連載
posted:2015.4.9 from:沖縄県宜野湾市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
editor profile
Yuka Uehara
上原由華
うえはら・ゆか●エディター/ライター。沖縄県出身。東京でOLをしていたが、三十路手前で編集者になりたいと思い転職。旅や映画、食の雑誌を手がけながら、怒濤の日々を過ごす。四十歳目前に出産を経験。現在は、地元沖縄で子育てをしながら編集の仕事を続ける。広報誌や企業の記念誌のほか、普段の沖縄の食と暮らしを紹介する雑誌『おきなわいちば』の制作も担当。
http://www.okinawa-ichiba.jp/
credit
撮影:鬼丸昌範、島袋常貴
全国屈指の人気観光地として抜群の知名度を誇る沖縄。
海のイメージが強いが、島のおよそ半分、県土面積の47%を森林が占める。
森林は木材の生産をはじめ、台風や豪雨などの気象災害から県土を保全し、
水資源のかん養や動植物の生息・生育の場など、重要な役割を果たしている。
沖縄本島の森林は〈やんばる〉と呼ばれる北部地域に集中している。
やんばるの森の特徴は、まるでブロッコリーのようなモコモコとした形。
その正体は、イタジイ(スタジイの沖縄での地方名)という木で、
大きいものでは高さ約20メートル、
幹の直径は1メートルにも達する常緑の広葉樹だ。
県木に指定されているリュウキュウマツのほか、クスノキやセンダン、
イスノキなど、たくさんの種類の木も生育している。
そんなやんばるは、戦後の復興時期に多くの木が伐採され、
一時は荒廃してしまったことも。しかし地道な植樹と森林の再生力により、
豊かな森を取り戻すことができ、現在では沖縄県が整備・保全を進めている。
沖縄では近年、県産木の人気が上昇中だ。
乾燥加工技術の開発や施設設備が推進され、
家具や調度品といった付加価値の高い商品の生産が可能となり、
幅広い利用が期待されている。
木育や、木工家が集まって展示・販売を行う〈沖縄ウッディフェア〉の
開催などを通して、県産木材の需要拡大を図っている。
木工家も木の種類も、個性的で多種多様
那覇から車を走らせること40分。通り沿いにアメリカの中古家具や雑貨、
中国家具を扱う店が数多く立ち並ぶ宜野湾市大山。
家具店の激戦地ともいえる場所に店を構えるのが
〈沖縄工房家具mokumoku(もくもく)〉だ。
mokumokuは7つの工房が共同経営する店舗で、
それぞれの作品を展示・販売したり、オーダーを受けたりする。
「作業場と材料を置く場所は確保できても、
ひとりでは、ギャラリーを設置するまでは手が回らない。
だから作品を展示して販売するのは、年に数回しかない展示会だけ。
でも、ひとりでは難しくても、共同でならショップを構えられるし、
いつでも自分たちの作品を見てもらえるかなと」
立ち上げたきっかけを話してくれたのは、〈WOODYはる房〉の屋良朝治さん。
当初は、8工房の9人でスタート。
その後、メンバーの卒業や新加入などがあり、
設立から12年経った現在は7工房8人で運営している。
店内に入ると、心をリラックスさせてくれるような
清々しい木の香りが鼻をくすぐる。
ダイニングセットから子どもイス、カトラリーやおもちゃ、壁掛け時計など、
木でつくられた作品が所狭しと展示され、
質感、風合い、触り心地、においなど、木をリアルに感じることができる。
それぞれの個性が作品に表れているから、見れば見るほどおもしろい。
「僕はハマセンダンという木をよく使うのですが、香りが良く、
木目も角度によって見え方が違う。
そのときどきでおもしろい表情を見せるので好きですね」
と話す〈テツモク〉の豊田修さんの答えを受け、
「私はイタジイが好きなんですよ」と話す〈WOODWORKS〉の宮野信夫さん。
「僕はクスノキかな」と〈木工房ため&KAN〉の石川寛さんがいうと、
「僕は若い女性が好きだな」と〈木工房 木妖精(きじむなー)〉の
外間則道さんが言い、みんなで大笑い。
作品に使われている木の素材もいろいろあるが、メンバーの個性も多種多様。
さまざまな木が互いの存在を認め合ったり、助け合いながら、
ひとつの場所に集っている。mokumokuはまるで森のような存在と感じた。
