連載
posted:2013.3.4 from:秋田県秋田市 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor's profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●東京都出身。エディター/ライター。美術と映画とサッカーが好き。おいしいものにも目がありません。
credit
撮影:嶋本麻利沙
秋田市の飲食店街、川反(かわばた)地区の入り口にある古いビル「川反中央ビル」。
市内を流れる旭川の川沿いにたたずむこのビルは、もともと印刷工場だったが、
現在は1階にギャラリー「ココラボラトリー」、
2階にカフェ「Cafe Epice」、
3階に本と雑貨のセレクトショップ「まど枠」と
Tシャツショップ「6 JUMBO PINS」が入居している。
それぞれの店の個性が溶け合って、居心地のいい空気が流れる。
この場所に人が集まってきたきっかけをつくったのは、ココラボラトリーの笹尾千草さん。
高校まで秋田で過ごし、京都の美大に進学。
卒業して3年半ほど京都で働いてから、地元の秋田に戻ってきた。
「京都には、ものづくりをしている人たちが集まっていて
情報交換できるようなカフェなどがよくありました。
秋田にもこういう場所をつくりたいなと、当時から漠然と考えていたんです」
京都はとても魅力的なまちだったが、そもそも言葉や習慣など、
自分が育ってきた秋田とは生活のベースの部分が違う。
そういったことに、自分でも気づかないうちに
エネルギーを使っているのだということに気づいた。
「そのエネルギーを、地元で別のことに使えないかなとふと思いました。
生まれた土地で、もう一度暮らしてみたいと思ったんです」
秋田に帰ってきてからは、いい出会いに恵まれた。
知り合った同世代のカメラマンの人に、ものづくりをしている人を紹介してもらい、
さまざまな人とつながっていった。
「とてもすてきなデザインをしていたり、いいものをつくっている人たちに出会いました。
私は県外に出てしまったけれど、この土地で暮らし続けながら、
こうしていいものをつくっている人たちがいるんだということに感動しました」
ただ彼らは、もっと自由に発表したり、集まって話したり、情報を得る場所がなかった。
笹尾さんは、彼らに出会ったことでそういう場所をより具体的にイメージすることができ、
スペースをつくろうと決心したという。
頭の中で思い描いていたことが実現できたきっかけとなったのは、
県が主催する起業セミナー。実際に起業するかはさておき、
笹尾さんは自分のやりたいことを一度整理しようとセミナーに参加。
セミナーでは事業計画書を作成し、
実際に助成金を申請するための書類を提出して終了となる。
講師には、ギャラリーという事業形態であることや、
笹尾さんがギャラリーに務めた経歴もないことなどから、
かなり難しいだろうと言われていたが、なんと実際に申請が通ってしまった。
これには笹尾さん自身もびっくりしたが、周囲の人たちのすすめもあり、
ギャラリースペースとデザイン事務所を立ち上げることに。
こうしてココラボラトリーが誕生したのが2005年のことだった。
場所を探すと、川沿いのこのビルがなんとなく気になった。
中を見て、これぞ求めていた空間だと直感。
ボロボロだったが安く借りることができ、自分たちで改装した。
笹尾さんが借りたのは1階。
2階と3階には、近くの工事現場の事務所が一時的に入っていたが、
工事が終了すればいなくなってしまう。
このスペースを遊ばせておくのはもったいない。
そこで、ココラボのスペースの一部を使って開店していたショップ「まど枠」、
ウェディングドレスの工房「トワル.rui」、
そして秋田の別の場所でお店を開いていた喫茶店「石田珈琲店」の3店に
入居してほしいと頼み込んだ。
「その店の人たちのセンスに惚れていたので、
こんな人たちがいてくれたらいいなと思って、お願いしに行きました。
面白い空間なので、どうか入ってくださいって。勇気が要りましたけど(笑)」
場所を面白くするために、自分の力だけでなく、人の力を借りる。
3年がかりで、川反中央ビルに個性豊かな店が集まった。
現在は、トワル.ruiは東京に進出し、石田珈琲店は札幌にお引っ越し。
ココラボ、まど枠、Cafe Epice、6 JUMBO PINSが、現在の顔ぶれだ。
まど枠の伊藤幹子さんは笹尾さんと同い年で、
偶然だが笹尾さんと同じ京都の美大に通っていた。
当時はお互いに知らなかったが、帰郷して知り合ったふたりは意気投合。
