連載
posted:2017.10.31 from:岐阜県大野郡白川村 genre:暮らしと移住
sponsored by 飛騨地域創生連携協議会
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Tatsufumi Shiraishi
白石達史
しらいし・たつふみ●2010年に飛騨に移住。世界中から旅人が集まるガイドツアー、SATOYAMA EXPERIENCEの立ち上げに関わり、2017年に独立。編集・企画・広報・珈琲を柱に、新しい暮らしを実践中。
photographer profile
Fuko Nagasaka
長坂風子
ながさか・ふうこ●愛知県生まれ。大学卒業後、映像制作会社に勤務。地域の“今”を残したいと思い、岐阜県白川村に移住。好きなことは、映画を観ること、食べること。
飛騨への移住は何が違う? 仕事、住居、暮らしを支える飛騨コミュニティ 一覧はこちら
世界中から集まる、多くの旅人の心を掴んで離さない飛騨。
観光地として有名な飛騨は、高山市・飛騨市・下呂市・白川村の
三市一村からなる広域エリアだ。
伝統に触れつつ、新しい生き方を実践できるこの地域には、
観光客だけでなく移住者が増えている。
地域で暮らすうえで、大きなポイントとなるのが、人とのつながり。
縁を感じられる地域には、移住者は自然と集まってくる。
コロカル×未来の地域編集部でお届けする、飛騨の魅力に迫る連載。
外の人々を迎え、つながりを強くする。そんな飛騨のコミュニティを訪ねていく。
世界遺産の合掌造りが有名な白川村。
観光で注目されることが多いが、当然ここにも暮らす人々がいて、日々の営みがある。
昔から続いてきた村独自の文化や、周囲の大自然から、生き方を学ぶことも多い。
そんな人口1700人の小さな村に、2016年11月に大学が開校した。
〈白川郷ヒト大学〉(ヒト大)と名づけられたこの大学は、
特定のキャンパスを持たないソーシャル大学のひとつだ。
日本の各地域で見られる学びのスタイルだが、人口の多い都市部ではなく、
村で展開していることに驚かされる。いったいどのような大学なのだろうか。
「村では、青年部をはじめ昔から続いているコミュニティはあっても、
若者が多様な価値観を学ぶ場はありませんでした。
これからは、この地域に住んでいる人が、
楽しみながら学べるコミュニティをつくりたいと思ったんです」
こう話すのは、事務局長の前盛よもぎさん。
2年前に、地域おこし協力隊として白川村に着任し、
現在は教育に関する活動に力を入れている。
村では、子どもたちと〈かやっこ劇団〉という劇団を立ち上げて村内外で公演したり、
『そんみんし』という、地域住民を取り上げたローカル冊子の編集・発行をしている。
「もともと、私は教育と地域をつなぐ仕事をしたかったこともあって、
村で何かできないか模索していたんです。
ちょうどそのとき、協力隊の先輩でもある柴原さんも
同じ思いを持っていることがわかり、まずはやってみよう! という話になりました」
事務局長としての仕事は、授業の企画から運営まで多岐にわたる。
そもそも、ソーシャル大学ということもあり、決まった形式はなく、
授業内容はコアメンバーで話し合いながら決めているそうだ。
調整ごとも多いが、地域おこし協力隊として活動している下地もあり、
取り組む姿は生き生きとしている。
「村内には、若者たちが働く場も少しずつ増えてきています。
ただ、そういった若者が、人とのつながりを感じられる場というものはまだ少ない。
せっかく豊かな場所に住んでいるのだから、家と職場の往復だけでは、
もったいないですよね。若者たちが、もっと村に関わるきっかけを
提供できればと考えています。
今後は、村の人たちだけでなく地域外の人も巻き込んで、
多様性のある交流が生まれるのが理想です」
ソーシャル大学だからこそ、誰でも学生になれることは魅力だ。
これまでの授業の参加者も、村の住民に加えて、移住検討者や、
今後の生きる場を探している人が多かったそうだ。
村で暮らす人たちには、よりよい村の未来を見据えた、新しい学びの場の提供を。
そして、都市部の人たちには、地域に入ってくるきっかけをつくる。
それぞれが混ざり合うことで、白川郷ヒト大学の活動に価値が生まれる。
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白川郷ヒト大学の授業は、1日限りの講座と、
数日間村に滞在する合宿のふたつに分けられる。
これまでに開いた講座では、ゲストを招いたトークイベントやマルシェを開催。
地域の人に出店してもらったり、誰にでもオープンな授業であることが特徴だ。
一方、合宿は泊まり込みで行われるため、濃厚なプログラムになることが多い。
9月には、大学生向けのローカル編集合宿が開催され、
ライターを目指す学生が全国から10名集まった。
6日間の滞在期間中に与えられたミッションは、
村内事業者の求人について取材し、記事にすること。
学生たちは、書くことに興味はあっても、
これまでに記事を書き上げた経験はほとんどない。
最初の数日は試行錯誤の連続だったが、講師によるカメラ講座や
編集講座を受けたことで、村内事業者の求人記事を書き上げられたという。
「村内の事業者からは、『手が足りない。でも、募集しても人が集まらない』
という声を聞いていました。ローカル編集合宿は、
そこを学生の視点で解決できないかと思ったことが始まりです。
取材して記事になったことだけでも、
協力者の皆さんにはとても喜んでもらえたのですが、
実際に求人申込につなげることもできて、成果も出ています。
地域外から来た学生たちが、合宿を通して学び、村の課題に向き合えたのは、
白川郷ヒト大学にとっても大きな一歩でした」
こう話すのは、学長の柴原孝治さんだ。
柴原さんは、地域おこし協力隊の活動と併行して、
〈一般社団法人ホワイエ〉を立ち上げ、事業をスタートした。
もともと、白川郷ヒト大学は、ホワイエの「次世代人材育成事業」として
位置づけられた事業だが、この人材育成は村の内外どちらでも可能なのだ。
