住 康二シェフ)

住所:東京都文京区小石川4-15-13 HARIMAZAKAビル 1F

TEL:03-5805-3655

1月21日(火)15:00~17:00

四川豆花飯荘(遠藤 浄シェフ)

住所:東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング 6F

TEL:03-3211-4000

1月22日(水)15:00~17:00

ソーゼージスタイル流行hayari(村上武士シェフ)

住所:東京都渋谷区恵比寿3-48-5 グランデ恵比寿 2F

TEL:03-5422-8467

「県産品消費者理解促進交流会」
◎第5回「2月〜雪中野菜と煮込み料理 ふくしまのもどき料理」

2月5日(水)15:00~17:00

つきぢ田村(田村 隆シェフ)

住所:東京都中央区築地2-12-11

TEL:03-3541-2591

http://www.tsukiji-tamura.com/

2月6日(木)15:00~17:00

COOK COOP BOOK(萩原雅彦シェフ)

住所:東京都千代田区紀尾井町4-5 G-TERRACE紀尾井町1F

TEL:03-3264-3230

http://cookcoop.com/

2月19日(水)15:00~17:00

ポタジエ(柿沢安耶シェフ)

住所:東京都目黒区上目黒2-44-9

TEL:03-6279-7753

http://www.potager.co.jp/

◎参加費

1500円(1名)

※お帰りの際に、参加者全員にBears Bear fukushimaふくしまを抱くクマ「しまくま」をプレゼント

◎申し込み方法

「ふくしま応援シェフ」のホームページで申込書をダウンロード、必要事項を記入のうえ、FAX またはメールにて申し込み

http://fukushima-ouen-chef.jp/

お問い合わせ

事務局 会津食のルネッサンス

住所 福島県会津若松市中島町2-52

TEL 0120-91-0617 (10:00~18:00 ※土日祝日休)

FAX 0242-93-9368

E-MAIL order@a-foods.jp

http://www.a-foods.jp/

information


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ラ・ブランシュ

住所 東京都渋谷区渋谷2-3-1 青山ポニーハイム2F

TEL 03-3499-0824

営業時間 12:00~14:00(L.O) 18:00~21:00(L.O)

定休日 水曜・第2、第4火曜

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