連載
posted:2013.11.7 from:福島県 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。
editor’s profile
Kayano Miyoshi
三好かやの
みよし・かやの●ライター。宮城県生まれ。食材が産声を上げる最前線で取材すべく、全国を旅するかーちゃんライター。少女時代から無類のホヤ好き。震災から3年、ようやく復活する三陸のホヤを酒の肴に味わうのが、目下一番の楽しみ。創刊87年を数える「農耕と園芸」で、被災地農家の奮闘ぶりをルポ。東北の農家さんや漁師さんの「今」を、「ゆたんぽだぬきのブログ」で配信中。
http://mkayanooo.cocolog-nifty.com/blog
Photo:澤村尚徳
福島の生産者が生み出した食材を、
ふくしま応援シェフが料理して、その魅力を分かち合う。
そんなコンセプトで企画された、
「県産品消費者理解促進交流会〜ふくしま食の魅力創出〜」が始まった。
第1回のテーマは「残暑を乗り切る夏果菜とふくしまのスタミナ」。
10月2日、恵比寿の「VEGETABLE HOUSE WANOBA」では、
福島産の野菜、サーモン、馬肉、そしてハチミツと、
黒木久弥シェフがコラボレート。はたしてどんな料理が登場するのだろう?
この日ゲストとしてお迎えしたのは、㈲ハニー松本の伊藤身輔さん。
会津若松で70年もの歴史をもつハチミツ屋さんだ。
誰もが甘味に飢えていた時代、戦地から帰った先々代の創業者が、
砂糖に代わる甘味料として、ミツバチを使った養蜂を手がけたのが始まり。
養蜂にはミツバチと、その蜜源が欠かせない。
「会津地方は森林率82%。
とくに奥会津や南会津には、栃の木やブナの木の林が多いのです」
4月の山桜、5月の栃の木、6月はアカシアやキハダ、そして萩、
7月になれば栗の花、8月はコシアブラ、9月になるとソバが咲く……
養蜂家は、「花のジプシー」とも呼ばれる。
花の咲く場所を求め、ミツバチの巣箱とともに移動するからだ。
「巣箱を置かせていただいている、山や森の地主さんとは、何十年来のお付き合い。
『そろそろ咲くぞ』『早く巣箱を持ってこい』と、お電話をいただくこともあります」
こうして生み出されるハチミツは、全部で11種。
すべて会津地方で採取したものだ。
そこには会津の自然と植生の豊かさと、四季折々の花のテイストが凝縮されている。
ハニー松本で最も多く採れるのは「栃の木」のハチミツ。
全体の約3分の2を占めている。
「栃の木は、元々日本古来の在来種です。
その実から作るトチモチは、縄文人の主食でした。
また栃の木は会津の漆器や家具の材料にもなっています(伊藤さん)」
いにしえの昔から、栃はその木も実も、そして蜜も、
会津の人たちの生活に欠かせぬ存在だったのだ。
そんな栃の木の蜜は、クセが少なく、さっばりとした口あたり。
パンに、スイーツに、料理にと、幅広く使える。
今回、黒木シェフは、この「栃の木の蜜」を、
「トマトといろいろ野菜のはちみつマリネ」に使用している。
「ベーシックな味わいなので、料理にも使いやすいですね。
会津に11種類もハチミツがあるなんて知りませんでした。
素材によって風味が変わるので、
ソースで使い分けみたいですね(黒木シェフ)」
次に登場したのは「メイプルサーモンと白桃の生春巻き」だ。
参加者に感想を聞いてみた。
「私は、サーモンが大好きなんですが、
福島に養殖のサーモンがあるとは知りませんでした(30代女性)」
正式には、「阿武隈川メイプルサーモン®」という。
産卵のために生まれた川へ遡上するシロザケとは異なり、
山あいの淡水養魚場で育つ、完全養殖のニジマスだ。
清涼な阿武隈川源流の水で育てられるため、
寄生虫などの心配はなく、安心して食べられる。
また、放射性物質に関する福島県のモニタリング検査はもちろん、
独自の検査も行なっている。
黒木シェフは、イベントに先立ち、西白河郡西郷村にある養魚場を訪ねている。
「他の養殖サーモンに比べて、脂がやわらかい。
そしてさっぱりした味わいです。なので今回は、マリネした桃を合わせました」
桃は夏のイメージが強い。
10月初旬に、本当にまだ桃があるのだろうか?