「開校した当初は、村に対しての思いが強くて、
とにかく住んでいる人が学ぶことが大事だと思っていました。
そこが大切なのは変わらないんですが、
いまは、地域外の人たちが村と関わりを持てるよう、
仲間づくりをしていければと考えるようになってきました。
ヒト大のコミュニティを通して、村との新しい関わり方を提案できればと思っています」
これまでは、白川村に興味がある人たちは観光で来るか、
ある程度具体的な相談を行政にするしかなかった。
しかし、白川郷ヒト大学ができたことで、
開催される講座に参加するという選択肢ができた。
観光でも移住でもない、地域とのつながりを感じられる関わり方だ。
そういった意味で、ヒト大は講座や合宿を通して、
多くの人々が交差する、新しいコミュニティになりつつある。
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鳥原佳央莉さんは、白川村の平瀬地区出身で、2015年に故郷にUターンしてきた。
高校進学と同時に村から離れたが、故郷への想いは強く、
長期で休みが取れるときは、必ず村に帰ってきていたというほどだ。
帰郷後に柴原さんたちと出会い、2017年からは、白川郷ヒト大学の副学長を務める。
「びっくりしましたよ。ヒト大学のことを何も知らないのに、
役職を考えよう! となって、次に会ったらいきなり副学長ですからね(笑)。
それでも、自分ができることは必ずあると思って引き受けました。
私は、外から来た柴原さんたちががんばっているのを見て、
ありがたいけれど、人ごとにしてはいけないな、と感じていました。
自分が生まれた村のことなので、私も活動に関わっていきたい、と感じたんです」
初めて関わったイベントでは、村の人たちが喜んでくれている姿を見たことで、
ヒト大での自分の役割を考えたという。
「ふつうにお手伝いをするだけ、という認識だったんですが、
ふと、自分にしかできない役割ってなんだろう、と考えたんです。
移住してきた柴原さんたちは、積極的に動いているけれど、
もしかしたら村の人たちが聞きにくいこともあるかもしれない。
そういった人たちの声を、私が拾うこともできるんじゃないか、と思いました」
移住者が、地域でイノベーションを起こすことは、
地域にとって必ずしもプラスに働くとは限らない。
たとえそれが、非の打ち所のない正論であったとしても、
地域では信頼関係の構築が先で、物事を進めるのはその後。
時間をかけた対話を繰り返し、お互いを知ることが重要視される。
そういった意味では、鳥原さんのように、地元出身者がいることは、なによりも心強い。
村との橋渡し役として、今後の白川郷ヒト大学を支えることができるはずだ。
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村内で着実に実績を積んできているヒト大だが、
柴原さんには思い描いている構想がある。
「これからは、他地域とのネットワークを広げていきたいと思っています。
白川郷ヒト大学がさまざまな場所にできることで、
各地域の価値観を白川郷に混ぜることができるんじゃないかと。
実際には、おもしろそうだからやるというだけなんですが(笑)。
具体的に、いま話を進めているのは、海と島でのヒト大の展開。
山・海・島にネットワークをつくることを視野に入れています」
あくまでも、柴原さんたちが出向いて興すのではなく、
主体となる団体の運営面をサポートしていく。
資金面のサポートや運営ノウハウを共有することで、
その地域の人が、想いさえあれば立ち上がれるようにすることが狙いだ。
「どこのヒト大も独立しつつ、立ち位置は平等にしたいと思っています。
そのなかで交流が生まれ、さまざまな地域の価値観が
混ざり合っていく場をつくっていきたい。
山と海と島の交換留学ができれば、白川村にいながら外の地域とつながることができる。
都市部だけが選択肢ではなく、村に住み続ける価値が
あがってくるのではと思っています」
地域に住みながら、交換留学制度を取り入れて、開かれた環境をつくることで、
ローカル×ローカルの価値のかけ算が生まれる。
プラットフォームは提供しつつも、地域ごとの主体性を尊重することで、
特色のあるヒト大が誕生することになりそうだ。
そして、今後取り組んでいきたいもうひとつの分野は、教育だ。
リアルな大学と協力態勢をとり、ヒト大の講座や合宿に参加することで、
大学の単位取得につながる仕組みを考えている。
学生には、大学の長期授業の一環として、3か月ほどヒト大に参加してもらう。
大学側としては、外部で学ぶ公式授業のひとつとしてカウントすることで、
単位制度に組み込むことができるというわけだ。
「ヒト大の教育的意義を高めていくことが、これから目指したいところです」
講座や合宿に参加して、単位取得までできるのであれば、学生にとっても魅力的だ。
経験を持って帰るだけではなく、実益が伴うことで、
責任感と参加するモチベーションも高まるはずだ。
「これからは、コミュニティをつくりながら、
社会的な価値を高めていくことが必要なんじゃないかな、と思います。
村民にももっと関わってもらえるような仕組みも必要だし、
地域外からもまだ人を呼び込みたい。
白川郷ヒト大学ならではのやり方を見つけて、継続していきたいですね」
もともと、白川村には「結(ゆい)」という互助制度がある。
かつては、合掌造り家屋の屋根の葺き替えのときは、
結によって住民が協力しながら行っていたそうだ。
地域行事で活躍する青年部や、民謡の保存会など、
コミュニティがあってこそ成立する文化は、いまでも残っている。
白川郷ヒト大学は、地域内外の人がボーダーレスに関わることができる、
貴重なコミュニティだといえる。移住することはハードルが高くても、
観光と移住の間で、地域の営みに触れることは、
暮らし方のイメージの源泉となりうるだろう。
「未来の地域編集部」が発信する、
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