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自治体、事業者をデザインの力と
ビジネス面で支える
〈高鍋デザインプロジェクト〉が
宮崎・高鍋町でスタート

Local Action
vol.104

posted:2017.6.26   from:宮崎県高鍋町  genre:食・グルメ / 活性化と創生

PR 宮崎県高鍋町

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Yuichiro Yamada

山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に「うどんのはなし 福岡」。 http://ii-kiji.com/ を連載中。

credit

撮影:中村紀世志

事業者とデザイナーのマッチングで、
より手に取りたくなる商品づくりを!

宮崎空港を降り立ち、車で北に向かうこと約1時間。
到着したのは宮崎県のほぼ中央にある高鍋町だ。
43.80平方キロメートルという県内一面積の小さな自治体だが、
江戸時代にさかのぼれば、高鍋藩の城下町として栄えたという歴史あるまちである。
現在、このまちは児湯地域の中核都市で、
行政、商業、教育といった機能が集中。東は海に面し、
山手には田畑が広がる自然豊かな土地であり、野菜や茶の栽培、畜産業が盛んだ。

のどかな景色が広がる高鍋町。海にも山にも近いロケーションだ。

なぜ高鍋町に向かったのか。
その目的は、2017年1月にスタートした
地方創生事業〈高鍋デザインプロジェクト〉の船出を見届けるためだ。
高鍋町が中心となり、〈公益財団法人日本デザイン振興会〉が企画運営。
そして高鍋町の事業者、宮崎県内のデザイナーたちが協働し、
高鍋町で育まれてきた地域資源を生かした商品・ブランドをつくり、
高鍋町の魅力をPRしようという取り組みだ。

肝になっているのが、この地方自治体(高鍋町)と事業者、
県内のデザイナーによる協働を
〈高鍋信用金庫〉〈信金中央金庫〉〈宮崎県工業技術センター〉
〈日本デザイン振興会〉といった外部機関が、
ビジネスとデザインの両面からサポートしている点。
つまり「つくったら終わり」ではなく、
商品・サービスが消費者に届くまでの流れを支えることで、
持続的な活性を目指している。

このプロジェクトは岩手県西和賀町の
西和賀デザインプロジェクト〈ユキノチカラ〉に次ぐ、
〈地方創生地域づくりデザインプロジェクト〉の第2弾。
九州では初の事例ということで、関心が集まっている。

2017年1月16日、〈高鍋デザインプロジェクト〉の立ち上げを記念する記者発表会が
高鍋町役場で実施された。

〈まんぷくTAKANABE〉ブランドのオフィシャルロゴ。まあるく、思わず心がほぐれるこの人懐っこいロゴは、今回のプロジェクトに参加するデザイナー・平野由記さんが手がけた。

冒頭、高鍋町長小澤浩一さん(当時)が、
「農業にしても、商業にしても、人と人との連携が必要です。
そこに今回、包括的な連携の相談があり、デザインの力が加わります。
若手の事業者を支援し、まちにおける稼ぐ力の最大化を目指したい。
それが町内外へのPRになります」と力強く宣言。
続けて企画運営を担当する〈公益財団法人日本デザイン振興会〉の
鈴木紗栄さんが「事業者と県内デザイナーのマッチングによって
クリエイティビティが生まれる環境づくりに取り組んでいきたい。
信用金庫とともに、デザインの力がビジネスの活性につながるよう、
バックアップします」と語った。

