連載
posted:2015.2.18 from:佐賀県佐賀市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
text & photograph
Yuichiro Yamada
山田祐一郎
やまだ・ゆういちろう●日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライター、フリーライター。製麺工場の長男として福岡で生まれ、主に麺を食べて育った。うどん・そばにおいては専門書にも連載を持つ。全国の麺の食べ歩きを記録するwebサイトを連載中。
http://ii-kiji.com/
〈志岐家具製作所〉のある佐賀県諸富町には、元来、家具をつくる文化はない。
そのルーツは思いがけない場所にあった。
筑後川を挟んだ向かい、福岡県大川市である。
「うちはもともと、大川で家具に使う金具をつくっていたんですよ」
そう切り出す取締役社長の志岐純一さんは2代目。
この製作所は昭和21年に創業された。
大川が“家具・木工のまち”として全国的に知られるにつれ、
並行して土地の値段が上がってしまったため、
昭和45年に諸富町へ移ってきたのだと志岐さんは続ける。
その後、この地で家具づくりの文化を育んでいった。
工場は2フロアに分かれている。1階ではプロダクトの初期工程、2階では組み立てや最終加工といった仕上げ工程にあたる。
志岐家具製作所には現在、従業員は5人。
決して大きな工場ではない。だからこそ、大規模な家具工場にできない、
きめ細やかな仕事、そして安定した確かな品質を、
どこにも負けない気持ちで心がけてきたのだと志岐さんはいう。
5人の職人による手仕事が屋台骨を支える。「SPIRAL」の製造における外注はなく、運び込まれた木材が製品になるまでの全工程を自社で担う。
志岐家具製作所のオリジナルブランド〈シムススタイル〉をつくるうえで
モットーに掲げているのが「環境と健康にやさしい家具づくり」だ。
自然から抽出したオイルやワックスを使った家具、
石鹸で仕上げたソープフィニッシュ家具、
有害ガスの発生を大幅に抑制した塗料を使用した家具など、
健康、環境に配慮した“エコな家具”づくりに取り組んでいる。
生産工程の木材の削り屑やのこ屑は、酪農家でたい肥などにリサイクル。
その姿勢は創業から一貫している。
運び込まれてきた木材は人の目によって品質が確かめられたうえで、用途に合わせた加工がなされていく。
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シムススタイルは1996年の初受賞以降、今日に至るまでに4回、
グッドデザイン賞(Gマーク)を受賞。
また、全国最優良家具展での入賞、大川家具コントラクトコンペでの
労働大臣賞・通産大臣賞など、数々の賞を獲得し、
デザイン力の高さで知られるようになる。
事務所の壁にはグッドデザイン賞の賞状のほか、さまざまな受賞での賞状やトロフィーが並べられていた。
2008年にグッドデザイン賞を獲得したのが、
近年のシムススタイルを代表する作品である〈SPIRAL series〉。
美しさと機能性、そしてそれらを支える強度を兼ね備えたスツールで、
デザインは一級建築士・構造エンジニアの野木村敦史さんが手がけた。
もともと建築家だったという野木村さんによるこのスツールは、
ひとつでも魅力的だが、その真価は数が増えたときに発揮される。
脚を揃えて重ねると、渦を巻くように高く、美しく積み重ねられるように
設計されているのだ。ふたつ、3つ、4つとスツールが集まるほどに、
スタッキングした際のビジュアルは比例してエレガントになっていく。
少しずつずらしながら重ねていくと、美しいスパイラルが現れる。木の材質を変え、色合いを変えて楽しむという人もいる。
真上から見た姿も秀逸。写真は6つ重ねた様子。
使用しないときはリビングの隅に積み重ねておけば場所をとらず、
まるでオブジェのような佇まいで空間に華を添えてくれる。
ゲストが訪れた際には、ひとつひとつばらしてテーブルの脇に。
ほどよいサイズ感のため、気軽に持ち運んで好きな場所に置けるほか、
狭いスペースへの出し入れもスマートだ。
座る場所がほしいという、ちょっとしたシチュエーションにフィットする。
また、単体をディスプレイ棚にする人もいれば、
低めのモデルを選んで玄関先で靴を履く際に利用する人もいて、
利用シーンは実にさまざまだ。
並べ方はアイデア次第でどんどん広がる。実際、パズルのように遊ぶという子どももいるそうだ。
「初めてこのスツールのデザインを提案されたとき、ドキッとしました。
純粋にワクワクしたんです。心からつくってみたいと思えました」
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志岐さんはこのスツールを実際につくるにあたり、
当初、佐賀の県産材であるヒノキを選んだ。
ただ、もうひとつ候補があった。それがスギだ。
「それまでずっと使ったことがなかったんですが、ここ最近になって、
スギ特有の軽さ、あたたかさ、やわらかさがいいなと思うようになったんです」
代表取締役の志岐純一さん。KISSシリーズ、iLIFEシリーズといった志岐家具製作所を代表するロングセラーのデザインを手がけた。
その素材の特性ゆえにネックとなるのは強度だが、
〈SPIRAL series〉は60度の集合からなる三角形を基本単位として
その集合体で構成する〈トラス構造〉が採用されているため、構造上、強度が高い。
例えば、4本脚と違って3本脚なので、ひとつの脚が少し低くなっていたとしても
ガタつきがなく安定する。まさにスギを使うのに打ってつけだ。
加工場から運び込まれたスギは職人たちの手によって瞬く間に美しい姿になっていく。
SPIRAL seriesは2007年に開催された〈100%DESIGN TOKYO〉で受賞し、
岩手県にある世界遺産、中尊寺境内の〈かんざん亭〉、
福岡県久留米市の温泉宿〈ふかほり邸〉など、各地で使用されている。
「SPIRALの製作を通して、さらにスギのことが
理解できたという実感があります。わかることは、武器になる。
どう使えば映えるか、効くかがイメージできるようになりました」
現在、スギを使ったプロダクトは、ちゃぶ台をはじめ、ブックスタンド〈Nelio〉、
SPIRALをつくる際に生じた端材でつくる玩具〈60℃〉などへと広がっている。
また志岐家具製作所のプロダクトの多くが、
主に自社webサイトからの直売によって消費者の手元に届いている。
「大川エリアには家具を円滑かつ安価で
全国に配送する流通網がしっかり構築されているんです。
そのため、私たちのような規模が小さな家具製作所でも戦っていけます」
佐賀・諸富町で志岐さん親子によって育まれていった家具づくりの文化は、
県産材との出会いによって新たな可能性を手に入れた。
SPIRALスタッキングスツールの最終加工中。丁寧に磨きをかけたうえで、配送へと回されていく。
SPIRALシリーズには目に見えない部分にほぞ構造を採用。このおかげで細めなフレームながらも安心できる強度を獲得している。
SPIRAL スタッキングスツール 価格:各11,600円~(税別)。
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志岐家具製作所
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