センスやイメージを共有することが自然とできた。
京都の書店でアルバイトしていた伊藤さんは、
少部数でも丁寧に手づくりされている
リトルプレスを売る店があったらいいなと考えていたという。
まど枠は、当初は書籍のみ扱っていたが、
現在では本だけでなく、地元の作家によるプロダクト、雑貨、
この場所にライブをしに来てくれるアーティストのCDなど、
さまざまなものを扱うセレクトショップになっている。
「クラフトは、若手作家のものから70代の名工の方のものまで扱っています。
若い人たちは一緒に成長していくような感覚もありますし、
年配の方はみなさん器が大きくてやさしい。いろいろな人たちとつながってきました」
と伊藤さん。
6 JUMBO PINSの京野 誠さんは、東京、千葉、埼玉など、
おもに関東方面でさまざまな職を経験。
6年前に秋田に帰ってきたが、なかなか仕事が見つからず、
それならば自分で仕事をつくろうと、趣味でつくっていたTシャツの店を開くことに。
「ここにはふつうに遊びに来ていたのですが、
スペースが空いていたので入居させてもらいました。
ココラボは週替わりで展示が変わるのでいろいろな人が訪れるし、
2階のカフェに来たお客さんがこちらものぞいていってくれるので、
いろいろな人が来てくれますよ」と話す京野さん。
自身、この場所をとても楽しんでいるように見える。
Cafe Epiceは、もともと石田珈琲店で働いていた高坂千代子さんのお店。
もし自分でお店をやるなら地元の秋田で、と考えていた高坂さん。
お菓子づくりから接客まで、ほぼひとりでこなす。
「笹尾さんも伊藤さんもお互い気心の知れた仲間だったので、
この場所でなら心強いと思いました」
ココラボで展示した作家さんの器を店で使ったり、
イベントにちなんだデザートをつくったりすることも。
お互い影響し合いながら、場をつくっているようだ。
いろいろなお店をブラブラできる、そんなまちにあこがれがあったと笹尾さんは話す。
「路面店でそれをやるのは難しいので、関西でよく見かけた、
雑居ビルのなかに個性的なお店が入っていて、上に行ったり下に行ったり
回遊できるような場所だったらできるかもしれないと思いました。
それならカフェと本屋さんがあったらいいなと」
ココラボで展示をする作家は8割くらいが秋田の作家だが、
必ずしも秋田にこだわっているわけではない。
「どこかよくわからない空気を醸し出しているのがいいかなと思っています。
でもちょっとだけ秋田がにじみ出ているような」
伊藤さんも、地元作家のものを多く扱っているが
「秋田だけを特別扱いするのではなくて、
同じように扱うことに意義があると思っています。
それで秋田のものが評価されるとすごくうれしいですね」と話す。
まど枠は、盛岡、弘前、秋田という3つのまちの、カフェや雑貨屋など
小さな店がつながる「さんかく座」という展示会にも参加している。
毎年3か所の持ち回りで開催され、5回目の今年は弘前で開催される。
点が線になる、本当に小さな星座のような活動。
「面白い人たちがたくさんいて、そういう人たちの存在や活動に光を当てて、
外の人たちに伝える。それで面白いねと言ってもらえて、
その人たちが輝くのが、いちばんの喜びです。
やっていてよかったなって思います」
そう話す笹尾さんも、ひときわ輝いて見えた。
information
川反中央ビル
住所 秋田市大町3-1-12
テナント数:6(不定営業店舗、事務所のみの使用も含む)
職種:ギャラリー、デザイン事務所、飲食、書籍、雑貨販売、服飾、有線放送
起業資金:
◎6 JUMBO PINSの場合
約20万円(リノベーション済み)
◎ココラボラトリーの場合
約250万円(リノベーション、備品購入など。うち秋田県創業支援助成金125万円)
information
ココラボラトリー
営業時間 11:00~19:00 月・火定休
http://cocolab.jugem.jp/
information
まど枠
営業時間 11:00~19:00 月・火定休
http://madowaku-books.com/
information
6 JUMBO PINS
営業時間 12:00~19:00 月・火定休
http://6jumbopins.web.fc2.com/
information
Cafe Epice
営業時間 11:00~19:00 月・火定休
http://cafe-epice.tumblr.com/
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