連載
posted:2015.4.20 from:島根県鹿足郡津和野町 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
credit
撮影:伊東昌信
東西に長い島根県。松江や出雲があるのはかなり鳥取県に近い東部、
一方、山口県と接している西部は豊かな自然が残っている。
針葉樹も広葉樹も多く、良質の木材がたくさん出ていた。
しかしいま、島根の木工業は衰退しつつある。
ライフスタイルの変容や、外国産材の流入という全国的な問題はもちろん、
もうひとつ理由があった。
「営林署が3つもあるのは島根だけでしたし、相当いい木が出ていました。
だから丸太を右から左に流すだけでも、いい暮らしができたんです」
そう説明してくれたのは、昭和21年創業以来、
西部にある高津川流域材を扱ってきた老舗木工所、
〈平和木工〉代表取締役社長の洗川武史さん。
しかし、良質な木材があったおかげで、その上にあぐらをかいてしまった。
「ある地域の話ですが、そこはいい木材が育たない地域なので、
製材所や加工業者が努力して、ものづくりやデザインで
付加価値を高めて、成長したという例があります。
この地域は、そういう努力をしてきませんでした」
こうして島根の木工が衰退してきたことで、
結果的に、林業従事者が減り、後継者もいなくなり、
木の枝打ちや間伐などがされなくなってきた。
年々、木材の質が落ちてきているという。
「現状では、まだいい木が立っています。
いまはそれで食べていけるかもしれないけど、近い将来、絶対にダメになるでしょう。
しかも、木材を燃料チップにしてしまうだけで、
生産者が山を育てようという気持ちになっていないと思います」
だからといって嘆いてばかりいられない。
かつて栄えた木工業者も、まだ100軒近くあるので、技能者はまだ残っている。
そこでまずは自分たちが構える西部の高津川流域で
〈高津川流域の家具・建具づくり協議会〉を立ち上げ、
1年後に平和木工を中心とした〈高津川ウッディ・クラフトLLP〉に発展した。
「付加価値をつけて売り出すことができるのならば、
生産者のみなさんも、山を守り、木を育てようという
気持ちになるのではないかと思ったんです」
いい製品をつくり、それが売れて、山に手が入り、森が守られ、よい木材が育つ。
そんなサイクルを目指した。
もちろん、木工業者としても、いい木があればいい製品がつくっていける。
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さて、どんな付加価値をつけるのか。
高津川ウッディ・クラフトLLPでは、それをデザイン性に求めた。
そもそも木工所は、かつては婚礼家具や家のつくりつけ家具をつくっていたので、
注文する人といろいろな話をして、
“ああしてほしい” “こうしてほしい”というオーダーに応えてきた。
ある意味、デザインをしていたようなものだ。
しかしそのような需要自体が減り、しかもそれらは設計士や建築家の仕事になった。
木工所からデザインという概念が薄れていった。
そこで、まずは京都精華大学の井上斌策教授を招き、
“デザインとはなにか”という講義からスタート。
「はじめはボケッと話を聞くだけでしたね(笑)」
とプロジェクトが始まった5年前を振り返る洗川さん。
いまでは毎月1回、井上教授を交えて、デザイン会議が行われている。
井上先生の教え子である学生の、卒業制作の作品をつくってみるなど、
実際に手を動かし試作することで、
木工技術者の頭をやわらかくデザイン的にしていく。
「つくり手とデザイナーとでは、完全に方向性が違いました。
つくり手は固定観念にとらわれています。それを壊す作業でした」
こうしてまずできたのが〈ウッドリバー〉。
小口径の木材を使用して柾目の集成材にした。
すると大口径の木材のような、美しい柾目板ができた。
素材はヒノキとスギがある。これがグッドデザイン賞を受賞。
翌年も「いい勉強だから」と、新作の〈シェルフィー〉を出展してみると、
これまた2年連続の受賞。
シェルフィーは、ウッドリバーを6ミリにまで薄く加工し、曲げ加工を施した。
金具と合板は使わずに、無垢のヒノキが美しい曲線を描いている。
6ミリという薄さに仕上げてデザイン性を高めながら、
すべてをホゾで組んでいるあたりに、木工職人のプライドが感じられる。
県内でのデザインのさらなる発展を目指して、〈高津川デザインフォーラム〉も開催。
島根県内には、デザイン系の学校がなく、建築系も島根大学にひとつあるだけ。
デザイナーが育つ素地がない。
「いままでは都会的なところへ発信して、外から地域を見てもらう作業でした。
それで地元の人がどう反応するのか。
外から刺激を与えたくて、フォーラムのようなかたちにして開催したんです」
今年1月に開催された第2回高津川デザインフォーラムでは、
前述の井上教授のほか、デザイナーの黒川雅之さん、左合ひとみさんを招いて
講演やパネルディスカッションが行われ、デザインマインドの普及に一役買った。
さらに、別途行われていた木製品に限定したデザインコンペ
〈高津川学生デザインコンペティション〉の表彰式と、その受賞作が展示された。
受賞作は、高津川ウッディ・クラフトの各社が試作し、商品化が検討される。
しかしこのコンペへの応募者は、関西圏と広島からがほとんど。
島根県からのエントリーが少ないのは寂しい限り。
「1回目のデザインフォーラムは、
なかなか関心を持ってもらえませんでした」と洗川さん。
自分たち木工業者、学生、そしてそれをめぐる地元の人たちに、
“デザインのデ”から植えつけていく地道な作業だ。
それが将来的には素晴らしい木工作品につながるはず。
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これから積極的に取り組もうとしている取り組みに、自伐型林業がある。
日本の林業では、森の所有者や地域ではなく、
業者に森の管理や伐採を任せている現状があった。
この状況下で、所有者が自分の森を間伐したいと思っていても、
伐採業者に頼む予算もなく、結果的に放置してしまうことになる。
そこで自伐型林業は、所有者自らや、地域の小規模グループでも、
伐採していこうというカタチだ。
大量に伐らなくてもいい。1本でもいい。
業者は1本では動きづらいが、個人ならば可能となる。
そして平和木工が、その買い手となることができる。
「私たちもいい木がほしいですし、
大量に出てくるものとは違う木材が出てくるのでありがたいです」
結果的に差別化にもつながるし、
家具であれば、建材のような長くて立派な木材でなくても使える。
地元で売り先が確保されていれば、自伐する人も安心して木を伐ってくることができる。
地域ぐるみの6次産業ともいえる取り組みだ。
高津川ウッディ・クラフトは、島根のなかでも
高津川という狭い地域の名を冠して、ブランド化に励んでいる。
デザイン不毛地帯からでも、グッドデザイン賞は受賞できた。
そんな“イナカ”から少しずついい商品を生みだし、発信していく。
もちろん高津川流域の森を守るためだ。
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高津川ウッディ・クラフト有限責任事業組合
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