連載
posted:2017.6.28 from:徳島県三好市 genre:暮らしと移住 / 活性化と創生
sponsored by 徳島県三好市
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Chizuru Asahina
朝比奈千鶴
あさひな・ちづる●トラベルライター。“暮らしの延長線の旅”をテーマに、食の生産地、ハーブ、おいしい民宿、エコツーリズム、コミュニティなどを多角的に取材。ふだんの暮らしに新しい扉が開くような、わくわくする場所や事柄に出会う旅のかたちに興味があります。 『Holistic Travel』
photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。自身のコロカルでの連載『暮らしを考える旅 わが家の移住について』『美味しいアルバム』では執筆も担当。
少子化に伴い、全国各地で学校の統廃合が進んでいる。
廃校になるということは、大きな校舎が空っぽのまま地域に存在するということだ。
使わない建物は人の気配をなくし、放置のままに荒廃していく。
校舎を壊すだけでもずいぶんな予算もかかり、
できれば治安の問題も含めて校舎は有効活用できたほうが望ましい。
一方、お金をかけずになるだけそこにあるものを利用して、
新たな生き方やビジネスを模索したい人たちもいる。
廃校カフェ&ゲストハウスとして人気の、
徳島県三好市の旧出合小学校〈ハレとケデザイン舎〉は、
地域と移住者、双方のニーズのマッチングがうまくいった廃校活用の好例だ。
3年前、徳島県三好市へ移住した
ハレとケデザイン舎代表の植本修子さんは
ひょんなことから三好市の休廃校活用アイデア募集を知った。
そこですぐに現地に足を運んでいくつかの学校を見学。
すると、いろんなアイデアが湧いてきたという。
東京でデザインの仕事をしていた植本さんにとって
大きな空間を自由に使うことを許されるということは
無限大の可能性を持つクリエイティブな作業で、
校舎の内装から湧く未来のイメージにわくわくしたそうだ。
「先々の苦労を想像するよりも、おもしろそう、
やってみたい! と思う気持ちのほうが大きかったですね」
当時を振り返り、植本さんはそのときのモチベーションは現在にも続いていると語る。
「使える廃校があるならば、まだまだやりたいこと、
できることはたくさんあるのでやってみたいんです」
植本さんの話を聞くと、あたかも軽やかに実行してきたように見えるが
実際に、休廃校活用の事業案を採択され、
ビジネスやコミュニケーションの場とするには、複雑な認可のプロセスが重要だった。
「終わってみると、大変なことは忘れてしまうのよね」と笑う植本さんに、
彼女が行った廃校を再生し、開業するまでの手順を聞いてみた。
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2012年春。三好市の小学校統合などにより、28校が休廃校。
そのため、市が休廃校活用事業を開始。
2014年春に行われた第4次事業計画募集の情報を知った植本さんは、
何かできるのでは、と秋に三好市へ視察に訪れ、まずは4、5校ほど見学。
「商売をするならば」と担当者にまちなかの物件ばかりを見せられたがピンとこず、
不便な場所でもいいからと希望し、旧出合小学校と出会う。
中庭の雰囲気に魅せられ、ふとカフェでも始めたらいいかなとひらめき、
事業に応募することと移住することを決めた。
旧出合小学校でやりたいことや、収支の予測を3年分の事業計画書にまとめた。
市の申請フォーマットがあるため、書き方のわからないところは
何度も市役所の地域創生振興課(当時は地域振興課)に確認した。
ちなみに、同小学校には過去2度ほど別案での応募があったが
採択はされていなかった。
徳島県にはデザイン会社のサテライトオフィスとして申請し、2014年春に採択された。
現在は、三好市に3つあるサテライトオフィスのうちのひとつとなっている。
サテライトオフィスで受けられる補助としては
通信回線使用量の2分の1負担や新規雇用の支援、不動産賃貸料2分の1負担、
遠距離移動のための交通費などがある。
旧出合小学校は無償貸付なので、不動産賃貸料はかからないが、光熱費は必要だ。
移住後に生活が不安定になるといけないので、
東京でのブランディングやデザインの仕事を1年分つくって持ってきた。
事業採択後、東京から起業の準備をしなくてはいけなかったため、
書類を作成する司法書士を市役所経由で依頼。
起業の手続きは地元で移住支援を行うNPO法人マチトソラに手伝ってもらった。
移住後に住むための家探しは
市の空き家バンクやNPO法人マチトソラのサポートが大きい。