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「10年以上前につくった家具をリペアすることがあるのですが、
大事に使われているのを見るとやっぱり感慨深いものがあります」
と話す屋良さんに、メンバーたちもうんうんとうなずく。
「木は製材されて家具になってからも生きていて、
お客さんに育ててもらっているんだよね」(外間さん)
「無垢の木は、木の変化を楽しんでほしいね。
長年、使い込んでいくと表情が変わっていくからね」
(〈木工房 桜SAKU〉の佐久川政吉さん)
「高温多湿であるこの土地の風土気候に育てられた木は、
製材して家具となった後も非常に安定し、長持ちしやすい。
逆に外国や県外から来た木を家具にすると、
割れや反りといった狂いが出やすい。
だから僕らは木の特徴や性質を見極め、
気候に加えて現代の生活環境も加味して作品づくりに励む。
いつも決まった答えじゃないから難しいですね」
屋良さんの話を聞きながら感じたのは、
繊細な作業の積み重ねにもかかわらず、
mokumokuの木工家たちはみな、なんとも楽しそうなこと。
「やっぱりおもしろいということに尽きますね」(佐久川さん)
木への愛情があるから、彼らは作業をおざなりにすることなく、
家具やクラフトづくりに対し、新鮮な気持ちで向き合い続けられるのかもしれない。
その心は、こんな言葉にも表れている。
「端材の使い道は、みんな悩んでいるところです。木は捨てるところがない。
だからカトラリーやキーホルダーなどの小物をつくるんです」(石川さん)
そして外間さんもこう話す。
「捨てるところがないというか、やっぱり捨てきれないんだよね」
メンバーたちの木への熱い想いを聞き、
本物の木に見て触れたくなり、工房を訪ねてみた。
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mokumokuの店舗から車で40分ほど。
うるま市の具志川という集落に、メンバーのひとりである
〈Banana Furniture Store〉の神田優技さんの工房がある。
普段はオーダー家具を中心に製作しているが、
訪れた日はときどきつくっているという小皿を見せてくれた。
「ソウシジュは、このマーブル模様が特徴。
ダイナミックで独特の美しさを持つのがリュウキュウマツ。
沖縄の厳しい環境で育った木は曲がりや節が多く、径も小さい。
またかたいので加工がしづらいのですが、
このように木目が美しい木が多いんですよ」
テーブルに並べたのは、県産木を使った皿。
その中から神田さんはクスノキの皿を手に取り、話を続けた。
「木にはそれぞれ一長一短があり、どの木が一番いいとは一概に言えません。
加工のしやすさや性能だけを考えるとこっちだけど、木目の美しさで選ぶとこっち。
やっぱり大事なのは用途に応じて使い分けるということでしょうか」
そう話しながら神田さんは、県産木を保管している場所に案内してくれた。
そこには、たくさんの木が静かに眠っていた。
屋根つきの場所で風を通しながら、自然乾燥させているという。
短期間に機械で乾燥させる方法もあるが、
時間をかけることで狂いが少なくなり、
家具として長持ちすると神田さんが教えてくれた。
「メンバーから刺激を受けることも多く、
会話から次の作品のアイデアが浮かぶこともあるんですよ」
とテツモクの豊田さんが話してくれた。
それを受け、紅一点の〈木工房ため&KAN〉の為村千代美さんが続ける。
「mokumokuを立ち上げたとき、
それぞれ自分のやり方を持っている木工家の集まりだから、
長くは続かないと言われたの。でもね、もう13年目を迎えたのよ。
同業種だと普通はライバルですが、mokumokuでは仲間。
情報や技術の共有をするだけでなく、
全員がこの店を大切に思っていることをとても感じるんです」
共同で店を営みながら、自分のキャリアを積み上げる。
仲間と競い合い、助け合い、作品をつくって、
たくさんの人たちに木の素晴らしさを伝える。
mokumokuのメンバーを支えているのは、深い木への愛情だ。
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沖縄工房家具mokumoku
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