「実は『さくら白桃』という桃があるんです」
桃の産地の福島県には、収穫期の異なる品種が多数あり、
例えば「白川白鳳」→「あかつき」→「川中島白桃」という具合に続き、
7月から10月まで桃が採れる。
その晩生種の中で甘味が非常に強く人気急上昇中なのが「さくら白桃」だ。
太陽の恵みをいっぱいたくわえた10月の桃。
「果樹王国福島」の層の厚さを物語っている。
「学生時代の友人が会津出身だったので、よく遊びに行きました。
宮城で育ったので福島は身近な存在だし、応援したい。
facebookでこのイベントを知り、参加しました(30代:男性)」
そんな風に会津を知る人にも衝撃だったのは、
「会津馬肉のタリアータ サラダ仕立て」。
会津特産の馬肉を軽く炙って「たたき」のような状態に。
にんじん、大根、みょうが、いんげん等、香りの濃い野菜とともに味わう。
「馬刺といえば、わさびやニンニク醤油で食べるイメージ。
こんな形でたっぷりの野菜と食べるのは初めてです(20代女性)」
黒木シェフ自身も、
「会津の馬肉は、赤身なのにコクがある。
醤油や味噌の強い味ではなく、
お野菜のうま味と一緒に愉しみたいですね」と話していた。
甘酒とお米とともに細かく刻んだ会津産グリーンアスパラガスを炊いたリゾット。
それをコロッケのように仕上げた「グリーンアスパラガスのアランチーニ」も、
「甘味がある」「日本酒によく合う」と大好評。
お米も、甘酒も、日本酒もすべてコメ由来。
ひとつの料理としてまとまった瞬間に一体感が生まれるのも頷ける。
料理とともに当日供されたお酒は、
「七重郎」(稲川酒造店・猪苗代町)、
「BLUE BERRY SAKE」(榮川酒造・磐梯町)など。
国産天然炭酸水の「アクアイズ」(ハーベス・金山町)も登場した。
福島のお酒が味わえるのも、このイベントの醍醐味だ。
イベントは終始和やかな雰囲気で進んでいたが、
㈲ハニー松本の伊藤さんのお話からは、
福島が置かれている厳しい現状も垣間見えた。
「元々ハチミツは健康を気遣うデリケートな方が、
砂糖の代わりに愛用されていることが多いのです。
そういう方は放射性物質にも敏感。
私たちは検査も行なっていて、安全性にまったく問題はないのですが、
販売面でダメージが大きい現実は否めません」
福島県では、県とJA、そして出荷業者などが、
食材の生産段階でたび重なる検査を行なった上で、
さらに流通段階でも各都道府県が検査を実施している。
検査の詳しい内容は、福島県のHPでも公開中。
さらに11月には、福島県産品を応援するWEBページも開設予定。
県産食材の生産者が想いを込めて育てた福島の食材を購入できる、
オンラインショップも紹介している。
「ミツバチは体長3cm。寿命は6週間ほどですが、その間に5gのハチミツを集めます。
そんな命の大切さと、安全性を一緒にお届けしていきたい(伊藤さん)」
ふくしまの応援は、まず客観的なデータを知ることから始まる。
実際に現地を訪れ、栽培や生産、
そして検査の様子を自分の目で確かめてきた料理人が、
現地の様子を伝えながら、自信を持ってスペシャルな料理へと仕上げてくれる。
本当の信頼と安心は、こんな試食交流会のような機会から生まれるのかもしれない。
2013年11月28日(木) 15:00~17:00
恵比寿 笹岡 新丸ビル店(笹岡隆次シェフ )
住所 東京都千代田区丸の内1-5-1 丸の内ビルディング5F
TEL 03-3287-9088
◎参加費
1500円(1名)
※Bears Bear fukushimaふくしまを抱くクマ「しまくま」を、
お帰りの際に、参加者全員にプレゼント
◎申し込み方法
「ふくしま応援シェフ」のホームページで、
申込書をダウンロード、必要事項を記入のうえ、
FAX またはメールにて申し込み
http://fukushima-ouen-chef.jp/
お問い合わせ
事務局 有限会社 会津食のルネッサンス
住所 福島県会津若松市中島町2-52
TEL 0120-91-0617 (10:00~18:00 ※土日祝日休)
FAX 0242-93-9368
E-MAIL order@a-foods.jp
http://www.a-foods.jp/
ふくしま応援シェフの店
ベジタブルハウスWANOBA
住所 東京都渋谷区恵比寿3-1-1
TEL 03-5424-0610
月・水~金 18:00~26:00
土・日・祝 17:00~26:00
火休
http://www.wanoba.com
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