校舎のリフォームはなるだけセルフでと考えていたが限界があるため、
三好西部森林組合を紹介してもらい、
間伐材ウッドデッキのための防腐剤を注入した木材の調達も容易になった。
まずは地域の公民館長に挨拶し、地元とのつながりを持った。
お互いに無理のないよう、距離をいきなり詰めないように心がける。
直接、近隣の住人から何かを言われたことがはないが、
もしかしたら当初は遠巻きに警戒されていたかもしれないと植本さんは振り返る。
ライブイベントに場所貸しをするときなどは地域の長にひと言伝えることにしている。
妹の綾子さんとともに会社を設立し、デザイン事務所を開始。
パティシエの綾子さんは、ここで商品開発やお菓子やパンづくりのワークショップを行う。
植本さんは東京の仕事に加え、
三好市内の会社のパッケージデザインやデザインなども精力的に行った。
〈出合小学校復活祭〉を開催して地域へお披露目。
9年ぶりに学校に人が戻ってくるため、
オリジナルストーリーをつむぎ、住人をイベントへと誘うようにした。
ダンスパフォーマンスやライブ、アフリカの楽器をつくるワークショップなどを催し、
子どもからお年寄りまで楽しめる空間であることをアピールした。
ランチルームだった教室をリノベーション。
当初の計画通り、カフェとしてオープン。
カフェのスタッフはラフティングの仕事をしていた知人が
閑散期を迎えたタイミングだったので誘った。
多いときで6人、少なくて3人の社員を雇い、現在は社員4人とアルバイト2人の計6人。
カフェのほか、自家焙煎したコーヒーの販売、地元の雑穀や唐辛子を使ったチョコレート、
地元のお母さんたち手がける調味料や近隣のお茶など、
パッケージを担当した商品なども販売。各種イベントに出店もしている。
家族連れなどが泊まれるように、6つのベッドをひとつの教室に置いた。
イベントやワークショップを頻繁に企画。
四国のへそという場所の利点を生かし、
週末には四国のみならず多方面から人が集まるようになった。告知は主にSNSを利用。
上記を振り返って、植本さんが一番大変だと感じたのは事業計画書の作成だったという。
「やりたいことで自立できますという証明ができることが、事業計画書のポイントです。
県、市、国などからサポートを受けられるものを調べて申請しましたが、
想像の世界で収支をはじき出すといった書類作成が難しく、かなり時間がかかります。
資金があればサポートがなくてもできるのと、
期間の縛りや補助金の金額とかかる労力のバランスもあるので
かえって面倒になる場合もあるかもしれません。
補助金の申請をするもしないもケースバイケースだと思いますが、
そういう書類のおかげで先々のことや現実のことを
想像して臨むことができたようにも思います」
縁もゆかりもない土地で、いきなり開業と移住をした植本さん。
うまくいった点もあればうまくいかなかった部分もあったという。
「何かを進めるときには、地元の方に対して細かい説明が必要になります。
こちらでは伝えたつもりでも、おばあちゃんたちには伝わっていないこともありました。
信頼関係が築けていなかったために、当初は誤解を受けていたかもしれません。
ですが、懲りずに声をかけていましたし、あまり気にしない性格なので
そういった意味でこれまでやってこられたのもあるかもしれませんね」
風習の異なる土地で、土地のやり方を徐々に学んでいった植本さん。
住んでいるうちにこんなことにも気づいたとか。
「移住してから、もらいものをよくいただくようになりました。
東京ではあとから感謝をかたちにすることが多いのですが、
三好ではその場でもてなしをすることが多いんです。
なので、遠慮せずにまずは何でも受け入れるようにしました。
また、甘えられるところは“お願いします”と言ったほうが
スムーズに行くことが多いですね」
外から来たものが地元とうまくやっていくには、
素直に甘えること、自分のやり方にこだわりすぎないことが肝要なのだ。
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文部科学省が行っている全国の公立小学校、中学校、
義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校を対象にした
“廃校施設活用状況実態調査”によると、
2014年度は477校、2015年度では520校の学校が廃校した。
今後増えていく廃校をどのように活用していったらいいのだろうか。
三好市役所の当時の担当者、安藤彰浩さんに経緯をうかがった。
2013年4月の異動で地域振興課(現在のは地方創生推進課)に異動した安藤彰浩さんは、
休廃校活用の専任となり、調査を始めた。
