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〈とやまの木せいひん研究会〉
県内の力を結集して研究し
木製品の向上を目指す

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.067

posted:2015.4.13   from:富山県  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:今津聡子

とやまの木せいひん研究会からつながる富山の森のはなし

富山県は、県土面積の約6割にあたる284,000ヘクタールが森林で、
そのうち約6割が民有林だ。
その面積の28%がスギを主体とした人工林で、人工林率は全国平均より低い。
それら人工林のうち半分が9齢級以上で、伐採可能な成熟期に入りつつある。
富山の代表的なスギとして、
タテヤマスギ、ボカスギ、マスヤマスギがあげられる。

県内50社で木製品を研究する。

富山県は国内の製材業のなかでも、特別な事情がある。
かつてロシアから安い木材が大量に輸入されていた。
その窓口のひとつが富山だった。
富山に木材が入荷し、富山で製材され、関西や関東などに出荷されていた。
そんな地場産業として栄えた歴史があったから、
県内では、もともと地域にある木材を使うということが少なく、
国外からの木材を使う時期が長かった。
県内の森で間伐などに手間をかけるよりは、外材のほうがコストが安かった。
結果的に、富山の森に手が入ることがなく荒れてしまった。
灯台下暗しになってしまったのだ。

そのような背景があり、もっと県の木材を
利用していこうという動きが近年、高まってきた。
2011年、最初は富山県からの持ちかけで、
県内の木に関わるメーカーや製材業者などが、
県産材で一般住宅の家具や日用雑貨を提案し、冊子を製作した。

「この事業に参加した多くの方が、
『年に1回くらいはこのような催しをしたい』と賛同し、発展していきました」と、
〈とやまの木せいひん研究会〉設立のきっかけを話してくれたのは
事務局を務めている松田木材の代表取締役社長、松田靖さん。
通常、製材業者と家具メーカーなどが交流を持つ機会は少ないが、
研究会ではさまざまな業種の企業や工房が加入している。

研究会と名がつくからには、実際に“研究”に励んでいる。
木工に関する新しい技術を学ぶ研修会が年に数回行われている。
たとえば塗装や接着剤などのメーカーから直接、
技術者を呼んで説明会などを開催している。
通常このような商品は、問屋やカタログの商品説明から発注してしまうことが多い。
塗装や接着剤メーカーも、1社のためだけに出向くわけにはいかないことが多い。
研修会では会員自身が、家具製作の際に使用している商品や量、
作業工程が適切かなど、細かい部分をメーカーの技術者に直接訊ねることができる。

松田木材の広い敷地内にはたくさんの原木があった。

松田木材のショールーム。

富山県には、ものづくり企業を支援する施設として高岡デザインセンターがあり、
研究会もさまざまな面で協力してもらっている。
たとえば、家具や日用雑貨、小物の新商品開発において、
プロダクトデザインに関する講師を招くなど、ソフト面の勉強会を開催している。
「つくる技術はもちろん、それが消費者のニーズをとらえているのかという視点も、
同時にレベルアップしていきたいと考えています。
これまでの『こういう材料や技術があります』から、
『この材料と技術で、新しいものを提案します』に向かっていきたいと考えています。
研究会では毎年木せいひんの展示会を開催しています。
会員それぞれが新作を出品するので、
業者同士でお互いに技術を披露したり消費者のニーズを調査したりと、
さまざまなかたちでより良いものづくりをめざしています」

松田木材の代表取締役社長、松田靖さん。

県産スギ無垢板の高級下駄箱。

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富山のスギを使ったベンチは、真っ直ぐだけどやわらかい。

とやまの木せいひん研究会のメンバーである、ライトアングルを訪ねた。
代表の樋口敬二さんは富山市に来て約6年。
以前は同じく富山県の氷見の廃校跡を工房にしていた。
当時から地域のスギを使っていこうというイメージはしていたという。

「問題意識はもちろん持っていましたが、実際にスギ材の注文があるわけでもなく、
材料も、ストックもない状態でした」という樋口さん。

ライトアングル代表の樋口敬二さん。

丁寧な手仕事。

あるとき、富山県産材を使ったベンチのコンペがあり、応募してみたところ、
最優秀賞を受賞した。その〈シダーロール〉ベンチは県の施設に採用され、
1年目は60台、3年で約250台納品という実績をつくった。
つくり手としては素直に「地域に残っていくことはうれしい」ことだろう。

富山の山は雪深く勾配が急だ。
木材の製材状況は良いとはいえない。
そこに育つスギは、木工職人の腕が試される。

シダーロールベンチは、座面はきれいで節がない。
これは洋服がひっかかったり、ケガをしないようにという配慮だ。
しかし側面には節がある木材をあえて使っている。
「ひとつの製品に、なるべく節があるものとないもの、両方を使っていきたい。
“スギは節があるもの”と理解してもらうためです。
両方を使うことによって県産スギの利用の幅を広げたいと思いました」

第一義は、もちろん県産スギのアピールなのだ。
だからこそ、流通している材料ですぐにつくれる寸法にしてあるし、
それはデザインにも生かされている。

曲線を使わずに、加工の手間が少ない直線だけでスギらしさが伝わるようなデザイン。
それでいて、「巻きす」のようにやわらかさをイメージさせる秀逸なフォルムだ。
県産スギを使った製品を普及させていくための、細かな配慮が隠されている。

「思いは大事ですが、材料の供給やストック、流通、PRなど、
課題はまだまだたくさんあります。これからは富山だけでなく、
東京や首都圏などでも展示会をするなど、販路の拡大に努めていきたいです」

木工に憧れを抱くきっかけとなった柿谷誠さんの雑誌記事。なんと弊社の『POPEYE』だ。

山の上にある工房兼自宅からは、最高の借景が楽しめる。

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「木を知る」機会をつくる。

前述のように、木材の一大産地であり、大きな工場が栄えた歴史がある。
それゆえ技術は蓄積されている。
だからこそ、見直すことで新たな可能性が見つかる。

とやまの木せいひん研究会参加各社も、
それぞれに意欲的に新しい製品を生み出そうとしている。
展示会を開催すると、5,000人ほどの来場がある。
こういった場で直接、会社と県産材のアピールを行うことができる。

「普段から木に触れていないと、その感触や良さの本質はなかなかわからないことです。
だから木に触れる機会を県内でどんどん増やしていきたい。
それが将来の購買につながると思います」と松田さんはいう。

家を建てるほどに木材を使っていかないと、
県産材をどんどん有効活用することはできず、森に手が入らない。
いまは、そういった未来に向けて種を蒔いている時期だ。

木のある暮らし 富山・とやまの木せいひん研究会のいいもの

シダーロール 価格:80,000円(税別)

チェア 価格:45,000円(税別)

information

とやまの木せいひん研究会

TEL:076-464-1431

http://www.mokuseihin.jp/

木のある暮らしーLife with Woodー

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