左から〈オノコボデザイン〉小野信介さん、〈ヤミー フードラボ〉谷口竜一さん、〈高鍋信用金庫〉理事長・池部文仁さん、前高鍋町長・小澤浩一さん

参加事業者を代表して、食品の加工・卸を営む〈ヤミー・フードラボ〉の谷口竜一さんは
「このまちにはすばらしい農作物があるのに、それを県外、
そして世界に発信する力が不足しています。
消費者に届けたら終わりではありません。
その商品を2度、3度とリピートしてもらうことが必要です。
その時に重要なのが、デザインの力。
おいしい商品はパッケージ、デザインも記憶に残るものです。
私はデザインの力を信じています。
みなさんの協力とともに、世界に広がる商品をつくっていきたい」
と決意を新たにすると、その言葉を受け、
デザイナー陣を代表して延岡のデザイン事務所〈オノコボデザイン〉の小野信介さんが
「デザインはカッコよさ、かたちを飾るのが仕事だと思われがちですが、
モノ、コトの本質を見極めて、それを可視化できるよう外に出すのが仕事です。
グラフィックデザインだけをつくればいいのではなく、
売り方の仕組みを考えることもデザイナーの役目だと思っています。
もちろん、簡単なことではありません。
これを機に、事業者たちと膝を突き合わせて、長い目でがんばっていきたい」
と続けた。

〈ひょっとこ堂〉の打ち合わせ風景。今回誕生したフルーツや野菜を原料としたシロップ〈おやたんこみる〉はマンゴー、日向夏、トマト、ブルーベリー、キャベツの5つの味がある。親は炭酸で割って、子どもはミルクで割って、家族みんなで楽しめるシロップにしたいという願いを込めて、その頭文字をとってネーミングされた。このように、今回生まれたすべての商品に、事業者の思いが詰まっている。

こうして〈まんぷくTAKANABE〉プロジェクトによって産声を上げた新商品たち。
3月に実施された地元・高鍋町のお祭り、
そして4月には宮崎市内にある山形屋百貨店でテスト販売され、
4月27日、晴れてお披露目となった。

4月27日のお披露目会は〈Bridge the blue border〉 ( http://bridgetheblueborder.jp/ )で催された。普段はレンタルハウスとして利用されている施設で、高台にあるこの場所からは雄大な海を望むことができる。

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お披露目会での反応は?

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今回、本プロジェクトに参画したのは、
食品の加工と卸の〈ヤミー・フードラボ〉、
茶葉の製造・販売をする〈河野製茶工場〉、
キャベツを中心に生産している〈ながとも農家〉、
フルーツゼリー及びジュースの製造販売を行う〈ひょっとこ堂〉、
畜産及び加工・販売の〈藤原牧場〉、
餃子の製造及び餃子店を営む〈餃子の馬渡〉と〈たかなべギョーザ〉、
飲食店を経営する〈べにはな〉という8事業者だ。

〈餃子の馬渡〉と〈たかなべギョーザ〉という高鍋町が誇る名物・餃子の二大人気店によるコラボレーション商品も誕生。互いによきライバルとして切磋琢磨してきた有名店が手を取り合う姿は微笑ましく、同時に地元高鍋町の住人たちを大いに驚かせていた。

この8事業者に対し、〈オノコボデザイン〉小野信介さんをデザインディレクターとして、
〈バッファローグラフィックス〉後藤修さん、
〈ウフラボ〉平野由記さん、
〈クッキーデザインワーク〉黒田シホさん、
〈はなうた活版堂〉脇川祐輔さん・彰記さん、
〈ストロールデザイン〉古川浩二さんという
宮崎県在住のデザイナー7名がタッグを組み、商品開発に臨んだ。

この屋台もデザイナーたちによる作品のひとつ。モノと人とをつなぐ、大切な役割を果たしていた。

4月27日の記者発表後に会場で振る舞われたのが、河野製茶のお茶、
ながとも農家によるキャベツの加工品、
ひょっとこ堂による県産果実と野菜でつくったシロップをアレンジしたドリンク、
ヤミー・フードラボによる珍味8種のセット、
たかなべギョーザ×餃子の馬渡による餃子、
藤原牧場の宮崎ハーブ牛のすじ煮ともろみ漬けサイコロステーキ。
この日は地元・高鍋町を中心に県内から招待客も訪れ、実食タイムとなった。
ゲストたちは用意されたランチボックスに、思い思いに料理を盛り、舌鼓を打つ。