これまで、地域振興課で休廃校実態の調査をしていたものの、
建物までのアクセスの不便さ、建物やグラウンドの傷み具合、
活用アイデアが浮かばないなどの問題で担当者が足を運んだものの、
ほぼ諦めているのに近い事実を知った。
何よりも、地域から校舎を再利用してほしいという要望がなく、
ほとんどが休校になったまま放置されっぱなしだったという。
安藤さんが前任者から引き継いだときには
選挙の投票所や避難所、地域の運動会、公民館、デイサービスなどに使われていたが、
利用頻度は1年に数える程度。休廃校の利活用が積極的になされているとは言えなかった。
そうはいっても、建物に人がいない状況でも、
固定の電気代や浄化槽の点検や維持管理の委託料など、ランニングコストはかかる。
もちろん、それらは市の財政に影響を与えていた。
建物の使用頻度や建築年度、避難所として機能しているかなどを考慮し、
休校から廃校にするのか、また老朽化した建物を残すべきか、
壊すべきか、調査検証をしていくことを安藤さんはたったひとりで始めた。
結果、22校は活用すべき学校と判断し、
まずは県内から関西の大企業に何かに使えないかと営業に出かけた。
ただ、企業の担当者と会ううちに、
行政の一担当者として太刀打ちできない内容だと実感することになり、
考えあぐねた挙句、地域住民の希望を、まずは聞くことが大事と各地でヒアリングを行った。
結果、「地域のランドマークだから明かりがないのが寂しい。
なんでもいいから明かりを灯してほしい」という地元の意見が多く、
決して地域に雇用を生んでほしいということではなかったという。
当時、全国の自治体で地域住民の声を聞いていたのは全体の2割程度で、
例のないことだったが、安藤さんは22の学校の地域の人たちに聞き回った。
市内のヒアリングと同時に、安藤さんは全国各地の廃校セミナーに参加した。
そこで得た知識や各地の情報を含めて総合的に考えると、
ひとりの行政マンの取り組む領域を超えてしまうことが想像できたという。
そこで、市の課長クラス以上を巻き込む休廃校活用推進委員会を立ち上げたのだ。
推進委員会として動き始めた安藤さんは早速、制度に大きな問題があることに気づいた。
よいアイデアを持った民間が入って来る場合、休校している学校は使えない。
なぜならば、校舎を学校として機能するのでなければ、
建物は使用不可に決められているからだ。
だからといって休校扱いから廃校に決まってしまうのは、
地域住民にとって学校がなくなってしまうも同じことを意味する。
地域の学校に対して思い入れのある住民の反対も多く、難問が山積みだった。
けれども、廃校ならば教育施設でなくなることから、
さまざまな活用に貸し出すことができる。
安藤さんは、休校を廃校にするために市内すべての該当地域に同意をもらいに回り、
粘り強く交渉した。その後、業者の選定については地元の人たちに最終決定権を渡すこととして
移住、開業する人たちを受け入れる態勢を整えたのだ。
平成25年3月1日から募集を開始した休廃校活用事業は、
現在9校の活用につながっている。
植本さんが事業に応募した際には、
すでに安藤さんが地元で折り合いをつけてくれていたため、スムーズに土地に入れたという。
実際によそから誰かが来ても使え、事業が長く続くような制度でないと
人を受け入れることはできない、という彼の配慮により
つくられた実質的な廃校活用への仕組みが功を奏したのだ。
当時、東京で2歳の子どもを育てていた植本さんが、完全なる移住に踏み切った理由は、
自然豊かな土地に移って子どもを育てられる環境だったこと。
校舎のあちこちで元気に走り回っている子どもたちを見かけたが
その中には植本さんのお子さんもいた。
ハレとケ デザイン舎の2015年の売上高は、
デザイン業務も合わせて約2000万円だったという。
そのなかから経費やスタッフ人数分の給料を差し引くと、
大きく利益をあげる事業とはいえないかもしれない。
でも、植本さんの場合は、子育て環境の充足感や
家族のコミュニケーションにも結びついていると言えるだろう、
その証拠に、植本さんは今の環境で子育てしながら
自分の好きなことに存分に取り組むことができている。
彼女はどこかに眠っている校舎を
どうにかできないかとまだまだ考えているのだから。
地域にとってみれば、
ランドマークである校舎に明かりが灯っている、それだけで希望は叶っている。
皆で取り決めた原則に寄り添う気持ちがあれば、
よりよく活用して校舎にともしびを灯し続けることができる。
ハレとケ珈琲には、卒業生が来たときに見られるよう、休校記念誌が置かれていた。
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