会場は多くのゲストで賑わい、大盛況だった。

ゲストたちは事業者の商品説明に真剣に耳を傾けていた。写真左はひょっとこ堂の田中陽一さん。

会場で振る舞われた新商品たち。どの商品も好評で、お替わりするゲストの姿も。

「見せ方が変わると普段慣れ親しんだ食材の味も違って感じますね。改めておいしいものが地元にたくさんあるんだと気づかされました」「こうやって地元の生産者さんたちの顔が見えるので安心ですね。子どもでも気兼ねなく楽しめるスイーツもあって、子育て世代にもうれしい」というように、ゲストたちもたっぷりの笑顔を見せていた。

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高鍋の英雄・石井十次による教えとは?

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商品開発にあたって旗印となったのが
〈まんぷくTAKANABE〉というネーミングのルーツとなった
石井十次による教え「満腹主義」。
宮崎県児湯郡上江村(現在の高鍋町)で生を受けた石井十次は
明治時代、日本初の孤児院創設を成した人物。
「児童福祉の父」と呼ばれ、今もなお、高鍋町の人々に親しまれている。
この「満腹主義」はたとえ貧しくても、そのなかで工面し、
子どもたちにお腹いっぱいごはんを食べさせることで、心が安定し、
その愛情を受けて素行も改まっていったそう。
〈まんぷくTAKANABE〉で生まれた商品たちも、
おいしく、お腹を満たすものであると同時に、
デザイン自体やデザインを制作する過程で生まれた消費者への思いによって、
心も満たす品々となっている。

お披露目会の会場には今回のプロジェクトの全容がわかる展示がなされていた。つくって終わりではなく、伝わって初めて完結するというデザイナーたちの思いが表現されている。

お披露目会の後、取材班は車で高鍋町をぐるりと巡り、
事業者のひとつ、河野製茶の茶畑へと向かった。
ちょうど新茶の収穫期だったこともあり、目の前にした畑は、
まるで大草原のよう。
風が吹くとキラキラと光を受けて小さく揺れる青々としたお茶の葉が
視界いっぱいに広がる。
その中にぽっこりと隆起する古墳がとてもチャーミング。
実はこの一帯は、85基もの古墳が集まる〈持田古墳群〉で、
前方後円墳が9基、帆立貝式古墳が1基、そのほか円墳75基からなる
古墳フリークならずとも楽しめる場所なのだ。

茶畑が遠慮するように古墳の周りに広がっているという衝撃的な光景に大いに驚いた。

〈コフンノミドリ〉はお茶のグリーンが映えるパッケージ。

デザイナーの平野由記さんと後藤 修さんは
「昔に比べて煎茶を飲まなくなったという問題点を解消するために
パウダータイプや、ティーバッグによって
急須を使わなくても手軽に淹れられるかたちを商品にしたいというのが
河野さんの希望でした。
初めて打ち合わせにうかがった際、この古墳が点在する光景にとても驚き、
感動して。この茶畑では早生に力を入れていて、
それはとても水出しに相性が良いことを知りました。
これらを踏まえ、ネーミングは〈コフンノミドリ〉とし、
日常のさまざまなシーンに溶け込むような、
煎茶、ティーバッグ、パウダータイプのお茶を取り揃えています」
と教えてくれた。

〈まんぷく TAKNABE〉で誕生した商品によって、
地域の魅力を発信する————まさにそのコンセプトの通り、
手に取ったお茶のルーツを辿って彼の地を訪れると、
今まで知らなかった高鍋町の側面に触れられた。

〈まんぷく TAKNABE〉ブランドの商品は今後、
ふるさと納税における返礼品として活用されるほか、
6月からは〈高鍋温泉 めいりんの湯〉に販売コーナーが設けられ、
全商品が購入できるようになる。
高鍋の商品が気軽に手に取れるようになる日はもう近い。

information

まんぷく TAKNABE

http://manpuku-takanabe.net/

お問い合わせ

高鍋町役場 産業振興課 (0983-26-2015)

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